御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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まさかの地球で激闘が

激怒渦巻く戦場で

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「ご主人、こっちですわ!」
フォルに先導されながら先を急ぐ。
砂煙が上がったという場所を目指しながら。
先程まで、手ががりすら無かった状況から、急に可能性が見つかった。それに紡は希望を託していた。
息も絶え絶えになり、足りない酸素に体が苦しみながらも、前へと進む。
(頼むから居てくれ…!)
テルの笑顔をもう一度見るため、一直線に。


そして、ついに森の入口へとたどり着く。
そこは、管理も余りされていない所で、この地域でも、殆ど知られていない森。木々が鬱蒼と生い茂り、そこら中に植物が咲き乱れていた。
一般人ならば来ることはないだろうと感じるような薄暗い森。
だが、紡は気にせずに、森の奥へと迷わず突っこんでいく。

それは、先程から感じる違和感のせいであった。
森の奥に進むたびに感じる違和感。
それは、木が砕けるような音や、物が燃えるような音と、焦げ臭いような臭い。
奥へと進むたびにそれはどんどんと強く、そして大きくなっていく。
全身にそれを浴びながらそれでも進む。

「ここか!」
紡は漸く、軽く視界の開けた場所へとたどり着いた。
テルは何処かと、周囲を見渡そうとする…暇もなく、まっすぐ先に視線が行き着いた。
直感とも言うのだろうか、ふと見たその先…
そこには、二人の人間の前に立っており、前にはよくわからない、足に焔を宿した虎らしき生物がいる。
そして、その前には王女のように植物を纏った少女が、辛そうな顔でその虎から攻撃を向けられていた。
「っ…!」
紡の見たことが無いその王女が、直ぐにテルだと感じ取る。
よかった…生きててくれた。
無事で居てくれたことに紡は安堵する。
「テル…よかったですわ…」
フォルも、安心したようだ。
だが、安堵したためか、紡はテルの状態が目に入る。

テルの周囲には、朽ち果てた木々が大量に、原型すら分からないほどに散らばっている。
落ちているのは木々ばかり。テルは傷だらけであり、対峙する二人は、汚れすら付いて居ない。


『ドクンっ…』


それは、ここで先ほど行われた、二人の人間による、一方的な攻撃を物語っているようであった。


『ドクンっ…!』


現状を理解して行くに連れ、心臓が強く鼓動する。
はははっ…そうか…彼奴らは、テルを殺そうと、一方的に嬲っていたわけか。
俺たちの大切なテルに向かって…
紡からしてみれば、もうテルはあの屋敷で皆の妹のように思っていた。
そんな存在を害されたとなれば…

紡の雰囲気が、ガラリと変わる。
顔は怒りから笑みを含み、それでも目は笑っていない。
只々、テルの前に佇む二人と一匹を逃さぬよう視線をそらさず見続ける。

(大変ですわ…ご主人、キレてますわね…)
今までに見たことがない紡の姿にフォルは気圧される。

それを感じ取った紡は、
ダメだな…今の顔をフォルに見られるわけにはいかない。
魔導書から狐面を出し、顔を隠すように覆った。

前を見据えながらも、紡は決断していた。
あの虎や少年少女が一体何者で、何処のどいつかは分からないが…
でも、俺たちのテルを殺そうとした訳だ。
圧倒的な暴力で、一方的に…
ならば、自分たちが万が一殺されても文句はないだろう。
よし、こいつらぶっ殺そう、と。
ここから、紡による蹂躙が始まる。


さて、まずはあの虎からだな。
なんか、大技をテルにかまそうとしているみたいだが、あのクソ生物をどうしてやろうか…
そこで、紡は閃く。
うん、防ぐだけじゃつまらないし、あれを跳ね返してやろう。
決めると共に、お菓子魔法を構成し、発動する。
「自身の一撃でくたばりやがれ」
その瞬間戦場に巨大なプルプルが降り注ぐ。



【お菓子魔法流 防御術 プルプルリフレクト】
お菓子魔法により、反射強化されたゼリーに物理耐性までつけた一品。
ぶつかった攻撃に対し、物理、妖術、魔法全てを元来た方向へと反射していく。



狙ったように発射された焔弾とテルの間へとそれは降り注いだ。
「さぁ、自爆の時間だ」
ゼリーへとぶつかった焔弾は、綺麗に跳ね返っていく。
それは、打ち出した虎へと向かいながら、周囲を巻き込み突き進む。
皇牙と優華はそれを軽く巻き込まれながらも回避したようであったが、焔弾は止まらず、盛大に森林破壊を行なっていた。

なるほどな…あれを彼奴らはテルに向かって放ったわけか。
そこまで自分達の命が惜しくないなんてな、いいだろう、殺してやる。
ついに我慢の限界にきた紡は周囲に全力で威圧を放つ。
それは、地球ではまずありえないような強烈な圧力となり二人に襲いかかっていった。
森の雰囲気すら変えるその威圧は皇牙と優華に影響を与える。

ちっ…こんな威圧程度で吐いてんじゃねぇよ。
お前達は、許されないものに手を出したんだ。

紡は、怯える二人へと口を開く。


「てめぇらぁぁあ!!うちの子に何してんだぁぁあ!!!」

その一言により、戦場が紡に支配される。
全ての者が紡を見つめていた。






いきなり、なんか現れたです…
急に現れた狐面により、テルも混乱していた。
死ぬことを覚悟してから、急激に変化していく戦場。
いきなり現れた狐面が敵か味方かも分からず、その場を動けなくなる。
その時…
「やっと見つけましたわよ。テル、あとでお説教ですわ」
空からフォルが舞い降りてくる。

「フォルさん…何でここに居るです…」
皆を巻き込みたく無かったのに…
「そんなの、貴方を助けるためですわ」
その一言に、テルは呆然となる。
「ダメです…!あの人間達は危険です…!私は大丈夫だから…今すぐに逃げるです…!!」
一方的に嬲られていたテルはすぐにでもフォルを逃がそうとする。

だが…
「残念ながらもう逃げることは無理ですわよ。
ご主人があの二人を絶対に逃がしませんもの」
戦場で威圧を放つ狐面を見て、フォルは微笑む。
その一言でテルも気づく。今、人間達とと対峙して居る、狐面の正体は…
「あれは…紡さんです…?」
「そう。私も、ご主人があそこまで怒ったのを見るのは初めてだわ。安心していいわよ、今からあの二人は地獄を見ることになると思うから」

そう力強く断言するフォルに、テルは安堵し、漸く死の不安から離れることができた。


戦場へと突然現れた紡。その存在により戦場の混乱は加速していく。



―――――――――――――――――――――



「さて、吐いて居るとこ悪いが、お前らうちの子に手出ししたんだ、死ぬ覚悟はできてるな」
未だに威圧を抑えることもなく、紡は二人にそう言い放つ。
「いきなり出てきやがって何者だよ」
何者か…か。そうだな俺はテルにとって…
「俺はテルの兄貴だよ」
そうだ、可愛い妹を見守る兄貴だな。

「お前正気か?あれは妖だぞ。
お前からは妖気を感じないからただの人間だろう。
何で人間が妖の兄をやってんだよ!」
そんなの簡単だ、ここまで一緒に過ごしてきて、テルの優しさに触れ、可愛さに触れた。
俺たちはテルのいいところをたくさん知ることができた。
俺たちは皆、テルを家族だと思っている。
そして、俺たちがテルのことを、
「大好きだから俺は兄をやってんだよ」
そう、俺たちはテルが大好きだからここに来たんだ。
俺たちの優しい妹を守るために。
遠くでは、それを聞いていたテルが笑顔で泣いていた。


「で、もういいか?そろそろ、お前達を殺そうかと思うんだが」
言葉に乗せて、殺意を二人へと向ける。
「っ!皇牙!構えなさい!!」
「くそっ!何だよこいつ!」
二人はやけくそながらに武器を構える。
未だに威圧により震えながらも、目の前の恐怖に抗うために。



「さぁ、殺し合いを始めようか」

ここから逆転する。ずっとテルを殺そうとしていた二人は、自分たちの命を守るための生き残るための戦いへと…



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