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お節介な男たちの盆休み
15:30⑥
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「あんなちゃん、これ何? 暁斗さんの名刺で遊んでるんだ」
奏人がテーブルの上に並べられた名刺を見て笑うと、あんなは自慢げに顎を上げた。
「端っこの柄の色で分けたの」
暁斗は少女が、名刺の左上に入っている会社のロゴマークの色で並べ分けていることに感心した。奏人もほう、と背筋を伸ばす。
「きれいだね、こうして見たらいろんなロゴがあるね」
「おにいちゃんもめいし持ってる?」
うん、と奏人は鞄を探る。おまえも社畜か、と胸のうちで突っ込みながら、暁斗は2人にトイレに行くと言った。
「DVシェルターの人に連絡してみる」
暁斗はマスクをつけながら奏人に小さく伝え、席を外した。
フロントは宿泊のチェックインがピークなのか、慌ただしく動いていた。奥のほうでパソコンに向かっていた副支配人が、暁斗の姿に気づいてやってくる。
「あの子の母親が戻ってこない可能性が高いなら、もう警察に連絡しようと思います」
副支配人の言葉に暁斗はそうですね、と応じた。
「あの子をとりあえず預かってくれそうなところに心当たりがあるので、一応連絡しておきます……警察がどう判断するかわかりませんが」
「申し訳ありません、よろしくお願いいたします」
暁斗は登録したばかりの電話番号をタップする。こんな日に繋がるだろうかと心配になったが、4回のコールで出てくれた。女性と子どものための民間シェルターや子ども食堂の運営に携わるNPOの副代表である大河靖子は、暁斗のことを覚えていてくれた。
「ああ、エリカワの桂山さん! 先日はどうもありがとうございました」
暁斗が彼女を頼る相手として一番に思い浮かべたのは、この屈託ない明るさが印象に残ったからだった。暁斗は盆休み中にいきなり電話をしたことを詫びつつ、今出先で巻き込まれている事態を簡単に説明する。大河は相槌を打ちながら、慌てた様子ひとつ感じさせない声で言った。
「警察が着く前に私が行けないかしら、桂山さんどちらのスーパー銭湯にいらっしゃるんですか?」
現在地を伝えると、大河はあっさりと、今から車で行きますと答えた。
「桂山さんたちにその子が懐いているなら、その子の前で私と桂山さんが見知った間柄だと示したほうが、その子も安心できます」
「あ、なるほど……」
「警察が入ると面倒なので、今こうしてる間にお母さんが来てくれたらいいんですけど」
暁斗は大河に礼を言って通話を終えた。彼女が今どこにいるのかわからないが、15分ほどで着くという。
食堂に戻ると、噂が広まったのか、従業員が奥のテーブルの奏人とあんなを見ながら、何かこそこそ話していた。暁斗も噂される仲間に混じる。
テーブルの上に並ぶ名刺が、1.5倍になっていた。あんながおしっこ行きたい、と暁斗に向かって言うので、少女にマスクをつけさせて、その手を取りまた食堂を出る。彼女は一人でトイレを使えるようで、暁斗に待ってて、と言ってから女子トイレに入った。
暁斗は副支配人に、シェルターを運営する女性を呼んだ旨を伝えた。彼はもう警察に電話をすると言う。大河の到着のほうが早いだろうか。
「ちゃんと手は洗ったかな?」
「洗った~」
あんなを出迎えた暁斗は、フロントがざわめいたことに気づいた。お客様、と男性の慌てた声がする。ばたばたと足音がして、浴衣を選んでいた人たちが一斉にそちらを見る。
「あんな! どこにいるの!」
女性の悲鳴に近い声が響く。あんなはぴくりと顔を上げた。暁斗もそちらを振り返った。
奏人がテーブルの上に並べられた名刺を見て笑うと、あんなは自慢げに顎を上げた。
「端っこの柄の色で分けたの」
暁斗は少女が、名刺の左上に入っている会社のロゴマークの色で並べ分けていることに感心した。奏人もほう、と背筋を伸ばす。
「きれいだね、こうして見たらいろんなロゴがあるね」
「おにいちゃんもめいし持ってる?」
うん、と奏人は鞄を探る。おまえも社畜か、と胸のうちで突っ込みながら、暁斗は2人にトイレに行くと言った。
「DVシェルターの人に連絡してみる」
暁斗はマスクをつけながら奏人に小さく伝え、席を外した。
フロントは宿泊のチェックインがピークなのか、慌ただしく動いていた。奥のほうでパソコンに向かっていた副支配人が、暁斗の姿に気づいてやってくる。
「あの子の母親が戻ってこない可能性が高いなら、もう警察に連絡しようと思います」
副支配人の言葉に暁斗はそうですね、と応じた。
「あの子をとりあえず預かってくれそうなところに心当たりがあるので、一応連絡しておきます……警察がどう判断するかわかりませんが」
「申し訳ありません、よろしくお願いいたします」
暁斗は登録したばかりの電話番号をタップする。こんな日に繋がるだろうかと心配になったが、4回のコールで出てくれた。女性と子どものための民間シェルターや子ども食堂の運営に携わるNPOの副代表である大河靖子は、暁斗のことを覚えていてくれた。
「ああ、エリカワの桂山さん! 先日はどうもありがとうございました」
暁斗が彼女を頼る相手として一番に思い浮かべたのは、この屈託ない明るさが印象に残ったからだった。暁斗は盆休み中にいきなり電話をしたことを詫びつつ、今出先で巻き込まれている事態を簡単に説明する。大河は相槌を打ちながら、慌てた様子ひとつ感じさせない声で言った。
「警察が着く前に私が行けないかしら、桂山さんどちらのスーパー銭湯にいらっしゃるんですか?」
現在地を伝えると、大河はあっさりと、今から車で行きますと答えた。
「桂山さんたちにその子が懐いているなら、その子の前で私と桂山さんが見知った間柄だと示したほうが、その子も安心できます」
「あ、なるほど……」
「警察が入ると面倒なので、今こうしてる間にお母さんが来てくれたらいいんですけど」
暁斗は大河に礼を言って通話を終えた。彼女が今どこにいるのかわからないが、15分ほどで着くという。
食堂に戻ると、噂が広まったのか、従業員が奥のテーブルの奏人とあんなを見ながら、何かこそこそ話していた。暁斗も噂される仲間に混じる。
テーブルの上に並ぶ名刺が、1.5倍になっていた。あんながおしっこ行きたい、と暁斗に向かって言うので、少女にマスクをつけさせて、その手を取りまた食堂を出る。彼女は一人でトイレを使えるようで、暁斗に待ってて、と言ってから女子トイレに入った。
暁斗は副支配人に、シェルターを運営する女性を呼んだ旨を伝えた。彼はもう警察に電話をすると言う。大河の到着のほうが早いだろうか。
「ちゃんと手は洗ったかな?」
「洗った~」
あんなを出迎えた暁斗は、フロントがざわめいたことに気づいた。お客様、と男性の慌てた声がする。ばたばたと足音がして、浴衣を選んでいた人たちが一斉にそちらを見る。
「あんな! どこにいるの!」
女性の悲鳴に近い声が響く。あんなはぴくりと顔を上げた。暁斗もそちらを振り返った。
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