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12月
11-④
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20分後、晃嗣は朔の家の湯船にどっぷり浸かっていた。朔が入れてくれた入浴剤のせいか、身体が芯から温まり、荒ぶっていた気持ちが凪いでいく。ただ、瞼が腫れぼったくて、熱かった。
2時間前のべろべろの姿は何処へやら、朔はてきぱきと晃嗣のために風呂の用意をして、寝室を整えに行った。晃嗣は真っさらの下着とスウェットのタグを取り、歯を磨きながら風呂が沸くのを待ったのだった。
浴室から出ると、バスタオルやドライヤーもちゃんと用意されていて、晃嗣は自宅にいる時と同じくらいリラックスしてしまった。
「あっ、スウェットぴったりだ、良かった」
自分もスウェットに着替えていた朔は、晃嗣の姿を見て嬉しげに言った。思ったより着心地が良くて、ふと1000円では買えなかったのではないかと思った。まあ、晃嗣が持って行った今治タオルも、バーゲン品だったとはいえ、予算をオーバーしていたが。
水を飲むと、朔はすぐに寝室に案内してくれた。
「狭いけど2人寝られると思う、何なら俺は床でも寝られるから、柴田さんは先にゆっくり寝ていて」
「……ありがとう」
恥ずかしいやら申し訳ないやらで、晃嗣は朔の顔をまともに見ることができなかった。朔は気にする様子も見せず、浴室に向かう。
自分の部屋以外の場所で寝るなんて、随分と久しぶりだ。晃嗣は枕とクッションが並べられたベッドに腰を下ろす。前に来た時と同じように、小綺麗に生活しているのだなと思った。部屋の数や広さは、晃嗣の家と変わらないようだ。
晃嗣は上半身を横に倒す。今夜は本当に疲れた。自分の家のものでないシーツの匂いは、不思議と安らぎをもたらしてくれた。
朔がいろいろ話してくれたのに、自分は何も彼に伝えていない。晃嗣は思ったが、もう頭が働かなかった。そのまま重い瞼を閉じる。
「あーあ、こんな寝方したら腰痛めるって」
遠い場所で優しい声がする。脚が持ち上がり、柔らかいところに置かれた。晃嗣の意識は半分覚醒していたが、身体は完全に眠っていた。布団が肩にかけられて、隣に温かいものがもぞもぞと入ってくる。
「こうちゃんばくすーい、これじゃ襲えねー」
朔の独り言が可笑しい。でも笑いにはできなかった。ただただ眠い。麻酔を打たれたら、こんな感じなのかもしれない。
やがて布団の中は、自分のものでない体温で温もり始めた。ピッ、と小さな電子音が2回響く。
人の温もりは、気持ちいい。晃嗣はぼやけていく意識の中で考える。これは本物の暖かさなのだろうか。恋人ごっこや、契約の上ではなく、朔が心から与えてくれているものなのだろうか?
髪に触れられたような気がした。幸せだな、と晃嗣は思った。その単語は、特に恋愛面においては、自分に縁が無いと思っていた。でもたぶん、今の気持ちに一番しっくり来る。頭を動かしてみると、朔のほうに少し傾いた。すると、うふふ、と忍び笑いが聞こえた。
「あーやばい、こうちゃんマジ可愛いな……」
こうちゃんはやめろ。晃嗣は思いつつ、もう少し朔に近づきたいような気になっていた。
2時間前のべろべろの姿は何処へやら、朔はてきぱきと晃嗣のために風呂の用意をして、寝室を整えに行った。晃嗣は真っさらの下着とスウェットのタグを取り、歯を磨きながら風呂が沸くのを待ったのだった。
浴室から出ると、バスタオルやドライヤーもちゃんと用意されていて、晃嗣は自宅にいる時と同じくらいリラックスしてしまった。
「あっ、スウェットぴったりだ、良かった」
自分もスウェットに着替えていた朔は、晃嗣の姿を見て嬉しげに言った。思ったより着心地が良くて、ふと1000円では買えなかったのではないかと思った。まあ、晃嗣が持って行った今治タオルも、バーゲン品だったとはいえ、予算をオーバーしていたが。
水を飲むと、朔はすぐに寝室に案内してくれた。
「狭いけど2人寝られると思う、何なら俺は床でも寝られるから、柴田さんは先にゆっくり寝ていて」
「……ありがとう」
恥ずかしいやら申し訳ないやらで、晃嗣は朔の顔をまともに見ることができなかった。朔は気にする様子も見せず、浴室に向かう。
自分の部屋以外の場所で寝るなんて、随分と久しぶりだ。晃嗣は枕とクッションが並べられたベッドに腰を下ろす。前に来た時と同じように、小綺麗に生活しているのだなと思った。部屋の数や広さは、晃嗣の家と変わらないようだ。
晃嗣は上半身を横に倒す。今夜は本当に疲れた。自分の家のものでないシーツの匂いは、不思議と安らぎをもたらしてくれた。
朔がいろいろ話してくれたのに、自分は何も彼に伝えていない。晃嗣は思ったが、もう頭が働かなかった。そのまま重い瞼を閉じる。
「あーあ、こんな寝方したら腰痛めるって」
遠い場所で優しい声がする。脚が持ち上がり、柔らかいところに置かれた。晃嗣の意識は半分覚醒していたが、身体は完全に眠っていた。布団が肩にかけられて、隣に温かいものがもぞもぞと入ってくる。
「こうちゃんばくすーい、これじゃ襲えねー」
朔の独り言が可笑しい。でも笑いにはできなかった。ただただ眠い。麻酔を打たれたら、こんな感じなのかもしれない。
やがて布団の中は、自分のものでない体温で温もり始めた。ピッ、と小さな電子音が2回響く。
人の温もりは、気持ちいい。晃嗣はぼやけていく意識の中で考える。これは本物の暖かさなのだろうか。恋人ごっこや、契約の上ではなく、朔が心から与えてくれているものなのだろうか?
髪に触れられたような気がした。幸せだな、と晃嗣は思った。その単語は、特に恋愛面においては、自分に縁が無いと思っていた。でもたぶん、今の気持ちに一番しっくり来る。頭を動かしてみると、朔のほうに少し傾いた。すると、うふふ、と忍び笑いが聞こえた。
「あーやばい、こうちゃんマジ可愛いな……」
こうちゃんはやめろ。晃嗣は思いつつ、もう少し朔に近づきたいような気になっていた。
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