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第2章 鶴呼びの娘、ほだされる
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結婚というものに対し期待していない自覚が、知沙にはある。父と母の関係は、険悪ではなかったとは言え、世間から見れば許されないものだ。拓人は妻子を持つ身でありながら、かつての恋人だった頼子と関係を持ち、今も変わらず凌子と一緒に暮らしている。この事実は、男は平気でこんなことができるのだという失望を知沙の胸の中に植えつけ、これまで知沙を男性との親密な交際から遠ざけてきた。
結婚なんてその程度だと割り切れるなら、拓人の勧めに従えばいいはずだった。しかし相反する感情も知沙の中にはあり、愛し愛された人と結ばれ生涯を共にしたいという希望が捨てきれないのだった。
「はあぁ、桐生のおじさんしつこいから、どう断ったらいいのかな」
知沙はひとりごちてから、画面をスクロールした。
「私は友延家との関係を神聖なものと位置づけています。メールでは詳細を伝えられませんが、とにかく次期当主が妻を迎えられないようなことになれば、友延家と桐生家だけの問題ではなくなってしまうのです。」
何だかオカルトじみてきたので、もうこれ以上読みたくなかったが、何故かそういう訳にもいかない気がする。知沙は割と勘が良いほうで、こういう気持ちになるときは、捨て置かないようにしていた。
「私は頼子さんが知沙さんを独りで産み育てていることを12年前に知り、何かが導いてくれたのだと感じました。頼子さんは桐生の家が重い責務を背負っていることを、おそらく知っていました。だから私が知沙さんを認知することを、すぐに承知してくれたのだと思っています。」
知沙はスマホをテーブルの上に置いて、溜め息をついた。ちょっとおかしいのではないのか。これでは母までもが、友延家とやらに知沙が嫁に行く未来を予想していたことになる。
しかし、基本的にお人好しである知沙は、拓人が長々と書いてきたメールを読み、少しくらいつき合ってやってもいいかなと思い始めていた。株式会社キリュウの手駒にされるのは胸糞悪いし、下賤の出のくせに図々しいと奈津夫夫妻に言われるのも腹が立つ。しかし、強硬に拒むだけでは解決策は何も見つからない。
見合いの席でお相手に嫌がられそうな態度を取り、円満に破談(?)する方向に持って行く。または、どうせ期待できない結婚生活なら、経験としてちょっと首を突っ込んでみる。もしかしたら、小説やマンガのように、心優しく頼りになるイケメンが登場して……と、そこまで考えて知沙は妄想をシャットダウンした。その展開の場合、ヒロインに何か特別な魅力が無いと話が進まない。自分がイケメンスパダリに無条件に愛される要素など、思いつかなかった。
すぐに返事はしないでおこうと決めた。知沙はコーヒーを飲み干して、伝票を片手に立ち上がった。
結婚なんてその程度だと割り切れるなら、拓人の勧めに従えばいいはずだった。しかし相反する感情も知沙の中にはあり、愛し愛された人と結ばれ生涯を共にしたいという希望が捨てきれないのだった。
「はあぁ、桐生のおじさんしつこいから、どう断ったらいいのかな」
知沙はひとりごちてから、画面をスクロールした。
「私は友延家との関係を神聖なものと位置づけています。メールでは詳細を伝えられませんが、とにかく次期当主が妻を迎えられないようなことになれば、友延家と桐生家だけの問題ではなくなってしまうのです。」
何だかオカルトじみてきたので、もうこれ以上読みたくなかったが、何故かそういう訳にもいかない気がする。知沙は割と勘が良いほうで、こういう気持ちになるときは、捨て置かないようにしていた。
「私は頼子さんが知沙さんを独りで産み育てていることを12年前に知り、何かが導いてくれたのだと感じました。頼子さんは桐生の家が重い責務を背負っていることを、おそらく知っていました。だから私が知沙さんを認知することを、すぐに承知してくれたのだと思っています。」
知沙はスマホをテーブルの上に置いて、溜め息をついた。ちょっとおかしいのではないのか。これでは母までもが、友延家とやらに知沙が嫁に行く未来を予想していたことになる。
しかし、基本的にお人好しである知沙は、拓人が長々と書いてきたメールを読み、少しくらいつき合ってやってもいいかなと思い始めていた。株式会社キリュウの手駒にされるのは胸糞悪いし、下賤の出のくせに図々しいと奈津夫夫妻に言われるのも腹が立つ。しかし、強硬に拒むだけでは解決策は何も見つからない。
見合いの席でお相手に嫌がられそうな態度を取り、円満に破談(?)する方向に持って行く。または、どうせ期待できない結婚生活なら、経験としてちょっと首を突っ込んでみる。もしかしたら、小説やマンガのように、心優しく頼りになるイケメンが登場して……と、そこまで考えて知沙は妄想をシャットダウンした。その展開の場合、ヒロインに何か特別な魅力が無いと話が進まない。自分がイケメンスパダリに無条件に愛される要素など、思いつかなかった。
すぐに返事はしないでおこうと決めた。知沙はコーヒーを飲み干して、伝票を片手に立ち上がった。
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