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聖なる夜、恋せよ青年
パーティが始まる①
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営業課ザ・クリスマスパーティの日がやってきた。仕事納めが近いために先輩方は忙しく、18時になると陽佑たち新入社員4人は、事務の総元締めの平岡の指示を仰ぎつつ、2階の大会議室のセッティングをした。
少し経つと総幹事の桂山が降りてきて、自分も椅子を運び始めた。
「2時間ほどだけど絶対酔っ払う奴が出るから、すぐに座れるように壁に沿って椅子を並べて」
「はぁい」
皆で重い椅子を並べていると、入口に誰か来た。4人のケータリングサービスの従業員だった。
ありがとうございます、失礼します、と言いながら、彼らは入って来た。平岡と桂山が出迎え、すぐに6台並べた長机の上にシートをてきぱきと敷き始める。
「セッティングはこちらでいたします、お片づけはお願いすることになりますが、全て処分していただいて結構です」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
桂山はリーダーらしき人に丁寧に言う。こちらが客の立場でも、決して上からの態度に出ない桂山が陽佑は好きである。
「小椋くんと望月くんに受付頼んでいいのかな? 私プレゼント回収して番号貼ってくわ」
平岡はテープカッター片手に言った。女子2人が、部屋の正面にビニールシートを敷き、プレゼント置き場をつくる。
料理は皆美味しそうだった。まだ温かいので、部屋の中にパスタやピラフの匂いが広がる。
「どうも男女の役割が反対になってしまったような気が……」
女子2人が、ペットボトルのソフトドリンクが入った袋を運んできたので、桂山は呟いてから彼女らを手伝いに行った。
「まだ受付誰も来ないよな、お酒運ぼう」
「うん」
陽佑も望月とビールの箱を運ぶ。朝から雪がちらつく天気だったせいか、廊下に出してあっただけで箱は十分冷えていた。
会場が整って開宴の19時が近づくと、出席者が顔を見せ始めた。望月が名簿を確認して交換用のプレゼントを受け取り、会費が未納の者からは陽佑が回収し、平岡がプレゼントを会場に運び込むという段取りになった。
「こんばんは、これうちの部長補から飲んでくれって」
やって来たのは企画課の男女の社員だった。男性社員、蒔田が一升瓶を差し出して来たので、平岡が慌てて桂山を呼びに行く。到着した他部署の社員と話していた桂山は、リボンをかけられた一升瓶に目を見開く。
「山中さんからってこと?」
蒔田は笑いながらはい、と答えた。
「部長補は先約があるから来ませんけど、来年の新しいプロジェクトではよしなに、と」
「うわぁ、何をよしなにしろって言ってるのかな、山中さんは」
桂山は本気とも冗談ともつかない口調で言う。
「営業課には賄賂を受け取る習慣はありませんと、言っておやりなさい」
桂山の言葉に、企画課の女子社員……原谷と、陽佑と平岡が同時に笑った。
「ちょっと課長、何でそんな漫画知ってるんですか」
平岡は企画課の2人のプレゼントに番号を貼りながら言った。桂山は答える。
「妹が好きだったんだ、小椋は何で笑った?」
桂山が口にしたのは、『ベルサイユのばら』で、マリー・アントワネットが、デュ・バリー夫人からの贈り物を突っぱねる場面の台詞だった。
「姉が全巻持ってたので僕も読みました」
陽佑には姉と兄がいる。桂山は弟と妹がいるのだという。
「3人きょうだいの一番下か、小椋は甘やかされたな」
桂山が言うので、その場に笑いが起こる。
「それで桂山課長、こんなものは下げさせますか?」
原谷が笑いながら訊いたが、いやいや飲もう、と桂山は恭しく一升瓶を受け取った。
「日本酒は用意してなかったんだ、ありがとう」
少し経つと総幹事の桂山が降りてきて、自分も椅子を運び始めた。
「2時間ほどだけど絶対酔っ払う奴が出るから、すぐに座れるように壁に沿って椅子を並べて」
「はぁい」
皆で重い椅子を並べていると、入口に誰か来た。4人のケータリングサービスの従業員だった。
ありがとうございます、失礼します、と言いながら、彼らは入って来た。平岡と桂山が出迎え、すぐに6台並べた長机の上にシートをてきぱきと敷き始める。
「セッティングはこちらでいたします、お片づけはお願いすることになりますが、全て処分していただいて結構です」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
桂山はリーダーらしき人に丁寧に言う。こちらが客の立場でも、決して上からの態度に出ない桂山が陽佑は好きである。
「小椋くんと望月くんに受付頼んでいいのかな? 私プレゼント回収して番号貼ってくわ」
平岡はテープカッター片手に言った。女子2人が、部屋の正面にビニールシートを敷き、プレゼント置き場をつくる。
料理は皆美味しそうだった。まだ温かいので、部屋の中にパスタやピラフの匂いが広がる。
「どうも男女の役割が反対になってしまったような気が……」
女子2人が、ペットボトルのソフトドリンクが入った袋を運んできたので、桂山は呟いてから彼女らを手伝いに行った。
「まだ受付誰も来ないよな、お酒運ぼう」
「うん」
陽佑も望月とビールの箱を運ぶ。朝から雪がちらつく天気だったせいか、廊下に出してあっただけで箱は十分冷えていた。
会場が整って開宴の19時が近づくと、出席者が顔を見せ始めた。望月が名簿を確認して交換用のプレゼントを受け取り、会費が未納の者からは陽佑が回収し、平岡がプレゼントを会場に運び込むという段取りになった。
「こんばんは、これうちの部長補から飲んでくれって」
やって来たのは企画課の男女の社員だった。男性社員、蒔田が一升瓶を差し出して来たので、平岡が慌てて桂山を呼びに行く。到着した他部署の社員と話していた桂山は、リボンをかけられた一升瓶に目を見開く。
「山中さんからってこと?」
蒔田は笑いながらはい、と答えた。
「部長補は先約があるから来ませんけど、来年の新しいプロジェクトではよしなに、と」
「うわぁ、何をよしなにしろって言ってるのかな、山中さんは」
桂山は本気とも冗談ともつかない口調で言う。
「営業課には賄賂を受け取る習慣はありませんと、言っておやりなさい」
桂山の言葉に、企画課の女子社員……原谷と、陽佑と平岡が同時に笑った。
「ちょっと課長、何でそんな漫画知ってるんですか」
平岡は企画課の2人のプレゼントに番号を貼りながら言った。桂山は答える。
「妹が好きだったんだ、小椋は何で笑った?」
桂山が口にしたのは、『ベルサイユのばら』で、マリー・アントワネットが、デュ・バリー夫人からの贈り物を突っぱねる場面の台詞だった。
「姉が全巻持ってたので僕も読みました」
陽佑には姉と兄がいる。桂山は弟と妹がいるのだという。
「3人きょうだいの一番下か、小椋は甘やかされたな」
桂山が言うので、その場に笑いが起こる。
「それで桂山課長、こんなものは下げさせますか?」
原谷が笑いながら訊いたが、いやいや飲もう、と桂山は恭しく一升瓶を受け取った。
「日本酒は用意してなかったんだ、ありがとう」
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