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聖なる夜、恋せよ青年
宴のあと、メリークリスマス①
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「可愛い子だね」
洗い物を布巾で拭う奏人が微笑しながら言う。小椋が自分のスーツに着替えて、何度も頭を下げながら帰った後、暁斗は奏人と昼食の片づけをしていた。
駅の近くの洋菓子店で予約したブッシュ・ド・ノエルは、暁斗が探していた「巷で評判のお高い目のクリスマスケーキ」ではなかったが、素朴な甘さが良かった。意外と大きかったので、3人で紅茶と一緒に食べた後、残りを夜に食べることにして、小椋にも持たせてやった。
「ちょっといろいろ世話を焼き過ぎたかな、週明けに恐縮して礼を言って来る姿が目に浮かぶよ」
暁斗がスポンジの泡を流しながら言うと、いいんじゃないかな、と奏人は応じる。
「だって社会人1年目の子なんて、大学生みたいなもんじゃない? 僕は奈良で1回生と2回生しか教えてないけど、何だかあまり変わらない感じがした」
「まあそうだとは思う、仕事はしっかりし始めても、プライベートはなぁ」
「憧れの桂山課長の家で過ごせて、きっと心に残るクリスマスになったはずだよ」
暁斗は奏人が小椋を学生のように見做していたと知り、なるほどと思った。奏人が年下の者や後輩の面倒見が良いのは、おそらくゲイ専デリヘルにいた頃からだ。学生に接するようになり、それに磨きがかかっているらしい。
「奏人さんどう思った? 小椋が俺をどう思ってるかはともかく、男が好きなのかなと俺は感じたんだけど」
タオルで手を拭いて、暁斗は自分も布巾を取る。拭かなくてはいけないものは、もう残り少なかった。
奏人は暁斗を意味ありげな横目でちらりと見上げた。こういう顔をすると、10歳年下の恋人は、今でも変に色っぽい。
「うん、僕もあの子はゲイだと思う……もう自覚してるよ、たぶん」
それはそれで、暁斗としては心配でもある。まだまだ若くておぼこい部下が、自分の性的指向と折り合いをつけるために悩む姿は見たくない。会社の中はこれでも以前よりは教育が行き届いており、きっとゲイバレしてもそんなに嫌な思いをすることは無いだろう。しかし。
「大丈夫だよ暁斗さん、いい子だからきっといいお相手が見つかると僕は思う……写真が好きだっていうし、まあこれはちょっと偏見かもしれないけど、絵や写真や芸術を愛する人は、自身がセクシャル・マイノリティの人も多いから、趣味方面での出会いもあるんじゃないかな」
「……だといいんだがな」
「暁斗さんは僕のだから、残念だけど譲ってあげられないし」
俺は譲渡会に出されている犬じゃないぞ、と暁斗は言いそうになった。前も同じことを何処かで言いそうになったことがある気がしたが、思い出せないだろうから、考えるのをやめた。
小椋が着替えていた時に、彼のスマートフォンが数回震えていた。昨夜のことを会社の誰かが心配して、彼に連絡を取ってきたのかもしれなかった。そうであったらいいと暁斗は思う。独りの家に帰る時に、誰かが自分を気にしているとわかれば、少しは慰められるのではないかと思うからだ。
「僕は凄く楽しかったな、若い人と知り合いになれて、インスタでも繋がれたから……あの子いい写真撮るよ、暁斗さんもフォロワーになってあげてよ」
楽しそうな奏人に向かって、暁斗は頷く。酒の席を一緒にすると、こうして会社の人間の新しい一面を発見できる。飲ミニケーションという言葉は暁斗も好きではないが、こういう機会はやはり大切だと思う。
「面白いクリスマスになったなぁ、良かった良かった」
「クリスマスは明日だよ暁斗さん、今夜から明日にかけては二人で過ごそうね」
暁斗は意味もなく、言った奏人の長い指を左手の中に包んでみる。奏人は嬉しそうにくすっと笑った。
洗い物を布巾で拭う奏人が微笑しながら言う。小椋が自分のスーツに着替えて、何度も頭を下げながら帰った後、暁斗は奏人と昼食の片づけをしていた。
駅の近くの洋菓子店で予約したブッシュ・ド・ノエルは、暁斗が探していた「巷で評判のお高い目のクリスマスケーキ」ではなかったが、素朴な甘さが良かった。意外と大きかったので、3人で紅茶と一緒に食べた後、残りを夜に食べることにして、小椋にも持たせてやった。
「ちょっといろいろ世話を焼き過ぎたかな、週明けに恐縮して礼を言って来る姿が目に浮かぶよ」
暁斗がスポンジの泡を流しながら言うと、いいんじゃないかな、と奏人は応じる。
「だって社会人1年目の子なんて、大学生みたいなもんじゃない? 僕は奈良で1回生と2回生しか教えてないけど、何だかあまり変わらない感じがした」
「まあそうだとは思う、仕事はしっかりし始めても、プライベートはなぁ」
「憧れの桂山課長の家で過ごせて、きっと心に残るクリスマスになったはずだよ」
暁斗は奏人が小椋を学生のように見做していたと知り、なるほどと思った。奏人が年下の者や後輩の面倒見が良いのは、おそらくゲイ専デリヘルにいた頃からだ。学生に接するようになり、それに磨きがかかっているらしい。
「奏人さんどう思った? 小椋が俺をどう思ってるかはともかく、男が好きなのかなと俺は感じたんだけど」
タオルで手を拭いて、暁斗は自分も布巾を取る。拭かなくてはいけないものは、もう残り少なかった。
奏人は暁斗を意味ありげな横目でちらりと見上げた。こういう顔をすると、10歳年下の恋人は、今でも変に色っぽい。
「うん、僕もあの子はゲイだと思う……もう自覚してるよ、たぶん」
それはそれで、暁斗としては心配でもある。まだまだ若くておぼこい部下が、自分の性的指向と折り合いをつけるために悩む姿は見たくない。会社の中はこれでも以前よりは教育が行き届いており、きっとゲイバレしてもそんなに嫌な思いをすることは無いだろう。しかし。
「大丈夫だよ暁斗さん、いい子だからきっといいお相手が見つかると僕は思う……写真が好きだっていうし、まあこれはちょっと偏見かもしれないけど、絵や写真や芸術を愛する人は、自身がセクシャル・マイノリティの人も多いから、趣味方面での出会いもあるんじゃないかな」
「……だといいんだがな」
「暁斗さんは僕のだから、残念だけど譲ってあげられないし」
俺は譲渡会に出されている犬じゃないぞ、と暁斗は言いそうになった。前も同じことを何処かで言いそうになったことがある気がしたが、思い出せないだろうから、考えるのをやめた。
小椋が着替えていた時に、彼のスマートフォンが数回震えていた。昨夜のことを会社の誰かが心配して、彼に連絡を取ってきたのかもしれなかった。そうであったらいいと暁斗は思う。独りの家に帰る時に、誰かが自分を気にしているとわかれば、少しは慰められるのではないかと思うからだ。
「僕は凄く楽しかったな、若い人と知り合いになれて、インスタでも繋がれたから……あの子いい写真撮るよ、暁斗さんもフォロワーになってあげてよ」
楽しそうな奏人に向かって、暁斗は頷く。酒の席を一緒にすると、こうして会社の人間の新しい一面を発見できる。飲ミニケーションという言葉は暁斗も好きではないが、こういう機会はやはり大切だと思う。
「面白いクリスマスになったなぁ、良かった良かった」
「クリスマスは明日だよ暁斗さん、今夜から明日にかけては二人で過ごそうね」
暁斗は意味もなく、言った奏人の長い指を左手の中に包んでみる。奏人は嬉しそうにくすっと笑った。
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