御伽噺に導かれ異世界へ

ペンギン一号

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死んだ先が異世界で

初めての召喚は異世界で

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静まり返る部屋の中。床に広がる幾何学模様の魔法陣だけが、怪しく揺らめいている。
目の前に広がる、幻想的な光景。
人生初の魔法陣は鮮やかな白い色彩をしており、1メートルほどの小柄なものであった。

今まで落ちこぼれとして扱われてきた紡は、自分が魔方陣を生み出したという事実に感動する。俺にも、出来たんだと。


魔方陣は俺がイメージを明確にするたびに徐々に強く輝く。
それが、夕暮れ時の薄暗い部屋のなかで「ここは異世界である」と主張するように自己主張している。
更に召喚への期待を加速させていく。

さあ、召喚しよう。これが俺の初めての召喚だ。
イメージが完成し、俺はそれを呼んだ。
より一層光り輝く魔方陣。それは、明るく室内を照らし、光の世界を生み出している。

その光景に見惚れていると、急に体からがくりと力が抜ける。
急激な体調の変化に戸惑う。
いきなりなんだ。襲い来る疲労感に焦りを隠せない。
戸惑っていると―――突如として魔方陣が弾け飛んだ。

失敗した。
その言葉が紡の脳内を駆け巡る。
ここでもやはりダメだったか。
紡は諦めて目を閉じる。

「こほんっ…どうやらお客様を呼び出せたようでございますな」

「えっ…!」

思わず我が目を疑うかのように、まじまじと目の前を見つめてしまう。
そこには、









一匹の子猫がいた。



紡は無言で子猫に近づくとそっと撫でてみる。
子猫は喜び、手に体を擦り付けてくる。

(やばい…超かわいい…)

さっきまで生意気なペンギンのせいでささくれだっていたからな。心が洗われるようだ。
それは、とてつもない癒しであった。
直ぐに子猫を気に入った紡は、抱きかかえて愛でていた。
小さい子猫を愛でる少年。そこだけほのぼのとした空気が漂っている。


「紡、いいかげん放すのですぞ」


ピーの一言で現実に引き戻される。
そうだ、愛でている場合じゃない。
まずは召喚したこいつを確認しなければ。

紡は召喚した子猫を見つめる。
何だこいつは、子猫はにしかみえない。とても愛らしく、可愛らしいけど、これなら猫カフェにも居るだろうな。これは、俺が知る一般的な式神と比べても、とても式神とは思えないんだが。

一人座り込み紡は頭を抱える。



「これ…結果的に失敗じゃね?」



子猫には申し訳ないがそうとしか思えなかった。



「誰が失敗にゃっ!?こいつ失礼にもほどがあるにゃっ!!」


下の方から怒りの声が聞こえてくる。
紡はとっさに右下にいたピーと目が合う。
だが、ピーはめんどくさそうに、黙って首を左右に振っている。
どうやら違うようだ。
そうかピーではなかったとなると、残る一匹。あいつしかいない。
俺はそれに目を向ける。
そこには、



「んにゃ!」

長靴を履いた二足歩行をしている子猫が剣を掲げていた。



そう確かに召喚の際、俺がイメージした物語は『長靴を履いた猫』だ。昔からどの地域でもよく語られている御伽話であり、主人公は長靴を履き、剣を持ち、主人に使える騎士のはずだった。
目の前にいる猫も紛れもなく長靴を履いて剣を掲げる騎士風の猫である。
但し、という点を除けば。
俺が何をしたというんだ…
何かの呪いとしか思えない。







「また仲間にゆるキャラみたいなのが増えるのか…」

紡は直視できない現実に凹んでいた。


そんな横でゆるキャラ呼ばわりされた奴らの珍妙な会合が始まる。

「にゃ~、ミスター。君もこのご主人の仲間なのかにゃ~??」

「えぇ、私も先程紡とは先程知り合いましてな。仲間に入ってあげたのですぞ!」


子猫とペンギンのじゃれ合い、側から見たら微笑ましい光景だな…


「にゃるほど。それでは挨拶させていただくにゃっ!
我がにゃは、雷鳴の騎士にゃんだるふぉん!
正義を司る由緒正しい騎士であるにゃ!」

「それでは私も。私はミスターP、ペンギン界隈では名の知れた由緒正しいジェントルマンである」



この会話さえなければ。



子猫とペンギンが、騎士だのジェントルマンだの…
とんでも会話が繰り広げられていた。
隣で騒ぐゆるキャラ二人。
話の内容もツッコミどころ満載。
そんな現状についていけてないせいか、紡はついつい余計なことをいってしまう。


「ピーはまだしもにゃんだるふぉんって…その見た目ならにゃん吉とかの方が似合うだろ…」


無意識だった。何も考えず紡が呟いたその言葉。
日常では何気ないその言葉が、召喚の場という事により強い意味を持つ。
紡は今まで契約できなかった為、知らなかった。
契約、創生、召喚。全ての儀式の最後には主人から事を…
紡は知らなかった。名付けは


「!?」

突如、様子が変わるにゃんだるふぉん。先程までの騎士のような立ち振る舞いは消え去り、焦り出す。

何事かとにゃんだるふぉんを眺めていると今度は紡の持っている本が眩く白く光り出す。
「な、何だいきなり」
手から浮かび上がり、宙に浮いたまま光り輝く魔導書はひとりでに一ページ目が開かれていた。

けれど、その光景に終わりを告げる。
後ろから黄色に光る球体が魔導書に向かい飛んでいく。
出どころを見るとどうやら、にゃんだるふぉんから飛び出したようだ。
その白猫は、縋るように此方へと手を伸ばしながら、絶望した顔で叫び声を上げている。


「にゃぁああ!?
ダメにゃ!戻ってくるにゃっ!!」


絶叫がこだまする中、抵抗もなく、魔導書に光の球が吸い込まれた。
すると魔導書の光は収まり白紙だった一ページ目へと燃えるように文字が記入されていく。


『長靴を履いた猫』 
主人公 : にゃん吉


記入が終わると頭の中に女性のような声でアナウンスが流れ出す。

『規定数を超えた事によりレベルアップしました。』

唖然とする紡。後ろでは、窓から刺す光に照らされ、毛並みと同じく顔を真っ白に染めたにゃんだるふぉん、もといにゃん吉が突っ伏したまま固まっている。

その横では紳士的に口元を押さえながらも、ピーがクスクスと笑い、その声だけが室内に響いている。

呆然としていると、にゃん吉は何かを思い出したかのように、急に立ち上がる。確認するように自身の体を見つめ、何故かその状態で固まり、プルプルと震えていた。
プルプルが限界に達したのであろか。室内に大声が響き渡る。

「にゃっ!?にゃんでにゃ!!鑑定のにゃまえもにゃん吉になっているにゃ!!」

鑑定、それはなんのことだろうか。初めて出た言葉だな。

「当然である。この魔導書の契約は特別なのである。現世に存在するため、また魔導書に存在を定着させるための楔として名付けをするのである。よって契約者は楔の名へと書き換えられるのである
存在の定着の為鑑定の名も変わるのである。」

隣で絶望するにゃん吉から「そんにゃ…」と言う掠れた声が聞こえる。
プルプルと震えながら、泣きそうになるのを必死に耐えるその姿に、何をしたのかもわからないが、とてつもない罪悪感を紡は感じた。

「あー…その…ごめんな?」

気まずいながらそう声をかけるとにゃん吉は泣きそうな顔で「大丈夫にゃ…騎士は後ろは振り返らないにゃ…」と小さな声で語り、儚げに笑っていた。

何をしたかわからないけど、俺のせいで悲しんでいるようだ。元気付けてやるか。

「お詫びと言ってはなんだがもし、無事に地球に帰れたらいいもの食わせてやるよ」

とたんににゃん吉は笑顔になり、紡に抱きつきながら「それは美味いのかにゃ!?不味ければ爪研ぎの刑に処すにゃ!」と言いながら喜びだす。

あんなに泣きそうだったのに。可愛いなこいつ。紡は足元に縋り付いておねだりを続ける、人生初めての契約者をとても大切に優しく撫でていた。





――――――――――――――――





名付け騒動から落ち着き、漸く紡達は互いに情報交換をした。
話して分かった事は3つ


1つは召喚者は魔導書の知識や俺の地球の記憶を引き継いで召喚されるとのこと。
このことで、何より嬉しかったのは地球の説明をせずにすんだ事だった。
正直、子猫に地球のルールを理解できると思えない。


2つ目は鑑定について。この異世界ではどうやらゲームで言う所のステータスというのがあるらしい。鑑定はステータスを見る際や物を調べたりなどに使われるスキルというものらしい。


そして最後は…

「なに…?俺も鑑定を使えるのか?」

「んにゃ!ご主人はあの魔導書と繋がっているにゃ。
そしてその魔導書ににゃーは定着したにゃ。それによりご主人は定着した者達のスキルを借りることができるにゃ!但し、魔導書にもレベルがある為沢山のスキルを借りたければレベルを上げるにゃん」

成る程。それは俺自身も強くなれるってことか。
紡に訪れた成長の兆し。落ちこぼれ時代とは見違えるほどワクワクした顔で紡は話を聞いていた。

その後、一人と二匹で話し合いを続けた結果、今回の借りるスキルは鑑定ということで決まった。
理由としては、自身のステータスやにゃん吉とピーのステータスを知っておきたかったから。
また、未だに見つかっていない地球へと帰るドア探しの為である。

決まってすぐ、紡は動き出す。やはり16歳の男の子であり未知なる力に期待を膨らませているようだ。

にゃん吉の話によるとスキルを借りるのは簡単で…

「魔導書に手をかざし、スキル名を言うだけだったな…よし 『鑑定スキル』!」

少し大きめに叫ぶと、頭の中に(了承しました、鑑定スキルがセットされます)と流れてきた。

ふむ…これで借りられたはずだな。

「試してみるか」

俺は近くの机に向かい鑑定を発動させていく。



『トレント製の食卓机』
魔物であるトレントの木材を大量に使用し、一流の職人が丹精込めて作り上げた逸品。
もともと武器などに使われる堅いトレント素材を用いた事により非常に壊れにくく傷つけにくくなっている。
製作者:ミスターP



あーうん…鑑定スキルすごいな。素材や仕事内容、ましてや製作者までわかるとはな。
逆にあのペンギンについては余計に分からなくなったが。

「よし、それじゃあ次はにゃん吉ステータスを見させてくれないか?」

「いいにゃよ。ささっとみるにゃ」


ここから始まる紡の知らない世界。
期待しながら、にゃん吉の合図とともに、鑑定スキルを放った。


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