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逃げ出そうとしました 前編(3)

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「あ、っはあ、っはあん」
「ふふふ、自分からこんなに腰をふるなんて、やはり君は淫乱だね……」

 声が理性をとかしていく。

「ああ、あああん、っふう、っはああ!」

 腰がスライドするだけで、下半身から全身に向けて快感の波が向かって行く。
 そしてその波に応えるように、体が腰をスライドさせる。

「んん、っはあ、も、もっと、んん、っはあ!」
「もっと欲しい?ああ、いいですよ」

 その声を聞くたびに、体の中の感度が上がっていく。

「ひああ、ふ、っふううん、っはあ、ああ、はああ、っふうん、っふ、っふう、っはあ!」

 尻が固い弾力の肉にあたる度に、肛門の入口から腸が揺さぶられて、ムズ痒い刺激が中に静電気のように貯まる。

「素直になったかと思えば、まだまだ、我慢をしているようだね?

 ほら、口で言うにはまだまだ足りないって、こっちの口は言っているよ」

 その声に、葵の自分で思っていなかった。
 考えたこともなかった言葉が引き出される。

「っはあ、っはあうう!っはあ、っはああああ!」

 スライドして、打たれて、揺さぶられて、溜まりに溜まった刺激を肛門から入れられた太い肉棒が肛門を押し広げて、腸を膨張させて、体の中に溜まった快感を膨れ上げさせて、

「どうだい?今どんな気持ちかな?言えるかな?」

 その声で、

「あああ、ううう、きもちいい、気持ちいい」

 脳が、視界がチカチカとするほどの刺激となって爆発する。

「ああ、っはあ、いっちゃうよ。いっちゃう」
「ああ、私も……いくよ!」 

 その声で、完全に自分は自分でない何かになってしまう。
 そして、爆発した快感が、そのまま性器に流れ込んで、体の外に放出される。
 体の奥に熱いものが流れ込んでくると、体がそれを奥に受け入れようと動いた。

「ああ、ううう、っはああ、や、やっと……」
 やっと気持ちよくなれた。

 これだ、自分がずっと求めていた刺激を手に入れて、葵は羽毛布団のように体を包み込んでくる柔らかく、優しい快感に身を任せた。

 嘘だ。
 嘘だ。
 嘘だ。
 嘘だ。
 
 こんなの嘘だ。
 葵は自分の身に怒った事実を直視することができなかった。
 最悪だ。
 最悪だ。
 最悪だ。
 最悪だ。

 あいつにあんな奴に犯されている夢をみるなんて、それを気持ちがいいと言ってしまうなんて……。
 これがただ、みているだけの夢であれば、悪夢ということで済んだのかもしれない。
 しかし、これを悪夢で済ませることのできない現実が葵の前に存在していた。
 母親が寝ているのを確認して、葵は洗面所で白い液体に濡れた自分のパンツを洗った。

『精通したら私に知らせること』

 契約のときに田中に約束させられた言葉があの時と同じ音声で蘇ってくる。
 あの頃は『精通』という言葉の意味すら知らなかった。
 その先のことだって知らなかった。
 その先のことで得られる中毒性のある快楽も、

「……」

 まだまだ、契約の終わりは長い。

 契約をしてから、田中が葵にセックスをするために体を求めて来ることはなかった。
 学童に通っていた頃は一日に一度自慰をさせられ、学童から卒業すると、週に二、三度田中の家に呼ばれて、浣腸をされて、自慰をさせられ、アナルを自分の指で弄ばされる。
 田中は、葵が一人でできるまで手伝うが、それ以外は全く手を出さないで見ているだけだ。
 何もしてこないことが、葵にとっては不気味だった。
 しかし、何かを企んでいる。それだけは分かる。現に自分の体は次第におかしくなっていた。
 その一つが、あの夢だ。

「そんなの、有り得ない……」

 自分が田中に抱かれたがっているなんて。
 マンションのエレベーターの閉じた扉を見つめながら、葵はため息を吐いた。
 リンと一階にたどり着いたことを知らせる音が鳴って、葵は顔を上げた。

「あ……」

 扉が開く、そのままマンションの入口の自動ドアを抜けて、表へ出ると、ちょうど向かいのマンションの入口から海斗が出てくるところだった。
 彼が自分よりも一つ年上だと知ったのは、学童から一年早く彼がいなくなったときだった。
 海斗がいなくなってから、葵にとって、あの場所はただの地獄へと変わった。

「……海斗さん!」
「お、葵?おはよう!」
「お、おはようございます」

 半分反射的に海斗に声をかけていた。
 葵は自分でも自分の行動に驚いていたが、それよりも、海斗に会えるだけで、先ほどの憂鬱が晴れてしまったことのほうが不思議だった。

「今日も学校だよ。かったるいな~」
「海斗さん勉強苦手そうですもんね」
「体育は得意なんだけどな……」

 海斗と会話をしているときだけは、葵は田中のことも、体の変化も何もかも忘れられた。
 だから、海斗に会えるのは、嬉しいのだと、葵は思っていた。本当は、その気持ちが後からくるものなのに、葵はそれに気づいていなかった。

 つづく
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