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第3話 異世界四重奏 〜イセカイカルテット〜
19「ブラッドウルフ」
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ブラッドウルフ。
四速歩行の獣型モンスターで、その恐ろしさは野良モンスターの中では五本の指に入るという。
好物は血液。しかし強者の血のみを好むため、生息地は王都の付近の森などであることが多い。
しかし出血した強者にしか反応を示さないことから、万が一遭遇した際には刺激を与えずにさっさと逃げろ、というのが鉄則だそうだ。
そして俺たちはその鉄則とやらに従っているのだが……。
「とにかく走れ! 森の外まで走れ! あれでも狡猾な奴だ! 森の外までは……!」
「な、なんで私たちを! 何もしてないじゃん!」
「くそ! 追いつかれる!」
半泣きで足を動かすシルヴィアに、エルヴァが必死に声をかけ続ける。
そう、なぜだかアイツの標的は既に俺たちに定まってるらしく、もうすぐ近くまで迫って来ているのだ。
これじゃどうあがいても森の外までは間に合わない。
考えろ。何とか足止めするんだ。そのための魔法のはずだ。
使える魔法は?
風? まだそんなに強いのは使えない。
水で流す? それもこんな走りながらはまだ無理。
くそ、何かないのか。今まで見たゲーム、アニメ、漫画、小説……。
「これだ! 《アクアボール》──ッ!」
「な、何やってんだ!」
自分の後方からブラッドウルフまでの間に、できるだけ多くの水塊を作り地面に落とす。
そしてそれが地に染み込む前に……。
「《フリーズ》──ッ!」
俺はその水を凍らせる。これで地面はつるつるしてまともに走れなくなるはずだ!
「効かねえよ!」
俺の意図を察したエルヴァが荒々しい声をあげる。
見てみれば、なんということでしょう。確かに何もなかったかのように距離を詰めてきているではないか……!
「アイツの足裏はスパイクみたいになってる! だから滑ったりはしない!」
「だったら直接! 《フリーズ》──ッ!」
どうやら地面に氷を敷いてもダメらしいので、直接凍らせてやろうと思ったのだが……。
小さな氷が出来上がった部分には既に足がない。発動までのわずかなタイムラグの間に座標がずれてしまうようだ。きっと水塊にしても同じ話だろう。
「うあっ!?」
「うわあああ!?」
一瞬のその出来事に思考回路を絶たれ、全身を強打した痛みと横向きになった視界が、ついで右半身が地面と接触している感覚が脳に伝わってくる。
一気に叩き込まれた情報をやっとの思いで処理すると、転んだシルヴィアに巻き添えになったらしいということを悟った。
立ち上がって逃げろ。俺の本能はそう告げているが、身体が思うように動かない。混乱した頭は、情報処理に手一杯なようだ。
見れば、狼との距離はどんどん近づいてきている。しかし身体は動かない。
狼が地を蹴り宙を舞った。その映像はまるでスーパースローのそれを見ているようだ。
ゆっくりと宙を舞う狼は、その黒い顔の中に、赤い口内とところどころに赤色の装飾が入った白い牙を覗かせた。あれに噛み付かれれば鮮血が噴き出すことになるだろう。
そしてその軌道はどうやら俺を目掛けているらしい。二人の倒れた女のうち、先に俺にアタリをつけたようだ。
ああ、終わった。もうこの状況を打開できる策は何も浮かばない。
仮に浮かんだところで身体は動かないだろうが。
だいぶスローに動く狼も、ようやくもう数十センチメートルの手前まで来ている。
このまま狼に喰われて死ぬ。そう思ったときだ。
「オラァ!!」
ようやく耳が機能したかと思えば、目の前にはさっきまで居た狼の代わりに、ところどころに擦り傷を負った少女が居た。
驚きながらその少女の向く先を見てみると、そこには木の前に横たわる黒い影。
「ミラちゃん、フリーズ!」
「えっ……?」
「早く! 脚に!」
「あっ、う、うん。《フリーズ》──ッ!」
俺は何が起こったかも分からないまま、ただ奇跡的にその意思を汲み取ると、他に何かを考える前に横たわる獣の脚に目掛けて凍結魔法を放った。
今度は座標のズレもなく、見事標的の脚に氷が張ったのを見ると、どさっと俺の上に気を失ったシルヴィアが倒れてきた。
四速歩行の獣型モンスターで、その恐ろしさは野良モンスターの中では五本の指に入るという。
好物は血液。しかし強者の血のみを好むため、生息地は王都の付近の森などであることが多い。
しかし出血した強者にしか反応を示さないことから、万が一遭遇した際には刺激を与えずにさっさと逃げろ、というのが鉄則だそうだ。
そして俺たちはその鉄則とやらに従っているのだが……。
「とにかく走れ! 森の外まで走れ! あれでも狡猾な奴だ! 森の外までは……!」
「な、なんで私たちを! 何もしてないじゃん!」
「くそ! 追いつかれる!」
半泣きで足を動かすシルヴィアに、エルヴァが必死に声をかけ続ける。
そう、なぜだかアイツの標的は既に俺たちに定まってるらしく、もうすぐ近くまで迫って来ているのだ。
これじゃどうあがいても森の外までは間に合わない。
考えろ。何とか足止めするんだ。そのための魔法のはずだ。
使える魔法は?
風? まだそんなに強いのは使えない。
水で流す? それもこんな走りながらはまだ無理。
くそ、何かないのか。今まで見たゲーム、アニメ、漫画、小説……。
「これだ! 《アクアボール》──ッ!」
「な、何やってんだ!」
自分の後方からブラッドウルフまでの間に、できるだけ多くの水塊を作り地面に落とす。
そしてそれが地に染み込む前に……。
「《フリーズ》──ッ!」
俺はその水を凍らせる。これで地面はつるつるしてまともに走れなくなるはずだ!
「効かねえよ!」
俺の意図を察したエルヴァが荒々しい声をあげる。
見てみれば、なんということでしょう。確かに何もなかったかのように距離を詰めてきているではないか……!
「アイツの足裏はスパイクみたいになってる! だから滑ったりはしない!」
「だったら直接! 《フリーズ》──ッ!」
どうやら地面に氷を敷いてもダメらしいので、直接凍らせてやろうと思ったのだが……。
小さな氷が出来上がった部分には既に足がない。発動までのわずかなタイムラグの間に座標がずれてしまうようだ。きっと水塊にしても同じ話だろう。
「うあっ!?」
「うわあああ!?」
一瞬のその出来事に思考回路を絶たれ、全身を強打した痛みと横向きになった視界が、ついで右半身が地面と接触している感覚が脳に伝わってくる。
一気に叩き込まれた情報をやっとの思いで処理すると、転んだシルヴィアに巻き添えになったらしいということを悟った。
立ち上がって逃げろ。俺の本能はそう告げているが、身体が思うように動かない。混乱した頭は、情報処理に手一杯なようだ。
見れば、狼との距離はどんどん近づいてきている。しかし身体は動かない。
狼が地を蹴り宙を舞った。その映像はまるでスーパースローのそれを見ているようだ。
ゆっくりと宙を舞う狼は、その黒い顔の中に、赤い口内とところどころに赤色の装飾が入った白い牙を覗かせた。あれに噛み付かれれば鮮血が噴き出すことになるだろう。
そしてその軌道はどうやら俺を目掛けているらしい。二人の倒れた女のうち、先に俺にアタリをつけたようだ。
ああ、終わった。もうこの状況を打開できる策は何も浮かばない。
仮に浮かんだところで身体は動かないだろうが。
だいぶスローに動く狼も、ようやくもう数十センチメートルの手前まで来ている。
このまま狼に喰われて死ぬ。そう思ったときだ。
「オラァ!!」
ようやく耳が機能したかと思えば、目の前にはさっきまで居た狼の代わりに、ところどころに擦り傷を負った少女が居た。
驚きながらその少女の向く先を見てみると、そこには木の前に横たわる黒い影。
「ミラちゃん、フリーズ!」
「えっ……?」
「早く! 脚に!」
「あっ、う、うん。《フリーズ》──ッ!」
俺は何が起こったかも分からないまま、ただ奇跡的にその意思を汲み取ると、他に何かを考える前に横たわる獣の脚に目掛けて凍結魔法を放った。
今度は座標のズレもなく、見事標的の脚に氷が張ったのを見ると、どさっと俺の上に気を失ったシルヴィアが倒れてきた。
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