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第4話 魔法使いとリッチー
28「第三ラウンド」
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「じゃあ、第3ラウンドと行きましょうか」
会話ができないと判断したのか、フィオナは手の上に炎を浮かべながら言った。
「今度は魔法使い同士の勝負よ。アナタの魔法、お姉さんに見せてちょうだいな?」
クソ。エルヴァは無事と信じてやるしかない。
もし本当にエルヴァがテレポートで飛ばされただけなら応援要請を出してくれるハズ。
ならそれまでの時間稼ぎでいい。
……あれ、それなら今の話は乗るべきだったのか?
しまった。これは確実に乗っておくべきものだった。
……だが、今更どうこう言っても仕方がない。
俺は右手に魔力をためる。
「……来なさい?」
「《ブリザード》──ッ!」
氷のB級魔法を全力で放つと、フィオナの方へ行きの嵐が襲い掛かる。
「いいわ……いい魔法じゃない! 《フレイムウォール》──ッ!」
しかしフィオナの魔力によって展開された炎の壁に阻まれ、煙を上げるだけだった。やっぱり嵐といえども氷属性じゃダメか。なら水で……。
「《タイダルウェーブ》──ッ!」
「やっぱりそう来るわよねえ」
潮の波が襲い掛かる炎の壁の向こうで、フィオナのそんな声が聞こえてくる。
これもあっさり防ぐのだろうか。いや、これで決めれるとも思っちゃいないが……。
波が炎を飲み込む。圧倒的な水量を前に、炎はあっという間に沈んでいく。
だが、その後ろにはフィオナを守るように土の壁が形成されていた。
そしてその壁はビクともしないどころか、俺の生み出した水を吸い取っていく。
やがて水がなくなれば、役目を終えたとばかりにその壁は土の中へと還っていった。
「さ、次はどうする?」
「くっ……」
クソ、B級魔法が立て続けに2つあっさり受け止められた。
しかも何の情報も手に入らない。強いて言えばフィオナは火と土の使い手で、受けに徹しているというところか。ただいつ攻めに回るとも限らない。
「《ブラインドミスト》──ッ!」
霧を起こす魔法だ。
ふつうは逃走時に使うものだが、今回はリスクを少しでも減らすべく使う。
「目くらましかぁ。逃げる算段でも思いついたの?」
向こうでフィオナが楽しそうな声を漏らす。行動はおそらく何も起こしていない。
あえてまた先手を渡しに来ているのだろう。その隙に……。
『へっくし! さむっ! 何ですか! ミラちゃんですか!? 私何もしてないのに!? 寝てただけなのに!?』
「うるせえ、大事な時に寝てんじゃねえ! いいから黙って状況見ろ! 緊急事態だ!」
俺は俺を囲うように《ディスペルフォース》を張った後、冷気を流して叩き起こしたセインに怒鳴りつける。
こんな状況でものうのうと寝ていられるクソ女神に頼らざるを得ない自分がこの上なく情けないが、もうそんなこと言ってられる状況でないのも確かだ。
とにかく百聞は一見にしかずと言う。仮にも女神なら魔王軍の幹部は見てすぐわかるハズ……。
『……霧が深くて視界が悪いって話ですか?』
「ごめん。今のは俺が悪かった」
こっちの口の動きを悟られないために撃っておいたブラインドミストのせいでセインが状況をつかめないという何とも本末転倒な結果になってしまった。
うーん、しかし口で説明するのは面倒だし、そんな余裕もない。
「いいか、セイン。俺はこの後霧を解く。防音も切る。だからもうこっちからは話さない。お前から一方的に話せ。俺が勝てるようなアドバイスを出すんだ」
『え? ちょっと意味が分からないんですが!?』
うん、分からないだろう。だがこれ以上は説明のしようもない。
このポンコツがどこまでできるか、期待はできないが、藁にも縋る思いとはまさにこのことだ。
『えっ……な、何でこんなところにフィオナが……』
「あら、逃げるんじゃなかったの? 次の作戦楽しみにしてたのに……。それとも、やっとお話聞いてくれる気になった?」
『お話!? そ、そんなに仲良いんですか!? あれ魔王軍ですよ!?』
……寝かせといた方がよかったかな。
どうしたらこの円形の壁の中、こんなに距離を取って仲良く話すことになるんだよ、ツッコミどころ満載じゃないか。
しかしそれは置いておいて、今のフィオナの発言は非常にありがたいかもしれない。
さっき乗りそびれた会話に改めて乗るチャンスが来たのだ。
それにこれを通してセインに情報提供もできる。あまり期待はしちゃいないが……。
「ちょっとならね」
「ふふ、正解よ。ここは時間稼ぎの為に乗るべきだから」
「っ……」
「ああ、そんな顔しないで。別に取って食おうって訳じゃないのよ、ね?」
『あれ、あんまり仲良さそうじゃありませんね。喧嘩中ですか?』
察しが悪いにもほどがあるセインの声を耳から極力排除しながら、俺は改めて魔王軍の四天王幹部の恐ろしさを痛感する。
相手は俺が時間稼ぎに出たことを知りながら、それに乗る余裕を持っている。
こいつ、本当にいったい何が目的なんだ……?
「やっぱり信じれない? お姉さん悲しいわぁ……」
『自分のことお姉さんって本当ないと思うんですよね、私』
土魔法で椅子を用意したフィオナは、そこに座って相変わらずの笑みで、もちろんセインの陰口を耳に届かせることなく俺の方を見てくる。
いつまでこの調子なのか、とイライラはすれど、下手に都合がいいだけに何も言えない。
するとフィオナは何が面白いのか、フフッと笑うと。
「まあいいわ。それよりアナタ、お姉さんと一緒に来ない?」
『「は?」』
突然豪速球を投げられ、セインと共に素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
会話ができないと判断したのか、フィオナは手の上に炎を浮かべながら言った。
「今度は魔法使い同士の勝負よ。アナタの魔法、お姉さんに見せてちょうだいな?」
クソ。エルヴァは無事と信じてやるしかない。
もし本当にエルヴァがテレポートで飛ばされただけなら応援要請を出してくれるハズ。
ならそれまでの時間稼ぎでいい。
……あれ、それなら今の話は乗るべきだったのか?
しまった。これは確実に乗っておくべきものだった。
……だが、今更どうこう言っても仕方がない。
俺は右手に魔力をためる。
「……来なさい?」
「《ブリザード》──ッ!」
氷のB級魔法を全力で放つと、フィオナの方へ行きの嵐が襲い掛かる。
「いいわ……いい魔法じゃない! 《フレイムウォール》──ッ!」
しかしフィオナの魔力によって展開された炎の壁に阻まれ、煙を上げるだけだった。やっぱり嵐といえども氷属性じゃダメか。なら水で……。
「《タイダルウェーブ》──ッ!」
「やっぱりそう来るわよねえ」
潮の波が襲い掛かる炎の壁の向こうで、フィオナのそんな声が聞こえてくる。
これもあっさり防ぐのだろうか。いや、これで決めれるとも思っちゃいないが……。
波が炎を飲み込む。圧倒的な水量を前に、炎はあっという間に沈んでいく。
だが、その後ろにはフィオナを守るように土の壁が形成されていた。
そしてその壁はビクともしないどころか、俺の生み出した水を吸い取っていく。
やがて水がなくなれば、役目を終えたとばかりにその壁は土の中へと還っていった。
「さ、次はどうする?」
「くっ……」
クソ、B級魔法が立て続けに2つあっさり受け止められた。
しかも何の情報も手に入らない。強いて言えばフィオナは火と土の使い手で、受けに徹しているというところか。ただいつ攻めに回るとも限らない。
「《ブラインドミスト》──ッ!」
霧を起こす魔法だ。
ふつうは逃走時に使うものだが、今回はリスクを少しでも減らすべく使う。
「目くらましかぁ。逃げる算段でも思いついたの?」
向こうでフィオナが楽しそうな声を漏らす。行動はおそらく何も起こしていない。
あえてまた先手を渡しに来ているのだろう。その隙に……。
『へっくし! さむっ! 何ですか! ミラちゃんですか!? 私何もしてないのに!? 寝てただけなのに!?』
「うるせえ、大事な時に寝てんじゃねえ! いいから黙って状況見ろ! 緊急事態だ!」
俺は俺を囲うように《ディスペルフォース》を張った後、冷気を流して叩き起こしたセインに怒鳴りつける。
こんな状況でものうのうと寝ていられるクソ女神に頼らざるを得ない自分がこの上なく情けないが、もうそんなこと言ってられる状況でないのも確かだ。
とにかく百聞は一見にしかずと言う。仮にも女神なら魔王軍の幹部は見てすぐわかるハズ……。
『……霧が深くて視界が悪いって話ですか?』
「ごめん。今のは俺が悪かった」
こっちの口の動きを悟られないために撃っておいたブラインドミストのせいでセインが状況をつかめないという何とも本末転倒な結果になってしまった。
うーん、しかし口で説明するのは面倒だし、そんな余裕もない。
「いいか、セイン。俺はこの後霧を解く。防音も切る。だからもうこっちからは話さない。お前から一方的に話せ。俺が勝てるようなアドバイスを出すんだ」
『え? ちょっと意味が分からないんですが!?』
うん、分からないだろう。だがこれ以上は説明のしようもない。
このポンコツがどこまでできるか、期待はできないが、藁にも縋る思いとはまさにこのことだ。
『えっ……な、何でこんなところにフィオナが……』
「あら、逃げるんじゃなかったの? 次の作戦楽しみにしてたのに……。それとも、やっとお話聞いてくれる気になった?」
『お話!? そ、そんなに仲良いんですか!? あれ魔王軍ですよ!?』
……寝かせといた方がよかったかな。
どうしたらこの円形の壁の中、こんなに距離を取って仲良く話すことになるんだよ、ツッコミどころ満載じゃないか。
しかしそれは置いておいて、今のフィオナの発言は非常にありがたいかもしれない。
さっき乗りそびれた会話に改めて乗るチャンスが来たのだ。
それにこれを通してセインに情報提供もできる。あまり期待はしちゃいないが……。
「ちょっとならね」
「ふふ、正解よ。ここは時間稼ぎの為に乗るべきだから」
「っ……」
「ああ、そんな顔しないで。別に取って食おうって訳じゃないのよ、ね?」
『あれ、あんまり仲良さそうじゃありませんね。喧嘩中ですか?』
察しが悪いにもほどがあるセインの声を耳から極力排除しながら、俺は改めて魔王軍の四天王幹部の恐ろしさを痛感する。
相手は俺が時間稼ぎに出たことを知りながら、それに乗る余裕を持っている。
こいつ、本当にいったい何が目的なんだ……?
「やっぱり信じれない? お姉さん悲しいわぁ……」
『自分のことお姉さんって本当ないと思うんですよね、私』
土魔法で椅子を用意したフィオナは、そこに座って相変わらずの笑みで、もちろんセインの陰口を耳に届かせることなく俺の方を見てくる。
いつまでこの調子なのか、とイライラはすれど、下手に都合がいいだけに何も言えない。
するとフィオナは何が面白いのか、フフッと笑うと。
「まあいいわ。それよりアナタ、お姉さんと一緒に来ない?」
『「は?」』
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