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ボッカの街へ帰還する
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あの後、集まった仲間達と助け出した生存者7名と共に、元オークの集落のオーガが居た小屋の前にあったスペースで野営を行ったダン一行。
まだ小屋の中の方が快適なのでは? と思ったが、小屋の中に居ると囚われていた頃の記憶が蘇ってくるとのことで、外で一夜を明かすこととなったのだ。
「それはまあいいとして……あの3姉妹、テンション高すぎじゃないですか?」
オークの集落に置かれていたかがり火を集めて、周囲の暗がりを無くす(やはり夜間しかも外である事から、冒険者ではなさそうな生存者5人に配慮して)作業をしていたダンは、中央に据え付けたかまどの周りで座っているリルをなんやかんやとヨイショしている獣人3姉妹を見ながらそう言った。
ヨイショされているリルも滅多にない状況だからだろうか? 珍しく何かを熱弁しているようだった。
「まあ、オーガに囚われていた状況から助け出されて、少々気持ちが高ぶっているのはしょうがないかと」
そんなダンに苦笑しながら言うウェンディ。自らも似た境遇だったこともあるため、3姉妹の行動も致し方ないと考えていた。
とりあえず、野営すると決めたスペース全体を照らせるほどのかがり火を集め終わったダンは、ようやく休めると中央からやや離れた位置に腰を下ろした。
「ご苦労であったなダン」
「お疲れ様です」
そこにはルフやライ、アレックスが居た。これも生存者たちへの配慮である。
いくら助け出してくれた冒険者たちとは言え、男性が傍に居ると女性として落ち着けないだろうというパーティメンバーの意見を尊重した形だ。
「いえいえ、なにせ僕はほとんどオーク達の相手をしていませんでしたからね。これくらいは軽いものですよ」
小屋に居たオーガを倒した後、ダンが倒したオークの数はそう多くはない。
「しかし隠れていたオークを倒したのはダン殿ですからな。単に数の優劣だけで判断するのも違うかと」
アレックスがそうダンの言葉をやんわりと否定する。事実、今のオーク集落の中にはオークの生き残りが全く居ない状態だ。これでもし生き残ったオークが居れば、こんな気が緩んだ感じの夜営など出来てはいなかっただろう。
「あれは、まあ、作業みたいなものですからね」
アレックスに言われてダンも若干テレていた。ダンは褒められ慣れていないのだ。
「ダン殿! ダン殿は居るか!?」
丁寧に話そうとしたのかダンを『殿』付け呼びし、それでも『居るか?』などと言ってしまうくらいの使い慣れていない言葉遣いでダンを呼ぶのは獣人3姉妹の長女だ。確か名前はイチカといったか。
「はいはい。こちらに居ますよ~」
片手を上げて自分をアピールするダン。その声に気づいたイチカがダンのもとまで歩いてきた。
「あなたがダン殿か。私達をオーガから救ってくれたという?」
イチカの問いかけに「まあ、一応」と答えるダン。おそらく小屋の中での出来事は、夢現の出来事だと思っていたのだろう。ハッキリとダンの顔を覚えていないようであった。「それよりも――」と続ける。
「無理に丁寧な言葉遣いをしなくてもいいですよ? 僕はそれほど気にしませんし」
ダンに言われて「むむむ」と悩んだイチカであったが、すぐさま切り替えたのか大きく首を縦に振った。
「――分かった。それで先程リル様から聞いたのだが、ダンはリル様の旦那様ということでよろしいかな?」
何やら目を輝かせて聞いてくるイチカに、ダンは『こりゃダメっぽいな』と首を左右に振った。
「ん~。僕としてはまだ結婚は考えていませんし、かといって別の、特定の誰かとそうなるか? と言われてもなぁ、という状況ですねぇ。……そんな訳でリルさんの旦那とかではありませんから」
そうダンが答えると、イチカはやや顔を赤くした様子でダンへと詰め寄ってくる。
「ということは、まだ妻となる空きはあると?」
「待ってください。――なんですか、その理論は?」
「いや? リル殿が『強い牝を目指すなら、強い雄を伴侶にするのが手っ取り早い』と名言を言われたのでな。あたし達でも指一本すら触れることが出来ずに負けたオーガを相手に、何もさせずに瞬殺したダン殿こそまさに『強い雄』だろう?」
『何を言ってるんだ?』という顔をするイチカに、ダンも『お前こそ何を言ってるんだ?』と表情で返す。
「……そうしっかりと見つめないでほしい。さすがに照れるぞ?」
ダンの思いは伝わらず、イチカに更なる変な誤解をさせるだけとなってしまった。
「とりあえず僕達はミカさんからの『依頼』という形であなた方を助けに来ただけですからね? それ以外を考えたり、何かする気もありませんからね?」
ダンは念には念を押すようにイチカへと告げる。そのイチカの背後、まだ距離を置いてはいるが残った姉妹2人も何やら挙動不審な様子であった。
入念に釘を刺しておかないと、ダンの身に危険がおよぶ予感があった。
ついでにリルもどこかで一回正気に戻さないと、妙な意識や考えを他人に植え付けかねない。
ダンがそう決心を固めていると、中央のかまどで調理をしていた者が声掛けを始めた。
「簡単ではありますがスープを作りました。体を休める前に多少でも何かをお腹に入れた方が良いと思います」
「さ、あんた達も食いな? 捕まってて、まともな物を食えてたと思えないしな」
エミリーとファーニがそう言って生存者たちへといくつか具の入ったスープを提供していく。
いくつかの芋と香草、そしてマジックバッグにまだ残っていた牛型魔物の肉が入ったスープが配られていく。
赤い肉ではオークを連想しないのか、薄くスライスされた肉を他の具材と共に普通に食している女性達の様子に安堵するエミリーとファーニ。スープを作る際にダンから提供された食材の中から、栄養や腹持ちを考えて作ってみたものの、レッドモウの肉に拒否反応が出ないか少し不安があったのだ。
なら肉を使わない料理を最初から作ればいいじゃないか。と言われそうだが、さすがにここまで強行軍で進んできたダン達もまともな食事を食べたかったし、ルフ達3人の味覚も満足させるとなると魔物由来の食材を使いたかったという理由もあったりする。
その場の全員が満足する量を食べ終え(若干名はまだ食べたそうにしていたが)、ダン達はマントや毛布を配ると夜間の見張りを自分達ですると伝えて生存者に寝る様に言った。翌日から街へと移動するから出来るだけ体力を回復するようにと。
それを聞いた7人の内5人は直ぐに気を失ったように寝てしまった。睡眠ですらまともに取れなかったのだろう。
逆に何故か約3名はダンへとちょっかいを掛けに来ようとしていたが、ダンが寝ずの番をしていたことに気づかずに襲い掛かったところ、見事な動きで3人共に簀巻きにされて転がされることになったりもしていた。
無事(?)に夜が明けて、翌朝を迎えた。
まだ内臓が弱っている可能性を考えて、具入りの麦雑炊を作って朝食を全員へと振舞う。
「さて、どうやって移動しましょうかね?」
モグモグとレッドモウの肉入り麦雑炊を食べながらダンは考えた。
行きと同じようにゴリアテに乗せられればベストなのだが、ゴリアテに急遽作った籠は乗れて3人がいいところのスペースしかない。
他の助けた人達と比べたら体力がありそうな冒険者である獣人姉妹を除いたとしても生存者は5人。さすがに入れ代わり立ち代わり5人の内2人に常に歩いてもらうとなれば、街に着くまでの時間はさらに掛かるだろう。
そもそもどれだけの期間囚われていたのか分からないが、ずっと小屋の中に閉じ込められていたとしたら1日の運動量もほぼゼロだっただろうし、体力が落ちているのはまず間違いないだろう。
「ゴリアテの籠をもう少し広げてみますかね?」
「それについては私から提案するものがあります」
ダンが自身が考える方法を口にすると、スッと挙手をしてダンへと声を掛けたのはロマリアだった。
「うん? 何か、ゴリアテのいい改修案でもありますか?」
「そうです。それはイリア姉さんのゴリアテを――という話ではなく、私のゴリアテをと言う案です」
「ロマリアさんの? でもあれは――」
「手も足もついてなかったのでは?」と言いかけたダンを制止するようにロマリアが手の平を突き出す。
「『百聞は一見に如かず』と言います。まずは私のゴリアテの胴体を出していただけますか?」
ダンは『ヒャクブンってなんだろ?』と思いつつ、ロマリアに言われたようにマジックバックを漁ってロマリアのゴリアテを取り出した。
既に広場にはイリアのゴリアテが座っていたが、その横に同じようなゴーレムが突如出てきたことに生存者達から悲鳴のような声が聞こえてきた。
ちょっと失敗したなぁとダンは思いつつも、今更仕舞ったところで何も変わることがないので改めてロマリアのゴリアテを見ることにした。
基本的な形状はやはりイリアのゴリアテと変わらないものであったが、よく見れば細部が微妙に違っているのが見て取れる。
それはイリアのゴリアテで言うところの手足が付いている部分の構造であった。
ロマリアのゴリアテはよく見れば、本来は手足が付いている箇所に複数の穴が付いているような構造だったのだ。さらに回り込んで見てみれば背後や前面にも似たような穴が付いている。穴と表現しているが、実際には金属の輪がはまった様な段差と内側には黒い金属板が付いているようなモノであった。
なんと例えればいいのだろう――
「――ブチ模様のゴリアテ、ですかね?」
「違います!……ンン、イリア姉さんのゴリアテは最初期型。私のゴリアテはそれを元にした新機能を登載したモノなのです。それで次に『防人』を出していただきたいのですが」
ダンは『サキモリ』と言われて一瞬何のことか思い出せなかったが、横からキョーコに「人くらいのサイズのゴーレムの事よ」と言われて、ロマリアの言ったゴーレムの存在を思い出してマジックバックからいくつか取り出して地面に積み上げた。
マジックバックは取り出す対象を明確に思い浮かべられないと、その物を上手く取り出すことが出来ないという欠点がある。後の片付けの手間などを考えなければ、『全て出す』と念じながら袋をひっくり返せば内容物を全て吐き出すことは可能ではあるのだが。
思った以上に出てきたゴーレムに呆気にとられた顔をしたロマリアであったが、ハッと意識を取り戻すとその内の1体を掴み上げた。
「私のゴリアテは『ゆにばーさるこあしすてむ』設計となっておりまして」
「ゆにばー……?」
「えっと、『共通』とかって意味だっけ?」
「ええ。……もっとも私たちの生みの親である博士は『たこあし接続』と最後まで呼んでいましたが」
なぜか遠くを見つめるロマリアにキョーコだけが何やら共感した様だ。ダンが分かったことは『足接続』という部分だけであったが。
ロマリアはそんな何処とも知れないところを見た姿勢のまま、手に持ったゴーレムの足に力を込め始める。
「まあ名前なんてどうでもいいですよね? 要は私のゴリアテは『整備がしやすい造り』になって、い、ると……!」
説明をしていたロマリアの息遣いが急に荒くなったと思い見てみると、手にしたゴーレムの足を股裂きにでもしようとしているのか顔を赤らめて力を込めているのが見えた。
「……何をしたいのでしょうか?」
「いえ! 防人の! 手足も! 共通規格なので! 部品として! 使おうとしているのですが!」
「フン! フンッ!」と力を込めているロマリア。
先ほどまでの雰囲気など何処に行ったという感じで、両手両足を使ってゴーレムの足を引っこ抜こうとしている様子はどこか狂気を感じさせるモノであった。
「あ、もしかして――」
ロマリアの様子を一緒に見ていたキョーコとイリアが、ゴーレムの山へと向かっていくつかゴーレムを調べ始めた。そして――
「ロマリア取れたよ~」
然したる力を込めた様子もなくあっさりとゴーレムの足を外したキョーコが、未だに苦戦しているロマリアに向かって外した足ごと腕を振っていた。
「なぜ!?」
「ソレたぶんだけどイリアのトコのヤツじゃない?」
キョーコに指摘されて自らが持っているゴーレムを子細にチェックし始めるロマリア。そして――
「――クソが! 紛らわしいモン作りやがって!!」
持っていたゴーレムを地面へと勢いよく叩きつけた。
「あー……。あんたの妹、情緒不安定すぎじゃない?」
「ここは理不尽すぎる世界ですからねー。どこかで不満は吐き出した方がいいんじゃないかとー」
引き気味な様子で隣にいたイリアに言うキョーコと、その問いかけにどこか達観した眼つきをしたまま答えるイリア。
地面にのの字を書き始めたロマリアの所に、バラバラにしたゴーレムの手足をいくつか無言のまま運んでいく2人。目線で『もう充分だと思う』と言われたダンは残ったゴーレムの山を再度マジックバック仕舞っていく。
「――さあ。こうして外した足をゴリアテに付けて、っと」
「無かったことにしたわね」
「無かったことにしましたね」
何事もなかったかのように再起動を果たしたロマリアはゴリアテにゴーレムの足を近づけていく。そうするとゴリアテに引き寄せられるようにゴーレムの足がゴリアテの胴体へとくっつく。
キョーコとイリアもその作業を手伝うと、あっという間にゴリアテに4組の足が取り付けられた。
それは8本足を持つ伝説の魔馬、スレイプニールの様に――
「いや、ないな」
直進方向に特化した様に、4人縦に並んだ人が腰の高さで持ち上げる豪華な椅子といったフォルムだ。ゴーレムの足や体で出来ているから全体的な感じは統一されているが、足だけ異様に生えているの何か歪な生き物を連想させる。
さらに肩から左右に2本づつ腕を生やし、背中からも2本の腕を生やしたゴリアテ。
ダンですら見たことのない異形の姿がそこにあった。
「新種のゴーレム。と言っても信じられそうにないですね?」
「姿形に囚われるのは頭の固い人ですよ。機能こそ追究するものなのです!」
「機能を追求したら、この形になるんですかね? ともあれ、この腕に乗せるなり新たに籠でも作って乗ってもらえば移動に支障は無さそうですね。それじゃあ――」
「待ってください!」
早速行動に移そうとしたダンを呼び止めるロマリア。
「まだ何か?」
「まだ何か、というか、まだ無理というか――拡張した装備の認識に時間が掛かるので、ゴリアテはまだ動きません! 丁度お昼くらいには終わるとは思いますが」
ロマリアが空を見上げて太陽の位置を見ながら言う。
ダンも見上げて太陽の位置を確認した。およそ2時間くらいか?
「う~ん。なら移動する前にやることをやっておきますか」
「「「やること?」」」
キョーコ達が揃って首を傾げる中、ダンは「全員集まってください!」と周囲で撤収準備をしている仲間達を呼び集めた。
「この集落を破壊する?」
「また何でそんなことを?」
ファーニとマロンがダンへと聞き返した。
「このまま放置していくと野盗やゴブリンとかが住み着く可能性もありますからね。自然に作られた洞窟なんかは入り口を埋めたりしますけど」
動物などの獣であれば問題は無いが、すぐに住めるようになる小屋などをそのまま残していると知恵のある者達がそこに住み着いてしまう。それが害のない者達であれば何ら問題は無いが、この森の奥地に来るような者達であればほぼ間違いなく問題ありの人や魔物しか居ないだろう。
そういった理由から、この集落を再使用が出来ないように破壊していくとダンが告げたのだ。
「とりあえず大雑把に小屋や周囲の柵を解体をして全てに火をつけていきましょう。石の基礎部なんかは少し残ってしまっても構いません。お昼には出発したいと思いますので、それに間に合う様に手分けして作業をしましょう。――その作業の間は皆さんにはお待ちいただくことになりますが、構いませんかね?」
ダンの説明に集落を破壊する意味を理解した仲間達が散らばっていく中、ダンは作業には参加しない生存者達に断りを入れる。
同じくダンの説明を聞いていた生存者達も「自分達と同じような目に合うような事が起きなければその方がいい」と了承してくれた。若干2名ほど「私達も手伝う!」と元気よく言ってくれたが、昨日助け出したばかりで体力が完全に戻っていないだろうと末っ子を監視役に残して、ダンも手近な小屋を破壊する作業に赴く。
そして太陽が頭上に来る頃に一通りの作業が終わった。
途中、ダンがオーガの小屋を素手で粉砕したときに悲鳴が上がった気がするがおそらく気のせいだろう。
全員で簡単にパンや干し肉、水でお腹を満たすと街へ向かって出発を始めた。
行きほど急ぎ足ではないものの、速足程度の速度で街へと向かうダン一行。
隊列はイリアとロマリアのゴーレム2体を中心に周囲を守るように配置する。
そして索敵兼露払いとしてポーラ、サニー組とクローディア、ロウキ組で先行する形をとった。
「しかしダンよ、お前の仲間は凄い者達ばかりだな」
警戒はしつつも付近に敵影が無いことからちょっとした話をするのは構わない。しかしルフにそう告げられたダンは困惑するしかなかった。
「はぁ。『凄い』ですか?」
「ダン自身が強いからいまいち納得出来ないのかもしれないが、ほとんどの者が保有するスキルレベルが4や3を持っている。これは小国――今でいえば貴族領に居る一番の使い手のレベルとほぼ同じだ。冒険者で言えばランクAぐらいが妥当だろう。……なんで未だにランクDに留まっているんだろうな?」
「あ~、『依頼』を受けていないからですかね?」
ダンは倒した魔物素材の買取りを主な目的として冒険者登録をしたので、依頼実績となるとその数は薬草などの納品依頼の方が多い。討伐依頼などを受けていないのは仲間達の訓練の為、相手を知らせないことを理由に依頼として受けていないことが原因であった。
そのため道中の街ではいくつかの依頼が受けられないまま達成されており、その処理と浮いてしまった依頼料を冒険者ギルドに丸投げしてきたダン一行であった。
ちなみにダン以外は数人が、しかもその全てを把握しているわけではなく、いったいいくつの依頼が表から裏へと消えて行ったのかダンのみぞ知るところであったりする。
ダン達の装備はダンが作って渡しているし、食べ物もいくつか現地調達。出費はそれ以外の宿代や街中で買うものくらい。と普通の冒険者が一番多く出費をする装備品の類がほぼタダで済んでいるため、実はダン達はそこそこ各人がそれなりに貯め込んでいたりする。
魔物素材を売却することで得たお金。
それを分配するだけで十分すぎる程の収入を得ているため、誰も金の事で不満を言わない状況なのでダン一行の誰もがその事の大きさに気づいていなかった。
「ともかく、だ。スキルレベルの高さはある程度の目安となる。そもそもスキルレベルが5を超え始めた段階で達人と呼ばれるのだぞ?」
「僕は正直スキルレベルってあまり信用していないんですよね。アレってどうやって決められているんでしょう?」
ダン自身もステータスをあまり見ないので参考程度、という認識だった。それは以前に「俺のステータスは~」などと自信満々に語っていた相手が、結局弱すぎて危うく半殺しで済まない事態になった経験があってのことだった。
「そ、それはご愁傷様だな……。ふむ、そもそも『鑑定』というのは神官が行うものであることは知っているな? これは神官の『信託』というスキルが由来なのだが、本質はシステムにアクセスして情報を得ている点だ。システムに蓄えられた幾人、幾千もの情報を元にスキルレベルというものは導き出されている。つまり人同士を『比べている』わけだ。そこに好き嫌いなどは関わっておらず、公平に判定された結果がレベルとして表示されるのだ」
「ん~。スキルレベルの恩寵? でしたっけ。あれはどういうものなんですか?」
ダンが言ったのはスキルレベルが上がることによる体力強化などの事だ。
スキルレベルが上がる毎にそのスキルごとの恩寵として体力や腕力、視力や魔力などが強化されることが確認されている。
ちなみにダンは普段『戦乙女の加護』の効果によりスキルレベルが抑えられているので恩寵の効果を受けてはいない。ちょっと他人とは隔絶した強さを見せているのだが受けてはいないのだ。大事なので重ねて言う。
「私もそれほど分かっていないが、おそらくは体が内包出来る闘気や魔素、魔力の量が関係しているのではないかと思う。ダンも闘気で体を部分的に強化したりするだろう? あれと同じことが出来る目安なのだと思うのだ」
そう言ったルフの説明にダンは「なるほど」と頷いた。その説明ならダンでも納得できるからだ。
そんな会話をしている間も偵察をしている2組がほとんどの魔物を撃退し、また横から現れた魔物達も視認されると同時に倒されていく。
そんな様子をゴリアテの籠の上に乗ったまま見ていた生存者達は、2日も過ぎた頃には自分達が安全な位置に居ることが分かったのか緊張も解けて周りを歩いているウェンディ達と会話が出来るまでになっていた。
なぜかダンを見る目が変わってきた気もするが。
そして集落を出て4日目の昼。
ダン達はボッカの街へと無事に帰還することに成功した。
「とりあえず宿でも取りましょうか」
前回ボッカの街に着いた時は真っすぐに冒険者ギルドに寄ったせいで今回の騒動に巻き込まれたダン達。
それ自体は結果として人命救助に繋がった事なので文句をつける気はない。
しかしダンも仲間達も久々の街に寄ったということで、しっかりとした休息を取りたかったのも事実であった。
冒険者ギルドへの報告も生存者の救出が出来た時点で急ぐ必要はないので、ボッカの街でも比較的大きな宿を取ることにした。
生存者達は聞けば小さな村の住人だったらしいが、オーガ率いるオーク達に蹂躙されて帰る家も無いと言う。
ここまで救出からずっと移動続きで、気持ちの整理も必要かと思い一緒に宿を取ることにしたのだ。
全員合わせるとそれなりの人数となるので2、3聞いて回ることになったが、無事に全員が泊まれる宿を見つけると宿泊することに決めた。
その際にダンは不躾な視線を感じたが、全員が泊まれる代金を出すとその視線は消えた。
どうやら支払う金額が高額だったため、冒険者でもちゃんと支払いが出来るのか宿の人も気になったのだなとダンは気にすることなく受け取った鍵を振り分けて渡していく。
「それじゃあ明日まで各自で自由行動という事で!」
ダンはそう言うと一人ボッカの街へと消えていった。
王都やその周辺の街には公衆浴場が必ず設置されているのをダンは知っていたからだ。
久々の風呂へと気分が上がっていたダンは、誰も追跡できない速度で街へと繰り出していった。
数時間後、さっぱりとしたダンが宿へと戻ってくると、何故かそこには悔しがる姿の仲間が数人居たことにダンは首を傾げながらも今日は就寝することにした。
ーーーーー
最近寒くなってきましたが、
皆様も風邪をひかないように気を付けてください。
イノシシは指先が凍えてしまうほどの
部屋の温度に毛布にくるまっております。
まだ小屋の中の方が快適なのでは? と思ったが、小屋の中に居ると囚われていた頃の記憶が蘇ってくるとのことで、外で一夜を明かすこととなったのだ。
「それはまあいいとして……あの3姉妹、テンション高すぎじゃないですか?」
オークの集落に置かれていたかがり火を集めて、周囲の暗がりを無くす(やはり夜間しかも外である事から、冒険者ではなさそうな生存者5人に配慮して)作業をしていたダンは、中央に据え付けたかまどの周りで座っているリルをなんやかんやとヨイショしている獣人3姉妹を見ながらそう言った。
ヨイショされているリルも滅多にない状況だからだろうか? 珍しく何かを熱弁しているようだった。
「まあ、オーガに囚われていた状況から助け出されて、少々気持ちが高ぶっているのはしょうがないかと」
そんなダンに苦笑しながら言うウェンディ。自らも似た境遇だったこともあるため、3姉妹の行動も致し方ないと考えていた。
とりあえず、野営すると決めたスペース全体を照らせるほどのかがり火を集め終わったダンは、ようやく休めると中央からやや離れた位置に腰を下ろした。
「ご苦労であったなダン」
「お疲れ様です」
そこにはルフやライ、アレックスが居た。これも生存者たちへの配慮である。
いくら助け出してくれた冒険者たちとは言え、男性が傍に居ると女性として落ち着けないだろうというパーティメンバーの意見を尊重した形だ。
「いえいえ、なにせ僕はほとんどオーク達の相手をしていませんでしたからね。これくらいは軽いものですよ」
小屋に居たオーガを倒した後、ダンが倒したオークの数はそう多くはない。
「しかし隠れていたオークを倒したのはダン殿ですからな。単に数の優劣だけで判断するのも違うかと」
アレックスがそうダンの言葉をやんわりと否定する。事実、今のオーク集落の中にはオークの生き残りが全く居ない状態だ。これでもし生き残ったオークが居れば、こんな気が緩んだ感じの夜営など出来てはいなかっただろう。
「あれは、まあ、作業みたいなものですからね」
アレックスに言われてダンも若干テレていた。ダンは褒められ慣れていないのだ。
「ダン殿! ダン殿は居るか!?」
丁寧に話そうとしたのかダンを『殿』付け呼びし、それでも『居るか?』などと言ってしまうくらいの使い慣れていない言葉遣いでダンを呼ぶのは獣人3姉妹の長女だ。確か名前はイチカといったか。
「はいはい。こちらに居ますよ~」
片手を上げて自分をアピールするダン。その声に気づいたイチカがダンのもとまで歩いてきた。
「あなたがダン殿か。私達をオーガから救ってくれたという?」
イチカの問いかけに「まあ、一応」と答えるダン。おそらく小屋の中での出来事は、夢現の出来事だと思っていたのだろう。ハッキリとダンの顔を覚えていないようであった。「それよりも――」と続ける。
「無理に丁寧な言葉遣いをしなくてもいいですよ? 僕はそれほど気にしませんし」
ダンに言われて「むむむ」と悩んだイチカであったが、すぐさま切り替えたのか大きく首を縦に振った。
「――分かった。それで先程リル様から聞いたのだが、ダンはリル様の旦那様ということでよろしいかな?」
何やら目を輝かせて聞いてくるイチカに、ダンは『こりゃダメっぽいな』と首を左右に振った。
「ん~。僕としてはまだ結婚は考えていませんし、かといって別の、特定の誰かとそうなるか? と言われてもなぁ、という状況ですねぇ。……そんな訳でリルさんの旦那とかではありませんから」
そうダンが答えると、イチカはやや顔を赤くした様子でダンへと詰め寄ってくる。
「ということは、まだ妻となる空きはあると?」
「待ってください。――なんですか、その理論は?」
「いや? リル殿が『強い牝を目指すなら、強い雄を伴侶にするのが手っ取り早い』と名言を言われたのでな。あたし達でも指一本すら触れることが出来ずに負けたオーガを相手に、何もさせずに瞬殺したダン殿こそまさに『強い雄』だろう?」
『何を言ってるんだ?』という顔をするイチカに、ダンも『お前こそ何を言ってるんだ?』と表情で返す。
「……そうしっかりと見つめないでほしい。さすがに照れるぞ?」
ダンの思いは伝わらず、イチカに更なる変な誤解をさせるだけとなってしまった。
「とりあえず僕達はミカさんからの『依頼』という形であなた方を助けに来ただけですからね? それ以外を考えたり、何かする気もありませんからね?」
ダンは念には念を押すようにイチカへと告げる。そのイチカの背後、まだ距離を置いてはいるが残った姉妹2人も何やら挙動不審な様子であった。
入念に釘を刺しておかないと、ダンの身に危険がおよぶ予感があった。
ついでにリルもどこかで一回正気に戻さないと、妙な意識や考えを他人に植え付けかねない。
ダンがそう決心を固めていると、中央のかまどで調理をしていた者が声掛けを始めた。
「簡単ではありますがスープを作りました。体を休める前に多少でも何かをお腹に入れた方が良いと思います」
「さ、あんた達も食いな? 捕まってて、まともな物を食えてたと思えないしな」
エミリーとファーニがそう言って生存者たちへといくつか具の入ったスープを提供していく。
いくつかの芋と香草、そしてマジックバッグにまだ残っていた牛型魔物の肉が入ったスープが配られていく。
赤い肉ではオークを連想しないのか、薄くスライスされた肉を他の具材と共に普通に食している女性達の様子に安堵するエミリーとファーニ。スープを作る際にダンから提供された食材の中から、栄養や腹持ちを考えて作ってみたものの、レッドモウの肉に拒否反応が出ないか少し不安があったのだ。
なら肉を使わない料理を最初から作ればいいじゃないか。と言われそうだが、さすがにここまで強行軍で進んできたダン達もまともな食事を食べたかったし、ルフ達3人の味覚も満足させるとなると魔物由来の食材を使いたかったという理由もあったりする。
その場の全員が満足する量を食べ終え(若干名はまだ食べたそうにしていたが)、ダン達はマントや毛布を配ると夜間の見張りを自分達ですると伝えて生存者に寝る様に言った。翌日から街へと移動するから出来るだけ体力を回復するようにと。
それを聞いた7人の内5人は直ぐに気を失ったように寝てしまった。睡眠ですらまともに取れなかったのだろう。
逆に何故か約3名はダンへとちょっかいを掛けに来ようとしていたが、ダンが寝ずの番をしていたことに気づかずに襲い掛かったところ、見事な動きで3人共に簀巻きにされて転がされることになったりもしていた。
無事(?)に夜が明けて、翌朝を迎えた。
まだ内臓が弱っている可能性を考えて、具入りの麦雑炊を作って朝食を全員へと振舞う。
「さて、どうやって移動しましょうかね?」
モグモグとレッドモウの肉入り麦雑炊を食べながらダンは考えた。
行きと同じようにゴリアテに乗せられればベストなのだが、ゴリアテに急遽作った籠は乗れて3人がいいところのスペースしかない。
他の助けた人達と比べたら体力がありそうな冒険者である獣人姉妹を除いたとしても生存者は5人。さすがに入れ代わり立ち代わり5人の内2人に常に歩いてもらうとなれば、街に着くまでの時間はさらに掛かるだろう。
そもそもどれだけの期間囚われていたのか分からないが、ずっと小屋の中に閉じ込められていたとしたら1日の運動量もほぼゼロだっただろうし、体力が落ちているのはまず間違いないだろう。
「ゴリアテの籠をもう少し広げてみますかね?」
「それについては私から提案するものがあります」
ダンが自身が考える方法を口にすると、スッと挙手をしてダンへと声を掛けたのはロマリアだった。
「うん? 何か、ゴリアテのいい改修案でもありますか?」
「そうです。それはイリア姉さんのゴリアテを――という話ではなく、私のゴリアテをと言う案です」
「ロマリアさんの? でもあれは――」
「手も足もついてなかったのでは?」と言いかけたダンを制止するようにロマリアが手の平を突き出す。
「『百聞は一見に如かず』と言います。まずは私のゴリアテの胴体を出していただけますか?」
ダンは『ヒャクブンってなんだろ?』と思いつつ、ロマリアに言われたようにマジックバックを漁ってロマリアのゴリアテを取り出した。
既に広場にはイリアのゴリアテが座っていたが、その横に同じようなゴーレムが突如出てきたことに生存者達から悲鳴のような声が聞こえてきた。
ちょっと失敗したなぁとダンは思いつつも、今更仕舞ったところで何も変わることがないので改めてロマリアのゴリアテを見ることにした。
基本的な形状はやはりイリアのゴリアテと変わらないものであったが、よく見れば細部が微妙に違っているのが見て取れる。
それはイリアのゴリアテで言うところの手足が付いている部分の構造であった。
ロマリアのゴリアテはよく見れば、本来は手足が付いている箇所に複数の穴が付いているような構造だったのだ。さらに回り込んで見てみれば背後や前面にも似たような穴が付いている。穴と表現しているが、実際には金属の輪がはまった様な段差と内側には黒い金属板が付いているようなモノであった。
なんと例えればいいのだろう――
「――ブチ模様のゴリアテ、ですかね?」
「違います!……ンン、イリア姉さんのゴリアテは最初期型。私のゴリアテはそれを元にした新機能を登載したモノなのです。それで次に『防人』を出していただきたいのですが」
ダンは『サキモリ』と言われて一瞬何のことか思い出せなかったが、横からキョーコに「人くらいのサイズのゴーレムの事よ」と言われて、ロマリアの言ったゴーレムの存在を思い出してマジックバックからいくつか取り出して地面に積み上げた。
マジックバックは取り出す対象を明確に思い浮かべられないと、その物を上手く取り出すことが出来ないという欠点がある。後の片付けの手間などを考えなければ、『全て出す』と念じながら袋をひっくり返せば内容物を全て吐き出すことは可能ではあるのだが。
思った以上に出てきたゴーレムに呆気にとられた顔をしたロマリアであったが、ハッと意識を取り戻すとその内の1体を掴み上げた。
「私のゴリアテは『ゆにばーさるこあしすてむ』設計となっておりまして」
「ゆにばー……?」
「えっと、『共通』とかって意味だっけ?」
「ええ。……もっとも私たちの生みの親である博士は『たこあし接続』と最後まで呼んでいましたが」
なぜか遠くを見つめるロマリアにキョーコだけが何やら共感した様だ。ダンが分かったことは『足接続』という部分だけであったが。
ロマリアはそんな何処とも知れないところを見た姿勢のまま、手に持ったゴーレムの足に力を込め始める。
「まあ名前なんてどうでもいいですよね? 要は私のゴリアテは『整備がしやすい造り』になって、い、ると……!」
説明をしていたロマリアの息遣いが急に荒くなったと思い見てみると、手にしたゴーレムの足を股裂きにでもしようとしているのか顔を赤らめて力を込めているのが見えた。
「……何をしたいのでしょうか?」
「いえ! 防人の! 手足も! 共通規格なので! 部品として! 使おうとしているのですが!」
「フン! フンッ!」と力を込めているロマリア。
先ほどまでの雰囲気など何処に行ったという感じで、両手両足を使ってゴーレムの足を引っこ抜こうとしている様子はどこか狂気を感じさせるモノであった。
「あ、もしかして――」
ロマリアの様子を一緒に見ていたキョーコとイリアが、ゴーレムの山へと向かっていくつかゴーレムを調べ始めた。そして――
「ロマリア取れたよ~」
然したる力を込めた様子もなくあっさりとゴーレムの足を外したキョーコが、未だに苦戦しているロマリアに向かって外した足ごと腕を振っていた。
「なぜ!?」
「ソレたぶんだけどイリアのトコのヤツじゃない?」
キョーコに指摘されて自らが持っているゴーレムを子細にチェックし始めるロマリア。そして――
「――クソが! 紛らわしいモン作りやがって!!」
持っていたゴーレムを地面へと勢いよく叩きつけた。
「あー……。あんたの妹、情緒不安定すぎじゃない?」
「ここは理不尽すぎる世界ですからねー。どこかで不満は吐き出した方がいいんじゃないかとー」
引き気味な様子で隣にいたイリアに言うキョーコと、その問いかけにどこか達観した眼つきをしたまま答えるイリア。
地面にのの字を書き始めたロマリアの所に、バラバラにしたゴーレムの手足をいくつか無言のまま運んでいく2人。目線で『もう充分だと思う』と言われたダンは残ったゴーレムの山を再度マジックバック仕舞っていく。
「――さあ。こうして外した足をゴリアテに付けて、っと」
「無かったことにしたわね」
「無かったことにしましたね」
何事もなかったかのように再起動を果たしたロマリアはゴリアテにゴーレムの足を近づけていく。そうするとゴリアテに引き寄せられるようにゴーレムの足がゴリアテの胴体へとくっつく。
キョーコとイリアもその作業を手伝うと、あっという間にゴリアテに4組の足が取り付けられた。
それは8本足を持つ伝説の魔馬、スレイプニールの様に――
「いや、ないな」
直進方向に特化した様に、4人縦に並んだ人が腰の高さで持ち上げる豪華な椅子といったフォルムだ。ゴーレムの足や体で出来ているから全体的な感じは統一されているが、足だけ異様に生えているの何か歪な生き物を連想させる。
さらに肩から左右に2本づつ腕を生やし、背中からも2本の腕を生やしたゴリアテ。
ダンですら見たことのない異形の姿がそこにあった。
「新種のゴーレム。と言っても信じられそうにないですね?」
「姿形に囚われるのは頭の固い人ですよ。機能こそ追究するものなのです!」
「機能を追求したら、この形になるんですかね? ともあれ、この腕に乗せるなり新たに籠でも作って乗ってもらえば移動に支障は無さそうですね。それじゃあ――」
「待ってください!」
早速行動に移そうとしたダンを呼び止めるロマリア。
「まだ何か?」
「まだ何か、というか、まだ無理というか――拡張した装備の認識に時間が掛かるので、ゴリアテはまだ動きません! 丁度お昼くらいには終わるとは思いますが」
ロマリアが空を見上げて太陽の位置を見ながら言う。
ダンも見上げて太陽の位置を確認した。およそ2時間くらいか?
「う~ん。なら移動する前にやることをやっておきますか」
「「「やること?」」」
キョーコ達が揃って首を傾げる中、ダンは「全員集まってください!」と周囲で撤収準備をしている仲間達を呼び集めた。
「この集落を破壊する?」
「また何でそんなことを?」
ファーニとマロンがダンへと聞き返した。
「このまま放置していくと野盗やゴブリンとかが住み着く可能性もありますからね。自然に作られた洞窟なんかは入り口を埋めたりしますけど」
動物などの獣であれば問題は無いが、すぐに住めるようになる小屋などをそのまま残していると知恵のある者達がそこに住み着いてしまう。それが害のない者達であれば何ら問題は無いが、この森の奥地に来るような者達であればほぼ間違いなく問題ありの人や魔物しか居ないだろう。
そういった理由から、この集落を再使用が出来ないように破壊していくとダンが告げたのだ。
「とりあえず大雑把に小屋や周囲の柵を解体をして全てに火をつけていきましょう。石の基礎部なんかは少し残ってしまっても構いません。お昼には出発したいと思いますので、それに間に合う様に手分けして作業をしましょう。――その作業の間は皆さんにはお待ちいただくことになりますが、構いませんかね?」
ダンの説明に集落を破壊する意味を理解した仲間達が散らばっていく中、ダンは作業には参加しない生存者達に断りを入れる。
同じくダンの説明を聞いていた生存者達も「自分達と同じような目に合うような事が起きなければその方がいい」と了承してくれた。若干2名ほど「私達も手伝う!」と元気よく言ってくれたが、昨日助け出したばかりで体力が完全に戻っていないだろうと末っ子を監視役に残して、ダンも手近な小屋を破壊する作業に赴く。
そして太陽が頭上に来る頃に一通りの作業が終わった。
途中、ダンがオーガの小屋を素手で粉砕したときに悲鳴が上がった気がするがおそらく気のせいだろう。
全員で簡単にパンや干し肉、水でお腹を満たすと街へ向かって出発を始めた。
行きほど急ぎ足ではないものの、速足程度の速度で街へと向かうダン一行。
隊列はイリアとロマリアのゴーレム2体を中心に周囲を守るように配置する。
そして索敵兼露払いとしてポーラ、サニー組とクローディア、ロウキ組で先行する形をとった。
「しかしダンよ、お前の仲間は凄い者達ばかりだな」
警戒はしつつも付近に敵影が無いことからちょっとした話をするのは構わない。しかしルフにそう告げられたダンは困惑するしかなかった。
「はぁ。『凄い』ですか?」
「ダン自身が強いからいまいち納得出来ないのかもしれないが、ほとんどの者が保有するスキルレベルが4や3を持っている。これは小国――今でいえば貴族領に居る一番の使い手のレベルとほぼ同じだ。冒険者で言えばランクAぐらいが妥当だろう。……なんで未だにランクDに留まっているんだろうな?」
「あ~、『依頼』を受けていないからですかね?」
ダンは倒した魔物素材の買取りを主な目的として冒険者登録をしたので、依頼実績となるとその数は薬草などの納品依頼の方が多い。討伐依頼などを受けていないのは仲間達の訓練の為、相手を知らせないことを理由に依頼として受けていないことが原因であった。
そのため道中の街ではいくつかの依頼が受けられないまま達成されており、その処理と浮いてしまった依頼料を冒険者ギルドに丸投げしてきたダン一行であった。
ちなみにダン以外は数人が、しかもその全てを把握しているわけではなく、いったいいくつの依頼が表から裏へと消えて行ったのかダンのみぞ知るところであったりする。
ダン達の装備はダンが作って渡しているし、食べ物もいくつか現地調達。出費はそれ以外の宿代や街中で買うものくらい。と普通の冒険者が一番多く出費をする装備品の類がほぼタダで済んでいるため、実はダン達はそこそこ各人がそれなりに貯め込んでいたりする。
魔物素材を売却することで得たお金。
それを分配するだけで十分すぎる程の収入を得ているため、誰も金の事で不満を言わない状況なのでダン一行の誰もがその事の大きさに気づいていなかった。
「ともかく、だ。スキルレベルの高さはある程度の目安となる。そもそもスキルレベルが5を超え始めた段階で達人と呼ばれるのだぞ?」
「僕は正直スキルレベルってあまり信用していないんですよね。アレってどうやって決められているんでしょう?」
ダン自身もステータスをあまり見ないので参考程度、という認識だった。それは以前に「俺のステータスは~」などと自信満々に語っていた相手が、結局弱すぎて危うく半殺しで済まない事態になった経験があってのことだった。
「そ、それはご愁傷様だな……。ふむ、そもそも『鑑定』というのは神官が行うものであることは知っているな? これは神官の『信託』というスキルが由来なのだが、本質はシステムにアクセスして情報を得ている点だ。システムに蓄えられた幾人、幾千もの情報を元にスキルレベルというものは導き出されている。つまり人同士を『比べている』わけだ。そこに好き嫌いなどは関わっておらず、公平に判定された結果がレベルとして表示されるのだ」
「ん~。スキルレベルの恩寵? でしたっけ。あれはどういうものなんですか?」
ダンが言ったのはスキルレベルが上がることによる体力強化などの事だ。
スキルレベルが上がる毎にそのスキルごとの恩寵として体力や腕力、視力や魔力などが強化されることが確認されている。
ちなみにダンは普段『戦乙女の加護』の効果によりスキルレベルが抑えられているので恩寵の効果を受けてはいない。ちょっと他人とは隔絶した強さを見せているのだが受けてはいないのだ。大事なので重ねて言う。
「私もそれほど分かっていないが、おそらくは体が内包出来る闘気や魔素、魔力の量が関係しているのではないかと思う。ダンも闘気で体を部分的に強化したりするだろう? あれと同じことが出来る目安なのだと思うのだ」
そう言ったルフの説明にダンは「なるほど」と頷いた。その説明ならダンでも納得できるからだ。
そんな会話をしている間も偵察をしている2組がほとんどの魔物を撃退し、また横から現れた魔物達も視認されると同時に倒されていく。
そんな様子をゴリアテの籠の上に乗ったまま見ていた生存者達は、2日も過ぎた頃には自分達が安全な位置に居ることが分かったのか緊張も解けて周りを歩いているウェンディ達と会話が出来るまでになっていた。
なぜかダンを見る目が変わってきた気もするが。
そして集落を出て4日目の昼。
ダン達はボッカの街へと無事に帰還することに成功した。
「とりあえず宿でも取りましょうか」
前回ボッカの街に着いた時は真っすぐに冒険者ギルドに寄ったせいで今回の騒動に巻き込まれたダン達。
それ自体は結果として人命救助に繋がった事なので文句をつける気はない。
しかしダンも仲間達も久々の街に寄ったということで、しっかりとした休息を取りたかったのも事実であった。
冒険者ギルドへの報告も生存者の救出が出来た時点で急ぐ必要はないので、ボッカの街でも比較的大きな宿を取ることにした。
生存者達は聞けば小さな村の住人だったらしいが、オーガ率いるオーク達に蹂躙されて帰る家も無いと言う。
ここまで救出からずっと移動続きで、気持ちの整理も必要かと思い一緒に宿を取ることにしたのだ。
全員合わせるとそれなりの人数となるので2、3聞いて回ることになったが、無事に全員が泊まれる宿を見つけると宿泊することに決めた。
その際にダンは不躾な視線を感じたが、全員が泊まれる代金を出すとその視線は消えた。
どうやら支払う金額が高額だったため、冒険者でもちゃんと支払いが出来るのか宿の人も気になったのだなとダンは気にすることなく受け取った鍵を振り分けて渡していく。
「それじゃあ明日まで各自で自由行動という事で!」
ダンはそう言うと一人ボッカの街へと消えていった。
王都やその周辺の街には公衆浴場が必ず設置されているのをダンは知っていたからだ。
久々の風呂へと気分が上がっていたダンは、誰も追跡できない速度で街へと繰り出していった。
数時間後、さっぱりとしたダンが宿へと戻ってくると、何故かそこには悔しがる姿の仲間が数人居たことにダンは首を傾げながらも今日は就寝することにした。
ーーーーー
最近寒くなってきましたが、
皆様も風邪をひかないように気を付けてください。
イノシシは指先が凍えてしまうほどの
部屋の温度に毛布にくるまっております。
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