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第一章
第13話 前世魔王だった僕は子供たちに魔法を教える
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「あなたも元は魔導師。魔法を教えていた立場の人間だった筈なので、出来ると思うのですが」
「……」
いや、それより僕は自分の魔法の修行を進めたいのだけど。
魔導師の頃の記憶なんてないに等しいのにどうやって?
「お兄ちゃん格好いいねぇ」
「目の色、宝石みたい~」
「お兄ちゃんが、授業してくれるのー?」
……子供たち、そんな期待に満ちた目で僕を見るんじゃない。
本当に情があるというのは不便なものだ。人格そのものが前世の時のままだったら、平然と無視していただろうな。
まぁ、修行の息抜きぐらいにはなるかもしれないね。
「今は何を教えているんだ?」
「光弾丸の作り方を」
「どの段階まで進んでいる?」
「一応、光弾丸を作るところまではできるようになりました」
光弾丸は球体の光のエネルギーをボールのように投げつける攻撃魔法だ。
初級の魔法だが、込める魔力によっては上級魔法の威力を持つ。球体が大きいほどその威力は増す。
「じゃあ、君たち。光弾丸を作れる所まで作ってみてくれないか?」
僕が言うと子供たちは大きく頷いて、掌を向かい合わせる構えをとった。
魔力を掌と掌の間に集中させ光の球を作り出すのだ。
通常、攻撃として使える球体は林檎より一回り大きくないといけない。しかし、魔法士の卵たちは、顔を真っ赤にして魔力を集めようとしているが、せいぜい豆粒ほどの大きさの球体しか作る事が出来ないようだ。
弾丸を大きくするまでには、まだ至っていないようだな。
「よし。いったん止め。君たち木の下に集まって。今からここで瞑想をはじめる」
「めいそう?」
「迷走?」
「めいそーって何?」
年少の子供たちは瞑想の意味が分からず首を傾げている。一方、アドラをはじめ年長の子供たちは、瞑想の意味はさすがに分かっているようだが、何故瞑想をするのか分からずにやはり首を傾げている。
まずは集中力の訓練だ。
強力な魔法を放つには短時間に魔力を集中させないといけないからだ。
特に注意力が散漫になりがちな小さな子供たちは、まず集中力を鍛える訓練が必要となる。
「足を組んで座って。まずは何があっても動かないことから始める」
子供たちは僕の指示に従い、木の根元に着座し、静かに目を閉じる。
これは簡単なようで実は難しい。特に注意が散漫な子供はね。
今は集中しているが、十分後にはもぞもぞ動き出す子供が現れるはずだ。
オルティスはそんな子供たちの様子に満足そうに頷いてから、手を胸の前に当て僕に向かってお辞儀をした。
「それでは子供たちの授業をお願いします。私は外へ出掛ける用事がありますので」
「出掛ける? 本来ならお前が受け持つ授業を僕に任せてどこへ出掛けようというのだ?」
訝る僕の問いかけに、オルティスは申し訳なさそうに頭を下げて言った。
「実は皇室が経営している孤児院の様子も見ておきたいのです。あとノリスデン街にあるギルドの館には国外の情報が入ってくるので、情報を得るのに月一回はそこを訪れることにしているのです」
ノリスデンといえば、ヴィングリードで一番貿易が盛んな港街だったな。
そこにあるギルドの館なら国外の情報も入ってくるのだろう。
ギルドの館は商人や冒険者が仕事の仲介や斡旋をする場として設けられていて、情報屋の出入りも多いという。
僕は現世じゃ箱入り息子……というより軟禁状態だったから、ギルド館のことは話でしか聞いたことがないんだけどね。
現在オルティスは大魔導師という地位で、宮廷魔法士達に魔法を教える立場らしい。前世の僕と同じ職業みたいだね。
だけどおよそ八百年前から皇室に仕えている身として、様々な形で国政を補佐しているとのこと。
つまり何かと忙しいわけだな。
「分かった、お前が戻ってくるまでには、この子たちを実戦で使えるくらいにはしておく」
「まだ子供ですから、そこまでは無理ですよ」
笑いながら去ってゆくオルティスに僕は首を傾げる。
そうかな? 子供とはいえ、光弾丸を作る事ができるのであれば、コツと集中力さえ身につけばすぐにでも実戦で使えるようになると思うけどな。
特に年長の子は……お、アドラは微動だにしないな。妖精族だけに自然と同化するのが上手い。彼は今、大樹に共鳴し、彼自身大樹になったかのようにどっしりと構えている。
ふと、僕は思い出す。
そういえば、僕は今みたいに沢山の子供たちに魔法を教えていた。その中でも特別に優秀な子供がいた。あの子の名前は何といったか……やっぱり思い出せないな。今、少しだけ前世教えていた生徒の顔がよぎったのだけど。
くしゅんっっ!!
不意に瞑想をしていた魔族の子供がくしゃみをして、僕は我に返った。
いや、今は前世のことを思い出している場合じゃなかった。
年少の子供はやはりすぐに集中力が切れたな。さっきみたいにくしゃみをする子供もいれば、欠伸をする子供、寝てしまっている子もいるな。
だけど年長組はまだ動く気配がない。
なかなかいい生徒たちだ。
年長組の子供たちなら鍛えようによっては三日で上級魔法使いになるな……いや、よそう。今は基本、魔族と人族との戦争はないのだから。そんな強力な魔法士を急いで作る理由もない。
でも、教えたくてうずうずしている自分がいる。
やっぱり前世が魔王だった以前に、魔導師だったからかな。
子供たちに魔法を教えることで、失っていた記憶を思い出すことが出来るかもしれないな。
「……」
いや、それより僕は自分の魔法の修行を進めたいのだけど。
魔導師の頃の記憶なんてないに等しいのにどうやって?
「お兄ちゃん格好いいねぇ」
「目の色、宝石みたい~」
「お兄ちゃんが、授業してくれるのー?」
……子供たち、そんな期待に満ちた目で僕を見るんじゃない。
本当に情があるというのは不便なものだ。人格そのものが前世の時のままだったら、平然と無視していただろうな。
まぁ、修行の息抜きぐらいにはなるかもしれないね。
「今は何を教えているんだ?」
「光弾丸の作り方を」
「どの段階まで進んでいる?」
「一応、光弾丸を作るところまではできるようになりました」
光弾丸は球体の光のエネルギーをボールのように投げつける攻撃魔法だ。
初級の魔法だが、込める魔力によっては上級魔法の威力を持つ。球体が大きいほどその威力は増す。
「じゃあ、君たち。光弾丸を作れる所まで作ってみてくれないか?」
僕が言うと子供たちは大きく頷いて、掌を向かい合わせる構えをとった。
魔力を掌と掌の間に集中させ光の球を作り出すのだ。
通常、攻撃として使える球体は林檎より一回り大きくないといけない。しかし、魔法士の卵たちは、顔を真っ赤にして魔力を集めようとしているが、せいぜい豆粒ほどの大きさの球体しか作る事が出来ないようだ。
弾丸を大きくするまでには、まだ至っていないようだな。
「よし。いったん止め。君たち木の下に集まって。今からここで瞑想をはじめる」
「めいそう?」
「迷走?」
「めいそーって何?」
年少の子供たちは瞑想の意味が分からず首を傾げている。一方、アドラをはじめ年長の子供たちは、瞑想の意味はさすがに分かっているようだが、何故瞑想をするのか分からずにやはり首を傾げている。
まずは集中力の訓練だ。
強力な魔法を放つには短時間に魔力を集中させないといけないからだ。
特に注意力が散漫になりがちな小さな子供たちは、まず集中力を鍛える訓練が必要となる。
「足を組んで座って。まずは何があっても動かないことから始める」
子供たちは僕の指示に従い、木の根元に着座し、静かに目を閉じる。
これは簡単なようで実は難しい。特に注意が散漫な子供はね。
今は集中しているが、十分後にはもぞもぞ動き出す子供が現れるはずだ。
オルティスはそんな子供たちの様子に満足そうに頷いてから、手を胸の前に当て僕に向かってお辞儀をした。
「それでは子供たちの授業をお願いします。私は外へ出掛ける用事がありますので」
「出掛ける? 本来ならお前が受け持つ授業を僕に任せてどこへ出掛けようというのだ?」
訝る僕の問いかけに、オルティスは申し訳なさそうに頭を下げて言った。
「実は皇室が経営している孤児院の様子も見ておきたいのです。あとノリスデン街にあるギルドの館には国外の情報が入ってくるので、情報を得るのに月一回はそこを訪れることにしているのです」
ノリスデンといえば、ヴィングリードで一番貿易が盛んな港街だったな。
そこにあるギルドの館なら国外の情報も入ってくるのだろう。
ギルドの館は商人や冒険者が仕事の仲介や斡旋をする場として設けられていて、情報屋の出入りも多いという。
僕は現世じゃ箱入り息子……というより軟禁状態だったから、ギルド館のことは話でしか聞いたことがないんだけどね。
現在オルティスは大魔導師という地位で、宮廷魔法士達に魔法を教える立場らしい。前世の僕と同じ職業みたいだね。
だけどおよそ八百年前から皇室に仕えている身として、様々な形で国政を補佐しているとのこと。
つまり何かと忙しいわけだな。
「分かった、お前が戻ってくるまでには、この子たちを実戦で使えるくらいにはしておく」
「まだ子供ですから、そこまでは無理ですよ」
笑いながら去ってゆくオルティスに僕は首を傾げる。
そうかな? 子供とはいえ、光弾丸を作る事ができるのであれば、コツと集中力さえ身につけばすぐにでも実戦で使えるようになると思うけどな。
特に年長の子は……お、アドラは微動だにしないな。妖精族だけに自然と同化するのが上手い。彼は今、大樹に共鳴し、彼自身大樹になったかのようにどっしりと構えている。
ふと、僕は思い出す。
そういえば、僕は今みたいに沢山の子供たちに魔法を教えていた。その中でも特別に優秀な子供がいた。あの子の名前は何といったか……やっぱり思い出せないな。今、少しだけ前世教えていた生徒の顔がよぎったのだけど。
くしゅんっっ!!
不意に瞑想をしていた魔族の子供がくしゃみをして、僕は我に返った。
いや、今は前世のことを思い出している場合じゃなかった。
年少の子供はやはりすぐに集中力が切れたな。さっきみたいにくしゃみをする子供もいれば、欠伸をする子供、寝てしまっている子もいるな。
だけど年長組はまだ動く気配がない。
なかなかいい生徒たちだ。
年長組の子供たちなら鍛えようによっては三日で上級魔法使いになるな……いや、よそう。今は基本、魔族と人族との戦争はないのだから。そんな強力な魔法士を急いで作る理由もない。
でも、教えたくてうずうずしている自分がいる。
やっぱり前世が魔王だった以前に、魔導師だったからかな。
子供たちに魔法を教えることで、失っていた記憶を思い出すことが出来るかもしれないな。
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