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おじちゃんとおにいちゃん、がんばる。

3-⑩

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「それはもしかしたら、私たちがゲイだと話したからかもしれないです」

 岡はそうなんですか、と少し驚いたようだった。暁斗は続ける。

「最近はあのくらいの年齢で性的マイノリティについて学校で教えて貰うようですし、由利江ちゃんは分別がありそうだったので……自分の里親になるのがレズビアンのカップルだと教えてくれましたよ」
「そうですか……杏菜ちゃんのことを可愛がっているので、お2人が杏菜ちゃんの面会人だから、安心したような気もしますね」

 信用してもらえる要素が沢山あったということか。長らく営業畑で働き、悩める社員たちの相談に乗っている暁斗は、それはラッキーだと思った。逆にちょっとした言葉や仕草で、初めて話す人に不信感を与えることもある。

「里親になる女性たちと、幸せになってくれたらいいですね」

 暁斗が言うと、はい、と岡は深く頷いた。ぱたぱたと足音がして、小さな少女が笑顔で部屋に飛び込んできた。相変わらず遠くで雷が鳴っているようだが、杏菜はさっきは怖がったのに、もう気にしていない様子だ。

「はい、杏菜が配ったら遅いから、奏人おにいちゃん配って」

 杏菜はトランプの入った箱を、奏人に手渡した。はいはい、と言いながらトランプを出した奏人は、長い指で軽くそれを扇形に開いてから揃え、さくさくと高速で切り始める。杏菜の目が丸くなった。

「わ、奏人おにいちゃんかっこいい」
「中学生くらいまで、弟とトランプでよく遊んだんだよ」
「えーいいなぁ、杏菜が麻理亜と一緒に遊ぶのは、まだまだ無理だよね……」

 指先を弄る杏菜に向かって、奏人は笑いかけた。

「そんなことないよ、あっという間に麻理亜ちゃんも大きくなると思うな」

 杏菜と妹との年齢差は4歳だ。暁斗は自分に照らし合わせてみて、妹の晴夏みたいなものかと思う。杏菜はきっと、可愛がるだろう。……奏人さんと2人で杏菜ちゃんの成長を見守りたいけど、この子のためにはやっぱり、お母さんと麻理亜ちゃんと暮らす道のほうがいいんだろうな。暁斗はちょっと切なくなった。
 窓を叩いていた雨の音が少しだけましになった。暁斗は奏人が素早くカードを配るのを見つめながら、もう少し降っていてくれても構わない気持ちになっていた。



「子どもは難しいけど、可愛いね」

 マーガレット子ども園が少しずつ離れていくのを見つめながら、奏人が言った。雨が上がると、杏菜は岡と一緒に、駐車場まで見送りに来てくれた。駄々をこねそうだった杏菜を、色鉛筆の話題で奏人が上手く宥めた。これから文房具店に直行しなくてはいけない。

「奏人さんは子どもの扱いが上手だな、小学生でも高学年になると俺の手に余ったよ」
「僕は自分が子どもだから、みんなの気持ちがちょっとわかったりするんだ」

 奏人は車の窓から、薄日の射す空を見上げる。

「あの男の子たちだって、たぶん大人の愛情とか信頼とか、そんなのを求めてて……」

 暁斗は赤信号でゆっくりブレーキを踏み、助手席の奏人にちらっと視線をやった。

「由利江ちゃんの里親になる人たちは、あの子のためにパートナーシップ制度を使うらしい」

 暁斗のほうを向いた奏人は、ふうん、と応じる。

「あの子のためというのは微妙じゃないかな? そのつもりでいたところを、由利江ちゃんを引き取る話が出て、加速したのかもよ」
「あ、それもありえるか」
「何、暁斗さんは杏菜ちゃんのために、僕たちもその話を加速させたいと思ったの?」

 いや、と暁斗は呟いた。信号が変わり、アクセルを踏む。

「それこそ、杏菜ちゃんもためってこともないんだけど……別にそれが里親になるために必要な訳じゃないし……何というか、こういうことってひとつのけじめ、なんだよな」

 暁斗は前を見たまま言った。これは結婚の経験がある暁斗でないと、わからない感覚かもしれない。

「俺たちはマイノリティだし、届けを出したとしても法律上結婚するわけじゃないんだけど、自分たちとか周囲に対して、気持ちの切り替えというか、意気込みを示すというのか」
「だから僕は届けを出そうって言ってるじゃん、僕はたぶん女性相手でも、事実婚とか嫌なタイプだよ」

 奏人はやや不満を滲ませながら言う。ああそうか、俺がぐずぐずしてるんだったか。暁斗はごめん、と思わず言った。
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