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うちの獣に襲われましたが、本当はとても言うことをよく聞く子なんですよ。

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獣というものは従順なふりして実に自分勝手なもので、ニコリと笑って尻尾を振ってご機嫌に媚びたかと思えば次の瞬間には牙を剥いてご主人様を押し倒して貪ろうとするのだからまったく油断できないがしかしどうしても愛らしく懐いてくれた目が忘れられないのがいけない。

まったく困ったものだ。従順に愛らしくあったのはこちらの心根か。獰猛な目を躾けたはずだったのにこちらの欲望のほうを躾けてしまっていたのか。信頼に値する主たろうとすればどうしたってどちらかが歪に歪んでまがりくねってしまうのか…。
ああ、ああ。どちらでもいいさ。

「……俺は、お前が本当に可愛いんだよ」

ご主人様の寝込みを襲うことが大好きな俺の獣よ。歌うように口ずさむその名前の甘ったるさに気付いて、くぅんと鼻声で媚びてくる、淫らな獣。

すっかり伸びやかに、攻撃に特化したしなやかな筋肉を張り付けた雄雄しくも美しい体つきになったというのにその心は幼獣から変わらず。尻尾をぱたぱた振りながら腰を淫らにくねらせ、ご主人様の陽物を尻穴でしごいてくる。肉付きのよい太腿はてらてら濡れて雌を孕ませるための雄芯を腹につく程起たせてもコレは雌の絶頂を知らせるようにしか白濁を噴出さないのだ。

自らで張り出した胸をこねて、ぴんっと乳首を尖らせるように摘んで、時折指先を舐めてその指でもって弄くりまわしている。いつもの鋭く冷めた双眸はすっかりなりを潜めてすでに快感に恭順してどろりと蜜の様に蕩けてあまく微笑むように細めている。ぴんっと警戒するようにまっすぐにたった耳も弱々しく垂れて、腰を激しく上下するときにピクピク揺れるのだ。

「ご主人さま、あっ、アッ!どうか、…おれの、ぁん、…お、れの、腹に、くださいなあ…」

とうとう胸をいじくるのをやめて、男にしがみついて腰を力強く上下することに集中する。
喘ぐ声も短く吐息は甘くドロドロに粘っこく蕩けだした。孔のなかはどこも熱くてきゅうきゅう蠢いて欲しがっている。なにを。涎が口からも雌孔からも溢れだして腹が急速にせつなく飢えを意識していた。
ぐちゅんぐぽっぐじゅん!粘着質な水音が速度をあげて鳴り響き、獣の甲高い喘ぎもまざって、欲望の音色が狂躁へと加速していく。

どうか、どうか、強く訴えて涙を飲むように飢えていく。
愛が欲しい、愛して欲しいと、子種を求める。……孕めもしないのに。

(かわいいなあ……)





 ◆ ◆ 




もともとは憐れみから手を伸ばし掬い上げた子供だった。
褐色の肌は傷だらけで、稀有な銀色の毛並みだけならばこれほど粗雑に扱われなかっただろうにその瞳はたっぷりと命の輝きに満ちた恐ろしい程に美しい紅玉だった為に魔獣扱いされた狼の獣人。先祖に魔族がいたのだろう。それは獣人には別に珍しくはないことだが、しかしそれがこんなにも表面に出てくることは珍しく、またなかなか育てることが難しいと聞く。
獣人の場合、獣人以外の種族の特徴を強くもった子供が産まれれば迷い無く我が子を集落の外へ放逐するか自らの手で葬ってしまう。

伴侶を他種族に選ぶことには大様に受け止める一方で、自分の手に負えないものは見切るのがはやい。
赤子の内か、ある程度育ててからか、子供の能力が手に負えないものであると判断されれば、今まで育んだ愛情など忘れたかのように。


そうすると男の目の前に売り出されている子供は葬られる前に捕らえられてしまったのだろう。
厳重に枷も鎖もつけられ、呪縛さえ施されていた。

その頃、長年仕えていてくれた獣を看取ったばかりで、かなり繊細で神経質な頃だったのだ。
旅立った獣は黒毛だったが、その銀色の毛並みが、きっとブラッシングすれば彼に敵うくらいの艶やかさになるだろうとおもったらもう堪らなくなった。
さすがに攻撃に特化した獣を愛玩用にはしないだろうが、……子供の顔は大層愛らしかった。
貴族なら、護衛よりも、性奴隷にしてしまう勿体無い扱いを平気でする。きっとしてしまうだろう。

狼というものは伴侶以外には決して許さない獣だ。
まさに地獄のような人生を用意されているのを目の当たりにしたのだからもう心が苦しくて堪らなくなった。
即決で、即金で、すぐさま購入した。……かなりお高い買い物だった。



そうして迎い入れた狼はよく世話をすればその分可愛く懐き……。なにがどうしてこうなったのか、精通を迎えたらすぐさま男の腰に跨ってきたのだ。

「…え?いやお前そんな調教請けてないよなああ!!?」
「ええ、うけてません!噛み千切ってやりましたもの」

…あ、どうりで愛玩用にしては上級戦闘型くらいの値段だったな。はっと気付いた。
檻から出したときはひどく弱々しく、おそるおそる出てきたのに!
あの時そういえば奴隷商人の顔がひきつっていなかったか?護衛でかためてなかった?
あっれ~?

「おれ、…やっと精通したんですよ?この日のために尻穴を雌のようにしてきたんですからね」
「やめてえーーー!!俺の純粋無垢なあの子かえしてええええ!!!」
「どんなおれでもいいって、可愛いっていってくれたじゃあないですか!」
「俺こんなあざとい子とか思ってなかったよ!?」
「ちゃんと処女ですからね!ご主人様に捧げる為に守り通したんですよ」
「ぅぐうう!!そこは可愛い!無垢っぽい!!というかこれからも守り通した方がいいって」
「いえもう無理です。すっごい無理です。だってもう媚薬飲んだし、尻穴とろとろに解して、発情期きましたからもう止まれません」
「いやあああああああ!!」

蕩けた顔でずぷんっといれられ処女は無残にも散ってしまい、獣にとって男はもはや番の雄となってしまったのだ。





見た目すごく男前なのに、男の前では健気で淫らな雌となって腰をくねらせ胎で雄をしゃぶりつくす。男以外は眼中になく、常に無表情で尻尾もぴくりと動かずまるで精巧な人形のようにたたずむが、その鋭い眼差しの中に男が入り込めば途端に太陽に照らされたように明るく表情をはなやがせ、尖った部分をぜんぶまるめてニコニコ目を細めるのだ。
自分よりやや低い男のため背をかがみ、頭や耳だって撫でさせる。
まさしくハート乱舞な懐きっぷりなのだ。狼なのに猫の獣人のように男に擦り寄り、どこか一部でも触れていないと死んでしまいそうなくらいにべったり。


これでどうして性的にたっぷり愛され生涯の伴侶としてどっぷり求愛的な意味で襲われないという自信など持てたのか。

世間ズレしまくってた男は自分が鈍いとは決して認めずあくまで世間知らずの箱入りだから見えなかったのだということにして、順応力の強さと開き直りには定評があるので、この可愛い可愛い獣の求婚については答えを無理に引き伸ばすこともなく、ちょっと悩んで、こくりと頷いたのだった。


男はやっぱり獣が可愛かった。

獣が望むことは叶えてあげたい気持ちもどっさりある。
一目見たときから脳裏が星が散って、…その干乾びた獣の目を潤わせたかったと鮮烈に思わせてくれた時から、ずっとずっと降り積もってきた愛情は、彼が笑う度に柔らかく膨らむのだから、甘くあたたかな花の匂いをかいだ気分になる、そんな気持ちばかり彼は、男にくれていた。


獣は男を幸せにしたいといった。じゃあ、幸せにしてもらいたいなあと普通にするんっと思ってしまった。
だって幸せそうな顔でいうんだもの。もう自分がいれば君は幸せなんだねえ。


この世で一番幸せにしますと言い切った笑顔はとても可愛かった。









………………………………………………………………………………
※実はこんな設定あります。


ルベウス(ルビー)
銀髪赤目の褐色肌。主至上主義の同担拒否残虐派なため、常に攻撃的な姿勢をくずさない。円滑な人付き合い?なにそれまずそう。主以外に見せる表情がないため、常に無表情。主には常に笑顔。かわいこぶる。
ちなみに奴隷市場では愛玩用として売られてるようだったが実はバリバリ戦闘型として販売されていた。結構な秘蔵っこ。売り先も決まってた。愛玩用にみせかけての隠密護衛タイプに育てる予定でした。


アイリス(イル)
黒髪あざやかな青紫の瞳。金色に輝く。元王族。神殿に属しているというより預かりな自由人。
他種族の争いを調停する役目をもつ。普段は獣医や薬師みたいな真似事をしている。
あとアイリスという名が女の子みたいな名前なので『イル』と名乗る。

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