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しおりを挟む浅沼はそのとき安定していたのだ、やっと精神が磨耗を繰り返すことを諦めてくれ安寧を取り戻しつつあったというのに世界は突如悪意に満たされたように寝付いた筈の狂気が猟犬さながら平穏を求めた心の息の根に喰らいつき絶命させてしまった。
あの数々の苦痛からようやく開放される筈だったのに。
心が波立つことなく静かな日常を築き上げていける筈だと目を細め上向いた途端に粘度の高い激情が暗がりから浅沼を絡めとリ爆発的な威力で塗り替えてしまう、まるで聖女が淫売になるが如くの変貌だ。
かつての相棒だった懐かしい執着心をしみじみ馴染ませ、くるっと反転した心のまま目の前が真っ赤に染まり、物置にあった鉈を目的地近くのコインローカーに忍ばせてしまうくらい本気の殺意まみれで失踪した恋人の三輪浦をとっつかまえることしか頭になかった。
真剣に狂気に染まっていたのだ。
三輪浦の所在を知らせた、客の好意によって贈られた演劇のチケットは浅沼にとっては正しく死に至る劇毒の塗られたナイフに等しい。
何の心構えもなく、簡単につかんでしまったから触れてしまったのは果たして柄のほうだったか刃のほうだったのか、本当にその迂闊さ加減には嘆き、また運命の悪意というものには苦渋が絶えないのだ浅沼は。
美しい三輪浦を再び手にしてからも其れは判然としない。だが後者であったとしても、三輪浦との生活を手放せるはずがなかった。
例え悲劇の有り様となってもいいのだから最早。
ただ。
チケット事態は本当に悪意が一ミリだって混ざっていない。むしろ「素晴らしい劇ですよ」との太鼓判押しであったのに、其れでも地獄の釜は善意でも開くのだから恐れ入る。
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