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11月
1-②
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「どちらかと言うと嬉しい」
「え……」
「だから柴田さんが指名してくれる時は最優先するからさ……会員登録してくれたって聞いた、次回もよろしく」
高畑の言葉に、晃嗣は呆れた。堂々と同僚に対して、金づるになれと言ってくるとは。自分が気に入られていると理解しての言葉なのだろう。まあ晃嗣だって、性的なはけ口として彼を買う決心をしているので、それこそ需要と供給は一致していた。
とはいえ高畑の露骨さはやや癪に触った。
「……二度と無いと言ったら?」
晃嗣が試しに低くそう言うと、彼はえっ! と眉の裾を下げた。その顔がちょっと可愛らしくて面白いので、晃嗣の表情筋が緩みそうになる。
「そんなこと言わないでよ、俺柴田さんのこと最高に気持ち良くするし、最高に楽しい恋人になるよ?」
「はぁ?」
混乱しつつ、おかしなことになっていると晃嗣は思った。高畑は自分が「さく」である時は、自分と全力で恋人ごっこをしてくれるという意味だろうか? 馬鹿にされているようにも感じられた。
しかし晃嗣は、元々高畑の容姿が好みである。スタッフのさくについて言うならば、振る舞いも好ましいので、期間限定の恋人でも十分嬉しく思う自分が確かにいた。ちょっぴりそんな自分が情けなくなるが。
「柴田さんタチだって綾乃さんから聞いたけど、ほんとはネコが合ってるんじゃない? ってこないだ俺思ったんだけど」
晃嗣は高畑の声に、味噌汁を噴きそうになる。そんなことを言われたのは初めてだった。晃嗣はマッチングアプリのプロフィールにも、タチであることを書いているので、ネコの男性としか会ったことがない。もしかすると高畑はバリタチで、タチさえもネコとして扱いたいタイプなのかもしれない。
「……じゃあきみと居るときはネコになったらいいのか?」
冗談のつもりだったが、高畑は明らかに頬を染めた。思いがけない反応に、晃嗣までどきどきしてしまう。何だこいつ、喜んでるのか? ちょっと可愛いのが腹立たしい。
「うわぁ、俺柴田さんのことバリクソ溺愛するわ」
「あ、え? ……それは俺がネコってのが絶対条件なの?」
晃嗣が溺愛という言葉にやや幻惑されながら応じると、途端に高畑はきれいな形の唇を、いやらしく歪めた。
「ちょっと柴田さん、俺とあなたとの間では挿入行為無しだよ? 挿れてほしいってことならまた話は別だけど?」
晃嗣の頭に一瞬で血が昇った。おまえの話に合わせてるんだろうが!
「誰が挿れてほしいなんて言った、俺はタチだっ」
「えーっほんとかなぁ?」
からかわれているとわかり、本気で腹が立ってきた。大体、社内で何という下世話な会話をしているのだ。食堂が空いているからと言って、気が緩み過ぎている。
晃嗣は言葉を発するのをやめて、ようやく食事に集中する。とんでもない曲者に遭遇してしまった、俺にこいつを上手く扱えるだろうか。
高畑は晃嗣の密かな煩悶をよそに、ちょっと笑った。
「あのさ柴田さん、普通のコースはお安くないんだけどさ、新設の非接触デートコースがコスパ高くておススメ」
「ああ、そんなのあったな……非接触の定義は?」
晃嗣が軽く眉間に皺を寄せて訊くと、高畑は上機嫌に説明する。
「ホテルでやらしいことはしないけど、一緒にどっかに出かけたり食事したりするんだ……手つなぎはOK、恋人感あるだろ?」
高畑が、恋人のように接してほしいという晃嗣の希望を念頭に置いているのだとようやく理解した。まあ確かに、悪くない提案ではある。
「柴田さんきれいにご飯食べる人だから、デートコース受けてもいいって今決めた」
高畑は少し顎を上げ、小生意気な表情になった。脳内に浮かんだのはやはり、可愛いなぁという感想だった。
晃嗣が茶を飲み始めると、高畑は食べる速度を上げ始めた。煮魚を食べない若者も多いと聞くが、彼はきれいに鯖を平らげていた。
「俺3時に取引先行かなきゃいけないんだ、柴田さんも昼休憩終わりだろ? 足止めしてごめん」
別に足止めはされていないが、雑な口のきき方をする割には気を遣うのだなと思った。晃嗣はじゃあお先に、と言って椅子を引いた。
「2回目の指名、心よりお待ちしております」
高畑は茶碗と箸を手にしたまま笑顔で言った。晃嗣は曖昧に頷いたが、非接触デートコースは幾らくらいするのかが、気になり始めていた。
「え……」
「だから柴田さんが指名してくれる時は最優先するからさ……会員登録してくれたって聞いた、次回もよろしく」
高畑の言葉に、晃嗣は呆れた。堂々と同僚に対して、金づるになれと言ってくるとは。自分が気に入られていると理解しての言葉なのだろう。まあ晃嗣だって、性的なはけ口として彼を買う決心をしているので、それこそ需要と供給は一致していた。
とはいえ高畑の露骨さはやや癪に触った。
「……二度と無いと言ったら?」
晃嗣が試しに低くそう言うと、彼はえっ! と眉の裾を下げた。その顔がちょっと可愛らしくて面白いので、晃嗣の表情筋が緩みそうになる。
「そんなこと言わないでよ、俺柴田さんのこと最高に気持ち良くするし、最高に楽しい恋人になるよ?」
「はぁ?」
混乱しつつ、おかしなことになっていると晃嗣は思った。高畑は自分が「さく」である時は、自分と全力で恋人ごっこをしてくれるという意味だろうか? 馬鹿にされているようにも感じられた。
しかし晃嗣は、元々高畑の容姿が好みである。スタッフのさくについて言うならば、振る舞いも好ましいので、期間限定の恋人でも十分嬉しく思う自分が確かにいた。ちょっぴりそんな自分が情けなくなるが。
「柴田さんタチだって綾乃さんから聞いたけど、ほんとはネコが合ってるんじゃない? ってこないだ俺思ったんだけど」
晃嗣は高畑の声に、味噌汁を噴きそうになる。そんなことを言われたのは初めてだった。晃嗣はマッチングアプリのプロフィールにも、タチであることを書いているので、ネコの男性としか会ったことがない。もしかすると高畑はバリタチで、タチさえもネコとして扱いたいタイプなのかもしれない。
「……じゃあきみと居るときはネコになったらいいのか?」
冗談のつもりだったが、高畑は明らかに頬を染めた。思いがけない反応に、晃嗣までどきどきしてしまう。何だこいつ、喜んでるのか? ちょっと可愛いのが腹立たしい。
「うわぁ、俺柴田さんのことバリクソ溺愛するわ」
「あ、え? ……それは俺がネコってのが絶対条件なの?」
晃嗣が溺愛という言葉にやや幻惑されながら応じると、途端に高畑はきれいな形の唇を、いやらしく歪めた。
「ちょっと柴田さん、俺とあなたとの間では挿入行為無しだよ? 挿れてほしいってことならまた話は別だけど?」
晃嗣の頭に一瞬で血が昇った。おまえの話に合わせてるんだろうが!
「誰が挿れてほしいなんて言った、俺はタチだっ」
「えーっほんとかなぁ?」
からかわれているとわかり、本気で腹が立ってきた。大体、社内で何という下世話な会話をしているのだ。食堂が空いているからと言って、気が緩み過ぎている。
晃嗣は言葉を発するのをやめて、ようやく食事に集中する。とんでもない曲者に遭遇してしまった、俺にこいつを上手く扱えるだろうか。
高畑は晃嗣の密かな煩悶をよそに、ちょっと笑った。
「あのさ柴田さん、普通のコースはお安くないんだけどさ、新設の非接触デートコースがコスパ高くておススメ」
「ああ、そんなのあったな……非接触の定義は?」
晃嗣が軽く眉間に皺を寄せて訊くと、高畑は上機嫌に説明する。
「ホテルでやらしいことはしないけど、一緒にどっかに出かけたり食事したりするんだ……手つなぎはOK、恋人感あるだろ?」
高畑が、恋人のように接してほしいという晃嗣の希望を念頭に置いているのだとようやく理解した。まあ確かに、悪くない提案ではある。
「柴田さんきれいにご飯食べる人だから、デートコース受けてもいいって今決めた」
高畑は少し顎を上げ、小生意気な表情になった。脳内に浮かんだのはやはり、可愛いなぁという感想だった。
晃嗣が茶を飲み始めると、高畑は食べる速度を上げ始めた。煮魚を食べない若者も多いと聞くが、彼はきれいに鯖を平らげていた。
「俺3時に取引先行かなきゃいけないんだ、柴田さんも昼休憩終わりだろ? 足止めしてごめん」
別に足止めはされていないが、雑な口のきき方をする割には気を遣うのだなと思った。晃嗣はじゃあお先に、と言って椅子を引いた。
「2回目の指名、心よりお待ちしております」
高畑は茶碗と箸を手にしたまま笑顔で言った。晃嗣は曖昧に頷いたが、非接触デートコースは幾らくらいするのかが、気になり始めていた。
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