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同窓会に行こう!
11月12日 12:30⑤
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「これ、ホテルのブライダルフェアの模擬挙式じゃないですか?」
「模擬挙式?」
「ええ、こんな感じだよって見せてくれる……桂山さん、昔一緒に行ったことなかったでしたっけ?」
蓉子の言葉に、暁斗以外は皆爆笑した。なるほどと思ったが、全くぴんと来なかった。
「今日日曜日だし、今はこういうフェアのシーズンだし……奏人さんがどうしてそんなところに行ってるのかはわからないですけど」
泉がにやにやしながら暁斗に顔を寄せてくる。
「桂山じゃなくて、この先輩を選んじゃったんじゃないのか? この人、パートナーさんと年齢近いんだろ? だいぶ年上のおまえより話が合うのかもしれないぞ」
へ? と思わず言った暁斗の顔が余程面白かったとみえて、河島以外は皆げらげら笑う。酷い、と暁斗は思った。こいつらは、俺が知らなかっただけで、テニス部の連中より酷いかもしれない。
河島は、そんなことないと俺は思うけど、と言ったが、何気に半笑いである。
「でもまあ、高崎さんはいつも桂山で遊んでるっぽいから、俺はプチ仕返しを提案する」
「は? おまえ、それでも神に仕える身かよ!」
大桑が笑いながら突っ込む。恐ろしいことに、蓉子には河島の悪の計画が想像できたらしく、てきぱきと暁斗に指示し始める。
「わかった、桂山さん、河島さんにスマホ渡して……はい、こっち来て」
暁斗は訳がわからないまま、料理が並ぶ長テーブルを背にして、楽し気な蓉子と並んで立つ。宴会場にいるほぼ全員が、元夫婦が何かしていることに気づき、視線を送ってきた。
「よし、もうちょっと寄って……はい、チーズ」
河島はスマートフォンを構え、暁斗と蓉子のツーショット写真を撮った。ほろ酔いの岡田ゼミ生は、おおっ、と何故か手を叩いてその様子を見守る。
「これを無言で高崎さんに送りつけなさい」
河島に大真面目に言われて、暁斗ははあぁ? と情けない声を出してしまった。岡田までこちらを見て苦笑している。スマートフォンを受け取りながら、暁斗は言った。
「河島、これで奏人さんが怒ったら、俺はおまえを一生恨む……」
「怒らないと思うよ、怒る必要も無いし」
河島は言って、ふわっと笑った。彼が悪魔なのか神なのか、本当に暁斗にはわからない。皆に急かされて、暁斗はおろおろしながら、蓉子と写った画像を奏人に送ってしまった。
蓉子もあっけらかんと言う。
「あ、私の彼も桂山さんと会うこと気にしてたから、この写真送っとくわ」
「おいおい、やめようよ、もう……」
暁斗が肩を落とすと、岡田が笑いながらこっちに来た。
「相変わらず桂山は何というか、身を犠牲にして話題を作る立ち位置なんだなぁ」
「先生まで、酷い……」
「いやいや、河島はパートナーさんと話したことがあるんだろう? 彼がああ言うなら大丈夫だ、パートナーさんと万が一拗れたら間に立つから、連絡してきなさい」
根拠の無い師の励ましに、暁斗は泣きそうになるが、いつものようにどうでも良くなってきた。河島の言うように、からかい半分で奏人があの写真を送ってきた可能性は大いにある。暁斗が変に焦ってこの場で話題を提供してしまったのは、奏人の目論見通りだったかもしれないと考えると、ちょっと悔しい。
奏人から即レスは来なかった。ブライダルフェアに参加しているのならば、ホテルの中を案内されてうろうろしているのかもしれない。いたずらの片棒を担がされた片山から、先に謝罪のLINEが来そうな気もする。一緒にフェアに参加している理由は、相変わらずわからないままだが、楽しんでいるならいいだろう。
やがて河島がマイクを持って前に行き、皆の注目を促した。
「はい皆さん、ご歓談中ではありますが、これから1人1分で、全員に近況報告をしていただこうと思いまーす」
拍手が起こり、わぁ、と場が盛り上がった。
「もちろん公開したいことだけでいいですよ、質問はあとで個別におこなってください……上級生から、学籍番号順でいいですか?」
パスタを口に入れていた泉が、俺から? と顔を上げて言った。彼はテーブルにグラスと皿を置き、いそいそと河島の元に向かう。最近会社であまりプレゼンをしなくなっている暁斗は、結構いろいろあったここ数年について語るだけでも、1分では足りないなと思った。
「模擬挙式?」
「ええ、こんな感じだよって見せてくれる……桂山さん、昔一緒に行ったことなかったでしたっけ?」
蓉子の言葉に、暁斗以外は皆爆笑した。なるほどと思ったが、全くぴんと来なかった。
「今日日曜日だし、今はこういうフェアのシーズンだし……奏人さんがどうしてそんなところに行ってるのかはわからないですけど」
泉がにやにやしながら暁斗に顔を寄せてくる。
「桂山じゃなくて、この先輩を選んじゃったんじゃないのか? この人、パートナーさんと年齢近いんだろ? だいぶ年上のおまえより話が合うのかもしれないぞ」
へ? と思わず言った暁斗の顔が余程面白かったとみえて、河島以外は皆げらげら笑う。酷い、と暁斗は思った。こいつらは、俺が知らなかっただけで、テニス部の連中より酷いかもしれない。
河島は、そんなことないと俺は思うけど、と言ったが、何気に半笑いである。
「でもまあ、高崎さんはいつも桂山で遊んでるっぽいから、俺はプチ仕返しを提案する」
「は? おまえ、それでも神に仕える身かよ!」
大桑が笑いながら突っ込む。恐ろしいことに、蓉子には河島の悪の計画が想像できたらしく、てきぱきと暁斗に指示し始める。
「わかった、桂山さん、河島さんにスマホ渡して……はい、こっち来て」
暁斗は訳がわからないまま、料理が並ぶ長テーブルを背にして、楽し気な蓉子と並んで立つ。宴会場にいるほぼ全員が、元夫婦が何かしていることに気づき、視線を送ってきた。
「よし、もうちょっと寄って……はい、チーズ」
河島はスマートフォンを構え、暁斗と蓉子のツーショット写真を撮った。ほろ酔いの岡田ゼミ生は、おおっ、と何故か手を叩いてその様子を見守る。
「これを無言で高崎さんに送りつけなさい」
河島に大真面目に言われて、暁斗ははあぁ? と情けない声を出してしまった。岡田までこちらを見て苦笑している。スマートフォンを受け取りながら、暁斗は言った。
「河島、これで奏人さんが怒ったら、俺はおまえを一生恨む……」
「怒らないと思うよ、怒る必要も無いし」
河島は言って、ふわっと笑った。彼が悪魔なのか神なのか、本当に暁斗にはわからない。皆に急かされて、暁斗はおろおろしながら、蓉子と写った画像を奏人に送ってしまった。
蓉子もあっけらかんと言う。
「あ、私の彼も桂山さんと会うこと気にしてたから、この写真送っとくわ」
「おいおい、やめようよ、もう……」
暁斗が肩を落とすと、岡田が笑いながらこっちに来た。
「相変わらず桂山は何というか、身を犠牲にして話題を作る立ち位置なんだなぁ」
「先生まで、酷い……」
「いやいや、河島はパートナーさんと話したことがあるんだろう? 彼がああ言うなら大丈夫だ、パートナーさんと万が一拗れたら間に立つから、連絡してきなさい」
根拠の無い師の励ましに、暁斗は泣きそうになるが、いつものようにどうでも良くなってきた。河島の言うように、からかい半分で奏人があの写真を送ってきた可能性は大いにある。暁斗が変に焦ってこの場で話題を提供してしまったのは、奏人の目論見通りだったかもしれないと考えると、ちょっと悔しい。
奏人から即レスは来なかった。ブライダルフェアに参加しているのならば、ホテルの中を案内されてうろうろしているのかもしれない。いたずらの片棒を担がされた片山から、先に謝罪のLINEが来そうな気もする。一緒にフェアに参加している理由は、相変わらずわからないままだが、楽しんでいるならいいだろう。
やがて河島がマイクを持って前に行き、皆の注目を促した。
「はい皆さん、ご歓談中ではありますが、これから1人1分で、全員に近況報告をしていただこうと思いまーす」
拍手が起こり、わぁ、と場が盛り上がった。
「もちろん公開したいことだけでいいですよ、質問はあとで個別におこなってください……上級生から、学籍番号順でいいですか?」
パスタを口に入れていた泉が、俺から? と顔を上げて言った。彼はテーブルにグラスと皿を置き、いそいそと河島の元に向かう。最近会社であまりプレゼンをしなくなっている暁斗は、結構いろいろあったここ数年について語るだけでも、1分では足りないなと思った。
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