ほさちのBL小品詰め合わせ

穂祥 舞

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花占い

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「来る、来ない、来る、来ない……」

 俺は庭に面した窓を開けて、緩い熱風を受けつつそこに座っていた。足をぷらぷらさせながら、赤い花びらを一枚ずつ千切っては、熱された芝に落とす。
 赤とピンクのガーベラは、さっき母が捨てたものだった。暑さで茎がダメになったらしく、2本ともくたりと頭を下げてしまったのだ。まだ花は綺麗なのに。
 洗濯を干し終わったらしい母が、通りすがりに俺に言う。

「何やってんの、冷気逃げるわよ……いやねぇ、ゴミ箱から拾ったの?」

 俺は正直に答えた。

「うん、持田来ないか占ってる」
「え? 持田くん、彼女できたんでしょ? もうあんたとは遊んでくれないんじゃない?」

 笑い混じりの母の声が癇に障った。嫌なことを言うババアだ。口にはしないが。
 昨夜持田は言ったのだ。彼女と約束があるが、あまり体調が良くないと連絡してきた。もし明日彼女の調子が戻らなければ、前売り券が無駄になってしまうから、映画につき合ってくれないか、と。
 その映画は、俺も観たいと思っていたものだ。彼女と行けなくなったからって俺を誘うのか、と言ってやりたい気もするが、チケットが無駄になるのはもったいない。それで俺は、彼が俺を迎えに来てくれるかどうかを、花に尋ねている。こんな発想に至る辺り、暑さで多少頭がおかしくなっているかもしれない。
 俺は母を無視して、花びらを毟り続ける。

「……来ない……」

 最後の一枚を千切った時、想定外に絶望感があった。マジかよ。これはやり直しだ。
 禿げてしまったがくを残した茎を庭に捨て、俺はピンクのガーベラを手に取る。

「来る、来ない、来る、来ない……」

 薄くて細長いピンクの花弁が、温い風に舞う。既に散らされた赤い花びらに、それが重なっていく。残り3枚。

「……来る」

 やった! 俺は心の中でガッツポーズをした。滑稽な姿になった茎を握りしめたまま、ばたばたと自分の部屋に向かう。

「ちょっと! 窓閉めなさい!」

 母の怒声が追いかけてきたが、放置した。部屋の扉を開けると、充電していたスマートフォンがちょうどブルッと震えた。持田からのメッセージに違いない。
 ほら見ろ、あいつも俺が好きなんだ。
 彼女ができたって、俺と遊ぶのが一番楽しいと思ってくれている。小学生の頃から、だてに10年もつき合っていない。あいつがあの映画を観たいと思っていることもわかっていたし、映画が終わったらどこでお茶をするつもりだったのかも想像がつく。
 俺のテンションはダダ上がりだった。だって、花が「来る」と告げたのだから!


*初出 2023.7.18 文披31題 day18 お題「占い」
もやっと、高校生の幼馴染という設定で書きました。マスカーニの歌曲 ”M’ama, non m’ama” (愛してる、愛してない)のイメージです。歌い手(ヒロイン?)は、花占いをしていますが、「愛していない」で花びらが終わってしまい、「あの花には1枚花びらが足りなかったから、もう一回やろう!」と開き直る……という明るい歌です。
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