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痛みも悲しみも分かち合えるなら
6月18日 20:00③
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片山と個室に残されるという、これまた想定外の事態に陥った暁斗だが、片山が極めて普通の人なのでほっとする。舞台でバリバリ歌う人物なんて、変人が多そうだという偏見が自分にあったことに、暁斗は気づいてしまった。
「桂山さんは、その……高校時代の話をあまり高崎から聞いていないとおっしゃいましたか?」
「彼が絵を描くと知った時に、事件を起こして転学した話を聞きました……正当防衛だと感じましたけど、彼の心の傷になっているようですね」
暁斗が極力感情を排して話すと、片山は眉間に薄く皺を寄せて俯いた。
「高崎に全く非はありません、美術部の当時の部長が高崎に……歪んだ愛情と嫉妬をぶつけたんです、美術室に2人きりになったところで」
やはり片山は、その時現場に居合わせたのだ。暁斗は奏人がまだ戻らないことを確認して、片山に詳細を話させようと考える。
「どういう人物だったんですか? 奏人さんはその人が好きだったと話したんですが」
片山は小さく溜め息をついて、コーヒーカップに手を伸ばした。
「そうだったみたいですね、私はそこが理解できなかった……中学生の頃から絵で賞を貰っていて成績も優秀で、家は開業医っていう……あ、でも」
片山はカフェラテに口をつけ、少し迷ってから続けた。
「今はお兄さんが医者になって家を継いで、お姉さんも札幌の大きな病院で勤務医をしているらしいですが……絵を志したことで、そいつは家で肩身が狭かったんじゃないかって聞きましたね」
家族との関係と、おそらくゲイであることも、その人物の何処かを歪めたのかもしれない。優しい奏人は、先輩として彼を慕うと同時に、彼の心に隙間風が吹いていることに同情したのだろうか。
「今その彼はどうしてるかご存知ですか?」
暁斗が問うと、片山は背後のカーテンをちらりと窺った。
「高崎は知らないと思います、伝えるかどうかは桂山さんにお任せしますが……東京の芸大に現役合格して、展覧会で新人賞を獲ったそうですが、4回生の時に同級生とトラブルを起こしたらしく」
まさか、高校時代と同じことをやったのだろうか。暁斗はどきりとした。片山は声をさらに潜めた。
「絵が描けなくなって、心を病みました……大学を中退して北海道に戻った後の彼の動向を、誰も知りません」
暁斗は言葉が出てこなかった。片山は苦笑する。
「正直、私はそいつに同情してません……高崎が襲われた時に、練習するため集まっていたグリークラブのOBの一部は、高崎の件で責任も取らずにしれっと卒業したから、バチが当たったんだと噂しましたね」
何とも後味の悪い結末である。片山もそう思ったのだろう、声音を変えた。
「私はあの時、高崎が高校を替わる必要は無いのにと腹が立ちましたけど、仕方がなかったと思えるほどには大人になりました……それにパートナーさんを得て幸せにしている高崎と再会できたので」
暁斗も少し冷めたカフェラテに口をつけ、ミルクとコーヒーの味を楽しんだ。片山は言った。
「グリーの後輩にも高崎がどうしてるか気にしてる奴がいるんですよ」
「その辺りは、2人で会って片山さんから奏人さんに直接話してやってください、喜ぶと思います」
暁斗が言うと、片山は困惑のようなものを顔に浮かべた。暁斗はどうしましたか? と訊く。
「桂山さんは、その……高校時代の話をあまり高崎から聞いていないとおっしゃいましたか?」
「彼が絵を描くと知った時に、事件を起こして転学した話を聞きました……正当防衛だと感じましたけど、彼の心の傷になっているようですね」
暁斗が極力感情を排して話すと、片山は眉間に薄く皺を寄せて俯いた。
「高崎に全く非はありません、美術部の当時の部長が高崎に……歪んだ愛情と嫉妬をぶつけたんです、美術室に2人きりになったところで」
やはり片山は、その時現場に居合わせたのだ。暁斗は奏人がまだ戻らないことを確認して、片山に詳細を話させようと考える。
「どういう人物だったんですか? 奏人さんはその人が好きだったと話したんですが」
片山は小さく溜め息をついて、コーヒーカップに手を伸ばした。
「そうだったみたいですね、私はそこが理解できなかった……中学生の頃から絵で賞を貰っていて成績も優秀で、家は開業医っていう……あ、でも」
片山はカフェラテに口をつけ、少し迷ってから続けた。
「今はお兄さんが医者になって家を継いで、お姉さんも札幌の大きな病院で勤務医をしているらしいですが……絵を志したことで、そいつは家で肩身が狭かったんじゃないかって聞きましたね」
家族との関係と、おそらくゲイであることも、その人物の何処かを歪めたのかもしれない。優しい奏人は、先輩として彼を慕うと同時に、彼の心に隙間風が吹いていることに同情したのだろうか。
「今その彼はどうしてるかご存知ですか?」
暁斗が問うと、片山は背後のカーテンをちらりと窺った。
「高崎は知らないと思います、伝えるかどうかは桂山さんにお任せしますが……東京の芸大に現役合格して、展覧会で新人賞を獲ったそうですが、4回生の時に同級生とトラブルを起こしたらしく」
まさか、高校時代と同じことをやったのだろうか。暁斗はどきりとした。片山は声をさらに潜めた。
「絵が描けなくなって、心を病みました……大学を中退して北海道に戻った後の彼の動向を、誰も知りません」
暁斗は言葉が出てこなかった。片山は苦笑する。
「正直、私はそいつに同情してません……高崎が襲われた時に、練習するため集まっていたグリークラブのOBの一部は、高崎の件で責任も取らずにしれっと卒業したから、バチが当たったんだと噂しましたね」
何とも後味の悪い結末である。片山もそう思ったのだろう、声音を変えた。
「私はあの時、高崎が高校を替わる必要は無いのにと腹が立ちましたけど、仕方がなかったと思えるほどには大人になりました……それにパートナーさんを得て幸せにしている高崎と再会できたので」
暁斗も少し冷めたカフェラテに口をつけ、ミルクとコーヒーの味を楽しんだ。片山は言った。
「グリーの後輩にも高崎がどうしてるか気にしてる奴がいるんですよ」
「その辺りは、2人で会って片山さんから奏人さんに直接話してやってください、喜ぶと思います」
暁斗が言うと、片山は困惑のようなものを顔に浮かべた。暁斗はどうしましたか? と訊く。
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