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故郷 過去編
村で肉を食べるには?
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あれこれと色々なことをしつつ、ドンガ村で既に3週間が経過した。
あれから文字や計算などの勉強会はそれなりの数をこなしたおかげか、全員が最低限必要な文字や単語、計算などを出来る様になった。
それからスキル訓練も継続して行っており、今では僕の『鑑定』によって個々人に向いたスキルを覚えてもらい、村の各所で仕事の手伝いなどもしてもらうようになった。
リゲンさんの口添えもあったおかげか、女性達がドンガ村の住人に素直に受け入れられたのは良かったことだと思う。
*
「うん? 猟をしてくるの?」
僕は担いでいた木を下へ降ろしながら、その言伝を持ってきた相手であるアサを見た。
アサはズボンの上にシャツを着てその上から革で出来た胸当てを装備した格好だ。腰には同じように革で出来た鞘に納められた剣を下げている。
最近伸ばし始めたという長くなった髪を首の後ろに結んでいる顔を見なければ少年と見間違えるかもしれない恰好だ。
「サボ兄さんが何を考えているか大体想像つきますけど……。村人全員が参加する猟が近々行われるそうなんです。それに参加してもいいか、親か保護者に聞いてきなさいって言われて」
ならアサのお母さんに聞くべきでは? と言いかけて気づく。
そういやアサ達って、僕と契約している農奴だった!
最近農業以外に従事しているアサ達を見ていてすっかり忘れていた。
ちなみに農業以外に従事していて『じゃあ農業は?』と言われたら、すでにウチの畑における今年の作業のほぼ大部分を終わらせているので手が空いているのだ。
次に手が掛かるのは植えたものが芽を出して成長してから。
それまでは朝方、水魔法スキルを覚えた人達で水やりを終わらせて終わりだ。
魔法系スキルって便利だよね。
そんな状態なので午前中の空いた時間は他の家の畑仕事や家の掃除の手伝いなどをして、アサ達も村の中に散って作業をし、もう彼女たちもドンガ村の住人だと認知されている。
だけれども――
「その猟って、村の男衆だけじゃなかったっけ?」
そう。僕の記憶では参加するのは村の男性だけだったはず。
「えっと、『アカギ』さん? って人が昔に参加してたから、実力さえあれば大丈夫って村の自警団の人から聞いたんだけど?」
なるほどアカギか。
狩人の娘であるアカギが昔に参加してたなら、『女性厳禁』とは言えないんだろうなぁ。そのお父さんが狩人衆のトップだし。
ドンガ村では畜産はやっておらず、肉や皮を得たいなら狩りをしてくるしかない。
……ハーゲン爺の家は畑オンリーの家だよ? 決して家の中で牛だの豚だの鶏だのを飼っているわけではない。
「まあ女性参加が大丈夫なのは分かったけど、その実力って方はどうしたの?」
自警団は僕が子供の頃に組織された、言わば『村の青年団』だ。
組織された経緯はよく分からなかったんだけども、どうも昔に村の中で不心得者が出たらしい。
結成されてからはせいぜい酔っ払いとかを介抱したりする程度しか聞いたことは無いが、いざという時の為に武器による訓練などを定期的に行っているようだ。
ちなみに参加することのなかった僕がなぜ活動内容を知っているかというと、自警団の団長にリゲンさんが居て、副団長に僕の父が就任しているからだ。
自警団の寄り合いが偶にあってめんどくさい。とか言いながらもウキウキと寄り合いに出向いていく父の目当ては終わった後の酒盛りだ。
母も村の為の自警団だからと強く出れないが、二日酔いをした場合はこっぴどく叱られている父の姿を見たことがある。
そんなユルユルな自警団がアサの参加を認めた? なぜ?
「自警団の訓練に参加して勝ちました」
あっさりと理由が分かった。
……自警団のレベルを問いたい。
「イコとかウルも含めて、サボ兄さんの教えを受けた全員です」
しかもアサだけじゃなかった!?
「さすがにカシャとかキリ、クーネは参加を認めることが出来ないそうですが」
「まあ、そりゃあそうだろうねぇ」
どのくらいボコボコにされたのかは分からないが、5、6歳児に森の中を歩かせるわけにはいかないという常識は備えていた様だ。
「代わりに狩りの間、村の見回りをお願いされました」
「おい、自警団!? 本末転倒じゃないか?!」
僕がドンガ村の自警団の行く末を案じていると、アサが僕を下から覗き込むように見ていた。
「行っちゃダメ? サボ兄さん?」
「ん~~……。父さんとかエド兄さんも行くのかな?」
「はい。ロック父さんとエドガー兄さんも参加するみたいです」
ふと疑問が浮かぶ。
「……ん? なんでそのメンバーで僕に声が掛かってないの?」
「な、なんででしょう? あ、あはは~」
何故か動揺するアサ。
「まあいいか。怪我だけはしないようにね?」
「! 行っていいのサボ兄さん!?」
まあ狩りで得た獲物を換金すれば、アサ達の奴隷契約も早いうちに解放出来るだろうと考えて僕は頷く。
ただ言ったとおりに、怪我しないで帰ってきてくれるのが一番嬉しいことだけども。
「それじゃあ、うんと大きな獲物を狩ってきますね!」
そう言ってアサが村の中心へと走っていった。
*
「……いやデカイな?」
時刻は夕方から夜になろうとしている頃。
村の広場まで引っ張られてきたその獲物を見て、思わず僕は声に出てしまったくらいだ。
目の前には2頭の大熊。
というか1頭はこれ、魔物じゃない?
動物が『魔素』とかいうものを吸い込み生活していると魔物へと変じると言われている。
ちなみにコボルトやゴブリンという魔物は、そういった魔物として誕生するそうだ。動物が変じるのと発生の仕方は別だが、どちらも魔物と呼ばれている。
動物の場合、変化が少ないと見分けるのが大変なのだが――
「ああ。4本腕の熊。冒険者達の間で『マーダーベア』とか呼んでいる個体だな」
僕が4本腕の熊を見ていると父がそう言ってきた。
「だよね? 普通の熊は4本の足しか持ってないもんね?」
人で言う肩甲骨辺りから腕を生やした熊なんて初めてみた。
「いや、昔にお前が1人で刈ってきた『ホーンベア』だって、やばい魔物だったんだが?」
「あ~……。でも、あれは角の生えただけの熊でしょ?」
「いやいや! あれは全身の骨が高質化してるから、普通の熊とは全くの別物だって!」
そんな感じで僕と父でやいのやいのと言い合っていると、近づいてくる人影があった。
とりあえず父との会話を取りやめるそちらを見る。
一人はリゲンさんだ。ちなみに今さっきまで言い合っていた父もそうだが、狩りから帰ってきたばかりなので、簡単に革鎧と剣、手槍で武装をしている。
もう一人は弦を張った弓をたすき掛けにしている毛皮を加工した防具を装備した男性だ。
眼光鋭いその男性は僕を見て口を開く。
「サボ」
「どうしたのヤカゲさん?」
「アカギ……?」
「ああ。アカギなら冒険者の街でまだ冒険者をやってるよ? まあ僕もまだ冒険者なんだけども」
「ふむ」
それだけ言うとまた口を閉ざした男性。
このむっちゃ口数の少ない男性こそアカギのお父さんであるヤカゲさんだ。
アカギ曰く、『本人は話したいこと聞きたいことがいっぱいあるみたいなんだけど、なかなか口を開かないんだよねウチのオヤジ』とのこと。
家の中ではそれなりに話をするらしい。
「こっち村。そっちがロック」
2頭の熊を指さして教えてくれるが、ちょっと判断が難しい。
普通の熊が村で、マーダーベアがウチ?
「あ~。普通の熊は村で分けるが、そっちの魔物の熊はサボの家の獲物ってことだ」
狩りに付いていったリゲンさんがヤカゲさんの言葉を補足してくれる。だが――
「……何故に?」
僕の質問に、呆れた様に答えてくれるリゲンさん。
「何故って、ロックとエドとその嬢ちゃん達だけで狩った獲物、村のだと主張出来るわけないだろ? ――親父だったら何というか分からんが――そもそもあのまま襲われてたら俺らだってヤバかったんだ。村に運んだのはその礼の意味もある」
ギリギリと音が鳴っているような動きの悪い首を回して、僕は忠告を聞いてくれなかった面々の顔を見る。
全員、僕と視線を合わせないようにそっぽを向いていた。
「ん~? なんで危険な事をしてたのかな? 別に無理に倒さなくても良かったんじゃない? 結果的に怪我しなかっただけで、魔物相手は危険だったんじゃないのかな?」
ジロリと父とエド兄さんとアサ達を見渡す。
「……こ、これがドンガ村の触るな危険、『知りたがり』サボか」
「……本気だと薪を手にしているんだって?」
何やら外野が騒がしいのでジロリとそちらも見る。全員に目を逸らされてしまった。
僕はしばらく無言の圧を掛けるが、溜め息一つ吐きだして圧を掛けるのをやめた。
「「「え?」」」
「まあ怪我一つせずに帰ってきたんだからこれ以上は止めとくよ。そもそも狩りに行って、怪我せずに帰れるように頑張った相手に、狩りにも行ってない僕がアレコレ言うのも違うだろうしね」
胸を撫で下ろす父達を横目に、改めて今日の狩りの成果を見る。
「? そういや解体はどうするの?」
目の前の獲物はそれが何だったのか分かる状態。つまり皮もはいでない素のままだ。
「ああ、普通の熊でもちょっとデカイサイズだったから木の枝に吊るすことも出来なくてな」
「枝折れる」
リゲンさんとヤカゲさんの言葉に「ああ」と納得する。
見た目でも僕の何倍も重そうな熊だ。身が引き締まっていれば更に重たいだろう。
「ま、とりあえず吊るす?」
「「どこに?」」
という2人、僕は行動で示すこととした。
スキルパワーを地面に流し、地面から生える土の塊をイメージする。
土魔法スキルレベル2相当の魔法――
「『アースグレイブ(先端、平状態)』!」
ドゴン! と持ち上がる地面に乗せられ、2頭の熊が人の背丈よりも高い位置に持ち上がる。
更に僕は持ち上がった地面に手を添える。
まだスキルパワーを使った直後なので、それほど多くスキルパワーを使わずに済みそうだ。
「『アースモーフィング』!」
手から伝わるスキルパワーで持ち上がった地面が更に変形。2頭の熊を仰向けにひっくり返しながら後ろ足をガッチリと固定しつつ、盛り上がった地面に傾斜をつける。当然、頭が下向きになるようにだ。
完全に目的の形になったのを確認すると、僕はパンパンと手を叩きながら振り返った。
「どう? 解体しやすくなったでしょ?」
だが解体しやすくなったはずの熊に誰も近づいて来ない。狩人であるヤカゲさんもだ。
全員がポカンとした表情をしている。
おかしいな? 何か失敗したかと熊を見る。
事切れた熊が僕に語り掛けてくることはなかった。だよね?
あれから文字や計算などの勉強会はそれなりの数をこなしたおかげか、全員が最低限必要な文字や単語、計算などを出来る様になった。
それからスキル訓練も継続して行っており、今では僕の『鑑定』によって個々人に向いたスキルを覚えてもらい、村の各所で仕事の手伝いなどもしてもらうようになった。
リゲンさんの口添えもあったおかげか、女性達がドンガ村の住人に素直に受け入れられたのは良かったことだと思う。
*
「うん? 猟をしてくるの?」
僕は担いでいた木を下へ降ろしながら、その言伝を持ってきた相手であるアサを見た。
アサはズボンの上にシャツを着てその上から革で出来た胸当てを装備した格好だ。腰には同じように革で出来た鞘に納められた剣を下げている。
最近伸ばし始めたという長くなった髪を首の後ろに結んでいる顔を見なければ少年と見間違えるかもしれない恰好だ。
「サボ兄さんが何を考えているか大体想像つきますけど……。村人全員が参加する猟が近々行われるそうなんです。それに参加してもいいか、親か保護者に聞いてきなさいって言われて」
ならアサのお母さんに聞くべきでは? と言いかけて気づく。
そういやアサ達って、僕と契約している農奴だった!
最近農業以外に従事しているアサ達を見ていてすっかり忘れていた。
ちなみに農業以外に従事していて『じゃあ農業は?』と言われたら、すでにウチの畑における今年の作業のほぼ大部分を終わらせているので手が空いているのだ。
次に手が掛かるのは植えたものが芽を出して成長してから。
それまでは朝方、水魔法スキルを覚えた人達で水やりを終わらせて終わりだ。
魔法系スキルって便利だよね。
そんな状態なので午前中の空いた時間は他の家の畑仕事や家の掃除の手伝いなどをして、アサ達も村の中に散って作業をし、もう彼女たちもドンガ村の住人だと認知されている。
だけれども――
「その猟って、村の男衆だけじゃなかったっけ?」
そう。僕の記憶では参加するのは村の男性だけだったはず。
「えっと、『アカギ』さん? って人が昔に参加してたから、実力さえあれば大丈夫って村の自警団の人から聞いたんだけど?」
なるほどアカギか。
狩人の娘であるアカギが昔に参加してたなら、『女性厳禁』とは言えないんだろうなぁ。そのお父さんが狩人衆のトップだし。
ドンガ村では畜産はやっておらず、肉や皮を得たいなら狩りをしてくるしかない。
……ハーゲン爺の家は畑オンリーの家だよ? 決して家の中で牛だの豚だの鶏だのを飼っているわけではない。
「まあ女性参加が大丈夫なのは分かったけど、その実力って方はどうしたの?」
自警団は僕が子供の頃に組織された、言わば『村の青年団』だ。
組織された経緯はよく分からなかったんだけども、どうも昔に村の中で不心得者が出たらしい。
結成されてからはせいぜい酔っ払いとかを介抱したりする程度しか聞いたことは無いが、いざという時の為に武器による訓練などを定期的に行っているようだ。
ちなみに参加することのなかった僕がなぜ活動内容を知っているかというと、自警団の団長にリゲンさんが居て、副団長に僕の父が就任しているからだ。
自警団の寄り合いが偶にあってめんどくさい。とか言いながらもウキウキと寄り合いに出向いていく父の目当ては終わった後の酒盛りだ。
母も村の為の自警団だからと強く出れないが、二日酔いをした場合はこっぴどく叱られている父の姿を見たことがある。
そんなユルユルな自警団がアサの参加を認めた? なぜ?
「自警団の訓練に参加して勝ちました」
あっさりと理由が分かった。
……自警団のレベルを問いたい。
「イコとかウルも含めて、サボ兄さんの教えを受けた全員です」
しかもアサだけじゃなかった!?
「さすがにカシャとかキリ、クーネは参加を認めることが出来ないそうですが」
「まあ、そりゃあそうだろうねぇ」
どのくらいボコボコにされたのかは分からないが、5、6歳児に森の中を歩かせるわけにはいかないという常識は備えていた様だ。
「代わりに狩りの間、村の見回りをお願いされました」
「おい、自警団!? 本末転倒じゃないか?!」
僕がドンガ村の自警団の行く末を案じていると、アサが僕を下から覗き込むように見ていた。
「行っちゃダメ? サボ兄さん?」
「ん~~……。父さんとかエド兄さんも行くのかな?」
「はい。ロック父さんとエドガー兄さんも参加するみたいです」
ふと疑問が浮かぶ。
「……ん? なんでそのメンバーで僕に声が掛かってないの?」
「な、なんででしょう? あ、あはは~」
何故か動揺するアサ。
「まあいいか。怪我だけはしないようにね?」
「! 行っていいのサボ兄さん!?」
まあ狩りで得た獲物を換金すれば、アサ達の奴隷契約も早いうちに解放出来るだろうと考えて僕は頷く。
ただ言ったとおりに、怪我しないで帰ってきてくれるのが一番嬉しいことだけども。
「それじゃあ、うんと大きな獲物を狩ってきますね!」
そう言ってアサが村の中心へと走っていった。
*
「……いやデカイな?」
時刻は夕方から夜になろうとしている頃。
村の広場まで引っ張られてきたその獲物を見て、思わず僕は声に出てしまったくらいだ。
目の前には2頭の大熊。
というか1頭はこれ、魔物じゃない?
動物が『魔素』とかいうものを吸い込み生活していると魔物へと変じると言われている。
ちなみにコボルトやゴブリンという魔物は、そういった魔物として誕生するそうだ。動物が変じるのと発生の仕方は別だが、どちらも魔物と呼ばれている。
動物の場合、変化が少ないと見分けるのが大変なのだが――
「ああ。4本腕の熊。冒険者達の間で『マーダーベア』とか呼んでいる個体だな」
僕が4本腕の熊を見ていると父がそう言ってきた。
「だよね? 普通の熊は4本の足しか持ってないもんね?」
人で言う肩甲骨辺りから腕を生やした熊なんて初めてみた。
「いや、昔にお前が1人で刈ってきた『ホーンベア』だって、やばい魔物だったんだが?」
「あ~……。でも、あれは角の生えただけの熊でしょ?」
「いやいや! あれは全身の骨が高質化してるから、普通の熊とは全くの別物だって!」
そんな感じで僕と父でやいのやいのと言い合っていると、近づいてくる人影があった。
とりあえず父との会話を取りやめるそちらを見る。
一人はリゲンさんだ。ちなみに今さっきまで言い合っていた父もそうだが、狩りから帰ってきたばかりなので、簡単に革鎧と剣、手槍で武装をしている。
もう一人は弦を張った弓をたすき掛けにしている毛皮を加工した防具を装備した男性だ。
眼光鋭いその男性は僕を見て口を開く。
「サボ」
「どうしたのヤカゲさん?」
「アカギ……?」
「ああ。アカギなら冒険者の街でまだ冒険者をやってるよ? まあ僕もまだ冒険者なんだけども」
「ふむ」
それだけ言うとまた口を閉ざした男性。
このむっちゃ口数の少ない男性こそアカギのお父さんであるヤカゲさんだ。
アカギ曰く、『本人は話したいこと聞きたいことがいっぱいあるみたいなんだけど、なかなか口を開かないんだよねウチのオヤジ』とのこと。
家の中ではそれなりに話をするらしい。
「こっち村。そっちがロック」
2頭の熊を指さして教えてくれるが、ちょっと判断が難しい。
普通の熊が村で、マーダーベアがウチ?
「あ~。普通の熊は村で分けるが、そっちの魔物の熊はサボの家の獲物ってことだ」
狩りに付いていったリゲンさんがヤカゲさんの言葉を補足してくれる。だが――
「……何故に?」
僕の質問に、呆れた様に答えてくれるリゲンさん。
「何故って、ロックとエドとその嬢ちゃん達だけで狩った獲物、村のだと主張出来るわけないだろ? ――親父だったら何というか分からんが――そもそもあのまま襲われてたら俺らだってヤバかったんだ。村に運んだのはその礼の意味もある」
ギリギリと音が鳴っているような動きの悪い首を回して、僕は忠告を聞いてくれなかった面々の顔を見る。
全員、僕と視線を合わせないようにそっぽを向いていた。
「ん~? なんで危険な事をしてたのかな? 別に無理に倒さなくても良かったんじゃない? 結果的に怪我しなかっただけで、魔物相手は危険だったんじゃないのかな?」
ジロリと父とエド兄さんとアサ達を見渡す。
「……こ、これがドンガ村の触るな危険、『知りたがり』サボか」
「……本気だと薪を手にしているんだって?」
何やら外野が騒がしいのでジロリとそちらも見る。全員に目を逸らされてしまった。
僕はしばらく無言の圧を掛けるが、溜め息一つ吐きだして圧を掛けるのをやめた。
「「「え?」」」
「まあ怪我一つせずに帰ってきたんだからこれ以上は止めとくよ。そもそも狩りに行って、怪我せずに帰れるように頑張った相手に、狩りにも行ってない僕がアレコレ言うのも違うだろうしね」
胸を撫で下ろす父達を横目に、改めて今日の狩りの成果を見る。
「? そういや解体はどうするの?」
目の前の獲物はそれが何だったのか分かる状態。つまり皮もはいでない素のままだ。
「ああ、普通の熊でもちょっとデカイサイズだったから木の枝に吊るすことも出来なくてな」
「枝折れる」
リゲンさんとヤカゲさんの言葉に「ああ」と納得する。
見た目でも僕の何倍も重そうな熊だ。身が引き締まっていれば更に重たいだろう。
「ま、とりあえず吊るす?」
「「どこに?」」
という2人、僕は行動で示すこととした。
スキルパワーを地面に流し、地面から生える土の塊をイメージする。
土魔法スキルレベル2相当の魔法――
「『アースグレイブ(先端、平状態)』!」
ドゴン! と持ち上がる地面に乗せられ、2頭の熊が人の背丈よりも高い位置に持ち上がる。
更に僕は持ち上がった地面に手を添える。
まだスキルパワーを使った直後なので、それほど多くスキルパワーを使わずに済みそうだ。
「『アースモーフィング』!」
手から伝わるスキルパワーで持ち上がった地面が更に変形。2頭の熊を仰向けにひっくり返しながら後ろ足をガッチリと固定しつつ、盛り上がった地面に傾斜をつける。当然、頭が下向きになるようにだ。
完全に目的の形になったのを確認すると、僕はパンパンと手を叩きながら振り返った。
「どう? 解体しやすくなったでしょ?」
だが解体しやすくなったはずの熊に誰も近づいて来ない。狩人であるヤカゲさんもだ。
全員がポカンとした表情をしている。
おかしいな? 何か失敗したかと熊を見る。
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