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第4話 魔法使いとリッチー

22「投擲」

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「で、なんで投げナイフなんて買いに来たの?」

 様々な形状の小型ナイフが並ぶ、街の武具店の投擲コーナーで俺は至極当然の疑問をぶつけていた。
 正直この小型のナイフが効きそうなモンスターってすごく限られる気がする。

「お前が死狼に襲われた時、俺ら何もしてやれなかっただろ? そん時にこういうのがあったら、時間稼ぎくらいはできるかな、って思ってさ」
「あー、あの時の……」

 昨日の初クエストの時、俺は運悪く出くわした死狼ことブラッドウルフに襲われて殺されかけたのだ。
 たまたまシルヴィアが横から飛び込み、その拳が直撃したことによって事なきを得たのだが、その時わずかに間に合わなくて助けに入れなかったことを、こいつなりに悔いていたのだろう。

「それにしても、いっぱい種類あるんだね」

 あれこれとナイフを手に取るエルヴァの後ろにチョロチョロとついて回りながら、その種類の多さに感じたことをぼそっと呟いてみた。

「感触とか投げ心地とか、色々あるんだよ」
「ふーん。どれも同じかと思ってた」

 確かに明らかに大きさや形状が違うものもあるが、中にはほとんど同じに見えるものも少なくはなく、ざっと15種類程度にしか見えない。
 そしてそんなボヤきを聞いたエルヴァは、俺をじっくりと……正確には、俺の腕のあたりをじっと見つめて。

「お前、筋力いくつだよ」
「34だけど」

 例のカードに書かれていた数値を答えると、パッと取った二本のナイフを俺に渡してくる。

「投げてみろよ、そこに試投コーナーあるから」
「……分かった」

 習うより慣れろってことだろうか。
 ちょっとしたきっかけで人生初のナイフ投げを体験することになった俺は、自分用に五本のナイフを持ったエルヴァと共に試投コーナーへ向かった。


 ◇


 ナイフの投擲。
 もちろんそんなものをやったことがない俺は、ひとまずダーツのように投げてみるも、我ながらひどい方向に一本目を飛ばしたところである。

「投げ方、変?」
「いや別に。そもそも本番は細かい投げ方まで気にしてらんねえよ」

 言われてみれば確かにその通りである。
 もう何か既にからかわれる気しかしなくて投げる気が失せてきているのだが、投げなかったところで何か言われるだろうし、奇跡を信じて投げることにした。

 ダーツ、結構得意だったのにな、と少し落ち込みながらの二本目。

「お。今の結構手応えよかったかも」

 エルヴァに渡された二本のナイフは、一見すればほとんど形状の違いがないように見えていたのだが、投げた時の手応えは雲泥の差だった。
 何が違う、とは語れないが、これは確かに投げてみて初めて分かる違いだな。

「手応えよくてそのコントロールかよ」
「なっ……せっかく感動してたのに水差さなくったって!」

 実際九つ飾られた的から程遠いところに刺さっているナイフを見ると、エルヴァの呆れを一切否定出来ないのだが。

 しかし否定出来ないと反論出来ないは同値ではない。
 見ていろエルヴァ。今日こそはそっくり返してやる。

「……エルヴァって百発百中だもんね?」
「は?」
「前に言ってたじゃん。俺は百発百中だーって。だから当てれるんでしょ? その五本、全部」
「待てっておい。試投だぞ。投げにくいものも……」

 ふふふ。焦ってる焦ってる。

「決まりだね。一本でも外したらエルヴァの負け。負けた方が一週間家事当番代わるってことで」
「ちょ、ちょっと待ておい」
「当てる的は真ん中とその上下左右ね!」
「場所まで指定あんのかよ……」

 俺はきっとここぞとばかりに悪い笑みを浮かべていたことだろう。
 エルヴァが試投用に五種の様々なものを持ってきているなんて容易に想像できる。
 ならば一本や二本は投げにくいものもあるはずだ。
 少しズルい? そんなこと気にしてられるか。勝負の世界は残酷なのだ。
 俺は満面の笑みを浮かべ、一本目のナイフを手に取るエルヴァを見守った。


 ◇


「なんで! 自信なさそうにしてたじゃん!」
「お前アレ真に受けてたのかよ。可愛いやつだな」
「はああああああ!!?」

 見事敗北を喫した俺は、現在どこぞの子供のように、筋のない抗議を行っていた。
 だが、ルールには何の抜け目もなく、むしろこっちが有利な条件で押し付けた上で、正々堂々と負けた俺はあえなくエルヴァにからかわれる始末であった。

「そんな嘘ズルいじゃん!? 絶対ズルいじゃん!?」
「お前、あんだけお前有利な条件にしたくせによくそんな言葉が使えるな」
「関係ないし! ズルはズル!」
「おっちゃん、このナイフにするわ」
「へい毎度!」
「うわああああ!!」

 華麗なるスルーを決められた俺は、がっくりと手と膝をついてうなだれるが、エルヴァはそんな姿などどこ吹く風で店員とやり取りを交わしている。

『これがorzですか……』

 唯一反応を示したセインは、もはや死語と言ってもいいような古いネットスラングの体現化を見て感嘆の声を漏らしていた。
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