御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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死んだ先が異世界で

大群 騒動 異世界で

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side 冒険者ギルド


「ギルドマスターはいるか?」
人が賑わう中、その声はひときわ目立っていた。
急に静まり返る室内の中、其処には一人の兵士と背負われた少女が立ち尽くしている。
その兵士は紡も知っている門番のラークだった。

「あら?ラークさん、急にどのような御用でしょうか」
「いや、俺が用ってわけでは無いんだが、この背負ってる少女がな…」
ラークはそっと少女を下ろす。
その少女は注目された事に少したじろいたが、話を続ける。
「わ…私はCランクパーティ、【怨嗟の牙】で魔法士をしています、サナエと言います。今この街にモンスターの大群が迫ってます。
さらに、他のパーティメンバーが私が逃げる為にまだ森の中に残った…ままなんです!
どうか、私の仲間を…助けて…下さい」
途中から泣きながら思いの丈を伝えるその少女。

静寂の中…
「お前らっ!こんな女の子が命張って持ってきた情報だ!疑う奴は俺がぶっ飛ばす!先ずはギルドマスターに報告してこい。他の奴らは他のギルドへと情報を伝えろ。そして、残った奴らは先頭の準備だ。俺たちは先に無謀な若造共を連れて帰って来る!良し、各自動き出せ!」
上級冒険者の指揮の元各々動き始める。

「リーダー助けに行くのか?」
「ああ、若いのが頑張ってんだ行ってやらないとな。それと、出来る限り敵の情報を集めたいよろしく頼む」
「りょーかい、他の奴らに説明と、リーダーの準備はしておくからその子に話聞いてから来いよー」
スカウトらしき男が手を振りながら出て行く。

「おう、嬢ちゃん。俺はSランクパーティでリーダーをしている【正義の鉄拳】のクラストだ」
「あの有名な…」
「今から俺たちのパーティが先行して嬢ちゃんのパーティを探してきてやる。その為に知ってることは全て話してくれ」
サナエはクラストに知っている全てを話した。

「そうか、最低でも7,000体も居るのか…やばいな直ぐに救援へ向かおう」
だが、出て行こうとするクラストに声がかかる。

「わ…私も連れて行って下さい!」
「良いのか、下手すりゃ死ぬぞ?」
「仲間に必ず戻って来るって約束したの!」
「…はぁ、しょうがない。付いて来い」
無茶か無謀か。サナエの熱意に押され動向を許可する。

慌ただしく騒ぎ回るギルドの中、鳴り止まぬ喧騒に動き回る冒険者たち。皆真剣な面持ちで動き回っている。
そんな中、その場には場違いな生物がいた。ギルドの天井近く、下を見渡すように喧騒を眺める一匹の黄色い鳥がいた。
ギルド内での騒動の一部始終を見ていた其奴は、もう用はないと小さな翼を広げ主人の元へと帰って行った。


――――――――――――――――

side 冒険者ギルドマスター カレナ フィード

昼も過ぎ、何時もであればまったりとした時間の中紅茶でも飲んでいる時間帯だったのに…
現在、ギルド内部は戦場と化し、ギルド職員は走り回っていた。
会議室ではサブマスターからの報告をカレナは受けており、現状を把握していく。

「モンスターの状況は?」
「戻ってきた少女によると、最低でも約7000匹はいるとの事、現在【正義の鉄拳】が救援と敵情視察に出ていますので報告待ちになります」
「そうか、了解した。緊急事態だ、私は今から領主様に報告に行って来る。ここの指揮は任せるぞ」

そう言い切るとカレナは直ぐ様部屋を飛び出していく。残ったギルド内部では指揮をするサブマスターの怒号が響いていた。


「すまない、領主様はいらっしゃるだろうか?」
領主の屋敷に着いて早々、メイドへと問いかける。
「あら?カレナ様じゃないですか、如何されました?」
「悪いな、話している暇はない。緊急事態だ直ぐ様領主様へと合わせて欲しい」

その剣幕に異常事態と察したメイドは直ぐに領主の居る執務室へとカレナを通す。
メイドは確認のため先に入る
「失礼します。ご主人様、冒険者ギルドのカレナ様が来られてるのですが宜しいでしょうか?」
「ん?急だな、大丈夫だ入ってくれ」
許可が下りたため、執務室ヘと踏み込んでいく。執務室では、金髪の爽やかな雰囲気を醸し出す男がが大量の書類に囲まれていた。

「グラッド様、急な訪問申し訳ありません」
「どうしたんだ?カレナが連絡も無しに急にここに来るなんて珍しいな」
「実は、現在確認中なのですが、この街にモンスターの大群がやって来てるんです。現在の情報では敵の数は約7000匹以上だとのことで、報告に来た所存です」

報告を受けた領主の雰囲気が急に変わる。執務室内の空気が張り詰める。
「そうか…ギルドでは今どんな対策してるんだ?」
「今現在、他のギルドとの情報共有と共に、撃退の準備を始めています。敵に関してはSランクパーティの【正義の鉄拳】が敵情視察へと出向いており、現在帰還待ちです」
「ふむ、それでどうだ?現時点で撃退の目処は立っているのか?」
「今現在、冒険者ギルドに400名、他の戦闘系ギルドが150名ほど、計550名が集まると思われます」
「私の騎士団が450人だからな、合わせて1000か…厳しいな」
グラッドとカレナは覆せない現実にぶちあたっていた。

「どうしようもないな…民間人を先に街から出させてもらう。申し訳ないが冒険者ギルドには時間稼ぎの為、騎士と一緒に前線で戦ってもらうことになる。これは緊急依頼とする」
「わかりました」
この緊急依頼は沢山の人々が死ぬ。グラッドは苦々しく俯く。
「申し訳ないな…」
「謝らないで下さい。グラッド様は領主として間違った事はしていません」
「死ぬかもしれないんだぞ…」

ふっ…カレナは優しく微笑む。
「私達冒険者ギルドはこの街が大好きなんです。この街の為なら喜んで死地へと行きますよ」
その笑顔は現場に絶望していたグラッドには輝いてみえた。



――――――――――――――――――



side 【正義の鉄拳】 クラスト


クラスト達【正義の鉄拳】は救援に魔の森を訪れていた。
依頼のため何度も訪れたこともあり、普段とは違う異様さを感じる。
(嫌な雰囲気がするな…この森でなにがおきているんだ)
「大丈夫か?」「はい!大丈夫です」
後ろから必至について行くサナエが答える。
「サナエちゃん無理しないようにね!怪我しないように後ろにいな」
チャラついた拳闘士のザックがサナエに近づく。
「ザック!サナエちゃんに近づくのはやめなさい!」
それに対し、魔法師のラーナが怒り出す。
【正義の鉄拳】のいつも通りのやり取りをしながら時間を過ごす。

「おい、喧嘩をやめろ。ガストが戻ってきた」
クラストの声に二人は黙る。すると上から一人の男が降りて来る。
「お疲れさん、どうだった敵さんは?」
「あれはやばいな。上から見渡したが地面一面敵だらけだぞ。あれは1万以上いるぞ」
「マジか…かなりヤバイぞ…」
予想よりも酷い現場にクラストは驚く。

「あの!私の仲間達はいませんでしたか!?」
「この先には居なかったな」
「そうですか…」
カレナは一際落ち込む。

「もしかしたら何処かに逃げてるかもしれないでしょ!落ち込む暇があるなら仲間を信じて動きなさい」
「そうだな、今は仲間達の無事を信じて動くべきだな」
「そうですよね…まだ死んだ訳じゃない!」

カレナはラーナとクラストの励ましに元気を取り戻した。

ガサガサっ…
急に周囲から音が聞こえる。
俺たちは直ぐに反応し、音がした方向へと武器を構える。
「なんだ?」
静寂の中音の正体がその場に現れる。
それは3人の少年だった。
一人ぐったりとしており、ガタイのいい少年に背負われている。
「リーダー!」
笑顔でサナエが声を上げる。
(コイツらがパーティメンバーか…ん?なんだ?)
こちらに走って来る少年達に違和感を感じる。
一人の少年が必死に何かを伝えようとしている。
「お……に……!」
ん?なんだ?
ボソボソと聞こえてきていた声が次第に明確になって行く。
「お……にげ……お前ら逃げろ!」
!?

聞こえた瞬間後ろの木々が弾け飛ぶ。
何事だよオイ…
衝撃でこちらに吹き飛ぶ少年達をキャッチする。
「よっと…」
優しく地面に下ろすと、吹き飛んだ木々の先を見つめる。
其処にあったはずの数本の木は弾け飛び散っており、あたりは土煙で覆われている。
静寂の緊張感の中、もうもうと上がる煙が晴れ、其処に立つものが目に入る。
赤い毛皮を身に纏い、鋭い牙を口から生やす。体には毒々しい魔素を纏っている狼がそこにいた。
一般的な狼よりも2回り以上大きく、見たことがないその風貌と堂々とした立ち姿にクラストは恐怖を感じていた。

(これはやばいな…)
すぐに頭を切り替えパーティメンバーへと指示を飛ばす。
「此奴は危険だ!全力で逃げるぞ!」
選んだのは撤退だった。
救出した奴らを拾い上げ、全力で逃走を始める
【正義の鉄拳】vs謎の狼の命がけの鬼ごっこがここに開幕した。


――――――――――――――――――

side 紡

その頃紡は…
「串焼き美味いな」
「お…おう、そうかありがとな」
街中が大騒動となっている中、屋台で串焼きを食べていた。

「ニイちゃん、モンスターの大群が来てるらしいのにこんなとこで飯食っててもいいのか?」
店主が呆れて問いかけて来る。
「大丈夫、大丈夫。逃げようと思えばいつでも逃げれるしな。それよりもおっちゃんも逃げる準備とかしなくても大丈夫なのか?」

数時間前にギルドから出されたモンスター群による避難警告が出て以降、街の人々は我先に出て行こうとしていた。
だが、ちらほらと出て行く準備もせずに屋台や店を続けている人もいる。目の前のおっちゃんもその一人だ。

「俺はずっとこの街で生きて来たからな。この街が好きなんだよ。死ぬんならこの街で死にたい。多分残ってる奴らは皆同じ思いだと思うぜ」

並んで屋台をやっている横のおっちゃんの顔を見る、話を聞いていたのか深く頷いていた。

「そうか、おっちゃん達は自分で死に場所を選んだんだな」
「おいおい、バカ言っちゃいけねぇこちとら死ぬ気なんて毛頭ない!俺たちは戦ってでもこの街を守り切ってやるさ」
空を見上げておっちゃんは言う。
そのおっちゃんの横顔は色々な覚悟を決めた、男らしい顔をしていた。

「守りたいものか…(ボソ)」
「ん?」
「いやなんもない、それじゃ俺は今なら人も少ないし屋台コンプリート目指しますかな」

お面屋やジュース屋など、騒動の最中結構な屋台が残っていたらしく、満喫しながら色々と物色して回っていった。

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