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謀略
しおりを挟む「実はここを抜けようと思うんだ」
人気のない浜辺にみんなを呼び出したタロが、四人がそろうと突然言った。
ほかの三人は互いに顔を見合わせた。一番空気を読まないチッカがタロに聞いた。
「この間のことが原因か?」
先日、お頭(かしら)の息子に、妹に手を出すなと、タロはしこたま殴られたのだ。それは誤解であったのだが、タロが用もないのに頭の家の周りを頻繁にうろついていたのは確かだった。そのため、どんな言い訳も聞き入れられなかったのだ。
「違う!」タロは否定した。「前々から考えていたことだ」
その言葉を三人は少しも信じなかった。それを感じたタロは話を続けた。
「考えてみろ。この島に来てもうかれこれ三年だぞ。いつまでもここにいてもしようがないだろう。所詮、俺たちよそ者だ。本当の仲間にはなれない。いまではなんとか船も操れるようになった。ここを出るにはいい時期さ」
若者たちは流れ者で、ほうぼうを彷徨っている間にたまたま四人、つるむようになった仲だった。そしてある日、興味本位で盗んだ船で海に乗り出し難破。その時、この島の人間に助けられた。幸か不幸かそこは海賊の島で、以来三年間、ただで海賊たちにこき使われていた。食う心配はなかったが、略奪したお宝の分け前をもらえるわけではない。仲間として認められてはいなかった。
「と言うことは、この島の船をかっぱらうつもりか?」
一番年かさのセタが聞いた。
「ああ、ここを抜けたいんで本土まで送ってください、と言って、分かったいいぞ、と連中が言うとはお前だって思うまい?」
タロが答えた。
「それでうまくこの島から抜けられたとして、その後どうする?俺たちは一文無しだぞ。本土に何かあてがあるのか?そうでなけりゃ、多少居心地が悪くても、食いっぱぐれのないこの島にとどまっていたほうが賢いと思うが?」
知恵者のスネが言った。
「確かにそうだ」タロが言った。「だから、ここを抜ける時、お宝を盗んで持って行く」
その言葉に三人は慄然とした。
「おまえ、本気か?」セタが言った。「あの蔵にしまってある財宝を盗むって?」
「ああ、本気だ」
タロの目は真剣だった。
「いいんじゃね、そりゃ面白いや」
チッカが賛同した。
「馬鹿な!」セタが怒鳴った。「そんなことできるわけ無いだろう。あの蔵には常に見張りをおいている。仮にそいつらをうまく始末できたとしても、根城の中を通らなければ、お宝は運べない。どんな風にしたって、バレるに決まっている。そうなったら、みんなから袋叩き。殺されるだけだ。止めとけ」
怒りを露わにするセタをスネが抑えた。
「まあまあ、タロはそんな馬鹿じゃないさ。そんなことを言うからにはなにか勝算を持ってるんだろう?」
聞かれたタロは頷いた。
「実は抜ける決心をしたのも、山でこれを見つけたからなんだ」
そう言って懐からきのこを取り出し、みんなに見せた。
「シビレタケか」タロの手の上のものを見て、スネが言った。「いくらあるんだ?」
「奴ら全員を眠らせるに十分な量が生えていたよ。全部とってある」
タロが答えた。
「なるほど、それならいけそうだな」
セタが言った。
「じゃ、いつやる?」
チッカが聞いた。
「今度の宴会にこれを使う。みんな眠りこけたら、蔵の中の財宝を船に積んでここをおさらばしよう」
「女子供はどうする?宴会に混ざらないことも多いだろう。眠らせることができるか?」
セタの言葉に、タロはお頭の女房の顔を思い出した。みなにアネサと慕われ、よそ者のタロにも何かれと親切にしてくれた。
二親の顔を知らないタロはアネサに惹かれていき、少しでも顔を見たいがためにお頭の家の周りをうろつくようになっていたのだ。
「もし眠らない奴がいたなら、男なら殺すか気絶させてふんじばる。女子供はどこかに閉じ込めればいいんじゃないか」
スネが提案した。
「よし、それで行こう。では、今度の宴会の時に」
四人は誓いを立て、それからほうぼうに散って行った。
数日後、海賊が一仕事を終え、みなの労をねぎらう宴会が始まった。
予定通り、タロはシビレタケの粉を酒や料理に仕込む。
やがて、海賊たちは一人、また一人とひどく酔ったようになって、倒れこんだ。
「よし、うまく言った」
ほくそ笑むタロ。そこに外の様子を見に行っていたセタが帰ってきた。
「まずいことになったぞ!」
「どうした?」
チッカが聞いた。
「海が荒れてきている」
四人の表情が固まった。
お宝を全て積める大きさの船でも扱えるようになってはいたが、それは穏やかな海でのこと。まして今は夜だ。
「なんてこった。夕方までは波は静かだったのに」
「どうする?」
四人は考え込んだ。
「仕方がない、海が治まるまで待とう。宝を積んでまた難破したら元も子もない」
前回遭難して九死に一生を得たことを思い、スネが提案した。
「しかし、ぼやぼやしてたら、みんな起きだすぞ」セタが異議を唱えた。「今から全員ふんじばるにしても綱が足りん」
「殺そう」チッカが言った。「今ならみんな胸をちょっと刺すだけでいい。みんな殺してしまおう」
三人の顔が恐怖に歪んだ。そして、シビレタケの力で倒れこんでいる男たちを見つめる。たしかに今なら、無抵抗だ。海賊全員が死んでしまえば、何日でも、海が穏やかになるまで待っていられる。しかし、皆殺しとは。
「このまま何もせずいたら、俺たちが毒を盛ったと疑われるかもしれん」
「そうしたら、俺たちが殺される」
「やるか!」
「よし、やろう!」
意見がまとまり、四人は懐に忍ばせていた短刀を取り出し、倒れている男たちに近づいた。
次の日、昼になって、波は静まり、四人は財宝をすべて船に積んで、本土を目指した。
島が遠ざかる様子をタロは見つめていた。根城の要所に火を放ったので、煙があちこちから上がっている。
「あいつらだって、ひどいことをやってきたんだ。なんせ海賊だったんだからな。自業自得ってもんさ」
考えこんでいるタロにスネが言った。
「まあ、そうなんだろうが」
タロはアネサの最期を思った。
全く間が悪いことに、お頭の息子、アネサの息子はあまりシビレタケが効かなかったのか、ふらふらになりながらも、タロに切りかかってきたのだ。油断していたタロは顔に傷を受け、怒りで相手をメッタ刺しにしてしまった。
そこをアネサに見られた。
アネサは叫び声を上げると、そばの小刀を手に取り、タロに向かってきた。
タロは全く動けず、とっさにセタがアネサに切りつけてくれなければ、多分やられていただろう。
「アネサ……」
タロはつぶやいた。
「さて、これからどうする?」島影も見えなくなったところでセタが言った。「一番近くの港を目指すか?それともどこか行きたいとこでもあるか?」
「それなんだが」タロが言った。「みんなで俺の故郷に来ないか?」
「タロの故郷?」
「確かタロには爺さんと婆さんがいたんだっけ?」
「死んでなければだろ」
「なんだ?故郷が嫌で流れ者になったんだろ?どういう風の吹き回しだ?」
皆が口々に言った。
「多分、まだジジイとババアは達者だろう。だから家はある。何よりこのお宝を持っていけば悪いようにしないさ」
タロが言った。
「でも、その宝のこと聞かれたらなんて言うんだ」セタが聞いた。「海賊の一味を皆殺しにしてかっぱらってきたって、正直に言うつもりか?」
「多分その辺は大丈夫だろう」スネが確信を持って言った。「悪い鬼を退治して、宝をもらってきたことにしよう。自分の孫が桃から生まれたなどと本気で信じ込んでいるジジ、ババだ。多分信じるさ」
四人を載せた船はタロの故郷を一目散に目指した。
終わり
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