金色猫と三珠沙華(きんいろねことさんじゅしゃげ)

さくらさく

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☆全年齢版☆

第三話『菖と花南』その二

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「先生、1年A組の花南です。同じクラスの風上菖くんの具合が悪いので、付き添いで来ました」

  保健室に到着すると、花南は机で書類仕事をしていた保険医に呼びかけた。

「あら、付き添いお疲れ様。菖くん。自分の今の状態の説明は出来るかな?」

 手を止めてやってきた保険医は、見るからに具合の悪そうな菖のところへやってくると、注意深く菖の様子を見ながら問答をはじめる。

「気持ち悪くて、ここに来る前に、吐いちゃいました」
「あらら、気持ち悪いのはまだ続いてるかな? 頭は痛くない?」
「大分よくなりました。でも、やっぱり気持ち悪いです。 頭は痛くないです」
「そう、顔色も悪いし、少しベッドで休んでいなさい。保護者の方は家にいる?」
「今の時間は、二人共仕事だと思います。でも、メールならできます」
「それじゃあ、いったん休んで、から考えようか、放課後まで寝てたら起こすから、寝ちゃいなさい」
「はい、ありがとうございます」

 問答を終わらせて菖をベッドに寝かせると、保険医はカーテンを閉めて花南と向き合った。

「花南くん、菖くんのことは任せてちょうだい。今、給食の時間でしょう? 早く教室に戻って食べちゃいなさい」
「………先生、僕、目がおかしくて、少し見てもらえませんか?」
「あら、大丈夫? 擦っちゃダメよ」

 目を手で擦る仕草をする花南の腕を押さえて保険医は花南の目を覗き込んだ。


 美しい瞳だった。
 灰色と白と水色が入り混じった虹彩と、深い紺色の瞳孔。
 思わず魅入ってしまった彼女の意識は眠りについていた。


『先生は僕がこの保健室から出ていくまで、僕のすることを何も気にしないでください。いいですね』
「………わかったわ」

 花南の命令にこくりと首が傾き、返事を返すと、保険医はとろとろと足を緩慢足運びで机へ向かっていった。
 それを見届けることなく、花南はカーテンを隙間に潜り込んだ。

「菖くん菖くん」
「うん? なに?」

 眠っている菖の顔を覗き込みながら、花南は声で菖の意識を半分だけゆすり起こす。

(あれ? 花南、教室に戻ったんじゃなかったっけ?)

「トイレの中で、何を見た? 聞いた?」
「黒い………つるつるした、ゲロ」

 花南に声に、質問に、考えるよりも先に、菖の口が動く。

「そう、何か気になる音や声を聞いた?」
「なんか………魚が跳ねたような音、聞いた」
「そう……菖くんは敏感なんだね」
「そうなの?」
「……ふふっ……」

 思わずつぶやいた自分の独り言に答えた菖に、花南は笑ってしまった。

「菖くん」
「うん? なに?」
「それは、全部忘れて。いいね」

 花南の言葉に、菖は頷いた。

「うん、わかった………」
「菖くんは、いい子だね」
「そうかな?」

 また花南は笑った。
 こんな風に、同い年の人間と話しをしたのは久しぶりだった。

「ねぇ、菖くん」
「なに?」
「僕と友達になってくれる?」
「いいよ。俺も、花南と友達になりたい」

 この言葉は、菖の本心だ。それを”術を使って命じた”花南自身が分かっている。

(僕も、僕もなりたかった。君と、友達になりたかったよ)

「……っ、うん。ありがとう。でも、今のも忘れて。いいね」

 菖に命じると、花南はすぐに保健室から出て言った。
 菖の返事を聞きたくなかったのだ。
 だから、花南は、菖の返事を聞くことは出来なかった。

 
「嫌だよ。俺、お前と友達になりたい」
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