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死んだ先が異世界で
不穏な気配が異世界で
しおりを挟む『え~今学期も終わり…』
俺たちの前では禿げ上がった校長が長々と話し続ける。
「あのハゲいつまで話してんだよ…早く終われよな」
「紡の言う通り、しつこいのは頭のテカリだけにしろよ」
「二人とも校長先生が可哀想だよ」
異世界の町から戻ってきて3日目、ついに終業式が訪れていた。
超絶に上がる体育館内の気温の中、長々と続く校長の話が続く。
当然の如く『早く終われよ…』と、皆の心が一致していた。
実際、校長の話を聞いているものなど、誰もいない。
それぞれが、暑さという強大な敵と戦い続けていた。
拷問とも思われる終業式が終わり、学校は午前中で終了する。
学校から帰ろうと外に出ると校門では姉御が生徒に挨拶をしていた。
「篠上先生、お疲れ様です」「「先生お疲れー」」
三人が話しかける。
「何だお前らか。春日井は大丈夫だろうが、バカ二人。夏休みだからって羽目を外しすぎるなよ」
失礼な。俺を凍夜なんかと一緒にするとは。
隣を睨み付けると、凍夜も同じ事を考えていたのか、こちらを睨んでいた。
「もし、次回来た時に髪なんて染めたりしてようものなら、お前らは特別だ…」
あー…刈り上げか…やっぱ姉御はそんくらい平気でするよな。
「私直々に手で毟ってやる」
さらにハードだった。
突如訪れた毛根の危機。俺は校長のようにはならないんだ。
恐怖に怯える俺達は逃げるように去っていった。。
「それじゃ、紡と淵夏。何かあったらメールか電話でもしてくれ」
「ああ、凍夜はまだしも、淵夏、暇ならいつでも連絡してこい。待っているから」
「なっ!こんなとこで淵夏のポイント稼ぐなんて狡いぞ!」
ポイントって、ギャルゲーかよ。
「ふふっ、大丈夫。二人には旅行から帰ってきたら、連絡するよ。お土産期待しておいてね」
凍夜と淵夏とはそんなたわいもない挨拶で別れた。
―――――――――――――――
「よし、これから夏休みに入るからな、今から街に行くぞー!」
「行くにゃー!」
帰って早々、異世界へと俺たちは出向く。
これから始まる長期の旅に胸を弾ませていた。
「大体2、3日で帰ってくるから家のこと任せるな」
「ええ、気をつけて行くのですぞ」
ピーに家を任せて空へと浮き上がる。
「それじゃ、行ってくる」
にゃん吉を頭に乗せ、ウェルドの街へと空をかけて行った。
ウェルドの街に近づいていく。だが俺達は別のことを話していた。
「にゃん吉、フォル、気づいたか?」
「んにゃ、モンスターが増えてるにゃ」
「それと、森の雰囲気も悪いみたいですわよ」
森の様子がかなり変わってしまったようだ。数日前まではこんな予兆は無かったはずなんだがな。
森からは異様な雰囲気が溢れ出し、通常居ないような上位モンスターが溢れかえっていた。
まぁ、俺には関係ねえな。
紡は見て見ぬ振りして検問所を通っていく。
街へと入り、紡はまず、魔法士ギルドを訪れた。
中は前と変わらず人は少なく、一台のカウンターだけで回されていた。
カウンターにディアナを見つけ近く。
「久しぶりだな、魔物素材の販売に来たんだが」
「あら、紡じゃない。素材ならここで出してくれたらいいわよ」
「あー…悪い、かなりの量でな…ここじゃ乗り切らない」
「あらそうなの?」
一瞬不安げな顔をしたが倉庫まで案内してくれる。
其処では数人の筋肉質の男達がモンスターをバラしていた。
その中のリーダーらしき人がこちらに近づいてくる。
「おう、ディアナこんな血生臭いとこに何の用だ?」
「グリットさん!こちらこの間ギルドに入った子で、ツムグって言うの。今日は素材販売で来たみたいで連れて来たの」
グリットと呼ばれるその男は俺をじっと見つめると急に笑顔になり話しかけてくる。
「おう、にいちゃん。俺はここの解体場の主任をしているグリットだ、よろしく」
「ああ、俺はFランクのツムグ オトギだよろしくな」
「オトギか…それで売りたい素材ってのは何処だ?」
「悪い。先に人払いをお願いできるか?あまり素材を人に見られたくなくてな」
すると、グリットが「お前ら外に出てろ」と叫ぶ。
部屋ないから紡とグリットの2人だけが残った。
「これでいいか?」
「ああ、問題ない。今から出すが方法については他言無用で頼む」
「ん?ああ、分かった」
紡は魔導書から溜めに溜めたモンスターを吐き出す。
なかなかの大きさのモンスターもおり、軽く地響きが起こるほど吐き出され、小山が出来上がる。
「収納魔法か…それは隠したがるよな」
グリットが一人納得していた。
「一応これなんだが、買取を頼む」
「悪い、これは俺だけじゃ無理だ。他の奴らも呼んで構わないか?」
「収納魔法が広まらなけりゃあ大丈夫だ」
直ぐにグリットは出て行った奴らを呼び、解体を始める。
「凄いなこれ、パラライズブルもいればブラッディウルフもいる…宝の山だな」
あー、あの麻痺使ってくる牛か。珍しいやつだったみたいだな。
あの狼は確かにゃん吉が倒してたやつだな。
解体をある程度眺めていると、解体場が騒然となる。
「おいおい!此奴は…」
「ああ、間違いない…」
「マジですか…俺初めて見ましたよ」
「安心しろ、俺も初めてだ」
ん?ああ、あの兎か。半端なく高い俊敏に3人で捕まえるのに苦労したのを覚えている。
「その兎がどうかしたのか?」
「あ…ああ、此奴は俺たち解体屋の中でも滅多に見られないモンスターでな『 幻想イリュージョン兎ラビット』と呼ばれてて、その肉は幻想のような旨さを誇ると言われてるんだ。
その代わり捕まえるのも凄い大変なんだけどな」
おお!そんなの取ってたのか!
やばい超食べたい!
「金は問題ないし、その兎は売るのやめとくわ」
「あー…まぁそうだよな」
兎を差し出してくる。
袋に入れる振りをして魔導書に兎を仕舞った。
結構な量に騒ぎとなったのか数人の観客が出来始めたので…
「この量じゃ解体が終わるのは明日になる、悪いが明日の朝にまた来てもらってもいいか?」
「問題ない、よろしく頼む」
解体を頼み俺は部屋から出て行った。
ん?何だあれは…
「ジェシカちゃん、今度俺とデートしようよ」
「いえ、困りますカールさん。何度もお断りしてるじゃ無いですか」
「いやいや、恥ずかしがらなくていいよ。Aランクの俺の誘いを断る女性がいるわけないからさ」
戻るとカウンターで馬鹿そうな男がジェシカにナンパをしていた。
ちっ…邪魔だな。待てどもその男はカウンターを開けない。
「はぁ…どけよ。もうフられてるじゃねえか」
イライラで口を滑らせる。
「なんだよお前、俺とジェシカちゃんの仲を邪魔しやがって」
イラついた声が上がりジェシカからは期待した目線を感じる。
「いや、お前らが付き合おうが乳繰り合おうがどうでもいい…」
「ち…乳繰り合ってません!」
お…おう。凄い剣幕で否定して来たな。
「俺はカウンターに用があるんだ。一箇所しか無いカウンターを馬鹿な理由で占領するな、邪魔だ」
「なんだと!?Aランクであるこの俺に向かって馬鹿だって…」
「いいから邪魔だ退け」
俺は無視してカウンターへと行く。
「悪いな、確認したくてな。今日この街に来る時、魔の森を見て来たんだが、なんかモンスターが増えているようだったぞ」
「え…ええそうなの、数日前に魔物の活性化が確認されて、今依頼を受ける人には注意を呼び掛けていたところなの」
やはり、モンスターが増えていたか…
「了解した」
「ツムグも気をつけるように…危ないっ!!」
っ!?
面倒な奴がいることだし早く切り上げようとしていると、後ろから火の玉が飛んで来た。
横へと飛び回避する。
発生元をみると、其処には手をこちらに向け佇むカールがいた。
「おい、お前ここで魔法を使うなんて正気か?」
「お前のせいだ!俺とジェシカちゃんの仲を邪魔するお前が悪いんだ」
なんだ此奴、何支離滅裂なことを言っているんだ?
「なぁ、ジェシカ。此奴がAランクってマジ?」
「残念ながら…」
そうか…残念だ…
目の前では逆上したカールが次弾を発車しようと詠唱を開始している。
「此奴やっちゃっていいの?」
「ええ、魔法を放った時点でアウトです。やっちゃってください」
よし、許可貰えたしやるか。
木刀を抜き去り飛び出して行く。
「ちんたら詠唱してんじゃねぇよ!」
呟きと共に未だに詠唱をしているカールの横をすれ違いながら顎から上へ木刀で叩き上げる。
「メリッ…」という音とともに詠唱が止まり、室内にカールの叫び声が響き渡る。
立ちすくみ、顔を抑えて叫ぶその姿に当然のように紡は追撃する。
狙いは急所。股間を狙い刺突する。
シュッ…ブツッ。
その瞬間一人の男の花が散っていく。儚い花が。
うわ…何かが潰れる感触がするわ。
カールは一瞬固まった後、急に痙攣しながら叫び声も上げずに倒れる。
ふう…つまらぬ物を潰してしまった。
一人達成感に満足して居ると、後ろからの熱い視線を感じる。
あー…ヤバイな…ちょいやり過ぎた。
その為最終手段をとった。
「去勢完了、それじゃ後は任せたぞ」
木刀を仕舞いながらそそくさとその場を後にする。戦略的撤退だ。
「え!?嘘!こんなの残して行かないでよ!」
後ろでは少女の悲痛な叫びが響いていた。
―――――――――――――――――
side 魔の森
「そっち行ったぞ!」
「クソっ…なんでこんな事に…」
とある森の中、騒がしい戦闘音だけが辺りに届いていた。
其処では冒険者4人とモンスターが戦いを繰り広げている。モンスターが出る森では良くある光景。だが、唯一変わっているところは…
「なんでこんなにいるんだよ」
異様な数のモンスターだ。
其処には4人の冒険者に対し大体7000程。圧倒的大差、勝ち目がある戦いでは無かった。
「おい、サエナ!足手纏いだ!先にギルドに戻れ!!」
「で…でも、リーダー…私だけ逃げる訳には…」
「良いから先に行け!」
リーダーは有無を言わせない。
「大丈夫ですよサエナさん。貴方が戻るまでなんとか持たせますから、ギルドへの応援要請をお願いします」
戦闘しながらも槍術士の男が優しく諭して来る。
その光景を見ながらサナエは覚悟を決める。
「みんな待ってて!必ず戻って来るから!」
泣きながら後ろを振り返らず走り去って行く。
「リーダー、よかったのか?サナエに告白しとかないで」
「これが最後かもしれないってのに何も言わずに行かせるんだもんな」
戦いながら槍術士と魔法士の男が話す。
「な!?なんで知ってんだよ!」
「いや、バレバレだからっと、知らないのはリーダーとサナエだけだぞ」
「だよな、あれで気づかない方が…よっと、おかしいよな」
二人避けながらもリーダーをいじり続ける。
「そうか、なら告白する為こんなとこで死ぬ訳にはいかねぇなあ」
「そうですね」「ああ」
後ろにはサナエが居る。絶対に通せない。だが、こんなとこで死ぬ訳にも行かない。3人は覚悟を決める。これから始まる、命がけの戦いへと。
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