探偵の見解

火消茶腕

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探偵の見解

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「君は本当のところ、どう思ってるんだい?」
 二人っきりの部屋で、友人は探偵に尋ねた。
「遠慮せずに、君の正直な考えを聞かせてくれないだろうか?」

 相手の真剣な切羽詰まったような顔を見、探偵は軽くため息を付き言った。
「君がどうしても知りたいというのなら、僕が今回の件で考えていること話してもいいんだが……。本当に聞きたいかい?」

「ぜひ、聞かせてくれ」
 友人はうなずいた。

 友人の決意を見て取り、探偵が言った。
「じゃあ言うけど、今回、君はずっと原因を探していたね。どうして?なぜ?ってね。
 その気持は分かるけれど、でも、僕から言わせてもらえば、その問い自体、不毛なことだと思うんだ」

「どうしてこうなってしまったのか、考えちゃ駄目なのか?」
 友人は驚いて反論した。
 それを聞き、探偵は即座に否定した。

「いや、あらゆることは因果に支配されているから、あることが起こった原因は必ずあるのだろうけど、相手が家事や育児を一切手伝わず、ろくに稼ぎもせず、自分を冷たくあしらい、あるいは暴力を振るったとしても、ほとんどの人は不倫に走ったりはしない。離婚は考えるだろうけどね。
 だから君の奥さんが間男を作ったのは、君のせいではない。君は自分の行動を顧みてその原因を探しているようだけど的はずれだと思う。実際、君は良き夫で良き父親だった。僕が断言するよ」

「じゃあ、どうして」
「それは君の奥さんがそういう人だったからだよ。多分、君が相手でなくても、同じような状況になれば、やっぱり不倫したと僕は思うね」

「つまり、僕に見る目がなかった?」
 探偵はかぶりを振った。
「いいや、見る目というよりそれ以前の話じゃないかな。君は君の奥さんと一緒になる時、そういう目で見たことなど一度もなかったろう?結婚したらよその男に目もくれないでいてくれるだろうか、とか考えたこともなかったはずだ。
 二人の馴れ初めは僕も知っているが、君が一目ボレして、押しに押してつきあい始めたんだよね。つまり、君の奥さんは美人であり、押しに弱いんだ。自分から誰かを好きになることはなくて、好意を示してきた人を自分も好きになる、そういう心理が強いのだろう。間男もだいぶ強引にアプローチをしていたそうだから」

「妻はもともと、浮気をする人だったということか?ぼくがどう振る舞おうと?」
「言い寄ってくる男が現れればね」

「では、しょうが無いことだったということなのか?」
「そういうことになるのかな。君たちが結婚したのがある意味間違いだったのさ」

 沈黙があたりを支配した。
 友人はしばし考え込んでから言った。

「じゃあ、間男が死んだのもしょうが無いことだよな。妻を寝取られても、ほとんどの人は間男を殺すようなことはしない。でも、どうしても許せなくて、自分に疑いがかからぬよう、計画的に間男を殺害してしまうような、そんな人間もいるから」

 友人が立ち上がり、探偵の方に近づいた。
「そして、破滅が嫌で、それを見抜いてる長年の友人を手にかけてしまう者も」

 探偵は椅子から立ち上がり、後退りして言った。
「確かに、そういう人を友人にしてしまう者もいるだろう。けれど、探偵は違うんだ。探偵は誰一人信用していない。たとえ友人でも。警部!」

 その声とともに隣室から警部が突然現れ、友人はそのまま逮捕された。探偵はやや悲しげな顔で友人の背中を見送った。

終わり


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