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第三章
第41話 実家からの使者①
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一方、ノアも城に留まり、若手の騎士たちに剣の指導をすることになった。
たまたま現師範だった人物が大病を患い、引退を余儀なくされたので、新たな師範を探していたところだったらしい。
最初は新参者のノアのことを不審に思っていた若手の騎士だが、勇者と共に修羅場をくぐり抜けた記憶を持つ彼の剣技を目の当たりにし、すぐに尊敬の念を抱くようになった。
あれからノアとオルティスは何を話したのか分からないけれど、表面上は宮廷剣術師範と、宮廷魔導師という立場で接しているみたいだ。
ただ、時々二人の間には甘い雰囲気が漂うんだよね。
今にもキスしそうな距離感で話しあっていたり、ノアがオルティスに何か耳打ちしていたりしてさ。
裏で付き合っているのかな?。
まぁ、おいおい二人からも結婚の報告がきけるといいな、とは思うよ。前世では不幸だった分、今世では幸せになって欲しいからね。
皇妃教育を受けるようになってから、専用の執務室が宛がわれた僕は、そこで勉学に励むようになった。
今は歴代皇族の名前を覚えている所だけどね……皇帝の名前は覚える必要がない。皇帝になった時点で。皇子時代の名前は抹消され、イベルド〇世と呼ばれるようになるからだ。
ということは、ゼムベルトも皇帝になったらイベルドになるのか……まぁ、あいつが勇者の生まれ変わりなら、前世の名前に戻ることになるな。
そんなことを考えていた時、ドアのノック音がしたので僕は入るよう促した。
入って来たのは、ものすごく不機嫌な顔をしたイプティーだった。
「どうした? 何かあったのか」
「……あ、分かります?」
「君はすぐに顔に出るからね」
「普段は顔には出さないようにしているんですけどね。ジュノーム様の前だと、ほっとするのかつい本音が顔に出てしまうみたいです」
そう言ってニコッと笑うイプティー。
まぁ、僕のことを慕ってくれるのは嬉しいけどね。イプティーは僕がこれまで接してきた使用人の中でもとても優秀だ。
それに家族のように僕のことを大切にしてくれている。
そんな彼が、神妙な顔になり僕に報告をしてきた。
「ジュノーム様、落ち着いて聞いていただけますか?」
「うん、今は落ち着いている。何か良くない知らせのようだね」
「はい……アーネルシア王国の使いの者が来て、あなたへの面会を求めています」
「……!?」
アーネルシア王国。
僕の生まれ故郷であり、忌まわしい過去の舞台。
その国の使いが僕に何の用があるというのだ?
近々、僕とゼムベルトの婚約発表があって、アーネルシア王国にも招待状を送っているみたいだから、僕がここにいることはティムハルト家にも伝わっているのだろう。
まぁ、ろくなことじゃないことは分かるけど……さて、どうしたものかな。
「ゼムベルト殿下はすぐに使いの者の首を斬って、アーネルシアに送り返すと仰せになったのですが」
待て待て待て。
前世勇者だった男が、何を物騒なことを言っているんだ?
……でも考えてみたら、あいつは氷王の城を一人で陥落させるような奴だった。相手が魔族だから勇者として崇められているけれど、これが人族の城だったらとんでもない悪魔として恐れられていただろうな。
「まずはジュノーム様の意見を聞いてからにした方が良い、とオルティス様の意見もあり、私が伺いにまいりました」
「うん、教えてくれてありがとう。面会には応じるよ」
「良いのですか? あまり良い思い出がないのでしょう? アーネルシアには」
「だからこそ、僕が直々に手を下したい……いいや、だからこそ僕自ら、じっくり話し合いたいんだよ」
「最初の言葉は聞かなかったことにしますね」
イプティーは無邪気な笑顔で言った。
面会の場所は僕の希望で、奥の間にしてもらうことにした。
天井や壁は光沢のあるマーブル模様の魔石が使われている。
皇妃教育で習ったことだけど、この城の奥の間は王族や貴族が特別な客と面会する為に設けられた部屋だ。
僕は魔石でできた玉座に腰掛ける。この席は国王だけではなく、この部屋を使用する王族や貴族が使用することも許されている。僕ももちろん陛下から許可は得ているからね。
うん、久々だな。こういう玉座に座るのは。
僕は人払いをさせ、玉座に腰掛けた。
魔王の時は足を組んで肘掛けに肘をついて頬杖をついていたよな。
奥の間に数人の騎士と、メイドらしき女性が二人入って来たのはその時だ。
「これはこれは……玉座に座ってお迎えとは。あなたもお偉くなったものですねぇ」
にやにや笑いながら一礼をしてきたのは、ティムハルト家の騎士団長だった男だ。
アーネルシアの使いではなく、どうやらティムハルト家の使いだったみたいだね。
国の代表みたいな面して、此処に来ないで欲しいものだ。
騎士団長の名はエニーゴ=スローン。
顔は優男風だが、僕を馬鹿にしたようなニヤつく顔が気持ち悪い。
稽古と称し、僕の身体を何度も叩きつけていた男だ。非力な僕は彼に逆らうことができなかった。
父上に訴えても取り合ってくれないし、怪我をしている僕をメイド達もクスクス笑うだけで誰も手当しようとしなかった。
「久々に仕置きが必要のようですね」
たまたま現師範だった人物が大病を患い、引退を余儀なくされたので、新たな師範を探していたところだったらしい。
最初は新参者のノアのことを不審に思っていた若手の騎士だが、勇者と共に修羅場をくぐり抜けた記憶を持つ彼の剣技を目の当たりにし、すぐに尊敬の念を抱くようになった。
あれからノアとオルティスは何を話したのか分からないけれど、表面上は宮廷剣術師範と、宮廷魔導師という立場で接しているみたいだ。
ただ、時々二人の間には甘い雰囲気が漂うんだよね。
今にもキスしそうな距離感で話しあっていたり、ノアがオルティスに何か耳打ちしていたりしてさ。
裏で付き合っているのかな?。
まぁ、おいおい二人からも結婚の報告がきけるといいな、とは思うよ。前世では不幸だった分、今世では幸せになって欲しいからね。
皇妃教育を受けるようになってから、専用の執務室が宛がわれた僕は、そこで勉学に励むようになった。
今は歴代皇族の名前を覚えている所だけどね……皇帝の名前は覚える必要がない。皇帝になった時点で。皇子時代の名前は抹消され、イベルド〇世と呼ばれるようになるからだ。
ということは、ゼムベルトも皇帝になったらイベルドになるのか……まぁ、あいつが勇者の生まれ変わりなら、前世の名前に戻ることになるな。
そんなことを考えていた時、ドアのノック音がしたので僕は入るよう促した。
入って来たのは、ものすごく不機嫌な顔をしたイプティーだった。
「どうした? 何かあったのか」
「……あ、分かります?」
「君はすぐに顔に出るからね」
「普段は顔には出さないようにしているんですけどね。ジュノーム様の前だと、ほっとするのかつい本音が顔に出てしまうみたいです」
そう言ってニコッと笑うイプティー。
まぁ、僕のことを慕ってくれるのは嬉しいけどね。イプティーは僕がこれまで接してきた使用人の中でもとても優秀だ。
それに家族のように僕のことを大切にしてくれている。
そんな彼が、神妙な顔になり僕に報告をしてきた。
「ジュノーム様、落ち着いて聞いていただけますか?」
「うん、今は落ち着いている。何か良くない知らせのようだね」
「はい……アーネルシア王国の使いの者が来て、あなたへの面会を求めています」
「……!?」
アーネルシア王国。
僕の生まれ故郷であり、忌まわしい過去の舞台。
その国の使いが僕に何の用があるというのだ?
近々、僕とゼムベルトの婚約発表があって、アーネルシア王国にも招待状を送っているみたいだから、僕がここにいることはティムハルト家にも伝わっているのだろう。
まぁ、ろくなことじゃないことは分かるけど……さて、どうしたものかな。
「ゼムベルト殿下はすぐに使いの者の首を斬って、アーネルシアに送り返すと仰せになったのですが」
待て待て待て。
前世勇者だった男が、何を物騒なことを言っているんだ?
……でも考えてみたら、あいつは氷王の城を一人で陥落させるような奴だった。相手が魔族だから勇者として崇められているけれど、これが人族の城だったらとんでもない悪魔として恐れられていただろうな。
「まずはジュノーム様の意見を聞いてからにした方が良い、とオルティス様の意見もあり、私が伺いにまいりました」
「うん、教えてくれてありがとう。面会には応じるよ」
「良いのですか? あまり良い思い出がないのでしょう? アーネルシアには」
「だからこそ、僕が直々に手を下したい……いいや、だからこそ僕自ら、じっくり話し合いたいんだよ」
「最初の言葉は聞かなかったことにしますね」
イプティーは無邪気な笑顔で言った。
面会の場所は僕の希望で、奥の間にしてもらうことにした。
天井や壁は光沢のあるマーブル模様の魔石が使われている。
皇妃教育で習ったことだけど、この城の奥の間は王族や貴族が特別な客と面会する為に設けられた部屋だ。
僕は魔石でできた玉座に腰掛ける。この席は国王だけではなく、この部屋を使用する王族や貴族が使用することも許されている。僕ももちろん陛下から許可は得ているからね。
うん、久々だな。こういう玉座に座るのは。
僕は人払いをさせ、玉座に腰掛けた。
魔王の時は足を組んで肘掛けに肘をついて頬杖をついていたよな。
奥の間に数人の騎士と、メイドらしき女性が二人入って来たのはその時だ。
「これはこれは……玉座に座ってお迎えとは。あなたもお偉くなったものですねぇ」
にやにや笑いながら一礼をしてきたのは、ティムハルト家の騎士団長だった男だ。
アーネルシアの使いではなく、どうやらティムハルト家の使いだったみたいだね。
国の代表みたいな面して、此処に来ないで欲しいものだ。
騎士団長の名はエニーゴ=スローン。
顔は優男風だが、僕を馬鹿にしたようなニヤつく顔が気持ち悪い。
稽古と称し、僕の身体を何度も叩きつけていた男だ。非力な僕は彼に逆らうことができなかった。
父上に訴えても取り合ってくれないし、怪我をしている僕をメイド達もクスクス笑うだけで誰も手当しようとしなかった。
「久々に仕置きが必要のようですね」
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