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第五章
第62話 魔王の誕生
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「やる……何でもやるから、イルを生き返らせてくれ」
【分かった。せっかくだから若返らせてやるか】
邪神アレムがそう言った瞬間、イルの身体は淡い光に包まれた。
目尻の皺がなくなり、顔も幼くなり、身体も小さくなっていく。
そしてイルは赤ん坊の姿となって産声をあげた。
「ホギャァァ、ホギャァァ、ホギャァァ」
祭壇の上でジタバタ暴れる赤ん坊を見て、若返りすぎだ……とは思ったが、物心つく前まで戻れば、辛かった戦の日々も忘れることができるだろう。僕のことも忘れるとは思うけど、最初からやりなおして幸せになった方がいい。
とにかくアレムは願いを叶えてくれたのだ。
【お前はこれから魔族の王となれ】
「魔族の王……」
【女神にとって人間の信仰が力の源であるのに対し、邪神にとって人間の恐怖と絶望は、たまらぬ馳走だ。魔族は人間に恐怖と絶望を与えるのに最適な種族だ】
「……」
【魔族には人族のような王がいない】
「だけど僕は人間だ。魔族の王になれるわけがない」
【我の力で魔族の身体に変えることが出来る。お前の並外れた魔力と、魔族の強固な身体があれば、お前は間違いなく王として魔族たちを統率することができるだろう】
「――」
僕は愛する人の命と引き換えに、魔王にならなければならない。
一人の人間に愛情を注いだ時、僕は世界を破滅する人間となる……予言は当たったということか。
だけどもし愛する人を殺すような真似をしなければ、僕が魔王になることはなかった。
僕はイルと静かに暮らせたらそれで良かったんだ。
そもそもあんな予言さえなければ……。
父上も父上だ。
予言者の言葉を鵜呑みにして、僕を殺そうとして、さらに僕の最愛の人を殺した。
自分の代で国が滅ぶことが余程怖かったのだろう。
父上は今でもあの予言者に頼って政治を行っている。
予言者はしだいに豪奢な暮らしをするようになり、自分を頼る王や貴族たちから法外な金品を巻き上げているらしい。
国王よ、それほどまでに予言を信じたいのであれば、その通りの未来にしてやる。
お前が信じた通り、国は僕の手によって滅びる。
予言者も自分の予言が当たってさぞ本望だろう。
「いいだろう。約束だからな。僕は魔族の王になる」
次の瞬間。
僕の身体は黒い膜に包まれた……膜……というよりは、ドームのような??
身体が水の中に漂うような浮遊感を感じる。
【今、お前は黒い卵の中にいる。その中で身体は徐々に人間から魔族に作り変えられてゆく。それまでゆっくりと眠るがいい】
「ま……まて……そこにいる赤子は……イルは誰が面倒を見るんだ?」
【安心しろ。客室で眠っている兵士が、引取先を探すだろう】
「なるほど……バーシュなら信用できる」
【お前の為に城を用意してやる。そして有能な部下もな。目を覚ましたら、まずは魔王城へ向かうといい】
だんだん僕の意識は遠のいた。
卵の中の浮遊感、そして温かさがあまりにも心地良くて。
意識を手放すまで、僕は赤子となったイルをずっと見詰めていた。
イル……どうか、今度こそ幸せに。
◆◇◆
僕は黒い卵の中で二年……三年……もっと時間が経っただろうか。
とにかく長い時間をかけて、僕の身体は人族から魔族に作り変えられていった。
その間、人族たちは黒くて大きな禍々しい卵を何度も破壊しようとした。
だけど邪神の手によって作られた卵を壊すのは容易ではなく、人族はついに森を封鎖することにした。
それ以降は邪魔されることなく、僕は静かに眠り続けることができた。
何年経ったのかわからない。
ある日、突然僕は目を覚ました。
本能的にもう殻から出る時だと分かったから。
僕は黒雷の魔法の呪文を念じた。
黒雷は教会の屋根を破壊し、そして黒い卵の殻を直撃した。
ドォォォォン!!
丁度目の前に、教会に設置してあった鏡台があった。
黒雷の衝撃で罅が入っているが、僕の全身をハッキリと映し出す。
ブラウンの髪は黒く染まり、青い目は血のように赤く変わっていた。耳も長く尖り、真っ黒な蝙蝠の翼が背中には生えていた。
土砂降りが降る中、炎に包まれ、黒い衣を纏った僕は魔族として生まれ変わったのだ。
◆◇◆
教会周辺を見張っていた兵士たちが落雷に気づき、こっちに駆けつけてきた。
僕はたちまち多くの兵士達に包囲されることになる。
「な、何だコイツは!?」
「魔族がどうしてこんな所に!?」
「ま……まさか、その卵から生まれたのか!?」
「応援だ、応援を呼べ!」
僕を取り囲む兵士の数がさらに増える。ざっと百人くらいはいるのかな?
弱い兵士が何人いようと関係ない。
すべて消してしまえば、問題ない。
「大炎華」
呪文を唱えた次の瞬間、百を超えるの兵士たちは巨大な炎の華の開花と同時に消し炭となった。
あっけないな。
あんな沢山いた兵士たちが、あっという間に消えちゃった。
僕は自分自身の掌を呆然と見詰める。
本当にとんでもない力を与えられたものだな。
今だったら、一国を滅ぼすのもワケがないだろう。
イルを殺したこの国を今すぐ消してやりたい衝動に駆られるけれど、今はその時じゃない。目が覚めたら魔族たちが住む魔界へ向かうよう、アレムに言われていたからね。
僕は、蝙蝠の翼を広げ、魔界を目指し東の空へ向かって飛んだ。
【分かった。せっかくだから若返らせてやるか】
邪神アレムがそう言った瞬間、イルの身体は淡い光に包まれた。
目尻の皺がなくなり、顔も幼くなり、身体も小さくなっていく。
そしてイルは赤ん坊の姿となって産声をあげた。
「ホギャァァ、ホギャァァ、ホギャァァ」
祭壇の上でジタバタ暴れる赤ん坊を見て、若返りすぎだ……とは思ったが、物心つく前まで戻れば、辛かった戦の日々も忘れることができるだろう。僕のことも忘れるとは思うけど、最初からやりなおして幸せになった方がいい。
とにかくアレムは願いを叶えてくれたのだ。
【お前はこれから魔族の王となれ】
「魔族の王……」
【女神にとって人間の信仰が力の源であるのに対し、邪神にとって人間の恐怖と絶望は、たまらぬ馳走だ。魔族は人間に恐怖と絶望を与えるのに最適な種族だ】
「……」
【魔族には人族のような王がいない】
「だけど僕は人間だ。魔族の王になれるわけがない」
【我の力で魔族の身体に変えることが出来る。お前の並外れた魔力と、魔族の強固な身体があれば、お前は間違いなく王として魔族たちを統率することができるだろう】
「――」
僕は愛する人の命と引き換えに、魔王にならなければならない。
一人の人間に愛情を注いだ時、僕は世界を破滅する人間となる……予言は当たったということか。
だけどもし愛する人を殺すような真似をしなければ、僕が魔王になることはなかった。
僕はイルと静かに暮らせたらそれで良かったんだ。
そもそもあんな予言さえなければ……。
父上も父上だ。
予言者の言葉を鵜呑みにして、僕を殺そうとして、さらに僕の最愛の人を殺した。
自分の代で国が滅ぶことが余程怖かったのだろう。
父上は今でもあの予言者に頼って政治を行っている。
予言者はしだいに豪奢な暮らしをするようになり、自分を頼る王や貴族たちから法外な金品を巻き上げているらしい。
国王よ、それほどまでに予言を信じたいのであれば、その通りの未来にしてやる。
お前が信じた通り、国は僕の手によって滅びる。
予言者も自分の予言が当たってさぞ本望だろう。
「いいだろう。約束だからな。僕は魔族の王になる」
次の瞬間。
僕の身体は黒い膜に包まれた……膜……というよりは、ドームのような??
身体が水の中に漂うような浮遊感を感じる。
【今、お前は黒い卵の中にいる。その中で身体は徐々に人間から魔族に作り変えられてゆく。それまでゆっくりと眠るがいい】
「ま……まて……そこにいる赤子は……イルは誰が面倒を見るんだ?」
【安心しろ。客室で眠っている兵士が、引取先を探すだろう】
「なるほど……バーシュなら信用できる」
【お前の為に城を用意してやる。そして有能な部下もな。目を覚ましたら、まずは魔王城へ向かうといい】
だんだん僕の意識は遠のいた。
卵の中の浮遊感、そして温かさがあまりにも心地良くて。
意識を手放すまで、僕は赤子となったイルをずっと見詰めていた。
イル……どうか、今度こそ幸せに。
◆◇◆
僕は黒い卵の中で二年……三年……もっと時間が経っただろうか。
とにかく長い時間をかけて、僕の身体は人族から魔族に作り変えられていった。
その間、人族たちは黒くて大きな禍々しい卵を何度も破壊しようとした。
だけど邪神の手によって作られた卵を壊すのは容易ではなく、人族はついに森を封鎖することにした。
それ以降は邪魔されることなく、僕は静かに眠り続けることができた。
何年経ったのかわからない。
ある日、突然僕は目を覚ました。
本能的にもう殻から出る時だと分かったから。
僕は黒雷の魔法の呪文を念じた。
黒雷は教会の屋根を破壊し、そして黒い卵の殻を直撃した。
ドォォォォン!!
丁度目の前に、教会に設置してあった鏡台があった。
黒雷の衝撃で罅が入っているが、僕の全身をハッキリと映し出す。
ブラウンの髪は黒く染まり、青い目は血のように赤く変わっていた。耳も長く尖り、真っ黒な蝙蝠の翼が背中には生えていた。
土砂降りが降る中、炎に包まれ、黒い衣を纏った僕は魔族として生まれ変わったのだ。
◆◇◆
教会周辺を見張っていた兵士たちが落雷に気づき、こっちに駆けつけてきた。
僕はたちまち多くの兵士達に包囲されることになる。
「な、何だコイツは!?」
「魔族がどうしてこんな所に!?」
「ま……まさか、その卵から生まれたのか!?」
「応援だ、応援を呼べ!」
僕を取り囲む兵士の数がさらに増える。ざっと百人くらいはいるのかな?
弱い兵士が何人いようと関係ない。
すべて消してしまえば、問題ない。
「大炎華」
呪文を唱えた次の瞬間、百を超えるの兵士たちは巨大な炎の華の開花と同時に消し炭となった。
あっけないな。
あんな沢山いた兵士たちが、あっという間に消えちゃった。
僕は自分自身の掌を呆然と見詰める。
本当にとんでもない力を与えられたものだな。
今だったら、一国を滅ぼすのもワケがないだろう。
イルを殺したこの国を今すぐ消してやりたい衝動に駆られるけれど、今はその時じゃない。目が覚めたら魔族たちが住む魔界へ向かうよう、アレムに言われていたからね。
僕は、蝙蝠の翼を広げ、魔界を目指し東の空へ向かって飛んだ。
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