85 / 116
過去の王と対面する
しおりを挟む
最上階へ続く階段は直ぐに見つかった。
3階から上がってきた階段の通路を挟んだ反対側にあったからだ。
通路を真っすぐ行けば階段に至る導線は、もうこの階からは防衛というものを考えていない造りだった。
おそらく最終防衛線は3階のゴーレムまでで、4階からは生活の為の空間だったのだろう。
「ひょっとするとこの4階だったら、簡易結界を使わなくても休めたかも?」
「いや、さすがにそれはどうかと?」
ダンの『もったいなかったかなぁ』という気持ちが見える発言に、ウェンディはさすがに頷くことは出来なかった。
「アンデッドの発生するダンジョンなどでは、やはり魔法などでの安全確保が出来ない場所での休憩は、逆に体力の低下を招くと聞きます。もしかしたらですが、ダンジョン自体に闘気が吸われてしまうことも考えられるのではないでしょうか?」
「あ~。確かにあり得ますね」
言われて得心をするダン。
肩が少し凝るくらいだが、保養地に入った頃から微妙に体が強張っている気がする。
ボキボキッ!
「あ、そういや柔軟体操してないな」
それくらいの気軽さでダンに流されるぐらいのモノだが。
「……気の持ちよう。ですかね?」
「そう、ですか?」
まさに的を得た詠みであったが、規格外1人が居るだけで思わず考えが揺らいでしまう。
そんな真理から遠ざかりつつも、ダン達は最上階へと足を踏み入れた。
*
「これはまた、最上階だからと思いっきりましたね」
ダンの視界に入ってきた最上階の様子。
それは一切の視界を遮ることのない大きな1室だった。
塔の最上階だからと外周の壁で天井を支えているのだろう。部屋の中には一つとして柱を設けることもなく、壁から天井を支える骨を渡してある構造は、本来の大きさ以上の広さを感じさせるものであった。
そんな広間の中央。そこに1つのモノが据え付けられていた。
「アレって、イリアさんのアレに似てますね?」
「アレって言わないでください。ゴリアテです!」
そこに据え付けられているのはゴリアテの胴体部分。その乗り込むところが剥き出しとなった、言わばゴテゴテとした大げさな椅子だ。
そのゴリアテの胴体には何かの管や紐、さらに言えば足元には怪しげな模様も刻み込まれている。
やや離れた位置には足の長い燭台のようなものが立っており、本来の燭台部分には魔石を利用したであろう光を放つ魔道具が付けられた照明が4本立っていた。
明らかに『なにかありそうだ』と言わんばかりのオブジェだった。
全員がその怪しげな物体に目を引かれていた。
「で? 誰かそろそろ突っ込まない? あのおかしな3人組の事」
誰もが目を逸らしていたことに業を煮やしてキョーコが言った。
そこに居たのは、まず豪華な鎧を着ている青白い顔をした騎士。
同じく青白い顔をしたメイド。
そして青白い顔をした豪華な服を着た人物が居た。
その3人はゴリアテの胴体部分を中心に踊り狂っていた。
『とうとう私はやりとげた! これこそ魔力集積器だ!』
『さすが王様!』
『おお、これで王国の力はまた一つ強くなるというもの!』
やんややんやと浮かれてゴリアテの胴体を中心に踊り続ける3人。
見れば1周すると同じことを繰り返しているようだ。
「ん? よく見ればゴリアテの後ろにも誰か居ますよ?」
ダンがそう指摘した。指さした方を見ると、ゴリアテの胴体に隠れるような位置に、何やら光の筒のようなモノの中に人影が見えた。
身長はダンほどはないがイリア以上。長い髪の毛は腰までありそうな、女性の体つきの輪郭が見える。
「気のせいでしょうか? 光ってるせいなのか、髪の毛が白く見えますね。あの人」
『……だ』
「何か言ってる? リルさんかロウキは聞こえますか?」
ダンに言われてリルとロウキが耳をピコピコと動かして音を聞き取ろうとする。
「なぜワシに頼まんのじゃダン?」
ダンの頭の上に居たタマモが何か言っているが、それをスルーしてリル達の結果を待つ。
「聞こえました」
「うむ。我にも聞こえた」
「それで? なんと言っていたんですか?」
「「五月蠅すぎる。殺してくれ。『えんどれす』で繰り返されて頭がイカレそうだ」」
どうやらあの3人は延々と同じ行動を繰り返し続けているようだ。
*
干渉しなければ話が先に進まない事態だと理解したダン達。
「あ~。おそらく話しかけると戦いになる可能性が高そうなんですけど……。誰がどれを相手にしますか?」
車座で相談をするダン達。ちなみに本来はあの3人の視覚に入っている気もするのだが、予想通りというか向こうから襲ってくることはないようだった。
「ん~、あたしは騎士かな」
「あ、ウチも今度は参戦したい!」
積極的に騎士の相手をしたいと言うのはファーニとマロンだ。
「私はあのエミリーさんと勝負してみたい!」
「うむ。リル殿に賛成だ。我もあの女子とやりあってみたいな。あの足さばき、只者ではないだろう」
危険な雰囲気漂うメイドの相手をしたいというリルとロウキ。
「私は王様かなぁ。どうやら魔法使いの方らしいし」
「私もそちらに回りましょう」
キョーコとウェンディが王様の相手、と。
「それでダンさんはどうするんですか?」
リルに問いかけられたダンは腕を組んでしばし黙考する。
「……とりあえず僕はしばらく様子見をさせてもらいます。正直なところ、アンデッドって強さが読み難いんですよね。一撃加えて、それで相手を倒してしまっては本末転倒ですから」
『そういえば話を聞きにきたんだっけ?』と、ほとんど全員が思い出すように「ああ」といった顔をしていた。
「……忘れてましたね? 皆さん」
ダンに白い目で見られると、全員がそっぽを向いて誤魔化そうとした。
「では残ったメンバーはポーラさんがメイドへ、クローディアさんは王様を、ライとリンは騎士の方に行ってください。イリアは――」
「私はあそこに囚われている『仲間』を助けに向かってよいだろうか?」
ダンがより組み合わせが良いと思えるように相手を決めていると、イリアが自身の考えを割り込ませた。
「まあ助けるのは別に問題にはなりませんが、もし戦いとなった場合にあの3人を素通りできるとは思えませんよ? それでも行きますか?」
強さが読み難いとはいえ、ダンは王様を含めて3人がそれなりの実力者だと見ている。そんな相手の目を盗んで『行動出来るか?』と問われれば『大丈夫、出来ます!』とダンは言ってしまうが。とは言え、それはダンがそれだけに集中して動ければという条件があってこその話であって、まだまだ仲間達の技量がそれほど高いとは贔屓目に見ても言えない。
「イリアは『イ号』。これは最初という意味がありますが、あそこで捕らわれているのは私からすれば『妹』のような者なのです。正直私より後に生まれたはずの相手が先にこの世界に来ていたという矛盾にはツッコミたい気持ちがたくさん、ええそれはもうたくさんありますが! それでも『姉』として『妹』を助けたいという感情は否定すべきとはイリアは思いません」
自らの意思を持って救出に向かうと言うイリアに、ダンはその意思を曲げて止める気にはならなかった。
「分かりました。ではイリアさんは隙を伺いつつ彼女の元へ向かってください」
「のうダン。ワシはどうすればよいのじゃ?」
頭の上でそう言ったタマモを持ち上げると、ダンはそっとサニーの鞍の上へと乗せた。
「よし! では話しかけてみるとしましょうか」
「こら~! ワシは戦力外か~!?」
実際、戦力外だった。
抗議の声をあげるタマモの言葉をスルーして踊り狂う3人へと近づいていくダン。
「あの~、ちょっとよろしいでしょうか?」
ダンの声掛けにやる気満々な面々は肩を落とすが、そもそも最良の結果は戦闘をすることなく話し合いが出来ることなのでダンの行動は何ら間違ったものではない。
時々戦闘狂なダンの行動に引っ張られてしまっているようだ。
『む? 何者じゃ?』
『王よ。お下がりを』
何はともあれダンの言葉に反応した3人はダンへと向きなおり、王様を庇う様に騎士が前に、メイドはそっと王様の横へ控える様に移動した。控えるとはいっても、その手にはいつの間にかダガーが握られていたが。
「時の世に『魔法王』と呼ばれるクロフォード王国の王様。で合ってますでしょうか?」
『おお? 私はそんなふうに呼ばれているのかね?』
ダンのよいしょ全開のおだてるような質問に王様がウキウキした様子で答える。
やはりダンの予想通りに、やらかして塔を含めて吹っ飛ばした当時のクロフォード王国の王様で合っているようだ。
まあ、実際にやらかしてしまったのかは、今現在のところ重要視する点ではないのだが。
ウキウキ気分で前に出ようとする王様を騎士が『お下がりください王』と止めているので前に出ずにその場に留まる。どうやら集めた情報の『魔法狂い』という点は合っていそうだ。この王様が生前当時に『魔法王』と直接呼ばれたことは無いはず。だがダンにそう呼ばれて嬉しそうにしていたことから、『魔法』に対して並々ならぬ興味や関心持っている人物であることは間違いなさそうだ。
「ええ。それで王様に訊ねたいことがありまして、無礼を承知でこうして塔まで押しかけさせていただきました」
とりあえず興味を引いている今の内にと質問をすることにしたダン。
『ほうほう。それで? 私になによ――』
唐突に会話が途切れたので何事かとダンが王様の顔を見る。
その王様の顔はナニかを凝視するように一点を見つめていた。
その視線を追うダン。
そこには――
「――イリア?」
なんでか一同の中のイリアを見ているようだった。意味が分からないダンは再度王様の顔を確認しようと振り向こうとして――
『――白いゴーレム! また見つかったのか!』
喜色を浮かべる王様がそこに居た。いや、それは喜色というよりも――
「あれ? ちょっとイっちゃった顔してませんか、王様?」
『なるほどなるほど! 私に研究用としてその白いゴーレムを買い取ってほしいということだな!?』
ダンの声も耳に届いていないのか、王様はそう一気にまくしたてる様に言う。
「あの? このイリアさんは仲間なので売るとか、そういった話をしに来た訳ではありませんので……」
『むう? さらに値を釣り上げようという気か!? だがついこの間にもゴーレムを買い取ったばかりで金がないのだが……』
どうも王様の感覚ではゴーレム買取りの記憶は『ついこの間』の出来事らしい。
実際には50年近くは経過しているのだが。
「あの~? お話を聞いていただけます――」
『……そうだ! 一時的に接収させてもらうか!』
何やらとんでもない事を言い出した王様。
『この塔は王家所有の建物。そこに無断で侵入したとなればそれ相応の罪となる。しかし罪だとは言ってもあくまでも方便。とりあえず実験を優先するために接収するという形を取るが、なぁに、王城へ戻ればセレスを言い含めて何とか国庫から支払おう! そういうことでどうかな?』
確かに無理矢理な理論の話ではあるが、一応は話の筋は通っている。
ただし現実には実行できそうにない話ではあるのだが。
『そうとなったらさっそく実験したいな! アレックス、エミリー。彼らからゴーレムを受け取ってきてくれ!』
やはり無茶苦茶な発言だ。どうやらクスリを過剰摂取したハイテンション状態まで当時から継続して残っているらしい。
しかし王様の発言に騎士もメイドもやる気満々といった戦闘態勢をとっている。
「やはり戦いは避けられませんかねぇ。皆さん! くれぐれもやりすぎには注意してくださいよ?」
ダンの呼びかけに全員が「おう」や「はい」と答える。
『我が王の命だ。恨んでくれて構わんぞ?』
『ええ。久々に体を思いっきり動かすとしましょうか』
『……エミリー。あまりやりすぎるなよ?』
『あら? そういうアレックス様も肩に力が入っている様子ですが?』
騎士とメイドが不敵に笑う。そこには強者の風格が漂っていた。
「戦闘開始!」
『はじめよ!』
ダンと王様の掛け声と共に双方が動き出す。
狂王の塔、最後の戦いの幕が上がった。
3階から上がってきた階段の通路を挟んだ反対側にあったからだ。
通路を真っすぐ行けば階段に至る導線は、もうこの階からは防衛というものを考えていない造りだった。
おそらく最終防衛線は3階のゴーレムまでで、4階からは生活の為の空間だったのだろう。
「ひょっとするとこの4階だったら、簡易結界を使わなくても休めたかも?」
「いや、さすがにそれはどうかと?」
ダンの『もったいなかったかなぁ』という気持ちが見える発言に、ウェンディはさすがに頷くことは出来なかった。
「アンデッドの発生するダンジョンなどでは、やはり魔法などでの安全確保が出来ない場所での休憩は、逆に体力の低下を招くと聞きます。もしかしたらですが、ダンジョン自体に闘気が吸われてしまうことも考えられるのではないでしょうか?」
「あ~。確かにあり得ますね」
言われて得心をするダン。
肩が少し凝るくらいだが、保養地に入った頃から微妙に体が強張っている気がする。
ボキボキッ!
「あ、そういや柔軟体操してないな」
それくらいの気軽さでダンに流されるぐらいのモノだが。
「……気の持ちよう。ですかね?」
「そう、ですか?」
まさに的を得た詠みであったが、規格外1人が居るだけで思わず考えが揺らいでしまう。
そんな真理から遠ざかりつつも、ダン達は最上階へと足を踏み入れた。
*
「これはまた、最上階だからと思いっきりましたね」
ダンの視界に入ってきた最上階の様子。
それは一切の視界を遮ることのない大きな1室だった。
塔の最上階だからと外周の壁で天井を支えているのだろう。部屋の中には一つとして柱を設けることもなく、壁から天井を支える骨を渡してある構造は、本来の大きさ以上の広さを感じさせるものであった。
そんな広間の中央。そこに1つのモノが据え付けられていた。
「アレって、イリアさんのアレに似てますね?」
「アレって言わないでください。ゴリアテです!」
そこに据え付けられているのはゴリアテの胴体部分。その乗り込むところが剥き出しとなった、言わばゴテゴテとした大げさな椅子だ。
そのゴリアテの胴体には何かの管や紐、さらに言えば足元には怪しげな模様も刻み込まれている。
やや離れた位置には足の長い燭台のようなものが立っており、本来の燭台部分には魔石を利用したであろう光を放つ魔道具が付けられた照明が4本立っていた。
明らかに『なにかありそうだ』と言わんばかりのオブジェだった。
全員がその怪しげな物体に目を引かれていた。
「で? 誰かそろそろ突っ込まない? あのおかしな3人組の事」
誰もが目を逸らしていたことに業を煮やしてキョーコが言った。
そこに居たのは、まず豪華な鎧を着ている青白い顔をした騎士。
同じく青白い顔をしたメイド。
そして青白い顔をした豪華な服を着た人物が居た。
その3人はゴリアテの胴体部分を中心に踊り狂っていた。
『とうとう私はやりとげた! これこそ魔力集積器だ!』
『さすが王様!』
『おお、これで王国の力はまた一つ強くなるというもの!』
やんややんやと浮かれてゴリアテの胴体を中心に踊り続ける3人。
見れば1周すると同じことを繰り返しているようだ。
「ん? よく見ればゴリアテの後ろにも誰か居ますよ?」
ダンがそう指摘した。指さした方を見ると、ゴリアテの胴体に隠れるような位置に、何やら光の筒のようなモノの中に人影が見えた。
身長はダンほどはないがイリア以上。長い髪の毛は腰までありそうな、女性の体つきの輪郭が見える。
「気のせいでしょうか? 光ってるせいなのか、髪の毛が白く見えますね。あの人」
『……だ』
「何か言ってる? リルさんかロウキは聞こえますか?」
ダンに言われてリルとロウキが耳をピコピコと動かして音を聞き取ろうとする。
「なぜワシに頼まんのじゃダン?」
ダンの頭の上に居たタマモが何か言っているが、それをスルーしてリル達の結果を待つ。
「聞こえました」
「うむ。我にも聞こえた」
「それで? なんと言っていたんですか?」
「「五月蠅すぎる。殺してくれ。『えんどれす』で繰り返されて頭がイカレそうだ」」
どうやらあの3人は延々と同じ行動を繰り返し続けているようだ。
*
干渉しなければ話が先に進まない事態だと理解したダン達。
「あ~。おそらく話しかけると戦いになる可能性が高そうなんですけど……。誰がどれを相手にしますか?」
車座で相談をするダン達。ちなみに本来はあの3人の視覚に入っている気もするのだが、予想通りというか向こうから襲ってくることはないようだった。
「ん~、あたしは騎士かな」
「あ、ウチも今度は参戦したい!」
積極的に騎士の相手をしたいと言うのはファーニとマロンだ。
「私はあのエミリーさんと勝負してみたい!」
「うむ。リル殿に賛成だ。我もあの女子とやりあってみたいな。あの足さばき、只者ではないだろう」
危険な雰囲気漂うメイドの相手をしたいというリルとロウキ。
「私は王様かなぁ。どうやら魔法使いの方らしいし」
「私もそちらに回りましょう」
キョーコとウェンディが王様の相手、と。
「それでダンさんはどうするんですか?」
リルに問いかけられたダンは腕を組んでしばし黙考する。
「……とりあえず僕はしばらく様子見をさせてもらいます。正直なところ、アンデッドって強さが読み難いんですよね。一撃加えて、それで相手を倒してしまっては本末転倒ですから」
『そういえば話を聞きにきたんだっけ?』と、ほとんど全員が思い出すように「ああ」といった顔をしていた。
「……忘れてましたね? 皆さん」
ダンに白い目で見られると、全員がそっぽを向いて誤魔化そうとした。
「では残ったメンバーはポーラさんがメイドへ、クローディアさんは王様を、ライとリンは騎士の方に行ってください。イリアは――」
「私はあそこに囚われている『仲間』を助けに向かってよいだろうか?」
ダンがより組み合わせが良いと思えるように相手を決めていると、イリアが自身の考えを割り込ませた。
「まあ助けるのは別に問題にはなりませんが、もし戦いとなった場合にあの3人を素通りできるとは思えませんよ? それでも行きますか?」
強さが読み難いとはいえ、ダンは王様を含めて3人がそれなりの実力者だと見ている。そんな相手の目を盗んで『行動出来るか?』と問われれば『大丈夫、出来ます!』とダンは言ってしまうが。とは言え、それはダンがそれだけに集中して動ければという条件があってこその話であって、まだまだ仲間達の技量がそれほど高いとは贔屓目に見ても言えない。
「イリアは『イ号』。これは最初という意味がありますが、あそこで捕らわれているのは私からすれば『妹』のような者なのです。正直私より後に生まれたはずの相手が先にこの世界に来ていたという矛盾にはツッコミたい気持ちがたくさん、ええそれはもうたくさんありますが! それでも『姉』として『妹』を助けたいという感情は否定すべきとはイリアは思いません」
自らの意思を持って救出に向かうと言うイリアに、ダンはその意思を曲げて止める気にはならなかった。
「分かりました。ではイリアさんは隙を伺いつつ彼女の元へ向かってください」
「のうダン。ワシはどうすればよいのじゃ?」
頭の上でそう言ったタマモを持ち上げると、ダンはそっとサニーの鞍の上へと乗せた。
「よし! では話しかけてみるとしましょうか」
「こら~! ワシは戦力外か~!?」
実際、戦力外だった。
抗議の声をあげるタマモの言葉をスルーして踊り狂う3人へと近づいていくダン。
「あの~、ちょっとよろしいでしょうか?」
ダンの声掛けにやる気満々な面々は肩を落とすが、そもそも最良の結果は戦闘をすることなく話し合いが出来ることなのでダンの行動は何ら間違ったものではない。
時々戦闘狂なダンの行動に引っ張られてしまっているようだ。
『む? 何者じゃ?』
『王よ。お下がりを』
何はともあれダンの言葉に反応した3人はダンへと向きなおり、王様を庇う様に騎士が前に、メイドはそっと王様の横へ控える様に移動した。控えるとはいっても、その手にはいつの間にかダガーが握られていたが。
「時の世に『魔法王』と呼ばれるクロフォード王国の王様。で合ってますでしょうか?」
『おお? 私はそんなふうに呼ばれているのかね?』
ダンのよいしょ全開のおだてるような質問に王様がウキウキした様子で答える。
やはりダンの予想通りに、やらかして塔を含めて吹っ飛ばした当時のクロフォード王国の王様で合っているようだ。
まあ、実際にやらかしてしまったのかは、今現在のところ重要視する点ではないのだが。
ウキウキ気分で前に出ようとする王様を騎士が『お下がりください王』と止めているので前に出ずにその場に留まる。どうやら集めた情報の『魔法狂い』という点は合っていそうだ。この王様が生前当時に『魔法王』と直接呼ばれたことは無いはず。だがダンにそう呼ばれて嬉しそうにしていたことから、『魔法』に対して並々ならぬ興味や関心持っている人物であることは間違いなさそうだ。
「ええ。それで王様に訊ねたいことがありまして、無礼を承知でこうして塔まで押しかけさせていただきました」
とりあえず興味を引いている今の内にと質問をすることにしたダン。
『ほうほう。それで? 私になによ――』
唐突に会話が途切れたので何事かとダンが王様の顔を見る。
その王様の顔はナニかを凝視するように一点を見つめていた。
その視線を追うダン。
そこには――
「――イリア?」
なんでか一同の中のイリアを見ているようだった。意味が分からないダンは再度王様の顔を確認しようと振り向こうとして――
『――白いゴーレム! また見つかったのか!』
喜色を浮かべる王様がそこに居た。いや、それは喜色というよりも――
「あれ? ちょっとイっちゃった顔してませんか、王様?」
『なるほどなるほど! 私に研究用としてその白いゴーレムを買い取ってほしいということだな!?』
ダンの声も耳に届いていないのか、王様はそう一気にまくしたてる様に言う。
「あの? このイリアさんは仲間なので売るとか、そういった話をしに来た訳ではありませんので……」
『むう? さらに値を釣り上げようという気か!? だがついこの間にもゴーレムを買い取ったばかりで金がないのだが……』
どうも王様の感覚ではゴーレム買取りの記憶は『ついこの間』の出来事らしい。
実際には50年近くは経過しているのだが。
「あの~? お話を聞いていただけます――」
『……そうだ! 一時的に接収させてもらうか!』
何やらとんでもない事を言い出した王様。
『この塔は王家所有の建物。そこに無断で侵入したとなればそれ相応の罪となる。しかし罪だとは言ってもあくまでも方便。とりあえず実験を優先するために接収するという形を取るが、なぁに、王城へ戻ればセレスを言い含めて何とか国庫から支払おう! そういうことでどうかな?』
確かに無理矢理な理論の話ではあるが、一応は話の筋は通っている。
ただし現実には実行できそうにない話ではあるのだが。
『そうとなったらさっそく実験したいな! アレックス、エミリー。彼らからゴーレムを受け取ってきてくれ!』
やはり無茶苦茶な発言だ。どうやらクスリを過剰摂取したハイテンション状態まで当時から継続して残っているらしい。
しかし王様の発言に騎士もメイドもやる気満々といった戦闘態勢をとっている。
「やはり戦いは避けられませんかねぇ。皆さん! くれぐれもやりすぎには注意してくださいよ?」
ダンの呼びかけに全員が「おう」や「はい」と答える。
『我が王の命だ。恨んでくれて構わんぞ?』
『ええ。久々に体を思いっきり動かすとしましょうか』
『……エミリー。あまりやりすぎるなよ?』
『あら? そういうアレックス様も肩に力が入っている様子ですが?』
騎士とメイドが不敵に笑う。そこには強者の風格が漂っていた。
「戦闘開始!」
『はじめよ!』
ダンと王様の掛け声と共に双方が動き出す。
狂王の塔、最後の戦いの幕が上がった。
0
お気に入りに追加
707
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる