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探求 学者編

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「これが私達の『入り口』だ!……って格好つけた割に、未だにそのにすらたどり着けていませんが? エリスさん」

 ニヤリとドヤ顔で僕にそう宣言したエリスさんだが、今は先程の壁に張り付いて仔細に調査をしている。
 なんてことはない。
 盛大に見栄を切ったが、入り口に入る手段を持っていたわけではなかったのだ。

 しばらく壁に張り付き、腰のマジックボックスから小さなハンマーを取り出して叩いてみたり、壁に顔を近づけてより詳細に調べたりしていたが、エリスさんは「うん」と頷き一つしてから丁寧に調べていた壁から離れた。

「良く考えてみれば私のがどうとかというレベルではなく、そもそも遺跡が姿ではないのだから、出入口があるのは非常に少ない可能性の話だったな」
「仮説?」

 僕はエリスさんの口から最初に出てきた気になる言葉を拾った。 

「ああ。レダの街の遺跡は『遺跡ではないか?』という説だな。ここで発掘される遺物は、発掘される年代によってその種類が変わってきていてな? そこから私が類推したのが『遺跡群説』だ」
「群? それに本来の姿って?」

 説明しているうちにエリスさんの口が滑らかになってきたようだ。

「あ~。つまりこの私達の足元にある遺跡は、という考えだな。それと、まあサボなら言えば分かると思うが、ここの遺跡はんだよ。この街で認識されている入り口は、と思っている。」
「……あ、なるほどね! 本来のじゃないから、建物――かどうか分かりませんが――の入り口はにはない。と?」

 僕の答えにエリスさんは「その通りだ!」と肯定してくれた。

「……で? 結局どうするんですか?」
「一旦外に出るぞサボ!」

 *

 元宿屋だった建物を出て、僕らは先程の壁と思われる場所にまで回り込んで見た。
 そこには見上げるような高さの遺跡の一部が地面から突き出していた。

「確かにそうだと言われれば、鍛冶屋にある煙突のような?」
「煙突――いい判断だサボ! 上に上がるぞ!」

 そう言うが早いか、エリスさんは風魔法スキルで生み出したと思われる風を自身に纏わせると、軽く屈伸した後にをした。

《サポートスキル『共感覚』発動》
《対象、風魔法スキルを感知》
《風魔法スキル『跳躍強化』の術式を獲得しました》

 なるほど。追い風を受ける様に風を受けて跳ぶのか……。

「――すま~ん、サボの事~。一回降りるぞ~」

 遠くに離れたエリスさんの声が聞こえてくる。
 そのエリスさんが今居るのは、煙突のだ。

 だよね。分かってた! 普通の人は追いかけられないでしょうが! 

 本格的にエリスさんの首に紐でも掛けておくかと僕は考えていた。
 ……まあ僕なら平気だけど。

「大丈夫~! そこで待っててください~!」

 風魔法スキル『跳躍強化』を発動し、サポートスキルによる『補助アシスト』を受けてエリスさんの行動を模倣して、僕も煙突の上にまで跳躍した。

「うおお!? あ、危なかった~。こんなにポッカリとがあるとは……」

 煙突の上に飛び上がった僕は、すぐ目の前に開いた穴に若干慌てた。

「サボは風属性持ちか……。と、それよりも見ろ! ココこそが私達の『入り口』だ!」
 テイク2らしい。

「ほへ~。……しかし深そうですね?」

 まだ朝も早いというのに、それでもその穴は底の方まで見えないほど深かった。ドンガ村で掘った井戸(結果的には温泉になったが)よりも深いのではなかろうか?

 しかしこれだけ深いとなると――
「どうやって?」

 エリスさんの部屋から持ち出した、ハンモックにもなる魔法の掛かったロープでも長さが足りそうにないんだけど?
 僕がそう思ってエリスさんを見ようと首を回し――その体が

「――は?」

 何故か落下を始める僕の体。
 その事に僕の意識は追いつけなかった。
 ついでに僕の視界に「えい!」と穴に飛び降りるエリスさんの姿も映った。

「上に上がったのだから、後は下にいい話ではないか?」
「――こンのくそエルフがぁ!!!」

 落下しながらドヤ顔を決めるエリスさんに僕は怒鳴りつけたのだった。
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