ジャック

火消茶腕

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ジャック

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 空の上の世界での冒険が終わり、ジャックは牛飼いに戻っていました。
 金の卵を産む鶏や金貨や銀貨が際限なく出てくる袋、ひとりでに歌う竪琴を手に入れたジャックは別にあくせく働く必要はなかったのですが、牛飼いという職に愛着があったためです。

 食うには困らないので、のんびりと一人で飼えるだけの数の雌牛の世話をしていたある日、再びあの不思議な老人がジャックの前に現れました。
「この豆と雌牛一頭を交換してくれないか?」
 以前会った時と同じセリフです。ジャックもまた同じように答えました。
「いいよ、交換しよう」

 不思議な豆を手に入れたジャックは今度は誰にも見せることなく、前回と同じ場所に豆を蒔き、一晩待ちました。
 案の定、前回と同じく、豆の木はたった一晩で空高くどこまでも伸び、天まで届いているようでした。

 予想通りの結果に満足したジャックは、天空にそびえる豆の木を眺めると、臆することなく、すぐに黙々と登りだしました。

 金の卵を産む鶏、使っても使っても空にならない金貨と銀貨で満たされた袋、そして歌う竪琴。巨人が持っていた宝は全てジャックが奪いました。けれど、ただひとつ巨人から手に入れるのを忘れていたものがありました。そう、巨人の奥さんです。

 巨人の奥さんは優しく、凶暴な巨人からジャックをかくまってくれました。その時ジャックは彼女に恋心を抱き、木を切り倒し会えなくなってしまった後も、ずっと思い続けていたのです。

 ジャックが巨人を倒したことにより、彼女は未亡人になったはず。ほかの誰かが求婚していなければ独りであのお城に住んでいるはずです。
 ジャックは逸る心を抑えて豆の木を昇りました。

 やがて以前と同じ空の上の世界に到着し、見える風景もお城も健在でした。ジャックは急いで城に向かいます。
「奥さん、僕です、ジャックです」
 城の扉を開け、中に入ると巨人の奥さんが微笑んで待っていました。

「会いたかった!」
 ジャックは奥さんに抱きつきました。
「私も!」
 彼女もそれに答え、二人は固く抱きあい、そのままこの城で夫婦として過ごすことになりました。

 ジャックの母親は豆の木を登るのを断ったため、十分な金貨を持たせて地上に置き、巨人から奪った宝は再びこの城に落ち着くこととなりました。
 豆の木はやがて枯れ、これでジャックは下界に降りる方法は無くなってしまいましたが、特に気にはしませんでした。彼女と過ごすお城の生活に大変満足していたからです。

 それから長く幸せな時をジャックは過ごしましたが、一つだけ気がかりなことができました。この空の世界の影響か、それとも彼女の作る素晴らしい料理のせいか、ジャックの身体は段々と大きくなっていったのです。もはや巨人と言っても過言ではありません。
 一方、元巨人の奥さんである彼女は年取ることはなく、いつまでも若々しく美しいままなのでした。

 そしてある日、ジャックが狩りから帰ると部屋に明らかに変な匂いが漂っていました。
 そういえばこの頃、彼女は自分との生活に退屈を感じてるようでした。
 もっとよく考えてみると、あの自分の雌牛と交換した、天まで伸びる不思議な豆を持っていた老人はどことなく彼女に似ています。彼女の親戚でしょうか?

 そうか、そういうことか。ジャックは一人納得すると自分の与えられた運命に従い、大声で叫びました。
「なんだ?!人間の匂いがするぞ!」


終わり
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