上 下
28 / 41
第4話 魔法使いとリッチー

28「第三ラウンド」

しおりを挟む
「じゃあ、第3ラウンドと行きましょうか」

 会話ができないと判断したのか、フィオナは手の上に炎を浮かべながら言った。

「今度は魔法使い同士の勝負よ。アナタの魔法、お姉さんに見せてちょうだいな?」

 クソ。エルヴァは無事と信じてやるしかない。
 もし本当にエルヴァがテレポートで飛ばされただけなら応援要請を出してくれるハズ。
 ならそれまでの時間稼ぎでいい。

 ……あれ、それなら今の話は乗るべきだったのか?
 しまった。これは確実に乗っておくべきものだった。
 ……だが、今更どうこう言っても仕方がない。

 俺は右手に魔力をためる。

「……来なさい?」
「《ブリザード》──ッ!」

 氷のB級魔法を全力で放つと、フィオナの方へ行きの嵐が襲い掛かる。

「いいわ……いい魔法じゃない! 《フレイムウォール》──ッ!」

 しかしフィオナの魔力によって展開された炎の壁に阻まれ、煙を上げるだけだった。やっぱり嵐といえども氷属性じゃダメか。なら水で……。

「《タイダルウェーブ》──ッ!」
「やっぱりそう来るわよねえ」

 潮の波が襲い掛かる炎の壁の向こうで、フィオナのそんな声が聞こえてくる。
 これもあっさり防ぐのだろうか。いや、これで決めれるとも思っちゃいないが……。
 波が炎を飲み込む。圧倒的な水量を前に、炎はあっという間に沈んでいく。
 だが、その後ろにはフィオナを守るように土の壁が形成されていた。
 そしてその壁はビクともしないどころか、俺の生み出した水を吸い取っていく。
 やがて水がなくなれば、役目を終えたとばかりにその壁は土の中へと還っていった。

「さ、次はどうする?」
「くっ……」

 クソ、B級魔法が立て続けに2つあっさり受け止められた。
 しかも何の情報も手に入らない。強いて言えばフィオナは火と土の使い手で、受けに徹しているというところか。ただいつ攻めに回るとも限らない。

「《ブラインドミスト》──ッ!」

 霧を起こす魔法だ。
 ふつうは逃走時に使うものだが、今回はリスクを少しでも減らすべく使う。

「目くらましかぁ。逃げる算段でも思いついたの?」

 向こうでフィオナが楽しそうな声を漏らす。行動はおそらく何も起こしていない。
 あえてまた先手を渡しに来ているのだろう。その隙に……。

『へっくし! さむっ! 何ですか! ミラちゃんですか!? 私何もしてないのに!? 寝てただけなのに!?』
「うるせえ、大事な時に寝てんじゃねえ! いいから黙って状況見ろ! 緊急事態だ!」

 俺は俺を囲うように《ディスペルフォース》を張った後、冷気を流して叩き起こしたセインに怒鳴りつける。
 こんな状況でものうのうと寝ていられるクソ女神に頼らざるを得ない自分がこの上なく情けないが、もうそんなこと言ってられる状況でないのも確かだ。
 とにかく百聞は一見にしかずと言う。仮にも女神なら魔王軍の幹部は見てすぐわかるハズ……。

『……霧が深くて視界が悪いって話ですか?』
「ごめん。今のは俺が悪かった」

 こっちの口の動きを悟られないために撃っておいたブラインドミストのせいでセインが状況をつかめないという何とも本末転倒な結果になってしまった。

 うーん、しかし口で説明するのは面倒だし、そんな余裕もない。

「いいか、セイン。俺はこの後霧を解く。防音も切る。だからもうこっちからは話さない。お前から一方的に話せ。俺が勝てるようなアドバイスを出すんだ」
『え? ちょっと意味が分からないんですが!?』

 うん、分からないだろう。だがこれ以上は説明のしようもない。
 このポンコツがどこまでできるか、期待はできないが、藁にも縋る思いとはまさにこのことだ。


『えっ……な、何でこんなところにフィオナが……』
「あら、逃げるんじゃなかったの? 次の作戦楽しみにしてたのに……。それとも、やっとお話聞いてくれる気になった?」
『お話!? そ、そんなに仲良いんですか!? あれ魔王軍ですよ!?』

 ……寝かせといた方がよかったかな。
 どうしたらこの円形の壁の中、こんなに距離を取って仲良く話すことになるんだよ、ツッコミどころ満載じゃないか。
 しかしそれは置いておいて、今のフィオナの発言は非常にありがたいかもしれない。
 さっき乗りそびれた会話に改めて乗るチャンスが来たのだ。
 それにこれを通してセインに情報提供もできる。あまり期待はしちゃいないが……。

「ちょっとならね」
「ふふ、正解よ。ここは時間稼ぎの為に乗るべきだから」
「っ……」
「ああ、そんな顔しないで。別に取って食おうって訳じゃないのよ、ね?」
『あれ、あんまり仲良さそうじゃありませんね。喧嘩中ですか?』

 察しが悪いにもほどがあるセインの声を耳から極力排除しながら、俺は改めて魔王軍の四天王幹部の恐ろしさを痛感する。
 相手は俺が時間稼ぎに出たことを知りながら、それに乗る余裕を持っている。
 こいつ、本当にいったい何が目的なんだ……?

「やっぱり信じれない? お姉さん悲しいわぁ……」
『自分のことお姉さんって本当ないと思うんですよね、私』

 土魔法で椅子を用意したフィオナは、そこに座って相変わらずの笑みで、もちろんセインの陰口を耳に届かせることなく俺の方を見てくる。
 いつまでこの調子なのか、とイライラはすれど、下手に都合がいいだけに何も言えない。
 するとフィオナは何が面白いのか、フフッと笑うと。

「まあいいわ。それよりアナタ、お姉さんと一緒に来ない?」
『「は?」』

 突然豪速球を投げられ、セインと共に素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...