上 下
256 / 345
同窓会に行こう!

11月12日 12:30①

しおりを挟む
 模擬挙式を見て、フラワーシャワーまで体験させてもらい、奏人はすっかり楽しい気分になっていた。3月に同僚の結婚式に出席した時も楽しかったが、岡島が自分を式に呼んでくれるつもりでいるようなので、うきうきしてしまう。
 岡島はプランナーの森末の説明を聞くのに必死なので(たぶん男は女ほど、結婚式や披露宴にイメージを持てないのだろうと奏人は思う)、奏人は片山と手分けして、周りの写真を撮っておいてやる。するとチャペルの入口にいたカメラマンが、2人で撮ろうかと言ってきた。

「お帰りの際にお渡ししますよ、スマホでも撮りますし」

 奏人は片山と顔を見合わせた。これは、自分たちがカップルだと勘違いされているのかもしれない。
 しかしノリの良い片山は、お願いします、と自分のスマートフォンをカメラマンに手渡した。そして祭壇が背後に入るよう、カメラマンの指示に従って2人で並ぶ。はいチーズ、という合図と共に、互いのほうに首を傾けてみる。
 何やってんの、と岡島の呆れたような声が飛んできた。カメラマンは岡島にも入るよう言って、バージンロードで謎の同窓会写真が撮影された。
 片山はスマートフォンに収まった、ツーショットの写真をすぐに奏人に送ってくれた。3人でそれを見て爆笑する。岡島が手を叩いた。

「この人たち何なんだよ」
「面白過ぎるからインスタに上げよう」

 片山は笑いながら言った。奏人と片山の絶妙な距離感は、友人にも恋人同士にも取れるが、バックに写り込む、花びらの散るバージンロードと祭壇が意味深過ぎる。奏人も指を動かした。

「暁斗さんに送っちゃえ」
「それが弄ってるって言うんだよ」

 森末が呼びに来たので、笑いながらバンケットホールに向かう。岡島が楽しみにしていた、料理の試食会だ。丸テーブルに、3人でゆったり座る。

「当ホテルはフレンチがお勧めではありますけれど、和食との折衷コースもご提案できます……もちろんアレルギーをお持ちの方には、個別対応いたします」

 レストランのシェフの説明とともに運ばれてきたのは、色とりどりの野菜で飾られた前菜と、小さなテーブルロールだった。料理自慢のホテルらしく、凝った盛りつけが見た目にも楽しい。
 少し離れた場所に座るカップルのテーブルに、肉料理らしきものが運ばれているのを見て、奏人は思わず岡島に小声で話しかける。

「何品出してくれるの? あまりタダ飯食いになりたくないんだけど、そう思わせるのがホテルの手口?」

 岡島は真面目な顔になり、重々しく答えた。

「気にせずとも良いのだ、結婚式の予約がひとつ入れば、きっとこの程度は元が取れるに違いないのだから」

 それを聞いて片山はくすっと笑い、だろうな、と言った。

「利用を検討してるのは岡島だから、少なくとも高崎が気にしなくてもいいと思う」

 あまり納得できなかったが、奏人ははあ、と応じて、オレンジ色のジュレをフォークで掬った。にんじんの風味がしたが、癖のある臭みが無い。

「美味しい」
「うん、マイルドにんじんだ」

 話し合う奏人と片山を見て、岡島は何となく不満気な表情になる。奏人はそれに気づき、どうしたの? と声をかける。

「にんじん掬えないんだけど」
「えっ?」

 岡島は長方形のジュレを、フォークで潰してしまっていた。スプーンで食べることを、奏人は提案する。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです

BL / 連載中 24h.ポイント:4,378pt お気に入り:107

未熟な欠片たち

BL / 連載中 24h.ポイント:420pt お気に入り:21

酒の席での戯言ですのよ。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:26,374pt お気に入り:293

〇〇〇系学園恋愛ストーリー

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:8

断罪された悪役側婿ですが、氷狼の騎士様に溺愛されています

BL / 完結 24h.ポイント:660pt お気に入り:2,381

今更愛していると言われても困ります。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:142,363pt お気に入り:2,840

悪役令息は犬猿の仲の騎士団長に溺愛される。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,691pt お気に入り:627

処理中です...