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まさかの地球で激闘が
疑問と答えと探索と
しおりを挟む「紡、緊急事態ですぞ!」
珍しく焦ったピーが居間に駆け込んでくる。
ピーがここまで焦るなんて、何があったんだ…
見たこともないほど焦るピーに紡は不安を覚える。
「いきなりどうしたんだ?」
居間には紡の他に、フォルとにゃん吉がおり、皆の視線がピーに集まる。
そしてピーが放った言葉に…
「どうやら、テルが出て行ったみたいですぞ」
「なんだと!?」
居間が驚愕に包まれた。
何故だ、あんなにも楽しそうに過ごしていたはずなのに…
漸くここにも慣れて、庭の管理の仕事を貰って喜んでいたじゃないか。
居間にいる者は全員ショックを受けていた。
その中でも一匹…
「…」
声も出せずに呆然としていた。
にゃん吉である。お姉ちゃんとして毎日共に過ごし、とても仲の良い二人だった。だけど…
「なんでにゃ!なんで出てったにゃ!!」
出て行ってしまった。
突如として訪れた現状に、にゃん吉は泣いていた。
毎日にゃん吉と遊び、庭の管理を一生懸命頑張る女の子。最近では笑顔の数も増えてきており、その明るい笑顔が頭に浮かぶ。
とても優しく、嘘をつくのが苦手で、お姉ちゃんの後ろをついて回る。テルとの思い出が頭を巡っていく。
思い出を巡っていた為か、紡は一つ引っかかった。
でも、可笑しくないか?
聖域がある為、テルが出て行ったのは、自分からだろう。
でも、自分から出て行ったのならば…
「なぁ、みんなに聞きたい。
さっきから引っかかっているんだが、テルが自分から出て行ったのであるならば、あの子の事だ、俺はともかく姉であるにゃん吉に何も言わずに出ていくようなことすると思うか?」
数日だけの滞在だったがテルはそんな子ではなかったと俺は思う。
「そうですわね…ええ、私もそれはおかしいと思いますわ」
やはりフォルもそう思うか。
「そうですな、私もそこが疑問ですぞ」
「にゃー…でも、出て行ったのは間違いないにゃー…」
「出て行ったのがショックか知らんが考えるのを放棄してんじゃねぇよ」
俺はついつい強めに言ってしまった。
「もしだ、自主的ではないならはどんなことが思い浮かぶ?」
「外に庭の木に必要な物を取りに行ったとかはないかしら」
庭の管理を頑張っていたし、普通ならそれもあるだろうな、でも…
「それは無い、テルは命を狙われているんだ。
そんなことをしに行くとは思い辛い」
幾ら何でも、命を狙われながら外に出るなんて無茶はしないだろう。
「それじゃあ、誰かから、攫われたとかかしら」
「それは無いのである。ここは聖域、もし攫われたのであれば、私が気づくのである」
そうなんだよな…ピーが気づいてない時点でそれはあり得ない。
いくら考えても分からない。そんな状態に居間は悲しみに包まれていた。
全員が静まり返る部屋の中で必死に頭を回転させる。
はぁ…わかんねぇ、やっぱりここが嫌になって出て行ったのか…
でも、庭の手入れをしながら急に嫌になるなんて、可笑しくないか?
もしかしたら、手入れ中に何かあったとか。
何かが起こった、もしくは…
「何かを見たか…」
紡の呟きが室内に響く。
「もしかしたら、庭の管理をしている時に何かを見たんじゃないか?」
「何かってなんですの?」
「…多分だがテルを殺しにきた奴らとか」
「「「!?」」」
皆の顔が驚愕に染まる。
そうだ、それなら全てがつながる。急に居なくなった理由も、俺たちに何も言わなかった理由も…
「でも、なんでにゃーに何も言わずに出てったのにゃ…」
「本気で言ってるのか?」
そんなの、分かりきったことじゃないか。
お姉ちゃんなのに分からないのか?
あのにゃん吉の事が大好きなテルが黙って出て行ったんだ。そんなの…
「にゃん吉や他の皆を巻き込みたくなかったに決まっているだろ…」
「にゃっ…!?」
俺たちを巻き込みたくなくて黙って居なくなった、それしかない。
テルは優しい、それが今回裏目に出た。
「もし、これが全てあっているのであれば、テルはその襲撃者から今も命懸けで逃げていることになる…」
紡が、そう呟いた途端、走り出す音と共に居間の扉が力強く開かれる。
にゃん吉が部屋を走り抜けて、外に駆け出して行く。
必ず見つけ出す、その気持ちを胸に大切な妹の元を目指して。
焦りを抱き走っていくにゃん吉は鬼気迫る勢いであった。
「俺も探しに行く。ピーは寝室で寝ているコアとチコを見てあげていてくれ。
フォルは上空から捜索を手伝ってくれ」
「任せるのである」「分かりましたわ」
俺達もにゃん吉を追って家から出て行った。
テルを探すために、そして守るために。
俺は出会ったあの日、テルに誓ったんだ、必ず守るって。
その誓いを守るため、紡も駆け出していく。
――――――――――――――――――
side 皇牙&優華
「この街でも見つかんねぇな…」
「文句言ってる暇があるなら探しますよ」
二人は妖樹を求め、神林町へと足を運んでいた。
ある程度の場所に妖気察知の呪符を貼り付けて、その反応を待ちながら、商店街でここ最近、おかしな事が無かったか聞き込みを行なっていた。
ここで、皇牙の訪れた場所は六箇所目。いつまでたっても終わらぬ探索がかなり精神に響いていた。
「はぁ…そうだな、文句言ってても始まらないし、俺はそこらの人に聞いてくるわ」
そう言い、皇牙は近くで井戸端会議をしているおばちゃん達に話しかけにいく。
「お姉さん方ちょっといいですか?」
「あらやだ、お姉さんなんて。何か用かしら?」
情報のため、猫を被りおばちゃん達に取り入っていく。
「俺、今学校でレポートを纏めてまして。せっかくなんで、ここで最近起こった謎の事件とか、神林町の心霊スポットなんかを聞いて回っているんですが、何か知りませんか?」
皇牙の顔のせいか、おばちゃん達は嬉しそうに語り出す。
「そうねぇ…事件って言ったら、工事現場の崩壊が最近では一番の事件かしら」
「でも、あれは建設会社の不手際って事だったから、謎ってわけではないわよ」
「そうなのよねぇ、あとは事件っていう事件もここ最近は無かったはずよ」
(はぁ、ここもハズレだったか…)
ここでも、めぼしい情報もなかった事もあり、皇牙は一人落ち込んでいた。
もう聞く事もないと、話を切り上げ去ろうとした時…
「あ!そう言えば、心霊スポットならあそこがあるわよ」
「え、でもあそこ人が住んでるらしいわよ」
何か思い出したのか、おばちゃん達が騒ぎ出す。
「せっかくなんで、その心霊スポットを教えてもらえますか?」
急に現れた情報に、皇牙はすぐに食いついた。
「えっとね、ここから少し行った所に、古びた屋敷が建っているの。
私が生まれる前から建っている屋敷で、当時から見た目がほとんど変わらない屋敷に、ここら辺ではそこは幽霊屋敷って呼ばれてるのよ」
「へぇ…それは。せっかくなんで行ってみようかと思います」
「そう、あっちの方にまっすぐ行ったら見えてくるはずだから、気をつけてね」
「ありがとうございます」
皇牙は、漸く見つかった情報に希望を託し、おばちゃん達に別れを告げる。
そして、情報共有すべく優華の元へと戻って行った。
皇牙が聞き込みをしている間、優華は一軒の店の前へと佇んでいた。
そこは、年季の入った文房具店であり、通常の筆記用具から、珍しい古筆まで、幅広く取り扱っている老舗であり、優華行きつけの店でもあった。
「今日は、居ないみたいですね…」
店の中を入り口から覗きながら、優華は一人の少年を探していた。
以前ここに来た時に出会った少年。その人は、可愛いらしい弟さんのお兄さんで、とても優しい雰囲気のする一見、普通の人だった。でも…それは違った。
「お母様が言うには、とんでもない天才らしいので、是非もう一度会いたかったのですけど…」
探してみても、残念ながらその少年は居なかった。
「お礼も言いたいですし、いつかまた会えたらいいですね」
少年を思い出しながら、そう願う優華。
その願いはすぐに叶うことになる。
一人そんなことを呟いていると、
「おい、何してんだ?」
後ろから声がかかる。どうやら皇牙は情報収集も終わったようだ。
「いえ、何でもないです。それで何かめぼしいことは聞けましたか?」
「ああ、こっから先に行った所に、この地域で有名な幽霊屋敷があるらしい。せっかくだし、そこに行ってみようぜ」
「そうですね、待つ時間も、もったいないですしそうしますか」
二人は決断し、その幽霊屋敷へと向かっていく。
その決断が、今後の二人の運命を変えるとも知らずに。
何の因果か、それは巫家を巻き込む大騒動へと発展していく。
「ここか、幽霊屋敷ってのは」
「見た所そうみたいです」
二人の前に建つ一軒の屋敷、言わずもがな紡の家である。
「よし、それじゃあ、俺は右を担当するから優華は左を頼む」
「分かりましたわ」
二人は手分けしてその家へと妖力察知の呪符で捜索を始めようとした、その時…
「「っ!?」」
二人は急に屋敷とは違う方を向く。
「おい、今俺の呪符が感知したんだが、そっちはどうだった?」
「大丈夫よ、私の呪符も感知したから」
二人は何かを感じ取ったようだ。
「追いかけるぞ」「ええ、逃がしません」
二人は駆け出していく…
「頼むぞ、妖樹であってくれ」
妖樹を、テルを殺すために。
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