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死んだ先が異世界で

初めて戦闘異世界で

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「紡、お前を神祇官家から追放する事にした。紡という子供なぞ我が家にはいないことになり以後神祇官の苗字を名乗ることを禁ずる」


宗主、神祇官 洞谷からのいきなりの宣言。無情な一言に頭が真っ白に染まっていく。


「なっ…なんで…」

「お前が出来損ないだからだ」


絶望の一言、それ以降洞谷は口を開かなかった。
隣では妻の神祇官 聡子神祇官 聡子かみつか さとこが罵っている。

「ふん…こんなのが私と洞谷との子供なんてね。創生も出来ず、妖力もゼロで契約すらままならないなどと。こんな出来損ないなぞいりませんわ。勝手にどこぞでのたれ死んでいれば良いです。」

何故だろう。急激に心が冷めていく。
確かに俺には力がない。でも、誰よりも努力していたと思う。本家の兄弟や分家の奴らからの嫌がらせや、陰口、ましてや術の実験台にされるような事まであったりもしたけど。
でも、それを耐えて頑張っていたはずなのに…
紡には目の前の二人がどうしようもなく醜い生物に映る。

(もう何も信じられない。こいつらは力がないからと、俺を犬猫と同じような感覚で俺を捨てるんだな)

実の両親に罵声を浴びせられながら、俺の心が閉ざされていく。
俺に家族なんていなかった。一人絶望していると―――急に横の襖が力強く開く。



「だったら紡と一緒に私もでていくさね」



そこにいたのはばあちゃんだった。
これまで、5年ずっと俺をかばってくれていたばあちゃん。
実験台にされかけた時も何度も俺のことを守ってくれていた。

「でも…ばあちゃん…」

俺は大好きなばあちゃんを巻き込みたくない一心で断ろうとする。

「黙って従いな!」

だが、紡に有無を言わせない。


「良いのじゃないかしら?お母様も陰陽師として落ちこぼれですし、この前一緒に出ていってもらっても構わないですわよ。出来損ないと落ちこぼれ同士お似合いですしね」

「そうだな。親父もとっくの昔に亡くなっている。もうこれ以上母さんが此処に残る意味もないだろう」

笑いながらそう語る洞谷と聡子。
ばあちゃんは式神を創生出来るが、それは守る事に特化しており、攻撃能力がない為本家、分家からバカにされていた。
この二人からすれば、出来損ないの俺と、偏った力を持つばあちゃんはこの家から破棄すべき存在なんだろう。


「それじゃあいくよ」

ばあちゃんは俺の手を引き部屋から連れ出す。
冷めていた心に、手の暖かさが染み渡る。

「ごめんな「謝るんじゃないよ」」

「…ありがとう」

「いいさね」

そんな会話をしながら廊下を渡る二人。その二人に3人の子供が近づいてくる。


「ようやく親父はタダ飯ぐいの二人を叩き出す事に決めてくれたか」

「でも、鬼弥斗。こいつが居ないと今度から実験台の的役が居なくなってしまうぞ」

「だよねー。私、こいつを的にした時凄い調子いいのになぁー」


やってきたのは、長女の神祇官 纏 かみつか まとい、次女の神祇官 紙代 かみつか かみよ、次男の神祇官 鬼弥斗 かみつか きびとの3名であった。
神祇官家でも期待されている本家の面々である。


こいつらとは関わりあいたくなかった。黙って横を通り過ぎようとすると、鬼弥斗の呟きがすれ違いざまに聞こえてくる。


「本家の面汚しが。これでこの家からお前は消え去り出来損ないなどいなくなる。今後神祇官家に二度と関わるなよ」


言い返す力もない俺はただ黙って下を向き通り過ぎていく。それを見て笑う3人の姿に憎しみを抱きながら。

すると、目の前が真っ暗になり急激に息が苦しくなる。顔には何かがへばりつく感触。空気を求めるように顔に張り付くそれを力ずくで剥がす。
目を開けると、そこは自室のベッドの上だった。



「やっと起きたにゃ~」


手には子猫。俺が息の出来なかった原因はこいつのようだな。

(ああ、なんだ夢か…)

昔の地獄から冷めた俺は手に持っている子猫を優しく下ろす。

「ピーの言った通りにゃ!顔に張り付いたらすぐ起きたにゃ!」

「当然なのである」

どうやら、この呼吸困難は入り口でドヤ顔しているペンギンのせいであったらしい。

「にゃん吉、危ないから今度から普通に起こしてな」

「んにゃ?すぐに起きれたにゃよ?」

「それでも危ないからね」

「わかったにゃ!」


この子だけはペンギンに染まらず純粋でいてほしい。紡は心の中で願った。


「紡よ、早く起きるのですぞ。朝ごはんが冷めてしまうのである」

「ん?ピーが作ってくれたのか?」

「ええ。ですので早くいきますぞ」

「んにゃ!飯にゃー!!」

にゃん吉の叫び声とともに居間へと向かう。

「だいぶ魘されてたようでしたが大丈夫だったであるか?」

そっか、魘されてたのか。

「あぁ、大丈夫だ。ちょっと昔の夢を見てただけだから」

「ならばよかったのである」

「ありがとな」


そんな会話をしていると居間へと着く。
そこには、朝食でお馴染みの鮭の塩焼きなどの和食が並べられていた。
それぞれちゃぶ台に並ぶ。

「んじゃ、食べますか。頂きます」

「「頂きます(にゃー)」」


一口味噌汁を啜ると、ハイスペックペンギンの凄さに驚く。
(うおっ!めっちゃ美味いな…)

「シャケにゃー!!」

隣ではにゃん吉が、朝食のシャケを天に掲げ、狂喜乱舞していた。


朝食を食べ終わり、まったりとした空間の中、今日の予定を考えていた。

「それじゃあ、今日の予定なんだがあの小屋の周りを探索するって事でいいか?」

「それでいいにゃー」

「申し訳ないのである。私は聖域を離れられないのでお二人と一緒に行けないのである」

「大丈夫だ。ピーには大事な拠点の護りを任せるな」

「任されたのである」

そうして予定の決まった紡は、探索のための道具を集め異世界へと向かう。
ふぅ、またくることができてよかったな。
扉の先は昨日と変わらずの地下であり、また来れたことに安心する。


「よし、任せたぞ」

此方に翼を振るピーへと、そう告げ俺とにゃん吉は家から外に出る。

昨日は窓からしか見なかったがやっぱり凄いな此処は。
この木も見たことがないしなぁ…
あの時と変わらない吸い込まれるような暗い森。そこをゆっくりと進んでいく。

あたりを探索しながら少し進むとにゃん吉から声がかかる。

「此処からは聖域外にゃ。敵も出るので、にゃーからはなれないようにするにゃ」

「そうか、わかった」

喧嘩すらしたことのない紡の、人生初の冒険。不安な面持ちの紡をよそに、にゃん吉はすいすいと先を進んでいく。
それにしても、敵ってどんなんだろうな…
予想もできない異世界のモンスター。紡の頭の中で様々な敵が浮かび上がる。
もし、にゃん吉やピーみたいなゆるキャラなら戦いづらいな。

そんなことを思っているとにゃん吉から声がかかる。

「ここで伏せるにゃ。あの先に敵がいるにゃ」

促された先をみると、そこには…
醜い顔に小柄な体、陰陽師では通称餓鬼とよばれる小柄な鬼。ゲームで言う所のゴブリンが1匹そこにいた。妖気のような雰囲気を醸し出すそのゴブリンは棍棒を片手にあたりを見渡してキョロキョロとしており、その姿に『此処は異世界である』と言う思いが一層強まって行く。

あれが、異世界のモンスターなのか。
予想だにしていなかったグロテスクな見た目に気圧される。
紡は焦らず、モンスターへと鑑定をかけてゆく。


【名前】 ゴブリン
【種族】 小鬼種
【レベル】5
【体力】27/27
【魔力】8/8
【攻撃】16
【防御】12
【俊敏】9
【運】2
【スキル】 棍棒LV2
【種族スキル】 絶倫


思ったよりは弱いな。これならなんとかなりそうだ。
想像していたよりも数段弱かったゴブリンに安堵する。

そして覚悟を決め、紡が戦おうとすると…
横から凄い勢いでにゃん吉が飛び出す。
強襲を受けたゴブリンは慌てふためき、にゃん吉の剣に斬り伏せられ、地面に押さえつけられる。

「ご主人、早くきてこいつを殺すにゃー」

「あ…あぁ、わかった」

血のついた顔で呼ばれた俺は戸惑いつつ、ゴブリンに近寄る。
地面では押さえつけられたゴブリンが血液を垂れ流しながらも、生きるため必死に抜け出そうともがいている。
苦しまないようにしてやろう。
そのゴブリンに向け、持ってきていた木刀を頭に振り下ろす。

ゴギャッ…

周囲へと無情に響き渡る頭蓋の砕ける音。
その音とともにゴブリンの生命活動が止まる。
辺りには、中身だろうか。ボロボロの塊が飛び散っていく。

手に感じる砕いた感触を反芻していると、急に体が軽くなる感覚が訪れる。


「っ…なんだこれ」

「レベルアップにゃ」

なに?
すぐさま鑑定する。



【名前】 御伽 紡
【種族】 人間種
【職業】童話契約師
【性別】男
【年齢】16歳
【レベル】3
【体力】60/60
【魔力】632/632
【攻撃】14
【防御】8
【俊敏】17
【運】96
【スキル】 鑑定
【オリジナルスキル】 童話契約 絵本の世界 スキルコピー(契)LV1
【称号】異世界を行き来するもの 捨てられしもの
魔導書契約者
【契約】にゃん吉



おお、強くなってる。
落ちこぼれの俺でも強くなれるんだ。
数値という結果となって現れた現実に、言いがたい感情が胸に込み上げる。

そんな想いの中、にゃん吉の手助けを借りながら体力が続く限り、どんどんとレベルを上げていった。

気がつくと時刻は昼を超えた辺り。休憩したいというにゃん吉の為、一旦拠点へと戻ることになり帰りながらここまでの成果を見ていく。



【名前】 御伽 紡
【種族】 人間種
【職業】童話契約師
【性別】男
【年齢】16歳
【レベル】10
【体力】158/158
【魔力】982/982
【攻撃】35
【防御】22
【俊敏】38
【運】166
【スキル】 鑑定
【オリジナルスキル】 童話契約 絵本の世界 スキルコピー(契)LV1
【称号】異世界を行き来するもの 捨てられしもの
魔導書契約者
【契約】にゃん吉



もっとレベルを上げなければ。
紡は着実に強くなっていた。





―――――――――――――――――――





拠点に帰り着くと、そこではピーが華麗に紅茶を飲んでいた。
優雅なその姿は燕尾服にとても似合っておりイギリス映画のような風景である。

「おや、戻られたのですな。昼食の用意がありますが食べられますかな?」

「ああ、よろしく」

「にゃーもにゃ!」

「了解したのである」


ピーは昼食を温め直し、俺たちに出してくれる。
本日の昼食は中華であった。
誰かが待っていてくれるっていうのも嬉しいものだな。
ピーに感謝しながら、手をつけてゆく。
もちろん味はとても美味しく、すぐに目の前の皿からは料理が消えた。

食べ過ぎたわ…めっちゃ美味しかったしな
にゃん吉なんか幸せそうな顔で突っ伏してるし…
少し食休みでまったりするか。
食後のほうじ茶を飲みながら俺たちはまったりと過ごす。

「そういえば、周りを探索したんだがここら辺には街なんかはあるのか?」

「確か、守子様が言うには、此処から北に向かうと大きな街があると言ってたのである」

「そっか、この後はその街を目指して探索してみるかな」

明日も日曜で学校もないし、レベルアップがてら今日明日で街まで行くのもありかな。
せっかくの異世界だ、色々見て回ろう。

これからの予定を決めた俺はまだ見ぬ異世界の街を思いながらまったりとした時間を過ごしていった。



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