上 下
67 / 82
12月

12-③

しおりを挟む
 朔はごそごそと、自分もズボンと下着を脱ぎ始めた。彼のものもすっかり張りつめているのが、薄闇の中でもわかる。
 朔は固く熱いものを、晃嗣のものに優しく押しつけてきた。そんなことをされたのは初めてで、紛れもない快感に、身体中の毛が逆立ったような気がした。

「……気持ちいい……俺のちんちんが晃嗣さんのちんちんと、こんにちはしてる……」

 朔は熱に浮かされたように口走った。きれいな形の目はとろんとしている。晃嗣は彼を心から愛おしく思った。
 どうすればもっと気持ち良くなるのか、晃嗣は本能的に悟った。朔の筋肉のついた肩に腕を回し、腰を浮かせて動かしてみた。お互いの湿り気でぬるりと擦れ合い、先がぶつかり合うと背筋に電撃が走った。朔もびくりと肩を震わせた。

「あっ! こうちゃん、焦っちゃ駄目だって……ああ、でもこれやばい……」

 朔は口を半開きにして、息を荒げ始めた。彼はお返しをするように、腰を動かす。熱くて弾力のあるものにぐいぐい擦られて、晃嗣の喉から勝手に音が出た。もう何が何だかわからなかったが、ただただ気持ち良くて、朔が愛おしい。

「朔さん、朔さん、好きだ……大好きだ、もっと……一緒に」

 晃嗣は朔の動きに合わせながら、自分の声を遠い場所で聞いていた。朔が強く抱きしめてくれる。晃嗣は彼の肌の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

「朔さんの匂いも声も全部好きだ」
「ああ、晃嗣さん可愛い、俺も大好きだから一緒にいこう、一緒でないと嫌だ」
「あっ、でも一緒にいったら、たぶん凄く汚れる……」

 急に気になった晃嗣は唐突に口にしたが、朔はそうか、と言いながら、枕にしていたクッションからタオルを剥ぎ取った。

「これでいつでもいけるよ晃嗣さん、もう、最初触らせてくれた時から、ちんちんまで好き」

 朔は訳のわからないことを言いながら、腰の動きを早めた。互いのものが擦れ合うたびに、身体が内側からどんどん熱くなり、絶頂を感じた晃嗣は震えながら叫んだ。

「ああっ! いいっ、いくっ、あっ」

 朔も腰をびくびくさせて、あっ、とひとつ声を上げた。ふとお互いの目を見て、唇を重ねる。晃嗣は朔の唇を貪りながら、熱い液体が自分の身体にぼたぼた落ちてくるのを感じた。頭の中が白濁する。今死んでも構わないと、本気で思った。
 朔に抱きついたまま、晃嗣はどきどきする心臓が静まるのを待った。部屋の中に響くのは、エアコンが風を送ってくる微かな音と、自分たちの荒い呼吸音だけだ。それらが、放たれた体液の濃い匂いと共に、夜明け前の冷えた闇に溶けていく。

「晃嗣さん」

 朔が低く柔らかい声で言った。

「うん、どうしたの」
「身体拭くよ、あったかいタオル絞ってくる」

 二人分の精液を浴びて、晃嗣の腹はどろどろだった。少し腰を動かすと、さっき慌てて敷いたタオルにぬるく伝っていく。
 朔は晃嗣の額に軽く口づけ、腕を解いて、下半身は裸のままで浴室に行ったようだった。
 晃嗣も下半身を放り出したままで心許なかったが、朔はすぐに戻ってきた。湯気の立つ温かく柔らかなタオルで、丁寧に身体を拭いてくれる。

「昨日貰った今治タオルなんだけど、気持ち良くない?」

 朔は楽しげに訊いてきた。晃嗣は頷き、伝えていなかったことがあったと思い出す。

「このタオル、俺が持ってきたんだ」
「へ? そうなの?」

 朔は一瞬手を止めたが、デリヘルのスタッフらしく、手早く股間や尻のほうまで拭いてくれた。

「ごめん、最初からこんな汚れる使い方して」

 晃嗣は朔の申し訳なさそうな声に、そんな、と思わず言った。

「気に入ってくれたみたいだし、それを俺のために使ってくれたのも嬉しいよ」
「ありがとう……そうか、晃嗣さんのプレゼントだったのか」

 タオルを畳み握る朔の手の甲に、晃嗣は自分の手を重ねた。

「俺たち勝手に2人でプレゼント交換してたんだな」

 ほんとだ、と言いながら朔は笑った。朝日が昇り始めたのか、少し部屋の中が明るくなる。朔の笑顔は穏やかで、幸せそうに晃嗣を見つめていた。それを見た晃嗣の身体の奥から、温かいものが湧き出してくる。
 タオルを片づけて服を整えると、晃嗣はもう一度、朔の腕の中に収まる。もう少し、一緒に眠りたかった。朔は優しくキスをしてくれた。
 朔は今日、午後から4人の客の相手をするらしく、晃嗣とずっと一緒にいられないことを詫びた。

「ちょっと残念だけど、頑張って来て」

 晃嗣が言うと、朔はぽつりとこぼす。

「俺もうぶっちゃけ、晃嗣さん以外の身体に触れたくない……」
「駄目だよ、仕事なんだから……しかしクリスマスイブに朔さんを指名することができたなんて、ラッキーなお客さんたちだな」

 晃嗣は朔に答えたが、彼らを羨ましいとは思わなかった。来年の春になれば、晃嗣は朔を独り占めできるからだ。恋人ごっこにつき合うデリヘルのスタッフとしてではなく、本物の恋人、パートナーとして。

「朔さんが来年の3月まで、ディレット・マルティールのさくとして働くのを俺は応援するよ、だから悔いの無いよう勤めて」

 晃嗣は軽く諭す。朔は子どもみたいに頷いた。複雑な思いが無いと言えば嘘になるが、きっと彼はこれから、世話になった太客たちに挨拶して回らなくてはいけない。きちんと最後まで義理を通し、スタッフのさくを卒業してほしい。
 大丈夫、待つことができる。自分だけのものになると、朔は決めてくれたのだから。彼の温かい頬に指先で触れると、熱く優しい何かが晃嗣の胸の中で膨らんだ。
 俺の朔さん。晃嗣が心の中で呼びかけたのが聞こえたかのように、朔の澄んだ茶色い瞳が晃嗣を覗きこんできた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:0

婚約破棄から始まる人生

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,961

疲労熱

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:4

【短編】わかたれた道

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:22

息抜き庭キャンプ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:8

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:747pt お気に入り:393

川と海をまたにかけて

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

致死量の愛と泡沫に

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:3,295pt お気に入り:67

ぼくの淫魔ちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

処理中です...