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終章
第75話 預言書の秘密
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預言書は元々帝城にあるゼムベルトの執務室にあったけれど、今は皇室図書館の奥に保管されている。
あの預言書があったから、ゼムは前世の記憶がなくても、僕のことを伴侶と認識したんだよな。
“翼の痣を持つ者、炎の中より世にも美しき伴侶を見いだすことだろう”
魔王になる前、僕を振り回してくれたあのイカサマ予言者と違い、あの本の内容は本当に僕とゼムベルトの出会いを予見しているみたいだった。
ゼムベルトは息をついて答える。
「一枚目の頁は大神が書いたものだ。大神は生まれ変わったアシェラを見て、ひと目で分かるように、前世と同じ容姿に生まれるようにしておく、と言っていた」
「ゼムや他の人たちも前世と同じ容姿だったのはそういう理由だったのか……」
うーん、出来れば魔王時代じゃなくて、アシェラ時代の容姿にして欲しかったな。
そしたら紅い瞳を理由に迫害されることはなかったし。でもあいつらのことだから、別の理由で僕を虐げていたかもね。自分たちの無能さを隠すために、僕を隠れ蓑にしていたような奴らだ。
「それでも前世の記憶を思い出さない内は、ジュノに気づかない可能性もあるから、この預言書を子孫に伝えておくようにと言われた」
「炎の中から伴侶を見出すって書いてあるのは? 大神様は僕が奴隷競売所を燃やすことを予見していたのかな?」
「恐らくそうなのだろう。具体的な状況を書いた方が信憑性が増すからな。ジュノにも最初から恵まれた環境で転生して欲しかったが……」
その場にはいない大神に対し、恨めしそうに言うゼムベルトに、僕も一瞬複雑な表情になったけれど、ちょっと思い直して、首を横に振る。
「僕は前世で多くの人間を殺している。その業を背負っていることを考えたら、最初から恵まれた環境で生きることを良しとはしなかったのかもしれないね」
「それなら、俺にも言えることなのだがな。どれだけの多くの魔族を殺したか」
「君は前世の内にとんでもない試練を受けているじゃないか。黒炎地獄に叩き落とされているし」
今は皇室図書館に保管されている預言書。
一枚目の頁には予言が書かれていたけれど、二枚目の頁には何が書かれていたのか分からない。
水で濡れたのか、インクで滲んでしまっていたから。
「ゼム、二枚目の頁はひどく滲んでいたけれど、何て書いてあったのか分かる?」
僕の問いにゼムベルトは頷いてから、デスクの上に紙を置いてサラサラと何か描き始めた……二枚目の頁の内容だ。
アシェラ、必ず君を見つけ出す。
だから待っていて欲しい。
今度こそ君を守り、幸せにする。
……うわっ!? そんなこと書いていたのか?
恥ずかしすぎる。ヴィングリードの皇室の人間は代々この文を読んでいたわけだろうし。この頁、いつから読めなくなったのだろう? 多分、誰かが水か何かを零して頁を濡らしたのだろうけど。文字を滲ませてくれた人に感謝だな。
「預言書を自分の子孫に伝えるようにと言われた時、私は生涯独身でいるつもりなので、子孫を残すことはできないと大神に言ったんだ。そうしたら、大神は生き別れた俺の姉が子を産んでいる。しかもひ孫までいることを教えてくれた」
「その子を自分の子として育てたのか」
「ああ……戦災孤児として孤児院にいたからな。俺やオルティスを実の親のように慕ってくれたよ。そして良き君主として育ってくれた」
なるほど。
そのイルの姉の子孫が初代ヴィングリード皇帝となって、帝国の礎を築いていったわけだな。
そう考えるとイルの転生先は最初から大神様によって決まっていたわけだな。
「預言書がなくても、私はジュノのことを見出していたと思うがな」
言うが否や、ゼムベルトは僕の額に口づけてくるものだから、僕の身体は反射的にびくんっと震えてしまう。
いきなりのキスは反則だろ。
ゼムベルトは右の手で僕の頬に触れる。
「久々に二人きりの時間を楽しもうか?」
「で……でも。イライザが急に帰ってくるかもしれないし」
「では、二人の寝室へ移動しようか」
パチンと指を鳴らすと、執務室から寝室に瞬間転移した。
屋敷内とはいえ無詠唱で転移魔法使うのって、なにげに凄かったりするんだよな。
移動した時点でベッドの上に寝転がる形になった僕に、ゼムベルトが覆いかぶさってくる。
「そろそろ二人目の子供も欲しいな」
「イライザの妊娠も奇跡のようなものだ。そんなに何度も上手くいくわけないだろ」
「いつものように、ジュノの中にたっぷり私の精を注ぎ込むだけだ」
「馬鹿……これじゃ休憩にならない……あ……」
ゼムベルトは僕の両手を軽く押さえ、唇を重ねてきた。
結婚してもう十年以上経つのに、彼の溺愛振りは拍車を掛ける一方だ。
舌と舌が絡み合い、お互いの唇を吸い尽くす。
「ん……ふっ……うん」
「あ……ふ……っん」
両手は軽く押さえられているだけだから、もちろん抵抗しようと思えば、抵抗できる。
だけど、この甘ったるい雰囲気に酔いかけている僕の頭からは、抵抗という二文字は消え去っていた。。
ゼムベルトは一度、唇を離し僕の黒髪を軽く撫でた。
消去魔法。
例によって一瞬にして服が消えてなくなる。僕だけじゃなく、ゼムベルトも全裸の姿になる。
相変わらず見事な体に見蕩れてしまう僕だけど、部屋の鏡のお尻が映っているのに気づき、思わずクスリと笑う。
「その痣……大神様は何でそんな場所に聖痕を刻んだのかな」
次回最終話です
あの預言書があったから、ゼムは前世の記憶がなくても、僕のことを伴侶と認識したんだよな。
“翼の痣を持つ者、炎の中より世にも美しき伴侶を見いだすことだろう”
魔王になる前、僕を振り回してくれたあのイカサマ予言者と違い、あの本の内容は本当に僕とゼムベルトの出会いを予見しているみたいだった。
ゼムベルトは息をついて答える。
「一枚目の頁は大神が書いたものだ。大神は生まれ変わったアシェラを見て、ひと目で分かるように、前世と同じ容姿に生まれるようにしておく、と言っていた」
「ゼムや他の人たちも前世と同じ容姿だったのはそういう理由だったのか……」
うーん、出来れば魔王時代じゃなくて、アシェラ時代の容姿にして欲しかったな。
そしたら紅い瞳を理由に迫害されることはなかったし。でもあいつらのことだから、別の理由で僕を虐げていたかもね。自分たちの無能さを隠すために、僕を隠れ蓑にしていたような奴らだ。
「それでも前世の記憶を思い出さない内は、ジュノに気づかない可能性もあるから、この預言書を子孫に伝えておくようにと言われた」
「炎の中から伴侶を見出すって書いてあるのは? 大神様は僕が奴隷競売所を燃やすことを予見していたのかな?」
「恐らくそうなのだろう。具体的な状況を書いた方が信憑性が増すからな。ジュノにも最初から恵まれた環境で転生して欲しかったが……」
その場にはいない大神に対し、恨めしそうに言うゼムベルトに、僕も一瞬複雑な表情になったけれど、ちょっと思い直して、首を横に振る。
「僕は前世で多くの人間を殺している。その業を背負っていることを考えたら、最初から恵まれた環境で生きることを良しとはしなかったのかもしれないね」
「それなら、俺にも言えることなのだがな。どれだけの多くの魔族を殺したか」
「君は前世の内にとんでもない試練を受けているじゃないか。黒炎地獄に叩き落とされているし」
今は皇室図書館に保管されている預言書。
一枚目の頁には予言が書かれていたけれど、二枚目の頁には何が書かれていたのか分からない。
水で濡れたのか、インクで滲んでしまっていたから。
「ゼム、二枚目の頁はひどく滲んでいたけれど、何て書いてあったのか分かる?」
僕の問いにゼムベルトは頷いてから、デスクの上に紙を置いてサラサラと何か描き始めた……二枚目の頁の内容だ。
アシェラ、必ず君を見つけ出す。
だから待っていて欲しい。
今度こそ君を守り、幸せにする。
……うわっ!? そんなこと書いていたのか?
恥ずかしすぎる。ヴィングリードの皇室の人間は代々この文を読んでいたわけだろうし。この頁、いつから読めなくなったのだろう? 多分、誰かが水か何かを零して頁を濡らしたのだろうけど。文字を滲ませてくれた人に感謝だな。
「預言書を自分の子孫に伝えるようにと言われた時、私は生涯独身でいるつもりなので、子孫を残すことはできないと大神に言ったんだ。そうしたら、大神は生き別れた俺の姉が子を産んでいる。しかもひ孫までいることを教えてくれた」
「その子を自分の子として育てたのか」
「ああ……戦災孤児として孤児院にいたからな。俺やオルティスを実の親のように慕ってくれたよ。そして良き君主として育ってくれた」
なるほど。
そのイルの姉の子孫が初代ヴィングリード皇帝となって、帝国の礎を築いていったわけだな。
そう考えるとイルの転生先は最初から大神様によって決まっていたわけだな。
「預言書がなくても、私はジュノのことを見出していたと思うがな」
言うが否や、ゼムベルトは僕の額に口づけてくるものだから、僕の身体は反射的にびくんっと震えてしまう。
いきなりのキスは反則だろ。
ゼムベルトは右の手で僕の頬に触れる。
「久々に二人きりの時間を楽しもうか?」
「で……でも。イライザが急に帰ってくるかもしれないし」
「では、二人の寝室へ移動しようか」
パチンと指を鳴らすと、執務室から寝室に瞬間転移した。
屋敷内とはいえ無詠唱で転移魔法使うのって、なにげに凄かったりするんだよな。
移動した時点でベッドの上に寝転がる形になった僕に、ゼムベルトが覆いかぶさってくる。
「そろそろ二人目の子供も欲しいな」
「イライザの妊娠も奇跡のようなものだ。そんなに何度も上手くいくわけないだろ」
「いつものように、ジュノの中にたっぷり私の精を注ぎ込むだけだ」
「馬鹿……これじゃ休憩にならない……あ……」
ゼムベルトは僕の両手を軽く押さえ、唇を重ねてきた。
結婚してもう十年以上経つのに、彼の溺愛振りは拍車を掛ける一方だ。
舌と舌が絡み合い、お互いの唇を吸い尽くす。
「ん……ふっ……うん」
「あ……ふ……っん」
両手は軽く押さえられているだけだから、もちろん抵抗しようと思えば、抵抗できる。
だけど、この甘ったるい雰囲気に酔いかけている僕の頭からは、抵抗という二文字は消え去っていた。。
ゼムベルトは一度、唇を離し僕の黒髪を軽く撫でた。
消去魔法。
例によって一瞬にして服が消えてなくなる。僕だけじゃなく、ゼムベルトも全裸の姿になる。
相変わらず見事な体に見蕩れてしまう僕だけど、部屋の鏡のお尻が映っているのに気づき、思わずクスリと笑う。
「その痣……大神様は何でそんな場所に聖痕を刻んだのかな」
次回最終話です
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