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第四章

第54話 大転移魔法

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「シキ、お前も生まれ変わったのか?」
「はい。あの忌々しいオルティスに倒され、私はこの世の全てを呪いながらこの世を去りました。魔族として生まれ変わったものの、前世よりもはるかに脆弱な身体で、とても歯がゆい思いをしておりました。そこにアレム様が私に力を与えてくださったのです」

 相変わらずよく喋る奴だ。
 だけど予想どおり、この軍勢はアレムの力によってここに送り込まれたことだけはわかった。
 恐らく氷王の時と同様、奴の身体にはアレムが憑依しているのだろう。

「お前の狙いは僕なのか?」
「はい。アレム様から力を頂く代償として、私が軍を率いて勇者の命を狩る約束をしました」
「つまり僕が侵攻を辞めるように頼んでも、それは叶わないわけだな」
「いえいえ、貴方の態度次第では考えますよ」
「ふっ……相変わらずの嘘つきだね。邪神との契約は絶対だ。僕の頼みでも、それを破棄できないことぐらいは分かっているよ」

 せせら笑う僕に対し、シキもまた可笑しそうに笑う。
 邪神アレムとの契約がある以上、シキは軍勢を率いて王都を攻撃することはやめない。
 それが分かった以上、見過ごすわけにはいかない。

大転移魔法グランデワープレスト

 僕がそう唱えた瞬間、雲に描かれた魔法陣が光り始めた。
 シキが上空を見上げ目を見開く。

「いつの間にこんな巨大な魔法陣を」
「さて、お前達には故郷へ帰って貰うとしよう」

 不敵な笑みを浮かべる僕に対し、シキは悔しがるかと思いきや、その表情に狂喜をうかべた。
 ああ、そうだ。こいつは僕の強さに惚れたんだっけ? 僕が力を発揮すればするほど、喜んでいた奇人だった。
 僕が瞬間移動を唱えたということは、僕たちもまた同じ場所へ瞬間転移することになる。
イプティーだけでも逃がしたかったけれど、こちらの心を読んでか、彼は僕に抱きついて離れようとしない。

 イプティー、巻き込んで済まない……

 僕は目を固く閉じ、心の中で彼に謝った。その瞬間、目の前の軍勢が姿を消し、僕自身も視界が真っ暗になった。
 心の中でイメージした映像は魔王城があったカーマ山脈……いや今はカーマ平原か。勇者との戦いで僕が山を吹き飛ばしちゃったからな。
 オルティスからは、それとなく現在の魔界の状況を聞いていたけれど、かつて魔王城があった場所は、まだ未開拓なのだという。
 僕が死んだあの場所は、人間で言う所の聖地のように扱われているらしい。自分が死んだ場所を聖地扱いされるのって、何だかむず痒いけどね。

 とにかく聖地となったカーマ平原に飛ばせば、罪のない魔族たちを巻き込まずには済む。
 そう思ってカーマ平原のど真ん中をイメージしたわけだけど。
 
 目を開けた時、目の前に現れた風景は山の中でも、平原の中でもない。
 薄暗い城の中だった。
 え……どういうことだ? ?
 しかも見覚えがある光景……ここは魔王城の大広間。この場所に僕は四将と十隊長、上位クラスの兵士たちに召集をかけていた。
 だけど今は誰も居ない。
 だだっ広い空間に僕一人。
 しかも何故、寝台の上に寝ているのだろう?
 玉座があった場所には寝台があって、部屋の中心には円形の人工池がある。あの人工池は水鏡となって、念じると別の場所の風景を見ることができたり、また魔法陣を描き呼びたい相手をいつでも呼べるようになっていた。

 僕が魔力を使いすぎて気を失っていたのは分かる……一体誰かがここに運んだということなのだろう。
 あまり考えたくはないが、僕を此処に運んできた人物は――――

「お目覚めのようですね」

 コツコツと足音が大広間の空間に響き渡る。
 僕は上体を起こし、近づいてくる相手の名を呼ぶ。

「シキ……」
「王都襲撃はあなたのお陰で失敗しましたが、あなたを手に入れることができたのは大きな収穫です」
「……」

 眠っている間にわずかな魔力は取り戻せているけれど、こいつを倒せるほどの力は無い。
 シキはベッドの上に四つん這いになり、僕に顔を近づけてきた。

「僕をどうするつもりだ?」
「分かっているくせに。私はずっと、ずっと、ずっと貴方に焦がれていたのですよ。焦がれる相手とどうなることを願うかは、人間も魔族も同じこと」
「僕は脆弱な人間に生まれ変わってしまった。お前が焦がれていた強き魔王は、もうどこにもいない」
「何を仰せになる。弱い人間に生まれ変わってもあなたの力はすさまじいものだった。まさか一万以上の軍勢をまるごと此処に送り返すとは」

 嬉しさが隠せないのか、シキは笑いが堪えきれないようだった。
 なるほど……軍勢は送り返すことができたか。
 イプティーから少し力を分けてもらっているとはいえ、人間の身体でもやろうと思えばできるんだな。
 
 ……そういえば、イプティーは? 

 転移するまで、ずっと僕に抱きついていた妖精族の青年。彼が魔力を分けてくれたお陰で、魔族の軍勢を転移させることができた。
 僕は視線を彷徨わせ、イプティーの姿を探してみるが、見当たらない。僕だけがここに運び込まれたのか? 無事でいてくれるといいのだけど。



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