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第二章

第21話 ノアの探し人

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 ある日、ノアと共にギルドの食堂で食事をとっていた。
 今日のメニューは鳥の丸焼きと野菜スープ。それから黒糖のパンだ。
 アークライト城内で食べていた上等な料理とはまた違う美味しさがある。焦げる寸前までカリカリに焼いた鳥の皮がとくに好きだ。
 食事をしながら、とりとめもない雑談をしている内に、僕は何の気なにしノアに尋ねた。

「ノアは何故、定住せずに冒険者を続けているんだ?」
「んー……」

 ノアはとても陽気な性格だけど、あんまり自分のことは話さない。無精髭をはやしているし、髪型も無造作なもんだから、がさつな性格かと思ったけれど、肉を食べる時のナイフとフォークの使い方が妙に綺麗なんだよな。食べ方もあんまりがっつくような感じじゃないし。
 僕がそれをノアに言ったら、SSクラスの冒険者になると貴族との付き合いもあるから、テーブルマナーも覚えないといけなくなるんだ、と答えていた。
 うーん、付き合いのために覚えたにしては、所作が自然に出ているような気がするんだけどな。
 
 まぁ、僕も秘密にしていることはあるし、あんまり詮索するつもりはなかったのだけど、その日のノアはお酒も入っているせいか、少しだけ話をしてくれた。

「探している奴がいるんだよな」
「探している人?」
「運命の相手さ。遠い昔、すっげぇ美人に出会ったのよ。俺は一目惚れとかしないタイプだと思っていたけどよ、そいつに出会った瞬間、心を鷲づかみにされちまった」
「その人を探しているんだ?」
「ああ……あの時は敵同士だったけどよ。今はもう戦もない時代だ。俺はあいつを見つけ出して、今度こそ俺の男にしてやろうって思ってんの」
 
 俺の男?
 美人さんって言うから途中まで女性のことかと思っていたけれど、男性のことだったのか。
 ふうん、意外だな。

 ノアはSS級の冒険者だ。
 冒険者のクラスの中では最上級クラスの実力者。僕も早いところそこまで到達したいところだけど、SS級クラスなるには、それ相応の魔物を倒さなきゃいけないわけで、そんな強い魔物って滅多にいないんだよな。
 ノアは旅の途中で、村の畑を荒らすキラートロルを五体倒した功績によりSS級に昇格したらしい。
 SS級となるといわゆる高給取り。ノアは顔も端正だから女にもモテるけど、あいつはどんな綺麗な女性に言い寄られても全く靡かない。一目惚れしないタイプというのは本当なのだと思う。

 どちらかというと硬派なノアの心を掴んだのはどんな人なんだろうな。
 機会があれば会ってみたいな。

「まぁ、僕もずっとノアに甘えてばかりじゃいられないから。いつでも運命の相手を探しに行けばいいと思うよ」
「何だよ、自立するの早ぇな。寂しいからもう少しここにいてくれとか言わねぇのかよ」
「じゃあ、寂しいからもう少しここにいてください」
「じゃあ、じゃねえだろ!? 棒読み口調で言いやがって」

 拗ねたように唇を尖らせてから、ノアは酒を一気に飲んだ。
 馴染みのある友達が去るのは心細い気持ちはあるけれど、いつまでも甘えていちゃいけないのも事実。ましてや、探している人がいるのにそれを邪魔したら悪いからね。
 
「まぁ、今度の仕事が終わるまではここにいるつもりだよ。次回はかなりの大物だからな。やり甲斐があるし」
「デスフリード山にいる魔物、アイスドラゴンの捕獲だね」
「駆除するのであれば簡単だけど、生け捕りだからな。今回もお前の補助があると助かる」
「捕縛魔法で捕まえたらいいんだね」
「そういうこと。いつものように俺がアイスドラゴンを引きつけるから、お前が捕縛魔法で動きを封じて欲しい。そこで俺が収納魔法を唱えるから」
「天気さえ悪くなきゃ楽勝だね」
「ああ……ただ山の天気は変わりやすいからな。今回は魔物よりも、天候との戦いになりそうだ。成功すれば法外な報償が手に入る。俺も旅費が稼げるし、お前もしばらくの間は生活に困らない筈だ」

 そう言ってノアはジョッキを片手に乾杯のポーズをとった。
 僕もこくりと頷いて手に持っているグラスを軽く持ち上げた。
 何だか前祝いみたいだな。まだ成功するって決まったわけじゃないけど、仕事は常に前向きの方がいいよね。
 僕は葡萄酒をくいっと一口飲んだ。
 天候は確かに気になるけれど、アイスドラゴンはそこまで強敵ではない。気を抜かずに万全な準備をしておけば失敗はしない筈だ。
 だけど、何だろうな。

 
 デスフリード山……何かいたような気がするんだけど何だったっけ?
 アイスドラゴン以上にやっかいな奴がいたような気がするんだけど。  

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