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第2話 S級魔法
9「セインのツボ」
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これからの定期的な勉強会を取り付けた俺とシルヴィアは、第一回を30分後に俺の部屋で行うことを決めて一旦解散していた。
シルヴィアは今すぐにでも始めたいと言っていたのだが、俺は俺で少しやりたいことがあったので、30分の間を空けることにしておいたのだ。
そんな俺のやりたかったこととは。
『いやぁ~、ゆりゆりしてましたね! ミラちゃんも満更でもなさそうでしたし!』
そんなアホなことをホクホクと満足げに言うコイツのことであるというのは言うまでもない。
「ミラちゃんって言うな。それよりお前さ、人が入ってきたら喋るのやめろよ。もうちょっとでバレるとこだっただろ」
『シルヴィアちゃんがバカだったから助かったものを……』
「そこまで言ってねえよ」
いや、ちょっと思ってるけど。
『ところでバレるって何がですか?』
役立つどころか既に荷物にしか感じなくなってきたアクセサリーが、また手のかかる予感のする返事をしてきた。まあ、悲しい話だが想定の範囲内である。
「いや、だからさ。お前の声がシルヴィに聞こえてたらヤバかっただろ、って言ってんの。ペンダントの中に、仮にも女神が入ってるってことがバレたら、さすがにヤバいんだろ?」
『ま、まだ女神じゃありません!』
マジでコイツは何なんだろう。もしかして分かっててわざと変な返事をしているのではなかろうか。そこが話の本筋でないことくらい、小学生でも分かりそうなものなんですけど。
「ペンダントに女神の弟子が入っるってバレたらヤバいんだろ?」
『そうですね』
……。
「声聞こえたらバレちゃうだろ?」
『そうですね。でも他の人にはこの声聞こえませんし、ミラちゃんが言わなきゃバレませんよ』
えっ。
「お前の声って他人に聞こえないの?」
『当たり前じゃないですか! そもそも何で聞こえるものだと思っちゃったんですか? 普通聞こえませんよ! じゃないと意味無いし、ただのお荷物じゃないですか!』
別にそうでなくても十分お荷物だと思っているよ。
それはそうと、このペンダントに入った幼稚女神に「普通」なんて言われると腹が立つが、しかし言われてみれば確かにその通りである。
仮にこの女神が知的で使える子だったとしても、人前で使えないんじゃ利用価値はかなり低い。
少し考えれば分かりそうなことだ。なのに俺はなぜそんな思い込みをしてしまったのだろうか。ふと思い返してみる。
……ちょっと待てよ。
「おい。お前の声が俺にしか聞こえないってことは、周りから気付かれずに戦闘中にお前からアドバイスを受けることも出来るんだよな」
『もちろんですよ! ご希望とあらば、私の経験に則って的確なアドバイスをします!』
こいつの経験に則ったアドバイスなんて不安以外の何物でもないが、それはともかくとして。
「なら、俺が他人に襲われた時も、お前からアドバイスを貰えるんだよな。相手に気付かれるとことなく」
『そうですね』
あれだけ謎にテンションの高かったポンコツ女神の返事が単調なものになった。
なるほど、確信犯なんだな。
「じゃあ何か。お前は俺が襲われてる時、何か声をかけることが出来たのを知っていた上で、わざと黙ってたってことか?」
『えへへ。ミラちゃんが女になるところが見たくてつい……!』
「お前もう帰れよ」
開き直っていよいよ本格的にポンコツな本性を現してきた自称女神の弟子を相手に、俺はもう何と形容すればいいのか分からない虚無感を抱いていた。
どうやら俺は魔王を倒すか死ぬかするまで、このポンコツに苦労をかけ続けられなければならないらしい。
ああ、やっぱりこの世界クソだわ。
『ところで勉強会は大丈夫なんですか?』
「そうだ! 勉強会だ! この世界って何ができたら賢いの!? さすがにお前でも分かるだろ!?」
どこやらのポンコツのせいで、セインへの尋問のあと、この30分の間に準備をしようとして忘れていたことを思い出させられる。
俺は約束の30分までもうほとんど時間が無いことを確認しながら、それでも対策を練るべくセインへと問いただしたのだが。
『な、何ですか。その、まるで私は何も分かってないみたいな言い方は……』
なにこいつ。めんどくさ。
こういうところが本当にタチ悪いよな。ちょっとくらい自覚しろよ。
かと言ってここで「いや、その通りだろ」なんて言っても面倒になる予感しかしない。
「気のせいだって。それよりこの世界、マジで何ができたらいいの?」
『むぅ……。この世界は、読み書きと数学と魔法学ですね』
よかった。数学があるのなら、ある程度の相手はできそうだ。
もちろん魔法学なんぞ少しの教養もないが、今日のところは避けておき、今日の昼間に行くミストの友人とやらに頼ることにしよう。うん、一気に解決したな。
「ちなみに野暮なこと聞くけどさ。理科系はないの?」
『それが魔法学ですよ』
なるほど。こっちだと言い方が違う訳か。大方、こっちの理科と魔法現象をひっくるめた分野というところだろうか。
確かに考えてみれば、こっちの化学や物理学じゃ魔法は説明出来ないもんな。生物学も、モンスター相手には無力に思えるし。
とにかく案外なんとかなりそうだな、と少し余裕を持ってきた頃、ちょうどよくドアをノックする音が聞こえてきた。
「ミラちゃん、入るよー」
そんなシルヴィアの声が聞こえたかと思えば、ドアがカチャリと開かれ、勉強道具らしきものを持った少女の姿が目に映る。
「ミラ先生、こんにちは!」
こうして俺達は、これからほぼ毎日、二人で勉強会をすることになった。
シルヴィアは今すぐにでも始めたいと言っていたのだが、俺は俺で少しやりたいことがあったので、30分の間を空けることにしておいたのだ。
そんな俺のやりたかったこととは。
『いやぁ~、ゆりゆりしてましたね! ミラちゃんも満更でもなさそうでしたし!』
そんなアホなことをホクホクと満足げに言うコイツのことであるというのは言うまでもない。
「ミラちゃんって言うな。それよりお前さ、人が入ってきたら喋るのやめろよ。もうちょっとでバレるとこだっただろ」
『シルヴィアちゃんがバカだったから助かったものを……』
「そこまで言ってねえよ」
いや、ちょっと思ってるけど。
『ところでバレるって何がですか?』
役立つどころか既に荷物にしか感じなくなってきたアクセサリーが、また手のかかる予感のする返事をしてきた。まあ、悲しい話だが想定の範囲内である。
「いや、だからさ。お前の声がシルヴィに聞こえてたらヤバかっただろ、って言ってんの。ペンダントの中に、仮にも女神が入ってるってことがバレたら、さすがにヤバいんだろ?」
『ま、まだ女神じゃありません!』
マジでコイツは何なんだろう。もしかして分かっててわざと変な返事をしているのではなかろうか。そこが話の本筋でないことくらい、小学生でも分かりそうなものなんですけど。
「ペンダントに女神の弟子が入っるってバレたらヤバいんだろ?」
『そうですね』
……。
「声聞こえたらバレちゃうだろ?」
『そうですね。でも他の人にはこの声聞こえませんし、ミラちゃんが言わなきゃバレませんよ』
えっ。
「お前の声って他人に聞こえないの?」
『当たり前じゃないですか! そもそも何で聞こえるものだと思っちゃったんですか? 普通聞こえませんよ! じゃないと意味無いし、ただのお荷物じゃないですか!』
別にそうでなくても十分お荷物だと思っているよ。
それはそうと、このペンダントに入った幼稚女神に「普通」なんて言われると腹が立つが、しかし言われてみれば確かにその通りである。
仮にこの女神が知的で使える子だったとしても、人前で使えないんじゃ利用価値はかなり低い。
少し考えれば分かりそうなことだ。なのに俺はなぜそんな思い込みをしてしまったのだろうか。ふと思い返してみる。
……ちょっと待てよ。
「おい。お前の声が俺にしか聞こえないってことは、周りから気付かれずに戦闘中にお前からアドバイスを受けることも出来るんだよな」
『もちろんですよ! ご希望とあらば、私の経験に則って的確なアドバイスをします!』
こいつの経験に則ったアドバイスなんて不安以外の何物でもないが、それはともかくとして。
「なら、俺が他人に襲われた時も、お前からアドバイスを貰えるんだよな。相手に気付かれるとことなく」
『そうですね』
あれだけ謎にテンションの高かったポンコツ女神の返事が単調なものになった。
なるほど、確信犯なんだな。
「じゃあ何か。お前は俺が襲われてる時、何か声をかけることが出来たのを知っていた上で、わざと黙ってたってことか?」
『えへへ。ミラちゃんが女になるところが見たくてつい……!』
「お前もう帰れよ」
開き直っていよいよ本格的にポンコツな本性を現してきた自称女神の弟子を相手に、俺はもう何と形容すればいいのか分からない虚無感を抱いていた。
どうやら俺は魔王を倒すか死ぬかするまで、このポンコツに苦労をかけ続けられなければならないらしい。
ああ、やっぱりこの世界クソだわ。
『ところで勉強会は大丈夫なんですか?』
「そうだ! 勉強会だ! この世界って何ができたら賢いの!? さすがにお前でも分かるだろ!?」
どこやらのポンコツのせいで、セインへの尋問のあと、この30分の間に準備をしようとして忘れていたことを思い出させられる。
俺は約束の30分までもうほとんど時間が無いことを確認しながら、それでも対策を練るべくセインへと問いただしたのだが。
『な、何ですか。その、まるで私は何も分かってないみたいな言い方は……』
なにこいつ。めんどくさ。
こういうところが本当にタチ悪いよな。ちょっとくらい自覚しろよ。
かと言ってここで「いや、その通りだろ」なんて言っても面倒になる予感しかしない。
「気のせいだって。それよりこの世界、マジで何ができたらいいの?」
『むぅ……。この世界は、読み書きと数学と魔法学ですね』
よかった。数学があるのなら、ある程度の相手はできそうだ。
もちろん魔法学なんぞ少しの教養もないが、今日のところは避けておき、今日の昼間に行くミストの友人とやらに頼ることにしよう。うん、一気に解決したな。
「ちなみに野暮なこと聞くけどさ。理科系はないの?」
『それが魔法学ですよ』
なるほど。こっちだと言い方が違う訳か。大方、こっちの理科と魔法現象をひっくるめた分野というところだろうか。
確かに考えてみれば、こっちの化学や物理学じゃ魔法は説明出来ないもんな。生物学も、モンスター相手には無力に思えるし。
とにかく案外なんとかなりそうだな、と少し余裕を持ってきた頃、ちょうどよくドアをノックする音が聞こえてきた。
「ミラちゃん、入るよー」
そんなシルヴィアの声が聞こえたかと思えば、ドアがカチャリと開かれ、勉強道具らしきものを持った少女の姿が目に映る。
「ミラ先生、こんにちは!」
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