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しおりを挟む消えた三年間なにをしていたかと問えば容易く劇団にはいってましたと三輪浦から明るくかえってきた。
大勢の仲間のなかで暮らしていたせいか、浅沼のもとで学んでいた頃と比べるとすこぶる健やかで会話のときなどオーバーリアクション気味で笑うことも多い。
華やかに若返ったような三輪浦に心臓のはしっこをつねられた気になって浅沼はぐっと眉間に力がこめるのだ。
三輪浦は不機嫌そうにすることが多くて口数も少なかった。でも、目的のものに対しては真摯で頑なすぎて、今はそれが演劇に向かっているからだろう。壮大な感情に慣らされた結果か。
時々三輪浦は『浅沼の恋人』を演じているんじゃないかと疑惑を持たせる。
なぜ刺青師をやめて俳優になったのかと聞けばこれもあっけらかんと。
「俺の魂の一部はもう此処にあるからいいかなって思ったんですよ」
ちゅっと浅沼の首筋の鳳凰の尾羽に口付ける。
「一部じゃ足らねえ、全部よこして食わせろよ琢磨」
「嫌ですよ、俺はまだまだやりたいことあるんですから」
「んだよ、それは俺のケツにちんぽ突っ込んでガン掘りすることよりよっぽど大事なことか琢磨」
「やりたいことはひとつに絞れません。一番がセックスでも、それだけやってたいわけじゃあないんだから」
三輪浦の唇が浅沼の形をなぞっていく。丁寧に首からおりていくペッティングに焦れて早く欲しくて扱きながら自分の尻穴を弄っていれば、やれやれと三輪浦の指ももぐりこんできた。
もう、毎日やってるのに手順は省略されない。プレイ内容は浅沼が望むこと全部。後ろからガンガンに突いてくれるし、挿入したままで動かないでいてもくれる、舐めろといえば上手く舐める。場所も家の中なら何処だって良かった。
ちゅっちゅっ、と浅沼から三輪浦の頭に口付け、前髪をあげて額に強く唇を押し付ける。押し倒して、緩んだ穴に自分から根元まで招き入れたが三輪浦から腰を動かすことは許さなかった。
「…今、セックスよりしたいことあんのか琢磨」
「今に限るならないけど、これからもセックス以外するなっていうならセックスしながら舞台立つしかないですけど。そうそう、あんたも腰振って喘ぎながらお客さん彫ってくださいね?」
「ふっ、掘られながら彫るのかよ」
「そう、オヤジギャグみたいに」
それでも構わない、それをゴクリと呑み込みながら、ぎゅうっと腹をしめて三輪浦のを食い締める。ニヤニヤしていた三輪浦の顔がさっと快楽に歪んでとてもすっとした。
浅沼はくつくつ笑いながら赤子に乳を与える母親の気分で腰を揺らす。ああ可愛い坊や、たっぷりお飲み。愛しい愛しい三輪浦。お前が何者でも、これがお前の舞台の上でのことでもいいから。
目の端に滲む涙は快楽なのか切なさゆえか。浅沼は三輪浦の首筋と胸元を丁寧になでさすった。
「……ね。また俺の舞台を見に来てよ克秋さん」
腰が跳ねる。腕が引っ張られ上体が三輪浦の腕の中に囲われた。
ぎゅうっと軋むほど力強く抱きしめられればそれだけでイッてしまった。「きてね克秋さん絶対」という三輪浦の甘い言葉にこくりと頷くとくるりと位置が反転し両足はもっとひろげられた。
「好き。この世であなた以外に俺を貪らせたくないくらい、すごく好き」
「あっ、あ、そこもっと…、琢磨ぁ」
ぐちゅぐちゅ掻きまわされるとだらしなくなる体と反比例して本能は鋭く尖った。
相変わらず潜む狂気は猟犬のようで鼻がいい。貪欲に快楽を貪りながら警鐘が聞こえた。
見てはならないと…、しかし可愛い三輪浦にねだられてしまえば浅沼は見るしかない。
チケットは翌朝テーブルの上にぽつんとあった。白々しいくらい差し込む朝日に照らされ表面がよく見えず。心象のなせる業なのか。わざわざ時間と場所をかいたメモがくっついていたのだからチケットをよく眺めず財布にしまって、メモはスケジュールボードにはっておいた。
「相変わらず綺麗な字だな」とぼんやり呟きながらその筆跡さえ愛しく、浅沼はこつりと額をつけた。
うなだれるように。
目を瞑れば、あの日の舞台上の三輪浦がはっきりと浮かび上がる。あんなにもギラギラとしたあいつを浅沼は見たことがない。気味が悪かった。
「……お前が、誰かを愛したり憎んだりする舞台なんて見たくねえんだよ、気持ち悪いくらい生き生きしていて呆気なく激情のまま死んじまっただろうがこの前のなんかは」
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