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extra track 飼い主が不機嫌なので手を尽くす文鳥(俺)
17:00②
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「ハルさんはいつもそんなきらきらした目で俺のダンスを観てくれてるのか……」
晶は唐突に言った。晴也は思わずえ? と聞き返してしまう。
「俺ルーチェでコンタクトしてても、客席が暗いからお客さんの表情はほとんど見えてないんだ」
「……でも楽しんでるのはわかるのか?」
「うん、姿勢でも判断できるから」
晶は更に顔を近づけてきて、笑顔になる。
「だから今凄く嬉しい、ハルさんみたいに楽しんでくれる人をもっと増やしたい」
晴也は彼を可愛らしいと思う。自分でも驚くくらい自然に、目の前の男の頬を右の掌で包んだ。
「俺はいつまでもショウさんの一番のファンでいたいな」
うん、と晶は子どものように頷いた。晴也はようやく、自分より随分大人な晶が、何処かで自分を必要としているのだと気づく。次の瞬間、晶の腕に緩く囲われて、ほっとしている自分を見出すのも、改めて不思議に思う。
「ハルさん、腹減ってきた」
晶が呟くので、晴也はそっと身体を離した。
「あ、もう3時間近くいるのか……帰ってご飯作ろうよ」
「……せっかくラブホに来たのに、映画を観てジュース飲んだだけ……」
晶の不満げな言葉に、わざと真面目な口調で応じる。
「シャワーも使いましたね、吉岡先生の名誉が守られたと思ってください、私とやっちゃったら犯罪ですよ?」
「ハルさんは未成年じゃないから」
「何でそこは現実なんだよ」
うぅ、と晶は唸った。そして気を取り直したように言った。
「うん、こんなとこでまともなローションも無いのに、ハルさんの大切な処女をいただくのもちょっとな」
「……いただくつもりでいたんだ」
「だってセーラー服可愛いから……」
晶の指がセーラーのタイに触れた。
「出発するまでに沢山のおかずを作っておかないと、2ヶ月保たないだろ?」
晴也は晶の言葉に苦笑した。どれだけオナニーするんだよ。
さて、と言いながら晶は着替え始めた。きれいな背中にちょっと見惚れてから、晴也もセーラー服を脱ぐ。写真を撮っておいてもよかったかなと思った。
ベッドの上やテーブルの上の空いたグラスを整えていると、晶は小さく笑った。
「いつも何処ででも、ハルさんはそうやってきちんとしてから出て行くんだな」
「発つ文鳥後を濁さず、だよ」
「もう自分で文鳥とか言う」
そんな自分が晶は好きらしい。晴也が当たり前だと思ってとる行動を、好きだと言われるのは変な気分だ。だいぶ慣れたけれど。
部屋に入る時も出る時も誰にも会わなかったが、車のドアを開けた時、駐車場に入ってきた車の助手席に座っていた女性と目が合ったような気がした。男同士だと噂されるのだろうか。
「ホットプレートで焼肉しようか、野菜は何なりとあるから肉とビールだけうちの近所で買うって感じでいい?」
晶はエンジンをかけながら言った。そうだね、と応じながら、今更人目を気にするなんて馬鹿だと晴也は思った。だって好きになったのがこいつで、男だったんだから、仕方ないだろ。
「何だよ、やっぱり焼肉食べたいんじゃないか」
「ん、まあね」
2人の男を乗せた白い軽自動車は、しれっとホテル街を抜けて、都内に向かう少し混んだ道を走って行った。
挿入曲:"America"
~映画「ウェスト・サイド物語」(1961)
ジェローム・ロビンス、
ロバート・ワイズ(監督)
アーネスト・レーマン(脚本)
レナード・バーンスタイン(音楽)
スティーブン・ソンドハイム(詩)
《飼い主が不機嫌なので手を尽くす文鳥(俺) 完》
***********************
この番外編をもちまして、
一旦晴也と晶の物語は完結となります。
長い時間と字数、2人のごたごたに
おつきあいくださったこと、
心より感謝いたします。
『飼い主が不機嫌なので
手を尽くす文鳥(俺)』は、
晶がイギリスに出発する前の小話で、
アルファポリスのみに掲載する作品です。
まだまだカップルとして未熟で、
一緒にいるのがただ楽しい2人を
描いてみました。
Twitterで先日、七夕の超短編を上げました。
2022年7月8日の設定で、
晶(ショウ)が織女役で踊るのに
晴也がヘアメイクを手伝ったという
話を書いてみて、
ああまだこの2人の話は
続いているなと感じました
(一緒に暮らしていますよ)。
本編のあとがきにも書きましたが、
回収が私の中で不十分なネタを使い
続編を書くことになると思います。
その際はまた、晴也と晶に
会いに来てやって欲しいと思います!
ご愛読ありがとうございました!
2022.7.12 穂祥舞
晶は唐突に言った。晴也は思わずえ? と聞き返してしまう。
「俺ルーチェでコンタクトしてても、客席が暗いからお客さんの表情はほとんど見えてないんだ」
「……でも楽しんでるのはわかるのか?」
「うん、姿勢でも判断できるから」
晶は更に顔を近づけてきて、笑顔になる。
「だから今凄く嬉しい、ハルさんみたいに楽しんでくれる人をもっと増やしたい」
晴也は彼を可愛らしいと思う。自分でも驚くくらい自然に、目の前の男の頬を右の掌で包んだ。
「俺はいつまでもショウさんの一番のファンでいたいな」
うん、と晶は子どものように頷いた。晴也はようやく、自分より随分大人な晶が、何処かで自分を必要としているのだと気づく。次の瞬間、晶の腕に緩く囲われて、ほっとしている自分を見出すのも、改めて不思議に思う。
「ハルさん、腹減ってきた」
晶が呟くので、晴也はそっと身体を離した。
「あ、もう3時間近くいるのか……帰ってご飯作ろうよ」
「……せっかくラブホに来たのに、映画を観てジュース飲んだだけ……」
晶の不満げな言葉に、わざと真面目な口調で応じる。
「シャワーも使いましたね、吉岡先生の名誉が守られたと思ってください、私とやっちゃったら犯罪ですよ?」
「ハルさんは未成年じゃないから」
「何でそこは現実なんだよ」
うぅ、と晶は唸った。そして気を取り直したように言った。
「うん、こんなとこでまともなローションも無いのに、ハルさんの大切な処女をいただくのもちょっとな」
「……いただくつもりでいたんだ」
「だってセーラー服可愛いから……」
晶の指がセーラーのタイに触れた。
「出発するまでに沢山のおかずを作っておかないと、2ヶ月保たないだろ?」
晴也は晶の言葉に苦笑した。どれだけオナニーするんだよ。
さて、と言いながら晶は着替え始めた。きれいな背中にちょっと見惚れてから、晴也もセーラー服を脱ぐ。写真を撮っておいてもよかったかなと思った。
ベッドの上やテーブルの上の空いたグラスを整えていると、晶は小さく笑った。
「いつも何処ででも、ハルさんはそうやってきちんとしてから出て行くんだな」
「発つ文鳥後を濁さず、だよ」
「もう自分で文鳥とか言う」
そんな自分が晶は好きらしい。晴也が当たり前だと思ってとる行動を、好きだと言われるのは変な気分だ。だいぶ慣れたけれど。
部屋に入る時も出る時も誰にも会わなかったが、車のドアを開けた時、駐車場に入ってきた車の助手席に座っていた女性と目が合ったような気がした。男同士だと噂されるのだろうか。
「ホットプレートで焼肉しようか、野菜は何なりとあるから肉とビールだけうちの近所で買うって感じでいい?」
晶はエンジンをかけながら言った。そうだね、と応じながら、今更人目を気にするなんて馬鹿だと晴也は思った。だって好きになったのがこいつで、男だったんだから、仕方ないだろ。
「何だよ、やっぱり焼肉食べたいんじゃないか」
「ん、まあね」
2人の男を乗せた白い軽自動車は、しれっとホテル街を抜けて、都内に向かう少し混んだ道を走って行った。
挿入曲:"America"
~映画「ウェスト・サイド物語」(1961)
ジェローム・ロビンス、
ロバート・ワイズ(監督)
アーネスト・レーマン(脚本)
レナード・バーンスタイン(音楽)
スティーブン・ソンドハイム(詩)
《飼い主が不機嫌なので手を尽くす文鳥(俺) 完》
***********************
この番外編をもちまして、
一旦晴也と晶の物語は完結となります。
長い時間と字数、2人のごたごたに
おつきあいくださったこと、
心より感謝いたします。
『飼い主が不機嫌なので
手を尽くす文鳥(俺)』は、
晶がイギリスに出発する前の小話で、
アルファポリスのみに掲載する作品です。
まだまだカップルとして未熟で、
一緒にいるのがただ楽しい2人を
描いてみました。
Twitterで先日、七夕の超短編を上げました。
2022年7月8日の設定で、
晶(ショウ)が織女役で踊るのに
晴也がヘアメイクを手伝ったという
話を書いてみて、
ああまだこの2人の話は
続いているなと感じました
(一緒に暮らしていますよ)。
本編のあとがきにも書きましたが、
回収が私の中で不十分なネタを使い
続編を書くことになると思います。
その際はまた、晴也と晶に
会いに来てやって欲しいと思います!
ご愛読ありがとうございました!
2022.7.12 穂祥舞
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