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第2話 S級魔法

12「託された魔法」

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 談笑しながら昼ご飯を食べ終えた俺たちは、三人で初めてになる街の外を歩いていた。
 モンスターの居るこの世界では、襲撃に対応できるよう街が外壁で覆われているのだが、俺たちは今その外側に居る。もちろん、魔法の練習の為だ。

 本来俺みたいな初心者の場合、万が一モンスターに襲われた際に大して抵抗出来ず死んでしまう恐れがある為、街中の魔法修練場というところで練習するものらしい。
 だが使用料がもったいないし、今回はミストとカイルも同伴しているから問題ないだろうとの判断で外に出てきていた。

「よし、ここらでいいだろう。手袋は持ってきてるな?」

 そういえばこの世界は杖ではなくて手袋だったか、と思い出した俺は自分のポーチから手袋を探す。
 そして見つけたそれを装着するが、言った本人であるカイルは手袋を取り出す様子すら見せない。

「カイルは手袋しないの?」
「ん? ああ、今日教えるのは簡単なものだからな。俺は手袋無しでも行けるんだ。ほれ、ミラちゃんもポーチは手袋無しで使えるだろ?」

 おお、言われてみればたしかに。
 難易度と練度次第では手袋無しでも行けるということか。あくまで補助アイテムという訳なんだな。

「さて、知ってるかもしれんが、魔法は大きく5種類に分かれる。火・水・風・土の四大属性と、それらに属さない無属性魔法だな。だが、無属性魔法には未開拓なものも含まれるから、あんまり舐めてると痛い目を見るぞ。
 例えばあの伝説の《大魔導師アークウィザード》とも言われるヴァルゴの天体魔法。S級魔法すらあるが、あれも無属性魔法だ」

 まるで講師であるかのように丁寧に説明してくれるカイル。だが、今の内容は大体学んでいる。勉強会の時に隙を見てシルヴィアの魔法学の本を読んでおいてよかった。

 そしてその後もカイルによる、超基礎知識講座が続けられていった。

 魔法は二つの分類法がある。
 一つは今カイルの言った属性による分類。
 もう一つは難易度による分類だ。
 難易度で見た場合、魔法はSからEの6段階で表されることになる。

 E・D級の魔法は纏めて初級魔法とも呼ばれ、E級は基本的に戦闘には使えない。例えば《ポーチ》のような生活魔法を主に指す。
 一方でD級魔法は、とてもじゃないが攻撃にはできないような補佐魔法だ。
 もちろん補佐魔法でC級以上のものもあるが、攻撃魔法でD級のものはない。
 しかし例えば少量の水球を作り出す《アクアボール》という魔法は、攻撃魔法と併用することで発動のタイムロスを抑えることも出来る。
 そのため、D級だからといって厳(おごそ)かにできないというのが実情である。

 C・B級の魔法は中級魔法とも呼ばれるもので、さっきも言ったようにここから攻撃魔法が出てくる。
 ちなみに街中で無許可に使えるものはD級魔法まで。魔法修練場などのような特別な場所でもC級魔法までだそうだ。
 そのため、B級以上の魔法を練習したければ外に出る他なくなる。

 しかしB級を練習するような実力の時点でそれなりには戦える状態になっている上、逆にB級魔法を街中で使うと損壊被害などが出る可能性が非常に高くなることから、ルールとしては妥当なところか。

 A・S級魔法は上級魔法と呼ばれており、A級魔法を使えるようになると名が覚えられ始めるらしい。
 つまりA級魔法が使えるだけでも相当な実力者だということだそうだ。
 そもそもS級魔法は超級魔法や異次元魔法とも呼ばれ、現在確認されているものはたったの3つ。これでは確かにA級魔法が使えるだけでも上等である。

 ちなみにその3つのS級魔法とは、故ゼノンの編み出した風属性魔法《ジェットストリーム》と、王都で活躍するカノンという女性の火属性魔法《カノンフレア》、最後にさっきカイルの言っていた、現在行方不明となっているヴァルゴの無属性魔法《ビッグバン》である。

 この3人は、地球上の全生物が滅亡するまで名が残るだろうと言われているほどで、物心がついてこの3人の名を知らない人は居ないそうだ。

「よし、グダグダ説明しても仕方ねぇし、とりあえずやってくか。まずは適性を見ようか」

 そして、魔法使いには各々得意な属性というものが存在するらしい。
 無属性魔法はやや例外的だが、四大属性についてはハッキリと分かれるそうだ。

 例えばS級魔法の使い手であるカノンにしても、火属性で話をすれば右に出る者は居ないが、水属性で話をすればA級魔法すら扱えない二流魔法使いとなるそうだ。
 苦手属性でB級魔法を操れるのも相当すごいそうなのだが。

 適性が悪くても使う内に克服できるらしいが、どうしても限界値は低くなる上、魔力のコスパも伸び代も悪くなってしまうので、得意な1~2つの属性を極めるのが無難だそうな。

「さて、まずは火属性だな。《フレイムボール》というのがある。火をイメージして魔力を集中させるんだ」
「分かった」

 俺はカイルに言われるがままに手を広げて前に突き出した。そしてなんとなくで力を手のひらの先に集中させていく。
 すると少しずつ熱気を感じてくるが、なかなか目指す火の玉となってこない。
 手本として同じ魔法を発動させたカイルは、手袋が無いにも関わらず既に完成させているということは、やはり遅いことには違いないのだろう。

 やがてようやく握り拳ほどの火の玉ができたのを見てカイルが頷いて。

「初めてってことを考慮しても遅いな。火属性は不適合といったところか。次は水だな。さっきと同じ容量で、今度は水をイメージしてくれ」

 やはり火は向いていなかったらしい。カイルの判定を聞いた俺は、今度は水球を作るべく手に力を込めた。


 ◇


「風魔法の適性も良かったが、水属性はそれ以上だったな。おいミスト、これは案外化けるかもしれんぞ」

 というのが、カイルの出した結論である。
 土属性に関しては悲惨なほどできず断念。風属性は上々の出来らしく、これが一番の得意属性だったとしてもおかしくないそうだ。
 しかし、水属性への適性はそれを遥かに上回っていたのだとか。
 使っている俺としても水と風に関しては使った後の疲労感なども少なかった為、素直に納得である。

 そしてカイル曰く、水・風の魔法ならどちらもB級は堅いそうだ。水に関しては、A級魔法も夢でないとまで言ってもらえた。ちょっとセンスがあるらしい。

 そして今後の方針も自動的に決まる。
 水・風魔法を、やや水魔法に重点を寄せつつ鍛錬していこうということになった。
 そして適性判断の後は、残った少しの時間で両方のD級魔法を練習する。
 そしてある程度使い方を覚えたところで今日の練習は終わりを告げた。


「そうだ。ミラちゃんにいいものやるよ」

 帰り道、壁の内側に入ったあたりでカイルがそう言うと、ポーチから2冊の厚い本を取り出した。

「これは魔法書だ。E級からA級まで、ジェットストリーム以外の魔法はほとんど載ってるな。ただ古本だから、ここ数年で作られた新しいものは載っちゃいねぇが……。これだけでも、大方のクエストには挑めるようになるハズだ。是非使ってやってくれ」

 そう言って渡してきた、ずっしりと重みのある本の片方には「魔法書・水」と書かれていた。
 軽く見るつもりでパラパラとめくってみると、カイルの言う通り、簡単なものから順に、丁寧に魔法の使い方などが記されていた。これはなかなかすごい本だ。
 一通り目を通した俺がそれをポーチにしまうと、また談笑が再開される。

「そうだミスト。この後晩飯でもどうだ? 最近出来たっていう店が気になってよ」
「うーん……折角のお誘いだけど、今晩は遠慮しておくよ。シルヴィとエルヴァも待ってるだろうしね」
「そうか、料理出来ないんだったな。仕方ねぇ、また今度誘うわ」
「ありがとう、その時は行けるようにするよ」
「それにしても、ミラちゃんはマジで名が売れるかもな。ミストよか強くなるかもしんねえ。そん時は威張ってやれ?」
「そ、それは無いよ……!」

 突然とんでもないことを言い出したカイルに慌ててそう返すが、そんな俺の控えめの態度が面白かったのか、カイルは声を上げて笑った。

「いいか、大魔導師ってのはデカい態度とっても許されんだ。だから、なれた暁には俺やミストに威張り散らしてくれよな」

 勢いを落とすことなくまたとんでもないことを言って大笑いするカイル。
 それでも威張り散らしてやろうとは思わなかったが、ついつられて笑ってしまった。

「それじゃ、俺はこっちだから。何かあったらいつでも頼ってくれ」

 いつの間にか別れるところまで来ていた俺たちは、カイルのその声を機に踵を向け合った。

「じゃあね」
「今日はありがとー!」

 そうして二人の待つであろう家へ向けて歩き出したのだが、すぐに後ろからの呼び声でその足を止めることになる。

「ミラちゃん」

 声の主は、つい先程別れの挨拶をしたばかりのカイルである。なにか伝え忘れでもあったのかと振り向くと、黙って手招きしていた。
 ミストに一言断った俺は、これから言われることの想像を微塵も出来ないままカイルの元へ歩いていく。

「呼び止めてすまん。これを渡したいと思ってな」

 カイルはいつの間にポーチから取り出していたのか、一冊の薄いノートを持っていた。

「これは、かつて俺の妹が作ろうとしていたS級魔法だ。妹は病弱でな。一年前にこの魔法を見ることなく逝っちまった。あいにく俺は水魔法には強くない。だが、ミラちゃんなら……。勝手な願いだが、これを託されてはくれないか」

 ノートには女の子の字で「ノア・デリュージュ」と書かれている。魔法の名前だろうか。

 しかしなんだ、その突拍子もない話は。
 今日適性を見たばかりなのに、いくらセンスがあるように見えるからといって、そんな大事なS級魔法を俺に託すなんて。
 いくらなんでも荷が重すぎる。

「そ、そんなの私には……」
「できる。ミラちゃんの水魔法のセンスはすごい。初日からあんなにできることは早々ない。きっと四人目のS級魔法の使い手になれる」

 真剣な眼差しで言ったカイルは、夕陽を反射させて光を帯びているノートを俺の方に差し出して。


「俺の妹を……ノアを、救ってやってはくれないか」
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