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第二章

第28話 前世魔王だった僕は前世勇者だった男に温められる

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「このままでは凍えるな……確か二階に客室らしきものがあった」
「……?」

 広間を出ると廊下には夥しい魔物の死骸、壁に凭れたようにして絶命した魔族の姿もあった。他にも氷の身体が砕け散った痕跡があり、別の広間はまるで硝子の破片が敷き詰められたようになっていた。それだけ多くの氷系の魔物や魔族があの部屋にいたということだろう。
 皆、氷王の部下たちだ。

「ゼムベルト、味方の兵士たちは」
「味方はいない。私一人でここに来たからな」
「たった一人でこれだけの数を? 何故、そんな無謀なことを?」
「一刻も早く君を助けたかった。それに帝国軍が来たところで、私にとっては足手纏いになるだけだ」

 やっぱり、ゼムベルトは勇者の生まれ変わりなんだな。
 一国の軍勢を足手纏いだなんて。
 僕を倒した男だけのことはある。
 氷王もあんなにあっさり倒してしまったのだから。
 階段を昇り、しばらく歩くと先ほどの殺伐な雰囲気から一転して、誰一人居ない廊下に出る。
 ずいぶん城の中を彷徨った末に僕の元にたどり着いたんだろうな。
 ゼムベルトは氷王の城の構造を既に把握していて、二階の突き当たりの部屋が客間であることも分かっているようだった。
 ドアをあけると全面の壁が鏡張りという不思議な部屋だった。
 いや、鏡じゃなくてこれは氷だ。部屋の壁が氷で出来ているのだ。不純物ひとつない罅一つ無い氷の壁は、鏡のようにくっきりと僕らの姿を写していた。
 天井も鏡のように寝台をうつしている。
 何だか不思議な部屋だ。
    ゼムベルトは僕をベッドに寝かせ、サイドテーブルに掌サイズの赤い石を置いた。


温風魔法ヒートウィンド

 

 呪文を唱えると赤い石が光り、ヒンヤリしていた空気がたちまち温かくなる。
 ゼムベルトはおもむろに自分の鎧をはずし、服を脱ぎ始める。
 露わになる鍛え抜かれた肉体を目の当たりにし、僕の顔はだんだん熱くなってきた。

「温風によって氷の壁が多少溶けるだろうな」
「あ、あの……何で殿下が脱ぐんですか?」
「殿下じゃない。ゼムベルトだ」
「で、ではゼムベルト様……どうして」
「様も不要だ」
「ぜ、ゼムベルト……何故、服を……」
「それほど恥じらうとは。私が服を脱いだからか? それとも下の名前で呼ぶのが恥ずかしいのか」

 くすくす笑いながらゼムベルトは僕の上に四つん這いになる。
 僕は顔を真っ赤にしながら「両方です」と小さな声で答えた。
 自分でも嫌になるくらい小さな声で、しかも震えていた。
  
「ジュノの身体はすっかり冷え切っている。あたためてやらないとな」

 ゼムベルトは僕の服をゆっくりと脱がせる。
 前回は消去魔法イレストで衣服を消してしまっていたけれど、今度は僕に逃げる余地を与えるかのようにゆっくりと脱がせてくる。
 僕は、拒否できなかった。
 

 なにげなく天上を見た僕は、ゼムベルトの右の尻……腰に近い位置に鳥が翼を広げたような痣があるのに気づいた。 
 あれが勇者の証である聖痕か、
 まるで翼のエンブレムみたいだな。
 ノアの聖痕は胸の中心にあったけれど、肝心の勇者様はあんな所に聖痕があるんだもんな。
 ちょっとミレムの女神様の悪意を感じる。
 戦っている時にあの痣が輝いていたのかな?
 そう考える内に、僕は服も下着も全て脱がされてしまっていた。
 生まれたままの姿になった僕は、ゼムベルトに抱きしめられる。


 ……温かい。

 冷え切った僕の身体に温かい熱が徐々にしみこんでくる。
 時々ゼムベルトは愛しそうに僕の額に口づける。
 それ以上のことはしてくる様子はない。

 それ以上のことって……僕は何を言っているんだ?

 まるで、何かを期待していたみたいじゃないか。
 僕は目を閉じる。
 とにかく一度眠ることにしよう。凍えた身体を温め、それから体力と魔力を回復させないと。
 ここは確かデスフリード山の山頂だ。
 下山するだけでも体力が必要になるからね。


 どれくらい眠っていたのか分からない。
 目を覚ました時、先に目を覚ましたのか、それともずっと見守ってくれていたのか、ゼムベルトは右手を枕にして僕のことをじっと見詰めているみたいだった。
 身体はすっかり温まり、体力も魔力も回復している。
 目を覚ました僕を見てゼムベルトが嬉しそうに笑って、唇にキスをしてきた。
 少し触れてすぐに離したので、僕は思わず彼のディープブルーの目を見詰め返す。
 僕は、きっと物足りないという顔をしていたのだろう。
 ゼムベルトは一つ頷いてから僕を抱きしめ唇をもう一度重ねてきた。
 今度は僕の口に覆い被さるような口づけをし、ざらついた舌が唇を舐めてくる。
 息をしようと思わず開いた唇が、あっさり舌の侵入を許してしまう。
 唾液を纏った舌が熱い吐息と喘ぎ声と共に絡みつく。
 しばらく深いキスを味わい、そして互いの唇を啄んでからゼムベルトは僕に囁く。

「何度味わっても足りないな……ジュノとのキスは」

 そしてもう一度キスをする。
 舌が触れあう度に、身体の芯が熱くなっていく。
 ゼムベルトの手が僕の腰から下へ移動する……あ、お尻……まるで双丘の形を確認するかのような優しく触れてくる。却ってその方が恥ずかしい。

「ゼムベルト……」

 思わずその名前を呼んで彼を見上げる。
 セムベルトは困ったように笑みを浮かべて僕に言う。

「そんな切ない顔をするな。勘違いしてしまうだろう?」
「勘違い?」
「ジュノが私に抱かれたがっている、と」
「――――」

 そんな顔をした覚えはない……覚えはないのに、そう指摘された瞬間、どくんっと胸が高鳴った。
 ゼムベルトが僕を見詰める眼差しはあくまで優しいものだ。
 だけど身体を密着させているから分かる。
 表情とは裏腹にゼムベルトの雄は猛り狂った状態だ。

 僕のせいで勇者の雄がこんなになってしまっているのか?

 ぞくり、と得体の知れない高揚と共に身震いが生じる。
 僕を求めてくる勇者は、どんな顔をするのだろう?
 男の理想を極めた存在でもある勇者に抱かれるのはどんな感覚なのか。
 
「否定しないのか? ジュノ」

 甘い声で問いかけてくるゼムベルトに、僕は答えずに一つだけ頷く。
 欲しい……この男が欲しい。
 前世は魔王と勇者、今世は、帝国の皇太子と奴隷に成り下がった貴族。
 こんな関係は許されないと分かっているのに。
 今、僕の中でどうしようもない欲望が支配している。
 もっとあらゆる場所を触れられてみたい。ゼムベルトの熱い手で、舌で、唇で。
 そして――――
 今、猛り狂った雄の証でこの身体を貫かれてみたい。
  

「すまない……出来るだけ優しくするが、抑えがきかないかもしれない」
「かまわない。ゼムベルトがしたいように僕のことを抱いて」

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