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12月
4-④
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「少なくとも俺は……男が好きな朔さんを否定しない、だから俺の前では恥じないでほしい、こっちがほんとに悲しくなるから」
晃嗣は思うままを口にした。何も誇張せず、飾らなかった。
朔は箸を持ったまま、晃嗣をじっと見つめる。きれいな形をした、明るい色の瞳を持つ目。
「……だったらどうすれば、安心して貰えるのかなぁ」
朔は真面目に問いかけてきていた。晃嗣は思い出してみる。高校生になったくらいから長期休暇に遊びに行かなくなった、山梨の祖父母は何と言っただろう? たまには声を聞かせてほしい、ひと言手紙を書いてくれないか。……面倒な時もあったが、晃嗣は2人が逝くまで、暑中見舞いと年賀状を自分の名で出していた。もし今祖父母が生きていたら、リモート通話をしたがったかもしれない。
「……元気にしてるとこまめに伝えたらいいんじゃないか? 今までそんなに家族に心配かけるようなことをしてきたの?」
晃嗣の問いに、いや、と朔はかぶりを振った。
「父が慢性的に不調なもんだから、母は俺に仙台あたりで就職してほしかったんだ……東京で働くって言ったらがっかりされたし、俺も自分で決めたのに申し訳ないって気持ちが抜けなくて」
「妹さんは? もう家を出たのか?」
まだだけど、と答えて、朔はゆっくりと視線を外す。
「つき合ってる人はいるみたい、結婚を考えてるのかはわからない」
両親が今も大きな病気もせず、結婚した兄も幸せにやっているので、晃嗣は家族の心配などしたことがない。だから朔の気持ちを100パーセントは理解できないと思う。でも。
「朔さんは朔さんの人生を歩んで、幸せにやってるって実家に伝えたらいいんだ、どんなに忙しくても忘れてはいないって……それじゃ足りないのかな」
ん、と小さく言って味噌汁を啜る朔は、何となく心細げに見えた。晃嗣は春巻きにかぶりつく。椎茸と豚肉の風味が、やっと食欲を刺激してくれた。
茶碗を持つ朔は、ぽそっと呟いた。
「ああもう、今ここで柴田さんのこと抱きたい」
晃嗣はご飯に咽せそうになった。何故話がそう転ぶんだ?
「やめろ、こんなとこで」
「5階の空いてる会議室なら抱いてもいいの?」
朔がじっとりと見つめてくるので、晃嗣は顔が熱くなるのを止められない。
「そういう意味じゃない、ゲイバレしたくなければ、会社の中でそんな話はやめておけってこと」
「俺はバレてもいいんだけど」
「俺は嫌だ、それに俺はネコじゃない」
いひひ、と朔はやや下品な笑いを洩らす。彼が笑ってくれたことに、晃嗣はほっとした。
俺じゃ駄目なのか。これまで何度となく浮かんで消えた問いかけが、また頭の中を駆け巡る。きみの両親に、俺をパートナーだと紹介してくれないか。
気を取り直したようにご飯を頬張る朔を見ながら、晃嗣は口にできない気持ちを一人で持て余していた。午前中に噛んでいた下唇の内側に、スープがしみた。
晃嗣は思うままを口にした。何も誇張せず、飾らなかった。
朔は箸を持ったまま、晃嗣をじっと見つめる。きれいな形をした、明るい色の瞳を持つ目。
「……だったらどうすれば、安心して貰えるのかなぁ」
朔は真面目に問いかけてきていた。晃嗣は思い出してみる。高校生になったくらいから長期休暇に遊びに行かなくなった、山梨の祖父母は何と言っただろう? たまには声を聞かせてほしい、ひと言手紙を書いてくれないか。……面倒な時もあったが、晃嗣は2人が逝くまで、暑中見舞いと年賀状を自分の名で出していた。もし今祖父母が生きていたら、リモート通話をしたがったかもしれない。
「……元気にしてるとこまめに伝えたらいいんじゃないか? 今までそんなに家族に心配かけるようなことをしてきたの?」
晃嗣の問いに、いや、と朔はかぶりを振った。
「父が慢性的に不調なもんだから、母は俺に仙台あたりで就職してほしかったんだ……東京で働くって言ったらがっかりされたし、俺も自分で決めたのに申し訳ないって気持ちが抜けなくて」
「妹さんは? もう家を出たのか?」
まだだけど、と答えて、朔はゆっくりと視線を外す。
「つき合ってる人はいるみたい、結婚を考えてるのかはわからない」
両親が今も大きな病気もせず、結婚した兄も幸せにやっているので、晃嗣は家族の心配などしたことがない。だから朔の気持ちを100パーセントは理解できないと思う。でも。
「朔さんは朔さんの人生を歩んで、幸せにやってるって実家に伝えたらいいんだ、どんなに忙しくても忘れてはいないって……それじゃ足りないのかな」
ん、と小さく言って味噌汁を啜る朔は、何となく心細げに見えた。晃嗣は春巻きにかぶりつく。椎茸と豚肉の風味が、やっと食欲を刺激してくれた。
茶碗を持つ朔は、ぽそっと呟いた。
「ああもう、今ここで柴田さんのこと抱きたい」
晃嗣はご飯に咽せそうになった。何故話がそう転ぶんだ?
「やめろ、こんなとこで」
「5階の空いてる会議室なら抱いてもいいの?」
朔がじっとりと見つめてくるので、晃嗣は顔が熱くなるのを止められない。
「そういう意味じゃない、ゲイバレしたくなければ、会社の中でそんな話はやめておけってこと」
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俺じゃ駄目なのか。これまで何度となく浮かんで消えた問いかけが、また頭の中を駆け巡る。きみの両親に、俺をパートナーだと紹介してくれないか。
気を取り直したようにご飯を頬張る朔を見ながら、晃嗣は口にできない気持ちを一人で持て余していた。午前中に噛んでいた下唇の内側に、スープがしみた。
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