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12月

2-④

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 朔は自分のほうを向いている晃嗣の頬にぷちゅっと唇をくっつけてから、ふふっと笑った。そしてリモコンに手を伸ばし、少し明かりを落とした。前回晃嗣がそうしてくれと言ったからだろう。
 バスローブの前がおもむろにはだけられ、首や鎖骨を朔の唇が撫ではじめた。水のせいで彼の唇はまだ冷えていて、感触がダイレクトに伝わるような気がした。それで左の乳首に唇が降りてくると、晃嗣の腰が勝手にぴくんと震えた。
 ひやりとした舌先が敏感になった突起をくりくりと撫でる。晃嗣は思わず声を洩らした。朔は右の突起も人差し指の腹でくすぐってくる。

「あっ、ああ……っ、んっ」

 痺れるような快感の余韻が下半身に集まってくるのを感じた。朔は今度は右の乳首に舌を這わせながら、手を下に伸ばしてくる。

「あ、朔さん……」

 晃嗣は羞恥を捨てきれないまま、期待感と快感に理性を壊されそうになっていた。朔の柔らかい髪に右手を入れ、そっと撫でてみる。すると彼は張り詰めてきた晃嗣のものではなく、内腿に触れた。この間オイルマッサージをされて、たまらない気分になった場所だ。晃嗣は思わず声を上げて腰をよじる。

「まだ何もしてないですよ、いきそうじゃないですか」

 朔が顔を上げて言った。だって、と訳の分からない言葉が口を突いて出る。それを聞いて朔が楽しそうに笑った。

「柴田さん絶対ネコだ、しかも極上の……一回いかせてから今日はお尻の穴をマッサージしてあげますね」

 ネコ扱いは勘弁してほしい。でもちょっと、尻の穴の辺りを触られるとどんな感じなのかは気になる。
 朔は晃嗣の腰に手を添えて、肋骨より下に唇と舌を這わせ始めた。臍や脇腹を舐められると、尾骶骨までじんじんする。ああもう、感じ過ぎだ。自分が情けない。
 脚を開かされて、そこに朔が上半身を入れてきた。女のように扱われるのも、目一杯ってしまったものを直視されるのも恥ずかしい。晃嗣はシーツを握りしめて目を固く閉じる。朔は楽しそうだ。

「ちょっともう、柴田さんいちいち可愛いから困る、犯したくなる」
「こんな格好させられる身にもなってくれ……ああっ!」

 言い終わらないうちに、強烈な快感に突き上げられ、晃嗣は叫んだ。朔は晃嗣のものを掴んで、半分くらいを口の中に押し込んでいた。もったいぶって少しずつ、じゅるじゅると音を立てながら。彼の口の中はもう熱を帯びていて、まとわりつく粘膜の感触に意識が飛びそうになった。

「駄目だ、あっ」

 溝を舌先で撫でられて、晃嗣の腰が浮く。これまで口でされた経験とは比べ物にならなかった。朔が口を動かすたびに、晃嗣は文字通りひいひい言ってしまう。

「ああっ、あっ、やめて……もう無理だっ」

 晃嗣は自分の声が部屋中に響くのを恥じる余裕も失くしつつあった。背筋を駆け上がる強い快感が、脳天を突き抜ける。両方のつま先をぎゅっと曲げて耐えていたが、ふと首を起こして視界に入った光景に脳内がスパークする。目を閉じて、夢中で晃嗣のものを貪っている朔の姿が淫靡に過ぎた。

「朔さん、あ……っ、ああっ!」

 喉の奥の柔らかい部分で強く吸われて、晃嗣は限界に達した。目の前がちかちかして、ベッドから一瞬身体が浮いた気がした。頭頂から足の指先までが甘く痺れる。
 昇り詰めた晃嗣は、呆然と白い天井を視界に入れ、荒い呼吸を繰り返した。一体何だったんだ、口でされるってこんなに気持ちいいものなのか。発狂するかと思った。
 もたもたと上半身を起こすと、朔はティッシュで口をぬぐっていた。……バリウムを飲んだ後と同じように。出し抜けに晃嗣は、あの時の朔のやや憔悴気味の顔を思い出す。
 晃嗣はティッシュをごみ箱の中に入れた朔に、もたもたと身体を寄せた。

「柴田さん、良かったみたいですね、僕も嬉しい……あ」

 笑顔を向けてくるバスローブ姿の朔を、晃嗣はそっと腕の中に取り込んだ。彼は驚き一瞬身体を硬くしたが、すぐに肩の力が抜けたのがわかった。

「……どうしたんですか」

 訊かれたが、どうしたのか晃嗣にもよくわからなかった。ただ、彼を抱きしめたくなった。
 朔の腕が背中に回ってきた。温かい頬が胸にそっと押しつけられる。

「……柴田さん大好き……」

 小さな声がして、晃嗣はどきっとした。そう言えば、さっき客にはキスしないとか、ずっと前から好きだったとか言っていたが、これを含めて、3回目の指名をした自分へのサービスなのだろうか。

「……朔さん、ありがとう」

 よくわからないが、そんな言葉が出た。朔の茶色い髪を撫でると、彼はほっとしたようにひと息ついた。

「きれいにしてから背中揉みますね、お尻の穴も、ね」

 耳に心地良い声を聴きながら、晃嗣は思う。……俺の本物の恋人になってくれないか。そう言ったら、朔さんは何と答えるだろう……。朔の体温を快く受け止めながら、もう彼とは「買った者と買われた者」という関係では満足できなくなりつつあることに、晃嗣は気づかざるを得ないのだった。
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