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死んだ先が異世界で

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数分待つと袋を持ち戻ってくる。
「査定の結果、あの袋の魔石は全部で金貨10枚になった。慰謝料の金貨10枚と合わせて金貨20枚で大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
金貨の入った袋を受け取る。
袋を開け、中の貨幣の枚数を数える。
気を使って金貨1枚分は両替してくれたようだ。
うむ、きちんとあるな。
確認を済ませると前を向く。

すると…
「それで、私はボイドを軽く蹴散らしたお前のことが知りたいんだが?」
数え終わった俺にギルドマスターがニヤリとした顔で問いかけてきた。
「話すわけないだろ、もう俺はギルドから抜ける気だしな」
「正気か?今なら笑い話で済む、考え直せ」
「もう決めた事だ」

すると真剣な顔で俺に脅しをかけてくる。
「お前はギルドと敵対でもする気なのか?」
「それはお前ら次第だ」

ギルドマスターへとギルドカードを放り投げ、受け取ったのを確認すると、もう話すことはないと、足早に部屋から出て行った。
後ろでは騒がしくギルドマスターが叫んでいた。


――――――――――――――――――



一旦宿屋を確保しに行くか。
俺は以前行った宿屋へと向かっていく。
「やばいな…宿屋の場所が分からん」
紡は迷子になっていた。
以前に宿屋の名前を聞くのを忘れていた為周囲の人にも聞けず一人探し続ける。

以前の薄っすらとした記憶から宿屋付近と思われる場所をうろつく。すると「お兄ちゃん!」と後ろから声がかかる。
振り向くとそこにはマリーちゃんが立っていた。

「おー。約束通り今日泊まりに来たぞ」
笑顔でこちらに走って来たマリーちゃんの頭を撫でる。
迷子だったとバレないように隠しながら。
「一緒に行こー!」
元気に手を引っ張ってくる。それに優しく答えながら宿屋へと歩いていった。


宿屋に着くと、其処には以前と同じくゴリラがいた。
「おう、また来てくれたんだな」
「ああ、ここは気に入ったからな。それに…マリーちゃんとも約束したからな」
「約束したのー!」両手を天井へと上げ、喜んでいる。
元気に喜ぶマリーちゃんをゴリラと二人で微笑ましい顔で眺めていた。

「あら、いらっしゃい。また来てくれたのね」
奥からローサさんがこちらへと歩み寄る。
「また一日だけだがな、世話になるよこれ代金な」
銀貨を渡し、お釣りと部屋の鍵を受け取った。

「あ、そういやこの宿屋の名前聞いてなかったんだけどなんて言うんだ?」
その問いにディーンが自信満々に答える。
「この宿屋は『守護者の休息』って言うんだ」
ふぅん、『守護者の休息』か珍しい名前だな。

「それじゃあ、少し街中を観光してくる。飯前には帰ってくるから用意しておいてくれ」
「分かった。観光ならセリナローサ協会、買い物ならカティナ商会へと向かうと良い。両方とも街の中央にあるからな」
「分かった、行ってみるよ」
一家にひとまずの別れを告げ再度街中へと出かけて行った。


「金も入ったことだし先ずは買い物からだな。たしか、カティナ商会だったな」
街の中央へと向かいカティナ商会の看板を探しながらうろついていく。

「お、ここか」

看板が掲げられた店へと入って行った。

「いらっしゃいませ」

店内では元気よく女の子が挨拶している。
ポニーテールの茶色がかった髪をしており、店内でテキパキと働いている。
店内には所狭しと商品が並び、それが乱雑にも、機能的に配置されていた。
それらは全て、紡からしたら見たことが無い物ばかり。
まるで、宝探し。発掘隊の様な感覚にワクワクしていた。

「『守護者の休息』の店主の紹介で来たんだが色々と見せてもらうな」
「ディーンさんの紹介ですね。うちの店は日用品から冒険者用品まで幅広い商品を取り扱っていますので是非見て行ってください」

確かに多種多用な商品が所狭しと店内に並んでおりあるな。

「これは?」
そこにあったのは根っこの山。
カラカラにまで乾燥されたそれは、麻袋に入れられ、山の様に積まれていた。
「あ、それは錬金術の素材です。このディクサの根はポーションの原材料になりますので、かなり人気の商品ですよ」
「錬金術ね」
そうか、錬金術とかもあるのか。まだまだ知らない事ばかりだな。

ある程度見回った結果、上下の洋服1着と冒険者セットと呼ばれる道具セットを購入した。
購入が終わった俺は、

「ご購入ありがとうございます。私はサラと言います。また買い物に来てくださいね」
「俺はツムグだ。この店は結構気に入ったからな。気が向いたらまた来る。ありがとな」

軽い挨拶を交わし店から出ていった。


買った洋服を着て街中を歩きながら次は魔法師ギルドへと向かった。
魔法師ギルドは冒険者ギルドと違い其処まで広くなく、ギルド内は静かで人も殆ど居なかった。
「なんだここ、やってんのか…?」
紡はぼそりと呟く。するとカウンターの方から、「いらっしゃい!こっち空いてるわよ」と言う呼び声がかけられる。

其処には「絶対に獲物を逃さない」といった雰囲気がする、目がギラギラした少女がいた。
其処まで行き話しかける。
「ギルドカードを作りたいのだが」
「よっし!久々のギルド登録来た!」
目の前で少女がガッツポーズしていた。
…なんだこいつ?
紡は不安になりながらも登録を続ける。

「それじゃあ、この紙を記入しててね私は魔法適性検査の水晶持って来るから」
そういって離れていく少女。
残された紡は紙に記入していく。

えっと、名前はツムグ オトギっと、年齢は16、次は魔力量か…騒がれると面倒だし1000くらいにしとくか。レベルも30位にしておくか。
粗方書き終わり少女が戻って来るのを待つ。

「おまたせ!書き終わったみたいね。ふむふむ、ツムグさんね。16にしてレベル30なんて凄いわね。さらに魔力量が1000もあるなんて…逸材だわ!早速適正見て見ましょ」
少女はハイテンションで話し続ける。
「はぁ…」俺は軽くため息をつき、確認する。

「それで、俺はこの水晶に触れたら良いのか?」
「ええ、触れるとその人の魔力適正に合わせて水晶内に光が灯るわ」

話によると、赤緑青茶黄白黒の7色のどれか、もしくは複数が基本的浮かび上がり、それぞれ火風水土雷光闇、各属性の適正となるとの事。

俺は水晶に触れる。
「えっ…?」少女の声が響き渡る。
水晶に浮かび上がった色は銀色だった。
「銀ってなんの属性だよ」
呆けている少女を残し俺は突っ込んだ。

「まぁ、いいや。登録よろしく」
「え?いや、でも銀色が…」
「登録しないんなら帰るぞ」
「それはダメ!…わかった登録するわよ」
ふぅ…やっとか。

少女は裏に用紙を持っていくとギルドカードを持ってくる。
ギルドカードには【ツムギ オトギ Fランク 属性不明】と書かれている。

「これで登録完了よ」
「ああ、ありがとな」
「良かった…ここ最近冒険者ギルドにメンバーを引き抜かれたから有難いわ!」
成る程なそれでギルド内に人が少なかったのか。

「あー…どうでも良いが、ここに資料室ってないのか?」
「其処の通路を真っ直ぐ行って突き当たりのドアが行って資料室よ。ギルドメンバーなら誰でも無料で閲覧できるから」
「了解、それとこれから世話になるかもしれない。あんたの名前も教えてくれ」
「いけない忘れてたわね。私はディアナ、よろしくお願いね」
「そうか、よろしくな」
俺は背を向け、手を振りながら資料室へと歩いて行った。


資料室に入ってみると、大量の本が所狭しと並び、乾燥した空気と物静かな雰囲気でとても過ごし易い環境であった。
「それじゃあ、始めますか」
紡は魔法についてと魔物の情報収集目的で訪れていた。

先ずは魔法についてか…
それから数時間紡は一人調べ物をしながら本を読みまくった。

「成る程な、魔法ってのはイメージなのか…」
調べ物が粗方終わり紡は一人考える。
これからは魔法の練習もしていかなきゃならんな。先ずは魔力感知からだが、使えるようになればかなりの戦力アップに繋がるはずだ。

「それにしても、いくら探しても銀色の魔力特性については分からなかったな」
紡は一応自身の特性を知るためざっと調べたが一切銀色の情報は無かった。
「まぁ、いつかわかるだろ」
そんなことはどうでも良いと忘れて、本日から行う魔法訓練を考えながらギルドホールへと戻って行った。

ホールでは戻って来たのか何組かの魔法使いの集団が集まり話し合っていた。
受付も3箇所空いており時間帯の忙しさを思わせる。

丁度手が空いたのかディアナが話しかけてきた。
「あらツムグ、やっと戻って来たのね。調べ物はわかったの?」
「ああ、なかなか有意義な時間を過ごせた」
「それなら良かったわ」
「ああ、それじゃまた来る」
さらっと軽い挨拶だけを残し紡はギルドから出て行った。



―――――――――――――――――――



Side ディアナ

『人が減っていく』
それは今の魔法師ギルドの最重要問題であった。
ギルドメンバーは冒険者ギルドに引き抜かれ、新人も皆、大きい冒険者ギルドへと行きたがる。
日に日にお客の数も減って行き、遂には昼過ぎなんて受付を一台しか開けていないほど暇であった。

「今日も暇だなぁ…」
受付嬢であるディアナは全く客が来ないため今日もだらけていた。

カランカランっ…
扉に付けられたベルが鳴る。
また、ギルドの退会手続きに来たのかしら?
そんな事を考えながら入口を見つめる。
其処にいたのは、白い髪の少年であり、ディアナはすぐさま気付いた。

(新人っぽいのキタァー!!)

「いらっしゃい!こっちが空いてるわよ」
すぐさま声をかける。
(久しぶりに来たギルドへの登録かも知れないのですもの、何がなんでも絶対に逃がさないわよ)
オーラが滲み出ながら対応する。

「ギルドカードを作りたいのだが」
「よっし、久々のギルド登録来たっ!」
ついつい嬉しさでガッツポーズをしてしまった。

「それじゃあ、この紙を記入しててね私は魔法適性検査の水晶持って来るから」
「ふん~ふふん~」
嬉しさのあまり鼻歌を歌い、スキップをしながら水晶を取りに行く。

戻ってくると書き終わったらしく少年が待っていてくれた。
「おまたせ!書き終わったみたいね。ふむふむ、ツムグさんね。16にしてレベル30なんて凄いわね。さらに魔力量が1000もあるなんて…逸材だわ!」
正に逸材だわ、新人なのにDランククラスのレベルに魔力量に関してはCクラスの魔力量ですわね。
ディアナは純粋に驚いていた。だが、本日一番の驚きは魔力適正であった。

「早速適正見て見ましょ!」
私は水晶をツムグの前へと差し出す。
それに紡がそっと触れる。

「え…?」
意味がわからなかった。水晶に浮かぶ色は銀色。ディアナが初めてみる色だった。

「銀ってなんの属性だよ」
紡からボソッと聞こえてくる。
そんなの私も知らないわよ…一人混乱していると紡が続ける。

「まぁ、いいや。登録よろしく」
この子この状況で!?あんなの見せられて普通に登録とか…
「え?いや、でも銀色が…」
ついつい素直に口から溢れる。
「登録しないんなら帰るぞ」
っ!?
「それはダメ!…わかった登録するわよ」
この新人を逃してはいけない。ディアナは自身の感に従い、考えるのを諦め登録作業を行う。

でも、属性の登録どうしようかしら…
銀なんて見たことも聞いたこともないし…
んー…うん、不明で良いや。

そうしてギルドカードが出来上がった。
その後紡はギルドの資料室で数時間探し物をしていた。
「普通の若い子なら長くても数十分後読む程度なのにね」
時々受付の合間を見ては資料室を見に行き、其処で真剣に資料を読む紡を見て呟く。

調べ物が終わり紡は軽い挨拶だけを残して帰っていく。
その背中を優しく見つめる。
この時、ディアナは紡の資料室で調べるその姿に今後の成長を願っていた。

「頑張ってね、新人くん!」
その言葉が騒がしいギルド内の喧騒の中に消えていった。



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