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秋の夜、貴方をこの腕に

3-①

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「暁斗、おい」

 小島の声に暁斗は我に返った。定食を食べる箸が完全に止まっていた。

「は? 何?」
「何じゃないだろ、12月にOB会あるらしいんだけど、出席するかって話……もう家に帰りたいって思ってたな?」

 3人は暁斗の顔を見てにやにやしている。当たらずとも遠からずだったが、まさか奏人との先週のセックスを思い出していたなどとは言えない。暁斗はポーカーフェイスを決め込み訊いた。

「12月のいつなんだ?」
「年末にしたいって」

 小島の返答に、松葉と田辺がえーっ、と反対の声を揃えた。

「嫁のとこに帰省するからたぶん無理だわ」
「俺普通に大みそかまで仕事だし……暁斗は去年パートナーの実家に行ったって言ってたよな、今年もか?」

 田辺に振られて、奏人の故郷である帯広に初めて行ってからもう1年近くになるのかと、暁斗は勝手にしみじみとする。

「ああ、帯広っていいとこだよ」
「それは訊いてない……ってことで、副部長は北海道に行くかもしれないみたいですよ、部長」

 失笑気味の田辺の言葉に、小島はそうだよなぁ、と言った。小島は元部長として、自分たちの学年の出欠を何となくまとめる役目を仰せつかっているようである。

「ぶっちゃけ俺も行きたくないわ」

 天井を仰いだ小島に暁斗は頷く。

「俺たちくらいの世代って、上と下の回生の板挟みポジションになるだろ? 上はごちゃごちゃうるさいし下はやる気があるのか無いのかわからないし……当日の当番も何か押しつけられそう、それがちょっと面倒くさいな」

 営業課長として会社では絶対に口にしない言葉を口の端に乗せてみる。松葉が笑った。

「わぁ、桂山が面倒くさいって言うなんてOB会オワコン決定」
「俺だって面倒くさいと思うことは沢山あるぞ」
「10歳年下の彼氏との暮らしではどうよ?」
「うーん……別に無いかも」

 何だよそれ、惚気のろけかよ、と3人の猛突っ込みが入った。正直に答えてこんな扱いを受ける意味が、暁斗にはわからない。

「だって奏……パートナーと一緒にいて面倒くさいことだらけだったら大問題じゃないか」
「ほらほら、こちらはまだ新婚さんですから」
「うちなんか面倒くさいことしかない気がする」
「いいなぁ、羨ましい……」

 テーブルが何故か溜め息に包まれた。小島がそれなら、と言って背筋を伸ばす。

「感染症ヤバくなければ同期だけで早めの忘年会しよう、暁斗のカミングアウト記念でやったみたいなやつ……それで暁斗はパートナーを連れて来い、あの時2次会でそんな約束したのに、飲み会が全然できなくなって……」

 おおっ、それなら参加すると、あとの2人も盛り上がる。奏人さんを連れて行くなんて、そんな酒の上でのれ言を覚えているのか。暁斗はちょっと呆れつつ、緩く同意する。

「うん、彼が参加するかどうかは約束できないけど」
「絶対連れて来い」
「それはテニス部の名誉にかかわる可能性が……」
「何の話だよ」

 暁斗はそれ以上何も言わないことにする。大体小島の言った「カミングアウト記念」の忘年会も、暁斗は何も知らされずに参加して、かなり遊ばれたのだった。あんな野蛮な集まりに、俺の大切な奏人さんを連れて行く訳にはいかない。
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