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同窓会に行こう!
11月12日 11:30④
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暁斗がお台場のホテルの4階の宴会場フロアに着くと、先に来ていた河島が、会場の前でホテルの担当者と打ち合わせをしているのが見えた。机を貸してもらったようで、扉の前に「受付」という紙が貼られた長テーブルが置いてある。
スーツを着た河島は暁斗に気づき、嬉しげに手を振った。
「おはよう、中もほぼセッティング終わってるよ」
「全部任せて悪いな」
暁斗も担当者に挨拶して、請求書を受け取る。カードで先に清算することにした。
「受付には俺座っとくよ、河島は全体の様子見といて」
暁斗が言うと、河島は微苦笑する。
「先生は俺と一緒に来たんだけど、ご婦人がたが数名もういらしてて、中で先生と話してる」
暁斗も苦笑した。時間ちょうどからしか受付はしないと言っておいても、早く来る人間は必ずいるものである。
「じゃあ俺も先生に挨拶してから、早速受付を始めるとします」
「うん、そっち任せる」
バイキング形式に設えられた宴会場には、もうほとんどの料理が並んでいた。窓際で、岡田教授と3人の女性が立ち話をしている。暁斗は女性のうちの1人が、蓉子であることに気づいた。あとの2人も、1学年下のゼミ生だ。岡田がこちらを向いた。
「お、桂山だ、今日はありがとう」
手を上げた恩師は髪がかなり白くなり、やはり歳を取ったなというのが第一印象だった。しかし痩せたり背が丸くなったりはしておらず、元気そうなので、暁斗は安心する。
「ご無沙汰しています、こちらこそ今日はご足労いただきありがとうございます」
「おやおや、大会社の営業課長さんらしいね」
岡田の言葉に、女性たちが笑った。暁斗も笑い混じりに応じる。
「いや、営業トークじゃないですよ、先生は目白にお住まいだから、お台場は少し遠いかなと思ってたので」
「結構な年寄り扱いだなぁ」
岡田は目を細めて笑う。暁斗が現役の頃は、講義への遅刻や授業中の私語に対して、結構厳しい言葉をかける人だったが、今やすっかり好々爺である。
「先生は後期高齢者なんですから、それなりの配慮はさせていただかないと」
「そうですよ、私たちも結構なおじさんおばさんになってるんですから」
発言したのは木村蓉子だった。おばさんなどと言うが、責任ある立場で働いているからか、彼女は若々しくきりっとしていた。
蓉子は旅行会社に勤務している。感染症の拡大で業界が打撃を受け、彼女の会社を含む各社が店舗を縮小してインターネット対応中心に切り替える中、残された数少ない対面申し込みカウンターの店次長を任されていると、暁斗は晴夏から聞いていた。
「受付開けるから、順番にお支払いにお越しくださいませ」
暁斗が言うと、蓉子が手を上げた。
「私受付手伝いますよ、殺到したら桂山さん1人じゃきついでしょう?」
彼女の言う通りで断る理由も無いので、お願いします、と暁斗は答えた。岡田や他の女子たちの視線に、好奇心のようなものが混じったのがわかった。
もちろん皆、暁斗と蓉子が結婚し、離婚したことを知っている。皆おそらく、離婚してから初めて2人が顔を合わせると思っているのだろう。暁斗の妹を通じて、互いが何となく近況を知っていることや、暁斗が男を好きになった件で一度サシで話していることなど、誰も知りはしない。
スーツを着た河島は暁斗に気づき、嬉しげに手を振った。
「おはよう、中もほぼセッティング終わってるよ」
「全部任せて悪いな」
暁斗も担当者に挨拶して、請求書を受け取る。カードで先に清算することにした。
「受付には俺座っとくよ、河島は全体の様子見といて」
暁斗が言うと、河島は微苦笑する。
「先生は俺と一緒に来たんだけど、ご婦人がたが数名もういらしてて、中で先生と話してる」
暁斗も苦笑した。時間ちょうどからしか受付はしないと言っておいても、早く来る人間は必ずいるものである。
「じゃあ俺も先生に挨拶してから、早速受付を始めるとします」
「うん、そっち任せる」
バイキング形式に設えられた宴会場には、もうほとんどの料理が並んでいた。窓際で、岡田教授と3人の女性が立ち話をしている。暁斗は女性のうちの1人が、蓉子であることに気づいた。あとの2人も、1学年下のゼミ生だ。岡田がこちらを向いた。
「お、桂山だ、今日はありがとう」
手を上げた恩師は髪がかなり白くなり、やはり歳を取ったなというのが第一印象だった。しかし痩せたり背が丸くなったりはしておらず、元気そうなので、暁斗は安心する。
「ご無沙汰しています、こちらこそ今日はご足労いただきありがとうございます」
「おやおや、大会社の営業課長さんらしいね」
岡田の言葉に、女性たちが笑った。暁斗も笑い混じりに応じる。
「いや、営業トークじゃないですよ、先生は目白にお住まいだから、お台場は少し遠いかなと思ってたので」
「結構な年寄り扱いだなぁ」
岡田は目を細めて笑う。暁斗が現役の頃は、講義への遅刻や授業中の私語に対して、結構厳しい言葉をかける人だったが、今やすっかり好々爺である。
「先生は後期高齢者なんですから、それなりの配慮はさせていただかないと」
「そうですよ、私たちも結構なおじさんおばさんになってるんですから」
発言したのは木村蓉子だった。おばさんなどと言うが、責任ある立場で働いているからか、彼女は若々しくきりっとしていた。
蓉子は旅行会社に勤務している。感染症の拡大で業界が打撃を受け、彼女の会社を含む各社が店舗を縮小してインターネット対応中心に切り替える中、残された数少ない対面申し込みカウンターの店次長を任されていると、暁斗は晴夏から聞いていた。
「受付開けるから、順番にお支払いにお越しくださいませ」
暁斗が言うと、蓉子が手を上げた。
「私受付手伝いますよ、殺到したら桂山さん1人じゃきついでしょう?」
彼女の言う通りで断る理由も無いので、お願いします、と暁斗は答えた。岡田や他の女子たちの視線に、好奇心のようなものが混じったのがわかった。
もちろん皆、暁斗と蓉子が結婚し、離婚したことを知っている。皆おそらく、離婚してから初めて2人が顔を合わせると思っているのだろう。暁斗の妹を通じて、互いが何となく近況を知っていることや、暁斗が男を好きになった件で一度サシで話していることなど、誰も知りはしない。
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