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狂王の塔探索 パート3
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ダンの張った結界により、無事に全員が一夜を明けて起床した。
ふとダンが天井を見ていたので、何事かと複数人が同じように天井を見た。
見てしまった!
短剣の柄に結ばれた紐の位置が結界の起点なのか、天井の一部からゴーストが侵入しようとして、壁の内側に張られた結界によって、すぐさま消滅していく様子が!
「ま、結界は破れませんか」
「いや、アレ軽くホラーよ!?」
「ん~、でもこちらに害は加えられそうにありませんからねぇ?」
『オオオオオォォォォォォ……』
なにやら恨めしそうな声に聞こえる、うめき声ともいえない断末魔の声を背後にダンはいそいそと朝食の準備を始めている。
「……不憫すぎでしょ」
「ま、ダンさんを相手にしてしまった結果ってヤツじゃないか?」
消えていく天井のゴーストを見ながらキョーコが言うと、ファーニが「あんまり気にしてもしょうがないだろ?」とその肩を叩く。
「いや、自分で招いたわけじゃなくて、来ちゃった相手にコレよ?」
「……考えると、まあ、可哀そう、かな?」
言われて、再度状況を振り返って考えてみると、確かに不憫かもと思ってしまったファーニ。しかしダンジョンに突入してしまった以上、後戻りはしないだろう。ダンのことだから。
2人はそれ以上そのことについて考えることを止めて、ダンの作り始めた朝食を手伝うかと動き始めた。
「そういえば、ダンさんがアンデッドに奇襲を出来るのは何でなんですか?」
スープを飲み保存の効く堅いパンを食べながら、リルが昨日疑問に思っていたことを聞く。
自身も遊撃的にアンデッドと戦闘していた時に、どうにか死角をつけないかと試しては失敗していたので、ダンの戦い方に興味を持っていたのだ。ちなみに昨日の時点でリルが下した結論は、『アンデッドが反応するよりも早く懐に飛び込む』であった。脳筋的発想である。
そのリルの問いかけに、他の面々も興味津々といった表情だ。
全員に見られたダンは「えっと、ですね」とスープを置いて答える。
「皆さんもう知っているでしょうけど、僕の称号『戦乙女のノロ――』んん! 『戦乙女の加護』ですが、あれの効果覚えてますか?」
「我は教えて貰ってない気がするが?」
若干1匹拗ねた顔をしているが、改めて説明をする。
称号『戦乙女の加護』はレベルによってスキル等が封印される。ちなみにダンの持つレベルMAXの『戦乙女の加護』は全スキル等が封印される効果を持っている。
「それで前から気づいてはいたんですが、どうもレベルMAXを維持していると闘気が外に放出されない影響からか、僕の気配って随分薄いようなんです」
「そこで――」とダンが言ってから口を閉ざして居ると、ドンドンとダンの気配というか存在感が希薄なものへと変わっていった。
見ていると何とも言えない不安感のようなものが襲ってくる。ダンを見ているはずなのにダンが居ないような感覚だ。
「え? ダンさんソレどうなってるの?」
たまらず声を掛けると、ダンの輪郭がはっきりしてくるような、いやそもそも見えているのだからソコには居るはずなのだが、ソレをはっきりと認識できるようになる。
「――と、その状態から更に闘気を体の内側に引っ込めると、今みたいな状態になります」
「「「ええ!? どういうこと?」」」
全員が「その説明じゃ分からない!」という表情で驚きの声をあげる。ダンはその答えとして、モソモソと硬いパンを食べていたタマモの頭をつかみ取ると持ち上げた。
「おい、ダン? まだ飯を食ってる最中なのだが?」
「実はつい先日、タマモのウッカリで『龍脈』とかいうものに流されてきたんですけど」
「龍脈? 『ふーすい』ですか?」
「あ~、ファンタジーっぽいよねぇ」
タマモがあげる抗議を無視してダンが説明を続ける。
キョーコとイリアが何やら単語に反応したようだが説明を続ける。
「そこで、ん~、何といえばいいんでしょうか? どうやら通常アーツを使う際には、闘気を空間? に触れさせないとダメみたいなんですよ。ま、それは今回の話とは逆方向なので割愛しますが」
さらりと言ってのけたダンだが、ダンに毒されているパーティーメンバーだから疑問を抱いていないのであって、普通のランクD冒険者であったならば、いや最悪はランクAの冒険者であっても驚愕する内容であった。
日常的にアーツを使いこそすれ、感覚的に、便利だからといったもので使っていたアーツの真実に気づく冒険者はそう多くはない。言えば秘伝のようなモノの話をしているのだ。
「そっちの話もくわし――ううん、本題をお願いします」
アーツに並々ならぬ興味を持っているマロンが食い下がろうとしたが、話の腰を折るとダンが更なる脱線をするかと思い留まった。普通に興味を持った一般的な冒険者であったならば、この数倍の勢いで話に食らいついただろう。
「これ自体は前に第1軍の斥候職の方に聞いた方法なんですけどね。『隠形』ってアーツに頼らないアーツ? まあいつも僕がやっている模倣アーツのように、自分で闘気を操作して『己の内側に隠す』って技ですね。これを僕が『戦乙女の加護』が効いている時に行うと、さっきみたいになります」
「アーツに頼らないアーツ?」
「えっと先程も言いましたが、アーツは闘気を空間――まあ体の外ですね――に流すと『システム』にアクセス出来て、その後『宣言』すると使えます。アーツに頼らないアーツっていうのは、闘気を体の中で完結させて使う技の事です。割と馴染みのあるのは闘気を使った身体強化でしょうか?」
「「「ああ」」」と全員が手を叩いた。
繰り返しだが、ランクDの冒険者でこういった反応が返ってくることはまずない。
「それを更に応用すると――」
またダンの姿が認識しづらくなった。
「こういった状態になります。ちなみに闘気を可能な限り引っ込めていますから、現在の僕の体はかなり防御力が落ちているはずですね」
「ほう? てりゃ!」
ダンの『防御力が落ちている』発現を聞いたロウキが、ダンの肩を目掛けて軽く爪攻撃を仕掛ける。
ガッ!
「イタッ! 全然防御力落ちてないじゃないかダン!」
ロウキの抗議の声に、ダンは持っていたタマモをそっと置くと、ロウキへと手を伸ばし、
「あだだだだだ!」
「闘気から意識を離せばすぐに戻りますよ? それよりもなぜ攻撃しようとしたんですか?」
ロウキへとアイアンクローを仕掛けて、朝の準備を終える。
妙な時間を取られたが、狂王の塔探索2日目が始まった。
ふとダンが天井を見ていたので、何事かと複数人が同じように天井を見た。
見てしまった!
短剣の柄に結ばれた紐の位置が結界の起点なのか、天井の一部からゴーストが侵入しようとして、壁の内側に張られた結界によって、すぐさま消滅していく様子が!
「ま、結界は破れませんか」
「いや、アレ軽くホラーよ!?」
「ん~、でもこちらに害は加えられそうにありませんからねぇ?」
『オオオオオォォォォォォ……』
なにやら恨めしそうな声に聞こえる、うめき声ともいえない断末魔の声を背後にダンはいそいそと朝食の準備を始めている。
「……不憫すぎでしょ」
「ま、ダンさんを相手にしてしまった結果ってヤツじゃないか?」
消えていく天井のゴーストを見ながらキョーコが言うと、ファーニが「あんまり気にしてもしょうがないだろ?」とその肩を叩く。
「いや、自分で招いたわけじゃなくて、来ちゃった相手にコレよ?」
「……考えると、まあ、可哀そう、かな?」
言われて、再度状況を振り返って考えてみると、確かに不憫かもと思ってしまったファーニ。しかしダンジョンに突入してしまった以上、後戻りはしないだろう。ダンのことだから。
2人はそれ以上そのことについて考えることを止めて、ダンの作り始めた朝食を手伝うかと動き始めた。
「そういえば、ダンさんがアンデッドに奇襲を出来るのは何でなんですか?」
スープを飲み保存の効く堅いパンを食べながら、リルが昨日疑問に思っていたことを聞く。
自身も遊撃的にアンデッドと戦闘していた時に、どうにか死角をつけないかと試しては失敗していたので、ダンの戦い方に興味を持っていたのだ。ちなみに昨日の時点でリルが下した結論は、『アンデッドが反応するよりも早く懐に飛び込む』であった。脳筋的発想である。
そのリルの問いかけに、他の面々も興味津々といった表情だ。
全員に見られたダンは「えっと、ですね」とスープを置いて答える。
「皆さんもう知っているでしょうけど、僕の称号『戦乙女のノロ――』んん! 『戦乙女の加護』ですが、あれの効果覚えてますか?」
「我は教えて貰ってない気がするが?」
若干1匹拗ねた顔をしているが、改めて説明をする。
称号『戦乙女の加護』はレベルによってスキル等が封印される。ちなみにダンの持つレベルMAXの『戦乙女の加護』は全スキル等が封印される効果を持っている。
「それで前から気づいてはいたんですが、どうもレベルMAXを維持していると闘気が外に放出されない影響からか、僕の気配って随分薄いようなんです」
「そこで――」とダンが言ってから口を閉ざして居ると、ドンドンとダンの気配というか存在感が希薄なものへと変わっていった。
見ていると何とも言えない不安感のようなものが襲ってくる。ダンを見ているはずなのにダンが居ないような感覚だ。
「え? ダンさんソレどうなってるの?」
たまらず声を掛けると、ダンの輪郭がはっきりしてくるような、いやそもそも見えているのだからソコには居るはずなのだが、ソレをはっきりと認識できるようになる。
「――と、その状態から更に闘気を体の内側に引っ込めると、今みたいな状態になります」
「「「ええ!? どういうこと?」」」
全員が「その説明じゃ分からない!」という表情で驚きの声をあげる。ダンはその答えとして、モソモソと硬いパンを食べていたタマモの頭をつかみ取ると持ち上げた。
「おい、ダン? まだ飯を食ってる最中なのだが?」
「実はつい先日、タマモのウッカリで『龍脈』とかいうものに流されてきたんですけど」
「龍脈? 『ふーすい』ですか?」
「あ~、ファンタジーっぽいよねぇ」
タマモがあげる抗議を無視してダンが説明を続ける。
キョーコとイリアが何やら単語に反応したようだが説明を続ける。
「そこで、ん~、何といえばいいんでしょうか? どうやら通常アーツを使う際には、闘気を空間? に触れさせないとダメみたいなんですよ。ま、それは今回の話とは逆方向なので割愛しますが」
さらりと言ってのけたダンだが、ダンに毒されているパーティーメンバーだから疑問を抱いていないのであって、普通のランクD冒険者であったならば、いや最悪はランクAの冒険者であっても驚愕する内容であった。
日常的にアーツを使いこそすれ、感覚的に、便利だからといったもので使っていたアーツの真実に気づく冒険者はそう多くはない。言えば秘伝のようなモノの話をしているのだ。
「そっちの話もくわし――ううん、本題をお願いします」
アーツに並々ならぬ興味を持っているマロンが食い下がろうとしたが、話の腰を折るとダンが更なる脱線をするかと思い留まった。普通に興味を持った一般的な冒険者であったならば、この数倍の勢いで話に食らいついただろう。
「これ自体は前に第1軍の斥候職の方に聞いた方法なんですけどね。『隠形』ってアーツに頼らないアーツ? まあいつも僕がやっている模倣アーツのように、自分で闘気を操作して『己の内側に隠す』って技ですね。これを僕が『戦乙女の加護』が効いている時に行うと、さっきみたいになります」
「アーツに頼らないアーツ?」
「えっと先程も言いましたが、アーツは闘気を空間――まあ体の外ですね――に流すと『システム』にアクセス出来て、その後『宣言』すると使えます。アーツに頼らないアーツっていうのは、闘気を体の中で完結させて使う技の事です。割と馴染みのあるのは闘気を使った身体強化でしょうか?」
「「「ああ」」」と全員が手を叩いた。
繰り返しだが、ランクDの冒険者でこういった反応が返ってくることはまずない。
「それを更に応用すると――」
またダンの姿が認識しづらくなった。
「こういった状態になります。ちなみに闘気を可能な限り引っ込めていますから、現在の僕の体はかなり防御力が落ちているはずですね」
「ほう? てりゃ!」
ダンの『防御力が落ちている』発現を聞いたロウキが、ダンの肩を目掛けて軽く爪攻撃を仕掛ける。
ガッ!
「イタッ! 全然防御力落ちてないじゃないかダン!」
ロウキの抗議の声に、ダンは持っていたタマモをそっと置くと、ロウキへと手を伸ばし、
「あだだだだだ!」
「闘気から意識を離せばすぐに戻りますよ? それよりもなぜ攻撃しようとしたんですか?」
ロウキへとアイアンクローを仕掛けて、朝の準備を終える。
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