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第2章 鶴呼びの娘、ほだされる

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 せっかくの休日を不愉快な話で台無しにされた知沙だったが、週明けには桐生拓人に対し、ちょっと申し訳ないような気持ちになってきていた。自分を政略結婚(?)に使おうとしているのは許せないものの、少なくともこれまでは、母の頼子や知沙に対して、誠実な態度で接してくれていたからである。
 頼子は拓人と学生時代に知り合いしばらく交際していた、とだけ話した。知沙に会いたいと何度も言われて、元々しつこいところがある人だからほとほと困った、とも口にした。しかし頼子は、親が連れてきた女性と結婚し、その人との間に男の子をもうけたのに、まだ自分に未練を持っていたどうしょうもない男のことを、許しているような雰囲気があった。
 もやもやが晴れない中、職場のある日暮里から自宅の最寄り駅の舎人に戻ると、長いメールが来ていることに気づいた。差出人は拓人である。独りきりで家でそれを読むのは精神衛生上良くない気がしたので、知沙は駅の近くのカフェに入った。

「コーヒーだけですけどいいですか?」

 ディナータイムに入っていたので尋ねたが、店員はどうぞ、とあっさり返してくれた。
 母とこの店に、休日によく一緒に食事に来た。店主はこの近所で頼子が事故死したと知っているが、知沙に一度お悔やみを伝えた以降は、何も言わない。その距離感が心地いいので、1人でもたまに使っている。
 メールは予想通り、日曜日に知沙が怒って帰ってしまった件に対する謝罪だった。とはいうものの、見合いのことは忘れてくれていい、などとは一切書かれておらず、桐生家がこの見合いを受けなくてはならない理由がくどくどと述べられていた。

「桐生家と友延とものべ家とは、千年以上のつき合いです。」

 は? 知沙はスマートフォンの画面を二度見した。

「簡単に言えば、桐生家は友延家に仕える立場である、3つの家のひとつです。次の代は、桐生家が友延家に婿あるいは嫁を出す順番が回ってきます。その任を知沙さんにお願いしたいと考えたのです。」

 コーヒーがやってきたので、画面から視線を外す。何が書いてあるのか、どうも内容が頭に入ってこない。知沙はカップを取り上げ、ブラックでコーヒーを口に含んだ。美味だ。

「友延家の次期当主となる予定の長男さんは29歳です。四大を卒業して会社勤めをされているので、知沙さんと年齢も釣り合い、価値観も近いのではないかと思います。仕事も声楽のレッスンも、続けたいならば許してくれるでしょう。また、私は父親(現当主)をよく知っていますが、いい人間です。知沙さんにもよくしてくれるはずです。」

 知沙は鼻で笑ってしまった。曲がりなりにも知沙はたった1人の娘なので、いい家に安心して嫁に行ってほしいのだという拓人のアピールが、ほとんど滑稽だった。
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